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俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第二章 入学
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2.34大物が出て来たようです

 俺たちが北門へとたどり着いたときには、門の外に衛兵による防衛陣形が完成しているようだった。中には、ごく少数しかいなかったから。

 その少ない人を押しのけ、ハッサン組合長は進む。


「ハロルドはいるか」

「おう、ハッサン、ここだ」

 気軽に呼び合う二人、顔を合わすなり拳をコンと当てている。

 特有の挨拶のようだ。古い付き合いらしい。


「状況はどうだ」

「見ての通り、最悪だ。魔獣の数が多すぎて分からんぐらいにな」

 肩を竦めるハロルド兵長だが、悲壮感は感じられない。

「だが、外壁がある」

「そうだな。……頼めるか」

「当然だ」

 言葉少なく話した二人、また拳を合わせ互いに背を向けた。


「お前たちいくぞ!」

 ハロルド兵長の指図だろう。

 門が開きだした時に、三度、ハッサン組合長が雄たけびを上げ組合員たちは門外へと走り出した。

 門の外では既に戦いが始まっていた。

 否応なしに飛び掛かってくる魔獣たち。

 完全な乱戦状態だった。


「このままでは、危ないのでは?」

 飛び掛かってくる魔獣、とは言っても犬に毛が生えた程度の強さの魔犬を刀で両断しながらラスティ先生に問う。


「ふぅ。確かにね。今のところ数だけの雑魚だからいい様なものだけど、強力な個体が出てくると今の手勢では難しいかもね。でも、それも今いる魔獣を倒しきってからの話よ」

 言いつつ『風』の真龍直伝、真空矢の連続掃射で魔獣を打ち抜いて行く先生。

 死体の山を築いていた。


 倒せども倒せども減らない魔獣たちに、組合員たちの体力や理力回復の為、交代で休憩を入れだした頃だった。

 休憩中の俺が魔獣の発生源辺りの気配を探っていた時に気が付いたのだ。


「強力な個体が出て来たようですよ。それも複数体ですね。さらには、こそこそ気配を隠している奴までいそうですね」

「ちょっと待ってよ。魔獣が突然現れたっていうの?」

 訝し気な声で聞いて来たのは矢の打ちすぎで、へたっていたラスティ先生だ。


「気配を追うだけなら……」

「となると黒幕がいるという事なの?」

 俺が首肯すると、先生、少し姿勢を正し考え込んでしまった。

「組合長に調査隊を出すよう進言する? でも、この場から高段位の組合員減らすなんて無理だし……」

 そんな時、俺は門の内側で気配を感じ、目を向けた。


「……どうやら、こちら側にも動きがあるようですよ」

 同じように門の方へ眼を向けたラスティ先生は驚きの声を上げた。


「あの子たち、何のつもりなの⁉」

 そう弟妹に幼馴染にサクラまで門の外に出てきたのだ。

 魔獣駆除組合員でもないのに。

 後ろにはホリーメイド長までも顔を連ねている。

 恐らくウィレさん辺りからの命を受けて、お目付けとして付いて来たのだろうけど。


「どうやら、やる気十分みたいだな」

 俺、いやラスティ先生を見つけたのだろう駆け寄ってくるビル。

 そのビルを追いかけるように他のメンバーも走り出した。


「来たぜ! ラスティ先生、それと……ア」

「クアルレンだ」

「そう、クアルレンさん」

 来て早々、本名を言いそうになったビルに俺は苦笑した。

 ビルらしいと言えばらしいのだが。

 故に、もう一度くぎを刺そうかとも思ったが今はそれよりも彼らの目的を優先することにした。


「お前たちも戦うのか?」

 当然そのつもりだと思うが、と思いながら彼らを見る。

 するとビルが握りこぶしを高く上げ宣言した。


「町を守るために戦う!」

 他の面々もやる気十分な肯きが返ってくる。

 ただホリーさんだけは渋い顔で立っていたが。

 『守る』ためか。

 なら止められないな。

 だったら少しでも助けないとな――


「お前たちの実力では、これから現れる魔獣を倒すことは難しいだろう。だから、これを貸してやる」

 口を開きつつ俺は収納空間から装備――俺がビルたちのために本気で作ったけど入手先を問われると困る――を出していく。


 その装備にくぎ付けのビルが口を開くが。

「いいのか! ア――ぶっ!」

 ユーヤ兄に後頭部を突かれ最後まで言うことは出来なかった。

 そのやり取りに思わず親指を立てたくなったのを我慢していたら、声が聞こえた。


「ありがとうございます。クアルレンさん。使わせていただきます」


 ビルに呆れているのだろう無表情なシェールだった。

 そんなシェールに俺が肯くと、皆それぞれに装備を付けだした。

 紅龍の鱗と同じだと言われる紅龍鋼で作られた剣や、最も硬いと言われる黒龍鋼で作られた鎧。

 他にも白龍の髭から作った杖など、分かる者が見れば出所を問いたださずにはいられない品々だ。

 もちろんサクラの分もある。

 こっちは本当に真龍特製の杖とローブで俺の作ったものとは雲泥の差がある品だが。


 そんな装備の受け渡しも終わり俺とラスティ先生も前線へと戻る時間となったところに、門上の見張台から声が響いた。

「火蜥蜴だー! 大型の火蜥蜴が現れたぞーー‼」


 声を聞いたビルは一番に走り出した。

 慌ててユーヤ兄とシェールも追いかける。

 その姿を見送りながら俺はラスティ先生の耳元で囁いた。


「すみません。アイツらの事を頼みます。俺は、少し席を外しますので……」

 これだけで先生は納得してくれたようだ。


「貸し一つね」

 と呟いて彼らを追いかけていってくれた。

 話が早くて助かるけどラスティ先生への貸し――ちょっと怖いって身震いしていると声が届いた。


「で、私たちはどうすればいいの?」

 俺の目線にいち早く気付いて留まってくれたサクラだった。

 横では尻尾を嬉しそうに振っているサーヤもいる。


「二人は、ビルたちの少し後方で組合員たちの治療所を作って欲しい」

「ふーん、サーヤが治療して、うちはサポートってところかしら。あと、危なくなったら転移で逃げろってことやんね」

 俺の短い説明からすべてを読み取って応えてくれるサクラ。

 流石、真龍の一人だ。などと感心していたら。


「うちも、貸し一つやからね」

 と、また怖い事を言われてしまった。

 サーヤだけは。

「あたしは大丈夫ですから」

 と言ってくれたけど。


 何となくラスティ先生とサクラにだけ何かしてサーヤに何もしないと言うのは居心地が悪い。

 だから。

「サーヤも貸し一つでいいよ」

 と返してその場を離れた。


 そんな俺、本当なら即座に魔獣の発生地点へと向かいたかった。

 だが防衛戦力に組み込まれている手前、勝手に動けない。

 なので少しだけ芝居をする事にした。


「この火蜥蜴が!」

 叫びつつ土煙を上げて近づいてくる火蜥蜴の団体に突撃を掛けたのだ。

 もちろん全力でではない。

 全力だと直ぐに火蜥蜴が全滅してしまうから。

 そんなことになったら隠れている奴が撤退してしまうかもしれない。

 だから倒すのは向かってくる数体だけ。

 

 そして俺は、土煙に巻かれて姿を消した。


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