第10話 ゴブリンVS慎也
(あの女性を囲んでんのってやっぱりゴブリンか?)
慎也は女性を助けるため、草木を避けながら全速力でその場に向かっている。すると1匹のゴブリンが女性に近づこうと、走り出す。
(やっば!これ間に合わねえじゃん!仕方ない、あれ使うか)
慎也は走っているゴブリンに対して右手を伸ばし、神経を右手に集中させ、こう叫ぶ。
「『ファイヤーボール』!」
慎也がそう言うと、慎也が伸ばした手のひらから火の玉が放たれる。火の球は見事にゴブリンに命中し、当たったゴブリンは燃え続ける体で、奇声をあげながらのたうち回っていた。
「グギャアアアアアアア!!!」
「「「「「!?」」」」」
ゴブリンたちは突然の事態にパニックになっている。
(今がチャンス!)
慎也は一番近いゴブリンの頭に後ろから剣を刺す。
「グギャアアア!!」
「「「「!グギギ」」」」
頭を刺されたゴブリンは痛みに耐えきれず、奇声をあげながらその場に倒れた。他のゴブリンたちはその声のした方に目を向けて、慎也の姿を見るなり威嚇をする。
「こちとらお前らが全然見つかんなかったからイライラしてんだ!さっさとかかってこい!」
「「!」」
2匹のゴブリンが慎也に向かって走り出し、そのうちの1匹が飛び慎也の顔にむかって爪を突き出す。
「よっと」
「!?」
「動きが単純!」
「グギャア!」
慎也はゴブリンの攻撃を安易と避け、ゴブリンの着地と同時に首に剣を刺した。するともう1匹のゴブリンが慎也の横から先ほどのゴブリンと同じ攻撃をする。
(あっぶね!もう少し反応が遅かったら顔面やられてたわ!)
「グギャ?」
「こんやろ」
「グギャアア!」
慎也は慌てて身体を傾けて躱し、攻撃を躱されたゴブリンが隙を見せたところで、首を斬り飛ばす。そして残りの2匹は今の戦いを見て、力の差がわかったのか、森の奥へ姿を消した。
(ちっ、逃げられたか。それにしてもこいつらを斬ってわかったが、別に血を見ても気持ち悪いとかそういうのは特にないな。もしかしたらそこら辺はメリエヌスさんどうにかしてくれたのか?まぁ気にしても仕方ないか。それよりも・・)
慎也は女性の方へ駆け寄ろうとする。するとふと視界の端に先程殺したゴブリンたちの死体が目に入る。その瞬間。慎也に強烈な吐き気が襲いかかる。
「うっ・・!?」
(やっぱりそう都合良くいくわけねえか)
慎也は気持ち悪さのあまり、その場で四つん這いになり、右手で口を押さえる。するとその様子を見て、心配になり、女性が慎也に慌てて歩み寄る。
「大丈夫ですか!?」
「え、ああ・・・大丈夫です。それより怪我は・・・ってあなたは!?」
「あなたはたしか昨日の・・・・・慎也さん!?」
その女性は、昨日慎也が冒険者に絡まれているところを助けた、ギルド職員のエテラだった。冒険者でもない彼女がいたことに、慎也は疑問を抱くと同時に驚きのあまり、先程まで感じていた吐き気がなかったかのように収まる。
「エテラさんじゃないですか!?こんなところで何してるんですか!?」
「こ、この森に生えている薬草を採りにきたんです」
「あなたギルドの職員でしょ?そうゆうのは冒険者である俺たちに頼むことです。なのになんでわざわざ自分で採りに来るんですか・・」
「すいません」
「はぁ・・・それで?あなたの探している薬草は見つかったんですか?」
「それがまだ・・」
エテラの返答に慎也は顎に手をあて、考える素振りをする。そして慎也はエテラの方を向きながらあることを提案する。
「これも何かの縁です。見つかるまで護衛しますよ」
「いいんですか?」
「構いませんよ。それに、薬草を探している最中にゴブリンを見つければ俺の受けてるクエストも達成できますしね」
「それじゃあお言葉に甘えさせてもらいますね」
「わかりました・・・じゃあ俺、ゴブリンの耳を回収してくるんで少し待っていてください」
慎也は先ほど倒した4匹のゴブリンから、今回のクエストのゴブリン討伐の証となる耳を剣で切り離し、ギルドでもらった袋に入れる。先程死体を見た時に慣れたのか、吐き気は感じず、スムーズに回収することができた。
(なんか気持ち悪くなくなったな。やっぱりメリエヌスさんがなんかやってくれたのかな)
「それじゃあ行きましょう」
「はい!」
エテラは立ち上がり、慎也と共に森の中へ歩き出した。
「そういえばエテラさんってどうして薬草を採りに来たんですか?」
「そういえば言ってませんでしたね」
2人が一緒に行動を始めて約10分、慎也がずっと疑問に思っていたことをエテラに聞く。
「実はですね・・・」
エテラはここまでの経緯を話しだした。
「なるほど・・・つまりあなたは、熱を出した妹を元気にするために、この森に生えてる薬草を採りに来たと」
「はい」
「いやおかしいでしょ?普通はそこで冒険者に頼むでしょうに、なぜ自分で行っちゃうかな」
「その時は、妹が心配すぎて頭がパニックになっていまして」
(この人さてはシスコンかぁ。やっぱりどの世界でもシスコンはいるもんなのかな・・・そういえばあいつもシスコンだったな)
慎也が自分のいた世界にいる秀斗のことを考えていると、エテラが声を上げる。
「あっ!ありました!」
「そうですか、よかったですね」
「すぐに採ってくるので、少しお待ちください」
「わかった」
エテラが自分であらかじめ用意していたであろう袋を出し、薬草へ近づこうと小走りで行く。すると、薬草より奥にある茂みから1匹の青いゴブリンが出てくる。
「おっ、エテラさん止まってください!ゴブリンです!下がってください」
「わかりま・・・っ!?」
慎也はゴブリンを見た瞬間剣を抜き、エテラを後ろへ下がるよう言う。その一方で、エテラはゴブリンを見た瞬間顔を青ざめた。
「どうしたんですか?」
「慎也さん今すぐ逃げてましょう!あのゴブリンは危険です!」
「なんですか急に!?」
「とにかく早く!」
「わ、わかりました」
慎也はエテラの勢いに押され、仕方なく逃げることにしたその時だった。
「グギャアアアアアア!!!」
「何やってんのあいつ?」
「慎也さん早く!」
「・・すいません」
ゴブリンが急に雄叫びをあげ、それを疑問に思った慎也は立ち止まるが、エテラに言われて再び走り出す。
しかし時すでに遅し、慎也達の周りから数多くの足音が鳴る。
「なんだこの足音?だんだんこっちに近づいているような・・・」
「慎也さん早くしないと死んじゃいますよ!」
「そこまでですか・・・ってあぶない!」
「え?」
エテラが慎也の方へ振り向いた瞬間、近くの茂みから棍棒を持ったゴブリンが飛び出て、エテラに殴りかかる。慎也はそれを阻止しようと、ゴブリンの頭に剣を突き刺す。
「あ、ありがとうございます」
「いや、まだ安心するのは早いみたいですよ」
「!?」
慎也はゴブリンから剣を抜き、背負っているリュックを下ろして再び構える。すると、慎也達の周りの茂みからゴブリンがぞろぞろと出てきた。
「マジかよ、さすがに数が多すぎる」
「やっぱりさっきのゴブリンはあの・・・でもさすがに率いてる数がおかしい・・」
「エテラさん!何か知っているなら教えてください!」
「慎也さん、さっきのゴブリン覚えていますか?」
「ああ、なんかいましたね。青いゴブリン」
「最初は目を疑いましたが、この状況で確信しました。あのゴブリンの名前は"ゴブリンコマンダー"です」
「ゴブリンコマンダー?」
「はい、ゴブリンコマンダーはゴブリンの中でも上位の魔物なので中々倒せないかつ、見つけることが難しいので知っている人は基本少ないんですよ」
「でも見た感じ上位って言うほどそんなに強そうには見えませんでしたよ?」
「まああれ自身がもっている筋力や魔力はそんなに強くありません。問題なのはあいつが持っている能力です」
「能力?」
「はい。あいつは自分より下位のゴブリンを従わせることが出来るんです」
「めんどくせー能力持ってんなあ」
「しかし、あれにも限界があります。あれが一度に従わせれるゴブリンの数は最低10体、最高で20体です」
「でも周りにいるゴブリンたち、明らかに20体超えてますよ?」
「そうなんですよ、私もそれがさっきから疑問に・・・ってさすがに悠長に話してる場合じゃなくなりましたね」
「そうですね・・・それにしても多いな」
慎也達が呑気に話している間もゴブリンたちは、ぞろぞろ出てきており、囲むように茂みから出ているゴブリンだけでも30体以上はいる。そしてその奥には、先程慎也達が見つけたゴブリンコマンダーが慎也達を見ながら、不敵な笑みを浮かべていた。
「エテラさん、あまり俺から離れないでくださいね!」
「わかりました」
「グギャアアアアア!!」
エテラが慎也に近づくと同時にゴブリンコマンダーが奇声を上げる。すると5匹のゴブリンが慎也に向かって走り出す。
「上等だごらぁ!」
こうして、慎也とゴブリンたちの戦いが始まった。