採用、採用、採用、やっぱり不採用
運転士に求められる資質。
正確性。ダイヤを忠実に守ることは、当然の使命であり、最低条件。
乗客を思いやる気持ち。もちろん運転技術も欠かせない。
夜通し勤務にあたらなければならず、体力が要でもある。
運転士に求められる資質。
幸いにも、適正のある、優秀な人材が、これまで採用され続けている。或いはそれは奇跡とも言い換えられる。
昨年までの私も、その一人だった。
安全確認をして、指差し呼称、レバーを握ればたちまち運転士としての自分が顔を出す。
運転士は乗客を各駅に届ける。例え頭が痛かろうが、寝不足だろうが、己の不調とは無関係に、路線が遅滞なく循環することを最上位とする運転士に変身する。
昨年までの私は、誠実な運転士の鑑だった。
皆勤賞は当たり前、後輩の教育、売店とのコミュニケーション、駅コンパや個展を提案するイノベーティブな役割も担い、誰からも一目置かれていた。
今年、妻が死んだ。
がん。脳腫瘍。
この国の死因としては、珍しくはない。
心に穴が開いた私は、レバーを握っても、指差し呼称をしても、運転士になれなくなった。
それまで呼吸をするようにできていたことが、ダイヤは乱れ、発着は遅れ、人との会話を避けるようになった。
しかし周囲は私の変化を一過性ものと捉えた。
「調子悪いようだけど、便りにしてるんだ。頼むよ」
私にばかり背負わせないでくれ。
「ねえ、駅弁の発注のことなんだけど、来月の売れ筋はどれになりそう?」
私に聞かないでくれ。
「先輩、仮眠室の模様替えっていつでしたっけ」
そんなことはどうでもいい。
そう、どうでもいいのだ。妻のいなくなった世界など。
どこからか悲鳴が聞こえた。乗客たちの車両が慌ただしい。
ふと、レバーがいつの間にか、奥に押し込まれていた。
いつもは次の踏み切りで警笛を鳴らすのだけれど、忘れてしまった。
電車があまりに早いので、遮断機が開いたまま通過したことが、錯覚のように思えた。
無線の信号がひっきりなしに点滅している。
「止まれ!何をしている。止まりなさ」
曲がりきれるはずもなく、列車は軌道を逸れて。
駅員一人の考えで、たくさん殺せるから




