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俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第二章 入学
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2.40変な敵がいるようです

 背後からの一撃を避けた俺が敵へ向け刀を向ける。

 だが、そこには誰もおらず、また背後を取られる。

 ゴウとの戦いは、これの繰り返しだった。


「くそ。後ろばかり取りやがって!」

 文句を言いながらゴウの短剣を躱す俺は少し焦れていた。

 なぜなら。


「……ハチ。魔獣を町へ」

「分かった。ありったけの魔獣を送り込んでやる」

 二人の会話が聞こえてきたから。


 すでにかなりの数の魔獣が送られた街へ追加で魔獣を送る。

 さらには、さっき俺が気絶させた超大型魔獣まで回復させているのだから気にするなというのが無理な相談である。


 ビルたちなら大丈夫。と言い聞かせ自らの心を落ち着かせようとするが、目の前で超大型魔獣が起き上がり町へ向けて歩き出すのを見ると、どうしても気が逸ってしまう。

 そんな隙をゴウが見逃すはずもなく――


「……隙だらけ……」

 背後からの連続攻撃を仕掛けてくる。俺も慌てて対応を重ねていく。だが、全てを躱しきることは難しく、腕に手傷を追ってしまった。


「……私の勝ち。これは蟲毒の短剣……」

 構えを解き、距離を取るゴウ。


「ぐぉー!」

 切られた俺は声を上げ、やられた振りをしつつ――全力でゴウへ向けて踏み込んだ。

 この時、ゴウは完全に油断していた。

 よほど毒に自信があったのだろう。


 だが相手が悪かった。

 俺には毒など効かないこともないのだけど今回は切った場所が悪かった。

 なにしろ切られたのは人形の腕なのだから。

 毒が効くはずもない。

 元々訓練用のため痛みだけは情報として伝えられるけど。

 いくら『付与』の真龍が実際の人体に近い機能を目指したとしても毒が効く機能を実装するわけがない。


 果たして。


 全力で踏み込んで放った俺の切り上げがゴウの胸から肩を襲い、ゴウは空中へと巻き上げられ地面へと崩れ落ちた。


 残心を持ちつつ体制を整える俺は先ほどの切り上げの手ごたえを再確認していた。


「何か硬いものを切った?」

 初めて刀を貰った時、鎧を試し切りした時と同じような感触だ。

 それなら――とゴウへと意識を集中する。


 少々よろけながらもゴウは立ち上がった。


「……背中見せたら切るつもりだったのに……」

 あれだけ派手に切られたのに手放さなかった短剣を手に口を開くゴウ。

 やはり傷は負っていないようだった。

 そのゴウが再び短剣を構えた、その時、胸の辺りからなにやら塊が落ち――俺の目線をくぎ付けにした。


 落ちたのは切られて砕けた鎖帷子のようだった。

 だが問題はそこではない。

 問題は、あらわになった胸元が微かに膨らんでいたことだった。


「女……だったのか」

 思わず俺はつぶやいてしまう。


「……!」

 この時、初めてゴウは自分の胸元があらわになっている事に気が付いたようだった。

 慌てて周りから布をかき集めて胸を覆うゴウ。低い声で問うてきた。


「……見た? ……」

「ああ」

 素直に答える俺。


「……絶対殺す……」

 ぼそりと呟いたゴウは、これまで以上の殺気を発しながら視界から消えた。

 だがゴウに先ほどまでのキレはなかった。

 俺の視界から消えるまでの時間がコンマ数秒遅くなり――俺は背後ばかり取られる理由を知った。


「なるほど、転移を繰り返していたのか」

「……‼……」

 驚きを隠せず慌てて距離を取るゴウ。

 頭巾の隙間から見える目が見開いていた。

 短剣を持たぬ手で胸元を隠しながら俺と対峙して動きを止めたゴウ。

 見開いた目が細められ――恐らく――苦渋の表情を浮かべいた。


 そして。

「……知られた……なら……とつ――」

 何かを言い始めたゴウ、最後まで言うことはなかく姿が掻き消えた。


「あれ? ゴウは?」

 驚く俺の前には何故か疲れた顔をしているハチいた。


「時間稼ぎは十分だ。故にゴウには帰って貰った」

「そうか。帰ったか」

 あと少しだったのに、と俺は悔しさをにじませる。

 だがハチは別の方に取ったようだ。


「ふ、そうか。ゴウが変な事口走っているから慌てて送り返したが、やはり押していたのだな。くそ早まったか」

 早口でつぶやいたと思ったら。


「まぁいい。魔獣の数が足りなくて予定より遅れたが、任務は完了した。ここは、見逃してやろう。帰ったところで、お前たちは終わりなのだからな」

 傲慢な口を開いて自分も消えていった。


「いや、見逃すも何も俺、勝ったよね……それとも逃げられたから負け……?」

 残された俺が誰もいない森へ向けて声を出すが、返事などあるはずもなく一人項垂れる俺。また、独り言が口から零れ落ちる。


「あんな間抜けそうな敵に負けるなんて……」

 明らかに格下で俺におびえていたハチ。

 背後を取るのは上手いけどネタが割れた今となっては負ける気がしないゴウ。


 そんな二人を逃すなんて、『武』と『闘』の真龍に知られたら――想像するだけで冷や汗が出る。そんな状況だった。


 だが、いつまでも項垂れている訳にはいかない。

 なにしろ町へ魔獣の大群が送られたのだから。

 そのことを思い出した俺は慌ててラークレインへと戻った。


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