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俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第一章 再出発 
6/69

1.6父親達はちょっと残念

 おやつの後、ビルとユーヤ兄は外へ遊びに行った。

 多分、ユーヤ兄の父親であるワーグさんのところに剣の練習に行ったのだろう。

 残った俺とシェールとサーヤは、子供部屋で揃って絵本を読んでいた。

 ジアスで有名な寓話を題材にした絵本だ。

 悪いことをすれば自分に返ってくる日本昔話的なやつ。


 俺が本をめくりながら、文を読んでいく。

「悪い子は、食べちゃうぞ~」

「「きゃー」」

 ちょっと怖いところで、脅かしてやると二人とも本当に怖そうだ。ギュッと抱き着いてくる。

 反応が大きくてついつい力が入ってしまう。サーヤなんて半泣きだ。

 それでも止めずに話を進め――

「悪い鬼は、退治されました。おしまい」

「よかったー」

「ねー」

 最後まで読み終えると、二人とも本当にうれしそうに言いあっている。


 二人の笑顔につられて俺もほほを緩めていると声が掛かった。

「すごく上手に読むではないか、アル。思わず聞き入ってしまったぞ」

 ユーロス父さんだった。

「この絵本、楽しくて何度も読んでいる本だからね――」

 本好きの父さんに褒められるとすごく嬉しい。

 嬉しくて、ついやってしまった。


 そう父さんの前で本を褒めてしまったのだ。そしたら始まってしまった。

 うんちくが。

「お、そうか! この本が好きか。そうかそうか、この絵本の作者はな、世界中を旅して話を練りに練って書き上げるので有名だよ。この鬼の話以外にも、妖精の話も有名でな、あと、そうそう、あれだ。小人のシリーズもあってな、あれなんてもう唯一無二の作品と言ってもいいほどの……」

 やばいと思ったけど、手遅れだった。

 長い語りのモードに入っている。

 普段は口数少なく仕事をこなしている父さんだが、こうなると話は終わらない。

 隣ではシェールが目を細めて俺に訴えている。止めさせてと。

 サーヤはサーヤで、ポカーンと口を開けて固まっている。

 確かに俺も止めたい。けど、中々に難しい。


 タイミングだ、話の途切れるタイミングを計らないと――

「す、すごいね、父さん」

「それか……、ん、ああ、分かってくれたか。……よし、また今度、この作家の本を取り寄せよう。新しいのが出ているはずだ」

「うん、楽しみにしているよ」

 どうにか成功したようだ。まだまだ、続きそうな話だったけど止められた。

 シェールの目も元通りに開かれ、いつもの笑顔が戻ってきている。

 サーヤは、新しい絵本と聞いて、うんうん肯いている。

「それじゃ、行くね」

 短く告げて、三人で早々に部屋を出て行った。

 父さんの熱い語りが、また始まる前に。


「はー、どっと疲れた」

「つかれたねー」「ねー」

 三人並んで廊下を歩きながら、口々に疲労を口にする。

 まぁ、サーヤはあまり疲れてないと思う。ただ、マネしているだけだから。

 暫く進むと窓の外にビルとユーヤ兄の姿が、更に少し離れたところにワーグさんの姿も見える。

「乱取り稽古の最中みたいだ。二人とも外に見に行ってみよう」

 俺の発案にシェールは、首を横に振った。興味がないようだった。

「母さんのところに行く」

 そう言い残して、厨房の方へと走って行ってしまった。

「サーヤもローネ母さんのところに行くかい?」

 俺が聞くと、サーヤは首を横に振って握っている手に力を入れた。

 俺と一緒に外に行きたいらしい。

 二人でゆっくり歩いて外に行き、建物の角を曲がったところで――

 吹っ飛ばされているビルが目に入った。


「ぐふぉ!」

 痛そうに庭を転がるビル。見ているこっちまで痛くなる光景だ。

「んーーー!」

 よそ見をしていたら、今度はユーヤ兄の声が聞こえてきた。

 同じように吹っ飛ばされたらしい。

 こんな時でも、言葉を発しないのだね。

 見上げた根性だ。でも、かなり痛そうにしている。


「お前たち、もうちょっと考えてから攻撃しろよ。そんなんじゃ、いつまで経っても俺から一本取る事なんてできないぞ。がははは」

 仁王立ちで檄を飛ばすワーグさん、手には何も持っていない。

 ハンデとして無手で二人立ち会っているようだ。

 それでも、まだまだ二人とは歴然とした差があるようだが。

 そんなワーグさんが、こっちを見て手招きしていらっしゃった。

「えっと、ぼくは遠慮しましょうかね…」

「何言ってやがる。弟のビルがやられているのだから、敵討ちしないとな。兄として」

「いやー、あのー」

「お前、そういって前も対戦を避けたな。駄目だぜ。男だろ。力を付けとかないと女にもてないぜ。さぁ、来い。それとも、こっちから行こうか? がはは」


 発破をかけているつもりだろう。にやりと笑うワーグさん。

 残念ながら、それぐらいで俺の気持ちは動きませんよ。と心の中でつぶやいていたら思わぬ伏兵がいた。

 サーヤだ、サーヤがテトテトと歩いてビルの落とした木剣を持ってきてしまった。

 すっと俺に手渡す。

 

 いや、サーヤさん、俺やりたく無いのですけど。

 目で訴えてもダメだった。こくりと首を縦に振って離れていくサーヤ。

 いや、危ないから離れていろ、的なことも言ってないですけど。

 どちらかと言えば、貴方のお父さんを止めてほしいのですけど。

 離れていくサーヤを見ながら心の中で叫んでいるところで、不穏な気配がした。


「うぉ!」

 慌てて横っ飛びしたら、俺のいた所にワーグさんの飛び蹴りがやって来ていた。

 間一髪だった。

「へぇ、いい勘してるじゃないか。本ばかり読んでモヤシ君かと思ったけど。違うみたいだな」

 いえ、今のは偶然です。と言う暇もなく、拳を繰り出すワーグさん。

「くそ!」

 避けられないと思った俺は、悪態をつきながら持っていた剣を力任せに横なぎに振るう。

 だがワーグさん、俺の動きを予測していたのか、拳を引いて剣の範囲外へと移動した。

「ほんとに、ただのモヤシ君じゃないな。剣速がユーヤ以上だぞ」


 ワーグさんが褒めてくれるが、あんまり嬉しくない。

 驚いてラスティ先生に止められている理術『身体強化』を使ってしまったので。

 子供が多用すると体の発育に悪影響があるらしい理術を。

 そんな俺の思いなど全く気にも留めず、ワーグさんがまた少し腰を落としたのを見て俺はようやく諦めた。


 そっと剣を正眼に構える。

 高校の授業で習った剣道の構えだ。

 素人に毛が生えた程度だからどこまで通用するかは分からない構え。

 それでも、ワーグさんは勘違いしたようだ。

「へぇ、ラスティのやつ、ただ、甘やかしているだけじゃないようだな。しっかり訓練しているのか」

 ああ、周りからは、俺は甘やかされて見えるのか。

 確かに毎日のように膝の上に座って本読んでいれば、そう見えるだろう。けど、違うのだ。


「どちらかと言えば、ラスティ先生が甘えているのです、よ」

 言い終えるより前に、俺は前に踏み込みつつ剣を引く。

 突きの予備動作だ。だが、見え見えだったようだ。

 ワーグさんも合わせるように距離を詰めてくる。

 やばい、踏み込まれる。そう思った俺は慌ててワーグさんのこぶしに剣の根元を当てに行って、そのまま吹っ飛ばされた。

「がははは、良い動きだ。ちゃんと相手が見えている証拠だ。けど、残念だったな。お前の体格では、まだ、俺を正面から受け止められねぇよ」

 いや、2m50ぐらいあるのじゃないの? って体格のワーグさんを俺は大人になっても受け止められませんよ。などと、思いながら俺は、強い衝撃の後で気を失った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 2m50の衝撃…デカすぎやしませんかね?でもこの異世界ジアスの住人は個性豊かな感じなのであまり違和感を感じなかった所が良き [一言] やはり2m50はデカい。あと黒の商人になるまで読み進め…
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