表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第二章 入学
69/69

2.42黒の商人って、もしかして俺ですか?

 一連の騒ぎから一夜明け、俺たちは学園へと向かっていた。

 騒動の関係で、馬車が足りないため徒歩での登校となったが。


 朝の通学路を7人そろってぞろぞろ歩く。

 すると。

「あー、今日は朝から算数だー。帰りてぇー」

 ビルのいつもの愚痴が始まった。


「ビル兄さん、何言っているの? 真面目に勉強しないと進級できないわよ。そしたらユーヤ兄さんも困る事になるのよ。分かっているの?」

 即座に突っ込むシェール。

 そんな二人のやり取りを眺めて歩く。

 普段通りの俺たちだった。


 だが、この時、俺は気付いていなかった。

 あたりの視線を集めていることに――。


 最初に声を掛けてきたのは、たまに果物を買う八百屋だった。

「お、赤の勇者様じゃないか。これ持っていきな」

 ビルの顔を見るなり、リンゴを投げてくる店主。

 

「ありがとう!」

 ひょいと受け取ったビル、そのまま口へと入れた。


 すると、それを皮切りに。


「あ、あの赤の勇者様! さ、サインください」

「あんた、何抜け駆けしているのよ。私にもサインと握手を……」

「あの、勇者様に、お菓子作ってきました。食べてください」

 と言い寄ってくる登校中の女生徒。


 他にも。


「白の聖女様。おかげさまで古傷まで完治しました。これ少ないですけど、せめてものお礼です」

 拝むようにお金を包んでくる魔獣駆除員。


「聖女様。病気の母に、ご慈悲を」

 病人を背負って拝もうとしてくる青年。


「森の聖母様。うちの子の胸が成長するように祈ってやってください」

 本当に拝んでくる奥さん(貧乳)。


「漆黒の守護者殿。魔獣駆除に興味はないか?」

 勧誘してくる魔獣駆除組合。


 なんてのはまだましで。


「青の賢者というのは貴様か? 大人しくついてこい。貴様ごときが伯爵家に逆らえると思うなよ」

 強引に連れ去ろうとする貴族。


「時空桃姫などと粋がっているガキめ! 時空理術で我が商家に貢献させてやろう」

 多数の用心棒を引き連れて脅すように取り囲む商人。


 などなど、良きにつけ悪きにつけ数えきれないほど声を掛けられた。


 もちろん、お金は断り、病人には理術を掛けた。

 サーヤが。

 そして、強引な奴らには、相応の反撃を食らわせて撃退した。

 シェールが。


 そんな中、俺だけは。

「本当に、お荷物だったのだな。あの能無し商人」

「全くだ。戦うどころか現場にもいないなんて、よく、あのメンバーの中にいられるよな。俺だったら耐えられない」

「噂では裏で弟妹や幼馴染を操っているらしいぜ。その関係で仲間内でも、黒の商人って言われて蔑まれているそうな」

「その噂、俺も聞いたぜ。何でも火竜との戦いの後、勇者様と賢者様が話していたって……」

「本当か? それなら勇者様や聖女様の弱みでも握っているのかもな」

 と学園の生徒が話す、全く身に覚えのない噂が耳に届く。


 聞いていた俺はというと、内容に驚き思わずビルとシェールの顔を見てしまう。

 すると。

「アルにぃ、ごめん。確かに言った」

 と頭を下げるビル。

 シェールも。

「ただの冗談だったの」

 と頭を下げて謝ってくる。


 俺は正直、勘弁してほしかった。

 いや、話も内容も問題なのだが、今、一番気になるのは、町中で、『赤の勇者』とか『青の賢者』と呼ばれる二人が俺に頭を下げている事だ。


 そんなことをすれば当然、

「見ろよ。あの黒の商人。公衆の面前で勇者様と聖女様に頭下げさせているぞ」

「嘘だろ⁉ 二人が何したって言うのか。ただ兄だってだけで、あの所業。卑劣すぎるだろ」

 さらに俺を非難する声が上がる。


 慌てて二人の頭を上げさせる俺。

 周りの声が聞こえていたのだろう、バツの悪そうな顔をする二人。

 俺たち三つ子は揃って、その場から逃げ出した。



 騒動は学園に着いても変わらなかった。

 いや、学園の方が酷くなったぐらいだ。

 子供たちにとっては、いいネタなのだろう。


 弟妹や幼馴染――ラスティ先生やサクラを含む――を褒めたたえる声と、俺を蔑む声は、止むことは無く聞こえてくる。


 授業を終えると同時に、俺は逃げるように城へと帰った。


 中身が大人の俺でも、流石に

「なんも悪いことしてないのに黒の商人って……」

 気分のいい物では無かったから。


 部屋のベッドに一人座る俺。

「はぁ~」

 気付けば、ため息が漏れていた。


 しばらく何もする気が起きず、ボーっとしていた俺。

 そこに。

「もぉ、しょうがないわね~」

 あきれ顔で現れたのは、いつもと違い、面積の小さいシャツに短いスカートを履いた、やたら露出の多いラスティ先生だった。


 そんな先生、おもむろに俺の横に座ったかと思うと、俺を後ろからぎゅっと抱き上げ膝の上へと座らせる。

 さらには。

「こうするのも久しぶりねぇ」

 と、頭を撫でだした。


 ラスティ先生の突然の行動に、驚きつつも何だか抵抗する気がしない俺。

 なされるがままに体を預けてしまう。


 すると、そこに。

「アル兄様、大丈夫ですか?」

「何で、うちまで……」 

 これまた、何だか体のラインがはっきりと分かるワンピースを着たサーヤと、そんなサーヤに引っ張られた、ピンクのフリルが盛りだくさんのメイド服を着たサクラが現れる。


 そんな二人の服に、俺が「なんだその服?」と思いながらもボーっとしていると、サーヤが近づいて来て俺の右腕を取り抱きしめた。


 さらに

「ほら、サクラちゃんも!」

 催促するサーヤ。

 

「ホンマにやるんか?」

 サクラ、口では色々言いつつも、赤らめた顔で、おずおずと俺の左手を取った。


「あ、アルが落ちこんどる言うから、しょうがなくやで」

 つんつんしながらも、取った手を自らの手で優しく包むサクラ。


 俺は、手を引っこ抜いたほうが良い気がするのだけど……できなかった。


 そんな三人に包まれた俺、彼女たちの柔らかさと温かさと、そして甘い香りに力が抜けていき――

 悪評のことなど忘れ、完全にリラックスしてしまっていた。


 どれぐらいその状態で止まっていただろうか? 俺の顔を覗き込んでいたサーヤが告げる。

「ふふ、やっといつもの顔に戻ってきました」


 さらに、背後から抱きしめていたラスティ先生が胸を張って、口を開く。

「当然でしょ。アル君だって男なのだから。それに生まれた時から面倒見ているのよ」

 その後に続く笑い声を聞きながら俺は背筋を伸ばしていた。

 なぜなら、胸を張ったラスティ先生のおっぱいが、俺の背中に強く押し付けられて――二つの塊の形がよく分かるほどだったから。

 

「えーっと、離してほしいのですが……」

 恥ずかしくなった俺、身を捩りながら口を開く。


 だが。

「まだです。アル兄様」

 俺の横から前の方に身を乗り出し、狐耳で逆の頬をすりすりしてくるサーヤ。

 

 そんな体勢になると、こちらも成長著しい二つの塊が俺の背中に押し付けられて――


 前後からオッパイに挟まれる俺。


 恥ずかしいし、こそばゆいし、止めてほしいなぁ。と、俺が身をよじっていると――


 パシーン!


 俺の左手に痛みが走った。

 見ると、サクラに思いっきりひっぱたかれていた。

 何事か⁉ と思ってサクラを見ると。

 

 ――顔の赤さはそのままに怒りの形相へと変わっていた。


「うちが、うちが、恥ずかしいの我慢しとるのに――うちの方なんか見向きもせんと……」

 そこまで言って、息を吸い込んだサクラ。


「このオッパイ星人が‼‼‼‼」

 盛大に叫んだ。


「うちかて、そのうちに――」

 つぶやき胸の辺りを押さえていたサクラが、キッと俺を睨む。

 そして。


「ちょっとそこ座り!」

 と指さすサクラ。

 俺が戸惑っていると、俺と同じく戸惑っていたはずのラスティ先生とサーヤが動き出し、俺だけを床へと正座させる。

 それを見たサクラ、腕を組んで大きく息を吸い込み、口を開いた。


「大体なんや、アル。学校の子供らが、ちょっと『黒い商人』やら、言うただけで落ち込むんか? そんなんしとったら、この先、世界を裏から操るなんか、夢のまた夢やないか。分かっとるんか⁉」

 

 捲し立ててくるサクラ。再び息を吸い込んで続けた。


「しかも、なんや? サーヤやラスティはんの好意に甘えて。そんなんやから余計悪評立つんと違うんか? それに、こんな甘えとる暇あるんやったら、悪評つこうて、もっと役に立つことしいや‼ はぁはぁ……」


 言い終えて、肩で息をするサクラ。

 それを見ていた俺はというと、目から鱗が落ちる気分だった。


 ――下に見られるなら、それを利用してやれば良い。


 言われてみれば、物凄い正論だった。

 どうせ近い将来、裏から世界のバランスを取るつもりだから。

 そしたら、もっともっと悪評が立つはずだから。

 その状況を利用する。

 

 そこまで考えた俺。

「きゃ、あ、アル、何、急に……」

 耳元で聞こえたサクラの声で、気が付いた。


 そう、あまりの感動に、俺がサクラを抱きしめている事に。

 そして驚くサクラをよそに、俺は宣言する。


「なってやるよ。本当の黒の商人に!」

 だが。


 ――ゴン!


「何勝手に盛り上がってのよ‼」

 声と共に、俺の脛に響く衝撃。

 一切、容赦のないサクラの蹴りだった。


 蹲る俺、全く締まらなかい決意表明となった。


 第一部 完


作者の状況や、人気を考えた結果、本作は、これにて一旦、閉めさせていただきます。

ここまで読んでいただいた皆様、本当にありがとうございました。


もし、第二部を書くことがあれば、また、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 続きがでること 気長にまたせてもいます
[良い点] お疲れ様でした。 楽しく読ませて貰いました。 なかなか連載していくのも大変なんですね。 次回作にも期待しています。 [一言] 天野さんって作家さんがブックマークの増やし方を書いて参考にし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ