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俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第二章 入学
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2.28仮免許の商人ですが、扱うものは超一流です

 入学して数か月、季節は初夏を迎えようとしていた。

 そんな中、俺は楽しい学園生活を――送ってはいなかった。

 なぜなら。

「おい、あれって能無し商人か? 剣聖と大理術師の兄だっていう」

「そうだ。二人に剣と理術の才能を吸い取られた残り物だそうだ」

「なのに、あれだろ。拳聖、聖癒の兄妹とも、時空の巫女とも幼馴染なんだろ? さらに、森の聖母様は従者だっていう話だ」

「「うそだろー」」

「いやほんと。この間、仲良さげに話しているの聞いたって、商業学部のやつが言っていた」

「それじゃ、アイツもしかして、夜は森の聖母様と……」

「許されん! 俺なんてピンクフォレスト行ったら満員で断られたのに」

「ちょ、お前まじか。あそこ今、超高級店だぞ。行けるのか」

「ああ、ちょっと理術の本を買うって父さんにお願いしてな」

 俺を蔑む言葉が、すぐに耳に入ってくるのだ。

 非常に居心地が悪い。


「なんだよ。能無し商人って。能無しなら試験に通るわけないだろ。もうちょっと考えろよ! それに俺は、こっちの世界では童貞だってんだ! やっと最近、一皮むけたところだっていうんんだ‼」

 などと独り内心で憤りながら歩いていると、声を掛けられた。

「なーに怒っているの? アル君」

 俺とは対照的な笑みを浮かべたラスティ先生だった。

 近づいてきて俺の頬をつつく。

 俺は溜息が出る。

 こんなことするから余計にやっかみが増えるのだけど、頼んでもやめてくれない。

 なされるがままだ。

 従者という意味を分かっているのだろうか。

 はなはだ疑問だ。


「いや、つまらない事ですよ」

 俺は努めて冷静に返事を返すが、目線だけは隠せなかった。

 ラスティ先生が俺の目線の先を追う。

「ああ、アル君でもああいうの気にするのね」

 目線の先にいた、ひそひそと言うには大きな声で話す男子たちを見て先生はくすくす笑った。

「いや、普段は気にはならないのだけど、直接耳に入ると、それなりに……」

「ま、そういうものね」

 言いつつ今度は、これ見よがしに腕を組んで胸を押し付けてくるラスティ先生。

 その光景に男子たちは、そそくさと去って行った。

 少し前かがみで。


 居心地の悪い場所に長居をするつもりはない。

 俺はラスティ先生を連れ、とっとと学園を出てとある建物へとやって来ていた。

「やあ、もう授業は良いのかい?」

 扉を開けて中に入る俺たちに声を掛けてきたのは、この建物の持ち主であるショーザさん。

 そうここは、あの『何でも売ります』という看板の店だ。

「ええ、授業は、日に一つぐらいですから。今日の分は終わりです。それよりも、お願いした理術補助具は売れていますか?」

「流石、商業学部主席合格のアル君だねぇ。ほとんどの授業免除なのだろう?」 

 そう試験の結果、俺だけ満点だったらしく首席で合格だったらしい。

 ただ、サクラが、ビルが、シェールが、目立ちまくっていたので、あまり知られていない。


「すごいよねぇ。それに、このペン? もすごい売れ行きだよ。これも作っているっていうのだからホント、天は二物を与えたのだねぇ」

 そして俺がこの店に来た理由がこれ、この理術補助具である『墨いらずペン』を店に置いてもらうためだった。


 そもそも、このハポン王国、文字を書くための道具といえば筆なのだ。

 いわゆる毛筆である。

 そこに墨を付けて書く。

 これが国標準。

 

 俺はこのことに疑問を覚えた。

 なぜ理術なんて便利な物があるのに前時代的な毛筆なのだと。

 そして調べていくが真龍の情報空間内からでも出てくるのは、羽ペン、ガラスペンなどやはりインクや墨を足しながら書く物だけだったし、『鍛冶』や『付与』の真龍に聞いても首を横にするだけだった。

 そもそも真龍は情報空間が出来てから紙に何かを書くようなことはしなくなったそうで興味もない様子だった。


 無いなら作ろう! と思うのは当然のことだと思う。

 なにしろ地球では鉛筆もボールペンも直ぐ身近にある物だったから。


 俺が最初に目指したのはポールペンである。

 あれのインクが理力で補充される物を作ろうとした――が、挫折した。

 作る事は作れたのだがペン先の真円に近いボールを作るのに非常に高度な技術を要したため量産できそうになかったからだ。

 恐るべし日本の技術力! であった。

 

 なのでもっと簡単な構造の鉛筆を選んだ。

 いや理力を加えると芯が伸びるのだから鉛筆というよりシャープペンシルか。

 こちらは簡単だった。

 土理術でペン先から黒鉛を出すようにするだけだ。

 発想の転換というやつだろう。

 そのシャープペンシル――こちらでは『墨いらずペン』――をショーザさんの店を借りて売り出している。


「いやー凄い」を相変わらずの大袈裟な動作を交えて連発するショーザさん――胡散臭い――に俺は本日分の品物を渡す。

「今日は、100本持ってきました」

 俺はカウンターにペンを置いて行く。

 するとショーザさん少し困った顔で考え込んでいた。

「アル君、足りない。100本ではとても足りない」

 やはり大袈裟な身振り手振りで話をするショーザさん。

 聞くと大口の取引依頼が来たようだ。


「この店に卸す分とは別に、作れる数を考えておいてくれ。明後日には、もう一度先方が話をしに来る。王都でも有名な商会の人物だ。私は紹介だけするから、商談そのものはアル君がするのだよ。なに、主席の君なら、例え仮免許でも大丈夫さ」

 王都でも有名か。

 確かに、すごそうだ。

 商業学部に入るだけで貰える仮免許しかない俺。

 相手できるのか? とちょっと不安になったけど、よくよく考えたらなんてことはない。

 日本で俺は、あの伏魔殿と言われる霞が関の奴らとやり合ったこともあるのだから。

 言い負かされるばかりだったから威張れないけど。


 その後はショーザさんから商売マナーのようなものを学び終わった。

 ほとんど日本と同じだった。

 名刺交換は無かったけど。


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