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俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第二章 入学
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2.36蜥蜴と竜の違いはどこにありますか

 アルにぃじゃないクアルレンさんだっけ――面倒くさい――が、火蜥蜴に一太刀当てて姿を消した後、俺も負けじと火蜥蜴の軍団へと攻め込んだ。

 クアルレン……本当に面倒だ。と思いつつ、アルにぃから貰った剣を手近な火蜥蜴に突き立てる。


 やっぱり切れ味が違った。

 大型の魔獣切っているはずなのに、母さんの手伝いで芋切っていた時と同じ手ごたえだ。

 しかも2体目、3体目と切っても切れ味が鈍らない。


 これなら楽勝だ~。と適当に振り回すと――

 キン!

 剣を弾かれてしまった。


 何だ? と思って見たら、赤い火蜥蜴の中に黒い縞模様の個体が混じっていた。

 詳しくは分からないけど強い個体のようだ。

 相手も俺を敵と認識したのだろう。


 シャー!

 と威嚇音を出してくる。


 その威嚇音に俺の口角が上がるのが分かった。

 折角の装備なのに雑魚だけなんてつまらない。

 そう思っていたところだったから。


「切ってやるよ!」

 言葉など分からないであろう蜥蜴に向かって叫んでしまうが仕方がない。

 相手も『シャー! シャー!』って威嚇してきているしおあいこだ。

 

 こうして始まった黒縞火蜥蜴との戦いだったけど長続きはしなかった。

 突然掛けられたシェールの筋肉強化のせいだ。

 あれのせいで拮抗していた戦いが一瞬で終わってしまったのだ。

 スピードもパワーも段違いに強化される筋肉強化。

 確かに役に立つのだけど出来れば自分の力だけで勝ちたいと思うのは、男なら当然だと思う。


「その辺が、シェールには分からないのだよなぁ」

「む!」

 隣で戦っているユーヤにぃに愚痴ると、全くだ。と同意が返ってきた。

 流石、ユーヤにぃ俺と同じ思いだった。


 その後も火蜥蜴との戦いは続くけど、黒縞火蜥蜴みたいな強敵と会う事なく一方的に進んでいく。

 しかも。

 火蜥蜴の弱点が寒さだと知ったシェールが広範囲で氷雨を使ったものだから、周りの魔獣駆除組合員さんたちでも火蜥蜴を倒せるようになってしまった。


「やる事がねぇ」

「ん!」

 組合員さんたちによって倒されていく火蜥蜴を、ただ見ているだけになった俺とユーヤにぃ。

「暇だなぁ。もう帰って模擬戦する~?」

「むむ!」

 二人で話ていると――


 ギシャァァァァァァーーー


 ――ここにいる魔獣たちとは天と地ほども威圧感の違う、心臓を握りつぶされそうな金切り声が響き渡った。


 この鳴き声に、騒然となる組合員さんたち。

 もう少しで火蜥蜴を殲滅というところなのに動きが止まってしまった。

 いや止まっただけならまだましだ。

 中にはその場で腰を抜かしてしまったり、パニックになって走り出したりしている人までいる。


 それは門の中の兵たちも同じだったようだ。

 門が少し開いて中からぞろぞろ出てくるのだが全く動きに統率が取れていない。

 怖いけど命令されたから出てきた。

 そんな思いがありありと感じられる動きだった。


 さらには魔獣たちの動きも変わった。

 少数生き残っていた猪型魔獣など一目散に逃げだしたし、鈍った動きながら多少なりとも抵抗をしていた火蜥蜴も、一斉に声から遠ざかるように動き出したのだ。


「こりゃぁ、よほどの魔獣が来るみたいだな」

「むむむ!」

「そうね。さっきから少し地面が揺れているわ」

 俺の声に反応したのはユーヤにぃと、火蜥蜴の殲滅から帰ってきたラスティ先生だ。


「ビル兄さん、一度、門前まで戻りましょう。組合員も兵も門の前に集まりだしているわ」

 今度声はシェールだ。

 魔獣の金切り声が怖かったのだろうか、何だか慌てている。


「そうだな」

 言いつつ門の方を見ると門前で皆、迎撃の陣形を整え始めている。


「超大型魔獣が接近しています。町の防御結界を張るように手配をしましたので、急ぎ門の近くまで」

 さらにはホリーメイド長だ。

 俺が火蜥蜴に突っ込んだときは一緒にいたのに、戦いが有利に動き出してから姿が見えないと思ったら、偵察に行っていたのかな? その上、結界の手配まで。

 手回しのいい事だ。


 しかし超大型魔獣か。

 個人的には突撃したいところだ。

 だけど――今は無理だ。

 いつの間にかシェールとユーヤにぃに両手を掴まれて門の方へ引きずられて行ってしまっているから。


 でも問題ない。

 そもそも魔獣はこっちに向かっているのだ。

 アルにぃもいないし、きっと戦う機会が回ってくるに違いないから。


「待っていろ、魔獣! 俺が倒してやる!」

 俺の宣言にシェールのため息だけが返った。


 数分後、門前まで戻った俺たちは門近くに押しやられていた。

 何か手伝おうかと思ったけど、ハロルドさんとホリーさんに、「帰れとは言いませんが、大人しく後ろに控えていてください」と懇願されてしまったから。

 ちなみにサーヤとサクラは町の中に作られた臨時治療所で怪我の治療にあたっているらしい。


 今はホリーさんに渡されたおやつの果物を齧りながらだべっている。

「結界ってどんなのかな?」

「ウィレさんの話では、土理術で金属の壁を作るという話だったけど」

 俺の問いに上品に、お茶を飲んだシェールが答えてくれる。


「え、それってただ硬い壁? 意味あるの?」

「そうよね……」

 結界っていうから何かと思ったら、ただの壁か。

 これなら戻ってきた意味ないな。


 さっき突撃しとけばよかったと思っていたら――


 ギシャァァァァァァーーー


 さらに大きく金切り声が響いた。


 少しずつ見え始めた超大型魔獣、大きかった火蜥蜴をさらに大きくした、まさに火竜とも言うべき姿の魔獣だった。


「結界発動!」

 指令と共に多くの理術士たちが理術を発動させる。

 だが作り上がったのは――

「壁だな」

「ええ鉄のね」

 本当にただの壁だった。


 それでも木で出来ている門をすっぽり覆っている事から一定の効果はあると思うけど――などと思ったのは間違いだったようだ。


 突如、壁は破裂した。

 火竜の前足の一撃で。

 そして、そのたったの一撃でこちらは大損害を受けていた。

 破裂した壁の破片が辺り一面に飛び散り、陣形を組んでいた組合員や兵たちを直撃したのだ。


 一瞬にして阿鼻叫喚地獄の様相を見せる壁の内側。

 即座にシェールとラスティ先生が動き出し傷を治そうとしているが数が多すぎる。


 その上、火竜から『ズボォォォォ』と何かを吸い込むような音が聞こえだしていた。


「やばい。何かするつもりだぞ」

「いや、火蜥蜴が何かを吐き出すなんて聞いてないのだが」

「でも、万が一……」


 組合員や兵たちが騒いでいるが火竜の吸い込みは止まらない。

 数十秒後、その動きが止まり始めたころ、火竜の口からチラチラと火が見えだした。


「やばい、炎を吐くつもりだ」

「総員、退避」


 組合員と兵たちが騒ぎ出すが手遅れだ。

 口を開けるドラゴン、一気に炎を吐き出そうとしたところに――シェールの理術『氷壁』が立ち塞がった。


 じゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ


 炎と氷の壁の激突。

 聞こえてくるのは氷の溶ける音だ。

 10秒? 1分? どれぐらいその音を聞いていただろうか。

 突然、シェールが叫んだ。


「だめ、全部は受け止められない。みんな逃げて!」

 この叫びに一部の人たちが動こうとする。

 だが、それは叶わなかった。

 大量の怪我人が避難を妨げていたから。


 遅れる退避行動。その間にも氷は溶け続け、やがて氷壁全体にヒビが入り――


 パリ―ン

 ――壁は崩れ去ってしまった。

 

 炎のブレスが来る! そう理解した瞬間、俺は炎に向かって飛び出していた。

 そう炎を切り裂くために!

 切る! 炎を切る! その姿を脳裏に浮かべ炎が来る瞬間を待つ。


 ――が一向に炎が向かって来る事はなかった。透明な何かに遮られて。


「あれ? 本当に来ない?」

 剣を構え待つこと数十秒。

 一向にやってこない炎に首をかしげていると、後ろから声を掛けられた。


「うちの空間断裂があるさかい、あの程度の炎が通れるわけあらへんわ」

 剣を構えたまま後ろを見ると門内にいるはずのサクラさんが腕を組んで不敵な笑顔を浮かべていた。

 そして透明な何かに当たっていた炎が消えていき――


「終わった……ははははは!」

「ごめんな、決死の行動、邪魔してしもて」

 突然笑い出した俺にサクラさん若干引き気味だ。

 何か勘違いしているに違いない。


「いや、ありがとう。サクラさん。助かりました」

「あれ、怒ってないのんか? 見せ場取ってしもたのに」

「何で怒るの? 皆が助かったのに?」

 やっぱり勘違いしていた。

 二人して首をかしげていると、『パリン』という音と共に火竜が残っている結界――鉄壁――を乗り越え近づいて来ていた。


「あら空間断裂が壊されてしもうたわ。あれ質量に弱いねん」

 重力場を利用して起こした断裂だから……と説明してくれるが俺にはさっぱり分からない。

 そういう事はアルにぃかシェールにして欲しい。

 苦笑する俺が出来る事と言えばただ一つだった。


「火竜を倒す!」

 宣言して飛び出す俺に無言のユーヤにぃが続く。

 さらには。

「ビル兄さん、また、考えなしに飛び出して! 筋力強化よ! それと、氷雨!」

「サクラちゃん、ブレスの守りは任せたわ」

 愚痴りながらのシェールとちゃんと全体を見てくれているラスティ先生も続く。


 こうして俺たちは火竜と対峙する事となった。


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