第11話 痛感して決心する
「おっら!」
「グギャアア!」
慎也は近づいてきたゴブリンの胸に剣を刺す。すると慎也の横から短剣を持ったゴブリンが短剣を振り上げ、飛びかかるが
「あぶな!」
「グギギ」
慎也はゴブリンの短剣による攻撃を、ゴブリンが刺さった状態の剣で防ぎ、そのまま押し返す。
「グギ!?」
「『ファイヤーボール』!」
「グギャアアアア!!」
押し返されたゴブリンは地面に倒れ、そこに慎也が魔法を打つ。
「「「グギャアアアア!!」」」
「くそっ、面倒だ!」
3体のゴブリンが慎也に襲いかかる。
「『ファイヤーボール』!」
「グギャアアアア!!」
「次!」
「グギャアア!」
慎也は1体に魔法を打ち、さらにもう1体の胸を剣で斬りつける。
「もういっちょ!」
「グギャ!?」
背後にまわって、不意をつこうとしていたゴブリンを慎也は身体を時計回りに回転させ、後ろのゴブリンの首を切り飛ばす。
「これで終わりか?」
「慎也さんって本当に新米ですか?」
「本当ですよ。と言っても、自分でもあんな動きを出来るとは思いませんでした。後ろにいたゴブリンの気配もわかったし」
「もしかしてレベルが上がったんじゃないですか?」
「なるほど、レベルアップの影響か・・・っと話してる場合じゃなかった」
ゴブリンたちは先ほどの戦いを見ても怯まず、慎也達を睨んでいる。するとさらに6体のゴブリンが慎也達に向かって走り出す。
「多ければ勝てると思うなよ!」
「「グギャギャ!」」
棍棒を持った2体のゴブリンが慎也に飛びかかり、棍棒を振り下ろす。
「おっと、あぶね」
「「グギャ?」」
「くらえ!『ファイヤーボール』!」
「グギャアアアア!」
「グギャ!?」
「お前は剣でもくらっとけ!」
慎也は後ろへ飛んで攻撃を回避し1体に魔法を打ち、もう1体には剣を胸に突き刺す。しかし2体に集中していて、後ろにいたゴブリンに気づけず、棍棒で背中を殴られてしまい体勢を崩す
「痛っ!」
「グギギ」
(なんだこれ・・・スライムの頭突きとは比べ物にならねえ)
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫です!このっ!」
「グギャアア!」
殴られた慎也はすぐに体勢を直し、剣でゴブリンの首を斬り飛ばす。さらにゴブリンが短剣を振り上げ慎也に向かってくるのに気づき、ゴブリンが飛び上がり短剣を振り下ろすタイミングと合わせて剣で防ぎ、押し返す。
「『ファイヤーボール』!次!」
「「グギャギャ」」
押し返したゴブリンに慎也は魔法を打つ。魔法は命中し、ゴブリンの身体が燃え動かなくなる。そこに何も持たないゴブリンがもう2体が向かう。
「素手で勝てると思うなよ!」
「グギャア!」
「もういっちょ!」
「グギャ!」
飛びかかってきた2体のゴブリンのうち1体に慎也は剣を刺し、もう1体には顔面に右ストレートをお見舞いする。
「はぁ・・はぁ・・さすがに疲れてきたな」
「慎也さん、やっぱりここは逃げた方が・・」
「いま俺たちは囲まれてるんです、もしここで無理矢理逃げたら絶対に捕まります。そしたら俺は殺され、あなたは殺されることよりも最悪なことをされますよ」
「た、たしかにそうですけど・・・でも慎也さんだって体力が無限にあるわけではないでしょう?慎也さんがやられるのも時間の問題じゃ・・」
「それでも今逃げるよりも俺が地道にゴブリンを倒して隙を作るっていう方が生きる可能性は高いでしょう・・・それに俺、ここで死ぬ気は全くありませんしあなたをこいつらに渡す気もありません」
「私も?」
「ええ。目の前にピンチな人がいるのに、見捨てるほど俺は人間として腐ってませんよ。だから安心してください」
「!・・・わかりました。私は慎也さんを信じます」
「・・ありがとうございます」
エテラの言葉を聞いた慎也は、先ほど攻撃された背中に『ヒール』をかけ、再びゴブリンたちに剣を構える。そして、いざ戦おうとしたその時だった。
ゴンッ!
慎也は後ろから何かを殴るような音が聞こえ、振り向く。そこには倒れたエテラと、棍棒を持ったゴブリンがいた。
「エテラさん!クソッ!」
「グギャアア!」
慎也はそのゴブリンに向かって走り出し、剣を頭に突き刺す。ゴブリンの死を確認した慎也は、エテラに駆け寄る。
「エテラさん大丈夫ですか!?」
「・・・」
慎也が声をかけるが返事がない。慎也はエテラの口に耳を近づけ、呼吸をしているか確認する。
(呼吸はしてるな。てことは気を失っているだけか、よかった・・・しかし、そうなるとエテラさんを守りつつこいつらと戦うってことか。でも今の俺にそんなこと・・・いや、やるしかないか!)
慎也は剣を鞘に納め、自分で倒してゴブリンたちの短剣や棍棒を一か所に集める。
(使えるものは全部使ってやる!)
慎也は棍棒を右手に持ち、全力でゴブリン向かって投げる。投げた棍棒は1体のゴブリンの頭に命中し、そのゴブリンは頭から血を流しながらその場に倒れる。
「まだまだぁ!」
慎也は棍棒を次々と投げ、そのたびにゴブリンが1体また1体とやられていく。
(棍棒を思いっきり投げて当てるだけで倒せるとか、俺ってどんだけ強くなってんの?)
慎也は自分の力に驚きながら、次の棍棒を投げようと手で探るが慎也は棍棒を投げきったらしく、一つもなかった。慎也は周りのゴブリンたちを見る。棍棒を投げたおかげで数体倒せたが、それでもゴブリンの数は
囲まれた時と同じ、もしくはそれ以上だった。
(こいつら何体いるんだよ・・・いや、今は戦うしかないか)
慎也は剣を抜き構え、こう叫ぶ。
「てめぇらさっきからちまちま来やがって!殺す気があるなら一気に来い!めんどくせぇな!」
「!・・グギャアアアアア!!」
慎也の挑発にゴブリンコマンダーが怒り、奇声をあげる。その瞬間、慎也の周りにいたゴブリンたちが一斉に慎也に向かって走り出した。
(一気に来いとは言ったが加減ってもんがあるだろ)
そう思いながらも慎也は剣を持つ手に力を入れる。何も持たないゴブリンが爪を立てて、慎也に飛びかかる。慎也はそれを避け、腹部に剣を刺す。さらに2体の短剣を持ったゴブリンが走ってくる。慎也は足音で気付き、1体の頭に剣を突き刺す。もう1体のゴブリンは短剣を突き出しながら慎也に突進する。慎也は身体を横に傾けて攻撃を避け、ゴブリンが転んだところを剣を刺しとどめをさす。すると慎也の背中に何か硬い物が当たる。
「痛っ!なんだよ・・・って真似してんじゃねえよ!」
「グギャギャ」
慎也が後ろを振り向いて見ると、数体のゴブリンが先ほど慎也がやったみたいに棍棒を慎也に向かって投げていた。
(それされるとエテラさんにも当たるからやめてほしいんだけど・・・仕方ない、少し良心が痛むが・・)
「グギャ!?」
「これなら全然怖くねぇ!『ファイヤーボール』!」
「グギャアアアア!」
慎也は辺りに転がっているゴブリンの死体を盾にし、飛んでくる棍棒から身を守りつつ投げてきたゴブリンに魔法を撃つ。それを見たゴブリンたちは投げるのをやめ、直接殴ろうと慎也へ走り出す。
(そこは戦い方変えないでほしかった)
そんなことを考えながらも慎也は棍棒で殴りかかってくるゴブリンの頭に剣を刺し、確実に仕留めていく。
「はぁ・・はぁ・・そろそろ限界なんだけど。こんなことになるんだったらちゃんと運動しとくべきだった」
「グギャアア!」
「うおっ!?マジかよ!さっさと離せくそっ!」
「グギャギャ」
慎也が気を抜いて、油断していると慎也の後ろから1体のゴブリンが左足にしがみつく。その時、慎也の右から1本の短剣が飛んでき、慎也の右足に刺さる。
「あああああああああっ!!!」
「グギギ」
(なんだよこれ!?くそ痛えええ!!)
「グギャアア!」
「くそっ!『ファイヤーボール』!」.
「グギャアアア!!」
「お前もだ!」
「グギャ!」
慎也は短剣を投げたゴブリンに魔法を打ち倒し、しがみついているゴブリンに剣を刺して左足からゴブリンを離す。そして慎也は足に刺さった短剣を抜き、足に左手を近づけて『ヒール』と唱える。すると足を黄色い光が包み、みるみると傷を治していく。
(回復すんの遅いな、まぁレベル1の魔法だから仕方ないけど・・・だが今の痛みで実感した。この世界は魔物と戦い始めた瞬間から、生きるか死ぬかの戦場となる。スライムと戦ってたせいで少し油断したな、こいつらはスライムと違って俺を殺せるんだ。そこらへん覚悟しないと)
慎也は回復し終わった足で立ち、剣を構える。
(やってやる。こいつら全員倒してエテラさんと一緒に生きて帰る、それで今日は終わりだ)
「グギャギャギャア!」
「・・・小4以来だな、知り合いのためにここまでマジになるのは」
そう呟き、慎也は目の前のゴブリンたちに斬りかかった。