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俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第二章 入学
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2.23商人科の入学式に見たことあるような人が混ざっています

『2.112歳は旅立ちの歳』の話の最後に、文章を書く参考に、と作った周辺地図を載せました。

 あのバタバタとした入学試験から時間は流れ、桜舞い散る春の日に俺たちは入学式を迎えていた。


「アルー、ビルー早くしなさーい」

 玄関先から母さんの声がする。

 しかも少し苛ついている声だ。

 慌てて部屋から出る俺。

 するとビルもちょうど出てくるとこだった。


「母さん、早すぎ」

「全くだ」

 二人愚痴り合いながら走り玄関に辿り着くと既に皆揃っていた。


「アル、ビル、おはよう」

 少し棘のある声で挨拶をしてくる母さん、俺たちの挨拶を聞き流して説教が始まった。

「あなたたち、もう少し時間に余裕をもって動きなさい。明日、父さんと母さんは、うちへ帰るのよ。これからは自分たちで生活していかないと――」

 ヒートアップしていく母さん。

 その母さんを止めたる声がする。

「まぁまぁ、この子達もこれから学んでいくから――」

 父さんだった。

 けど失敗だったようだ。

 なぜなら

「貴方が、甘やかすから――」

 矛先が父さんに向いてしまったから。

 解放された俺たちからすれば助かった。

 だから俺たちは父さんに軽く頭を下げて馬車へと逃げ込んだ。


「遅いわよ」

 馬車に入った俺たちに再び苦言が浴びせられた。

 こんな母さんみたいな苦言を言うのは、もちろんシェールだ。

 眉間にしわが寄っている。

 折角、紺をベースにしたブレザー型の真新しい制服を着こんでいるのだからもっと笑えばかわいいのに、と思うが仕方ない。

 それがシェールだから。

 俺が言っても聞かないから。


「ごめんごめん」

 俺が軽く謝ると、すぐ本に視線を移してしまった。

 シェールにしてみれば母さんの機嫌が悪くなるのが嫌だっただけで、実際はあまり興味なかったのだろう。

 今は、そんな事よりも光理術の本を読むことの方が大事だと言わんばかりだった。


 入学試験の時、四人に教えたそれぞれの事柄。

 すぐに使えたのはサーヤだけだった。

 これは元々回復理術に特化している彼女だからこそ成しえた事なのだと思う。

 他の三人に教えた事は馴れない考え方や理力の使い方をしなければいけないので、そう簡単にはいかない。

 俺だって、かなりの時間をかけて真龍たちに色々言われながらなんとか習得した技術なのだ。

 そう簡単に習得されては俺の立つ瀬がない。


 いかん、辛い辛い思い出が脳裏に浮かんで来て、目頭が熱くなってきた。と目頭を押さえていると馬車が進みだした。


 馬車には俺たち三つ子の他に従者となるユーヤ兄、サーヤ、ラスティ先生も乗り込んでいる。

 御者は定番のダニエラさんだ。

 もう御者に転職した方がいいかもしれない。

 車内では当然のように俺の左右をラスティ先生とサーヤが固めている。

 そんな二人も普段と違い制服を着ている。

 シェールと同じものだ。

 だが、その見た目はとても同じ服とは思えなかった。


 シェールと大きく異なる二人の胸部装甲が大人な雰囲気を醸し出しているためだ。

 しかし、そこには触れていない。

 触れた瞬間、前に座るシェールから氷の槍が飛んでくるのが目に見えているから。


 あ、ちなみに、俺たち男子も制服を着ている。

 同じく紺を基調としたブレザー型の制服だ。

 女子との違いはスカートではなくズボンといったところか。

 野郎の事など誰も気にしないので本当にどうでもいいのだが。


 そうこうしているうちに入学試験の時と同じ学園入り口近くの停車場で馬車は止まった。



 門を過ぎてすぐにあった入学者受付に掲げられた掲示版によると入学式は学園中央の大運動場で行われるらしい。

 つまり屋外でやるって事だ。

 何で屋外って思ったら入学者数の多さが原因のようだった。

 商業学部の定員10倍は、こんなところにも影響を与えているようだった。

 あと、それを聞いて雨だったらどうするのだと思ったけど問題ないそうだった。

 ラスティ先生から「雨の時は、理術で幕でも張ればいいのよ」と聞かされ、流石ファンタジー! と地球との違いに今更ながら感動してしまった。

 

 受付から歩いて数分、たどり着いた大運動場は紅白の幕が晴れやかに飾られ入学式らしさを醸し出していた。

 中には生徒用と保護者用の大量の椅子まで備え付けられている。

 たった数時間の式典に大変だなぁ、と俺が呟いたら、またラスティ先生が教えてくれた。

 なんでも椅子は理術補助具を用いてその場の土から作ったのだそうだ。

 終わった後、椅子を土に戻す理術補助具もあるらしい。

 だから大した手間ではないと。

 理術の活用法に俺はまだまだ見識が足りないようだった。


 話ながらも俺たちは空いている席を見つけ座る。

 理術補助具で作られた椅子、座り心地は少し硬いが入学式の間だけなら必要十分な品質であった。


 そこから始まった入学式、退屈だった。

 何しろ長い話が続くのだ。

 シダー学園長先生に来賓の方々、本当に長かった。

 でも途中出てきた爺様の話だけは笑ってしまった。

 なにしろ、「強くなれ」だけだったから。

 退屈する暇もなかった。


 さらには在校生代表の生徒会長挨拶があり最後に新入生代表の挨拶へとなったところで俺は首をかしげた。

 代表の紹介で、『理術学部主席合格者』として呼ばれていたからだ。

 それならシェールでは? と思ってしまったのは俺だけではなかったようだ。


「シェールちゃんより、すごい人がいたみたいね」

 ラスティ先生が横からこそっと話しかけてくる。

「そうみたいですね。でも、試験の日にはそんな噂聞かなかったですよね」

「ええ、ビル君とシェールちゃんの話で持ち切りだったわ」

「ですよね……」

 二人があれだけのことをしたから噂に上がらなかったのかな? まぁ何にしても優秀な人がいるのだな。

 なんて考えていると壇上に上がるピンクの髪を持つ人物の背中が目に入った。

 12歳にしては少し小柄な体で頭に一本角を生やした少女だった。


 その姿を見たて、なぜだか強い既視感を覚えた俺。

 どこかで会っただろうか? 記憶をたどるが思い出せない。

 ならばもう一度顔を、と思い目をやると――少女とばっちり目が合った。

 固まる俺に笑みを浮かべる少女。


 その笑みを見た瞬間、俺の中で何かがつながった。

 突然に壇上の少女が真龍のサクラであることを理解したのだ。

 何でここに? いやそもそも体のサイズが違うし、あの角は? と色々疑問が浮かぶが考えても分からない。

 分かる事は、そういえばここ数日、訓練に行ったハイヘフンで見かけていないという事だけだった。


 それでも、なぜと考えずにはいられない俺。

 気づけは入学式が終わりを告げていた。


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