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俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第二章 入学
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2.27閑話 森人族の変革

「少しふっくらしてきたわね。マリー」

 まもなく入学式を迎える私の元に、長老の孫娘であるマリーゴールドが尋ねてきた。

「はい、ラスティさん。この服装では分かり辛いですが、胸の方も大きくなってきています」

 自分の胸部を両手で抱えて強調するマリー。

 確かに少し膨らんでいた。

「先に始めた皆も同様に、膨らんできております。個人差はあるようですが。それと合わせて、被験者の内、2名が妊娠いたしました。信じられないような快挙です」

「へぇ~、凄いわね。この豊胸理術もしかすると、妊娠率も上がるのかもしれないわね。継続調査して頂戴」

「はい、既に進めております。それと、噂を聞いた森人族たちが施術を希望しております。如何いたしましょう?」

「そうなの。どうしようかしらね」


 現状、被験者は10名ほど。

 理術の副作用を考えて長老と縁の深い森人族のみで臨床試験をおこなっていたのだけど、妊娠する人が出てきたのなら範囲を広げてもいいかもしれない。

 そもそも、この理術は無理やり体を変化させるのではなく、ただ子宮の活動を活発化させているだけなのだから、副作用なんて考えるだけ無駄かもしれないしね。

 それなら。

「きちんとリスクを説明して、契約書に署名してもらえるのなら構わないわ。」

「分かりました。対応いたします。それと、今月分になります」

 手にする鞄から重そうな袋を取り出し机に置く彼女。

 その袋の中身を確認すると――金貨がずっしりと入っていた。

 軽く見積もっても数百枚ぐらい。


「先月より多いわね。こんなに大丈夫なの」

「はい。契約通り利益の二割です。詳細はこちらの報告書を見ていただきたく――」

 と、差しだしてくる用紙をめくる。

 すると先月の倍近い利用者数が記載されていた。


 被験者は10名ほどなのになぜこれほどの金額がというと、もちろんカラクリがある。

 実は彼女、ただ豊胸理術を施術しているだけではない。

 本業は娼館の店主なのである。

 娼館と聞いて多くの人が眉を顰めるだろうが森人族にとってはむしろ必要な場所であった。

 妊娠するために。


 まず大前提として、森人族は子供が出来る率が物凄く低い。

 長い寿命を持つのに一度も出産を経験しない女性も多数いるほどである。

 その関係で森人族では性教育が盛んだ。

 どうすれば子供が出来るのか懇切丁寧に教えてくれる。

 その上、行為そのものについてもどうすれば相手を喜ばせ飽きずに回数をこなせるのかまで教えている。

 なのに子供は増えない。

 何故か。


 一番の原因は出来にくい体質というものだが、それ以上に森人族の体型が男女でほとんど違いがない事だと言われている。

 おかげで一部の特殊な性癖の人でも捕まえない限り、回数をこなせないのだ。

 故に娼館を開いてという発想になったのだが――これもほとんど失敗だった。


 これまでは。


 何しろ顔は整っているのだけど、体は……なのだから。

 そんな娼館に通う人などいるはずもなく。

 また、たまに迷い込んだ客――被害者――など酷いもので干乾びるのでは? と思うほど搾り取られるのだ。

 無料でも行きたくない罰ゲームのような娼館だった。


 だが。

 豊胸理術で状況は大きく変わった。

 元々顔は万人受けするのだから。

 そこに体型までとなると――当然客も増える。

 客が増えると、搾り取られることもなくなる。

 さらに客が増える。


 ここに好循環が生まれた。


 加えて妊娠する者まで出たとなると――

「マリー、娼婦してでも子供が欲しい人を呼んだほうがいいかもね」

「確かに。森には希望者が多数いると思います。新しい建物を借りる資金もありますし……すぐにお爺様に知らせます」

 慌てて出ていくマリーを私は静かに見送った。


 この時私は思いもよらなかった。

 後の世に世界にあふれる森人族、その人口爆発が、ここから始まることなど。


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