別れ、そして第一歩
慎(・・・勝った、のか)
バルシムが消えた瞬間、辺りを包み込んでいた憎しみは無くなり、灰色の景色は元に戻った。そしてそれは慎也たちに勝利を実感させた。
ラ「・・慎也?喜んでいいだよなこれ?」
慎「ああ」
リ「私たちは勝ったんですよね?」
慎「ああ、俺たちの、勝ちだ」
ラ「!ふぅ・・
よっしゃあああああああ!!!」
ライルは辺りに響き渡るほどの歓喜の声を上げる。そして他の者たちも握手や肩を組んだりと各々この勝利を喜んでいた。
慎(やっと、終わったのか)
半日も経っていないのに1日中戦ったと錯覚させられるほどの長き激戦。それに勝利した慎也は達成感、疲労感、安堵感を同時に感じた。
慎「あ・・」
それによって自身の体がかなりの重傷だったのを忘れて気を抜いてしまい、慎也はその場に倒れ込んでしまう。
エ「!?し、慎也さん!」
慎「大丈夫ですエリシアさん。体が全く動かないだけ
ですから」
レ「それは大丈夫じゃない気がするんだが」
ハ「まあ俺たちもいつ倒れてもおかしくない状態だか
らな。エリシア、『テレポート』使えるか?」
エ「さすがの私でも無理ですよ。魔力は全部使い切り
ました」
ミ「それじゃあ帰りは歩きですね」
慎(えぇ・・・こっから歩くのキツいんだが)
ハ「それじゃあ慎也は俺が背負うから、さっさと帰ろ
うぜ」
慎(ハーツさん神ぃ!)
慎「ありがとうございますハーツさん」
ハ「へいへい、よいしょっと。それじゃあ行くぞー」
そう言うとハーツは慎也を背負ったまま街の方に歩き出し、それに残りの者たちも続いていった。
それからは何事もなく9人は街の住人に注目されつつもギルドについた。扉を開けた瞬間中にいた冒険者や職員たちはわかりやすくどよめいていたが、エテラは一目散に9人に駆け寄り、涙を流すほど9人の生還を喜んでいた。そして9人は職員や冒険者の協力のもと、救護室へと運ばれ、事情聴取を受けてその日は終わった。
(・・・ん?ここは?)
謎の暗闇の空間で目を覚ました慎也。するとそれを待っていたかのように見覚えのある赤い光の球が慎也の前に現れる。
『バルシムとの戦い、見させてもらったぞ。見事だった』
(『ブーストアイ』か。びっくりさせんなや)
『悪いな。現実の方は忙しそうだったからな、話せそうなところが夢の中くらいしかなかったんだ』
(にしてもなんか一言くらい事前に言ってくれよ。まあ今回はお前のおかげで勝てたしいいが)
『まあそれはさておき、お前と話したいことが2つある』
(ほいほいどうぞー)
『まずは1つ目、今回の戦いに勝利したことで『ブーストアイ』はこれからお前の物だ。好きに使うがいい』
(あ、そういえばそんな約束あったな。バルシムとの戦いに集中しすぎて忘れてたぜ)
『お前なぁ・・・まあ結果良ければ全て良しか』
(そゆことだ。それで2つ目はなんだ?)
『ああ、2つ目はな、"別れ"を告げに来た』
(あー別れね別れ・・・え?)
突如『ブーストアイ』から放たれた1つの単語、別れ。それを聞いた慎也は明らかに動揺していた。
(別れってどういうことだよ?)
『俺たちSランクスキルは、持つに相応しい奴を見つけたら意思が無くなるんだ。だから今こうしてお前と話してんのにも結構気力使ってんだよ』
(でもお前、元々バルシムのスキルだったんだろ?なんでその時に意思が消えてねえんだよ?)
『勘違いしてるようだから言っておくが、バルシムに『ブーストアイ』はやってないぞ』
(は、どゆこと?)
『あいつはスキル無しで四天王を壊滅させるほどの実力でな、魔王戦も含めてほんの数回しか使わなかったんだ。そのせいで俺の需要度があまりなくってな、俺の条件をクリアする前に俺は奴の元を離れちまった』
(そうだったのか・・)
『・・・』
(・・・)
『・・・なぁ慎也』
(なんだ?)
『俺はお前に出会えてよかったぜ』
(な、なんだよ急に)
『俺はバルシムから離れてからはずっと自分に相応しい奴を探していた。だが、バルシムのような奴なんて全くいなくてな、その結果40年もの間、この世界を彷徨っていた』
(そんなにお前は1人で・・)
『そんな時だ。草原に生えた1本の木、その下で眠るお前に出会ったのは』
(それって・・!)
『その時なんだろ?お前がこの世界に来たのは。あの辺りは何度も見たからある程度の人間の顔は覚えていたが、お前の顔は初めてだったし、何よりお前の中に入った時に覗いた記憶で、お前が別の世界から来た奴だってわかって、そっからはなんとなく察せた』
(勝手に人の記憶を覗くな。てか、お前そんなことも出来んのか)
『Sランクスキルだからな。あと常日頃お前が何を考えてるのかも俺にはわかっていたからな』
(うわ恥ずかし!でもお前よく初対面の奴の中に入れたな?)
『・・・お前からはさ、なんだが40年前のバルシムみたいな雰囲気が感じられたんだ。そのせいで自然と体が動いちまってな、気づいたらすでにお前の中にいたんだ』
(バルシムの雰囲気ねぇ。まあ40年前のあいつは知らないからなんとも言えねえなぁ)
『でも今はお前の中にいてよかったって思うぜ』
(え・・?)
『お前はほんとにバルシムそっくりだった。きっと俺はお前のような奴を、というより、バルシムを忘れられなかったんだろうな』
(『ブーストアイ』・・)
『そしてお前に初めて力を貸した時、この40年間は無駄じゃなかったって思えた。ありがとな』
(・・ああ。こっちこそ何度も助けてくれてありがとな)
『・・っと、そろそろ限界みてえだ』
そう言う『ブーストアイ』の体である光の球は、段々と光を失い、薄くなっていっていた。
(お前体が!)
『それじゃあ言いたいこと言ってさっさと逝くか』
(お前、消えるのが怖いとかねえのか?)
『あ?たしかに俺の意思は間違いなく消える。でもなあ、俺という存在はお前の中で生き続けるんだ』
(!)
『いいか村上慎也!たとえ俺の意思が無くなろうと、俺はお前と共に歩む!そしてお前の力となろう!だからよ、仲間のために!友のために!世界のために!負けんじゃねえぞ』
(『ブーストアイ』!)
そう言い残し、『ブーストアイ』の体は消滅していった。
『あばよ、慎也』
エt「・んやさん!」
慎(ん・・?)
エt「慎也さん!」
慎「うおっ!?」
エテラの呼ぶ声で慎也は目を覚ます。慎也が目を覚ましたのはお馴染みの救護室であった。
エt「慎也さんどうしたんですか?」
慎「え、何がですか?」
エt「だって慎也さん、泣いてるじゃないですか」
慎「え・・?」
慎也はエテラに言われ目元を触ると、たしかにそこには涙が流れていた。慎也は慌てて涙を拭い、平静を装う。
慎「何でもありません、大丈夫ですよ」
慎(きっと『ブーストアイ』のせいだな。それだけあ
いつの存在がデカかったってわけか)
エt「ならいいんですが・・・ってそんなことより!も う皆さん下で待ってますよ!」
慎「え?なんでですか?」
エt「えぇ!?もしかして慎也さん忘れたとか言いませ
んよね!?祝宴ですよ祝宴!」
慎「祝宴・・・ああ思い出した!やっべ遅刻やん!」
エt「ほら慎也さん!早く行きますよ!」
慎「はい!」
慎也とエテラは慌てて救護室を飛び出して1階へと向かう。そして1階につくと、その奥にはすでに慎也以外のメンバーが揃っていた。
慎(やっべ〜みんな怒るかな)
エt「それじゃあ慎也さん、楽しんできてくださいね」
慎「え?エテラさんも行くんですよ?」
エt「え?でも私は一緒に戦っていませんし・・」
慎「何言ってるんですか?エテラさんも俺たちと一緒
に戦った立派な仲間ですよ」
そう言って慎也はエテラから貰ったペンダントをエテラに見せる。
エt「!」
慎「ほら、もうみんな待ってますし、早く行きましょ
う」
エt「・・ふふ、寝坊したのはどこの誰のでしょうね」
慎「うっ、それは言わないでください」
そして慎也とエテラは皆が待つテーブルへと向かって行く。その上にはすでに多くの食事が置かれていた。
ディ「・・お、ようやく主役のご登場だ」
慎「さーせん寝坊しましたー!」
ラ「遅いぜ慎也!飯が冷めるだろ!」
エr「それじゃあ慎也さんも来たことですし、始めまし
ょうか」
ハ「ほらみんなグラス待てー。あと慎也の席はそこ
な」
ハーツの声かけでみんなは各々の席にあるグラスを持つ。
慎(あ、俺の席にもちゃんと飲み物あるわ。しかも俺
が飲めるやつ。誰か置いてくれたのか)
ハ「それじゃあ慎也、乾杯はお前に頼んだ」
慎「えー俺ですか?」
ア「今日は慎也君が主役だよ?ここはビシッと決めて
くれ」
慎「はぁ、わかりましたよ」
慎也はその場で立ち、皆を見渡す。
慎「えーみんな!まずはありがとう!俺と一緒にバル
シムと戦ってくれて!正直みんながいなかったら
勝つことは不可能なくらいあいつは強かった。で
もみんなと諦めずに立ち向かい、そして世界を守
ることが出来た!だから・・
この勝利を祝して、乾杯!!!」
皆『かんぱーい!』
その声と共に、慎也たちの祝宴が始まった。人目を気にせず、慎也たちは遠慮せずに騒ぎ、その祝宴が終わるのは次の日の朝だったという。
こうして、慎也は第一の世界を救った。
最終章・・・終わったあああああ!ここまで長かった!だがこの世界での話は終わりではない!祝宴の後の慎也をまだ書いていない!てことでまだ続くぜ!