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俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第二章 入学
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2.19試験の日がやってきました

 季節は真冬。

 小雪舞い散るクッソ寒い日に俺たちは出掛ける準備をしていた。


「アル、ビル、シェール、忘れ物はない? ちゃんと筆記用具と受験票持った? 寒いからちゃんと防寒の服着てくるのよ?」

 さっきから色々聞いてくるのは、母さんだ。

 受験に向かう俺たちを玄関先に見送りに来たのだが、ものすごく落ち着きがない。

 見ているこちらが心配になるほどだ。


「大丈夫。母さん。みんな持っているし、ちゃんと暖かいから。それじゃ」

「行ってくる」

「行ってきます」

 三人があいさつをして馬車へと乗り込むけど母さんがまだ何か言っている。

「行ってらっしゃい。頑張るのよ。特にアル。学校が珍しいからってふらふらしていちゃだめよ」

「分かっているってば」


 全く、困った母さんだ。

 しかも俺だけ念押しされているし。

 むかーし、一回、理術補助具にテンションが上がって迷子になっただけなのに、それをいつまでもいつまでも。

 もう12歳なのに。まぁ、あの頃も精神年齢は大の大人だからあながち間違いではないけど。なんて自嘲していると、馬車が動き出した。


 馬車の中には俺たち三人の他にラスティ先生とユーヤ兄とサーヤも乗っている。

 なんでも従者としての振る舞いを見るそうだ。

 もっとも、その従者の振る舞いで本人が不合格ってことはないそうだが従者の変更を促されることはあるらしい。

 この三人に限って、そんなことはないだろうけど。


 などと考えながら数十分、俺たちは目的地であるラーク学園へと到着した。



 学園の入り口近くにある停車場で馬車は止まった。

 御者であるダニエラさんがドアを開けてくれ、下車する俺たち。

「行ってらっしゃいませ」

 メイド服の上に黒い外套を被ったダニエラさんが優雅に礼をしてくれる。

「うん、ありがとう。行ってくる」

 俺に続き皆も挨拶をして馬車を離れるとダニエラさんは馬車を動かし出ていった。

 駐車場へ向かったようだった。

 今日の試験は、そんなに長くない。

 帰りまで待っていてくれる予定だから。

 

「さあ、やるぞー!」

 歩きながらビルが声を上げる。

 元気一杯、体調万全のようだ。

「ビル、やりすぎるなよ」

 念のため俺はビルに再度くぎを刺す。

 なにしろビルが受けるのは戦士学部だ。

 試験項目に模擬戦と書かれているのだ。

 ここ最近、受験勉強という名の模擬戦でハロルド兵長をはじめとした兵士たちと散々戦ってきたビル、戦闘狂に磨きがかかっていた。

 しかも、なかなか勝てないハロルド兵長に業を煮やして身体強化全力で向おうとしたことがあり、実は俺、自分の試験よりビルが無茶をしないかの方が心配だったりする。


 その点、シェールは安心だ。

 ホリーメイド長からの謎の教え、「理術師はいつも冷静でなければいけない」により一段とクールな性格になった彼女。

 まず無茶はするまい。と一人得心していると試験会場の案内板へとたどり着いた。


「俺はこっちの運動場だ!」

「私はこっち。理術訓練場?」

「えっと、俺は教室か」

 それぞれ、違う方向を差す三人。

「「「じゃ、後で」」」

 と声をそろえて別れていった。


 俺と、それに付いてくるラスティ先生は指定の教室へと入り受験票と同じ番号の書かれた椅子へと座る。

 そして教室を見回す。

 するとほとんどの席は埋まっていた。

 既に多くの受験者が集まっているようだった。


「ふーん、結構年取った人もいるね」

「そうね。商業学部だけは大人になっても通う人がいるって聞いているわ」

 それはそうだろう。

 なにしろ商業学部を卒業しないと長い時間不利益をこうむるのだから。

 でも、それだけでも無さそうだった。


「今年から定員を10倍にしたでしょ。規制緩和の第一段として」

「ええ、早い動きだったわ。エクスト君」

 そう数か月前に俺が提案した規制緩和。

 既に始めているのだ。

 学校の枠を増やして承認を増やす。

 第一段としては、十分だ。

 脳筋だと思っていた爺様、実は優秀な為政者でもあるのかもしれない。

 でも第二段の一発試験制度には商人組合からの申し入れで慎重になっているらしいから評価をするには早いかもしれない。

 などど上から目線で考えていると腕に試験官と書かれた腕章を付けた人たちが入ってきた。


「よーし、問題用紙を配るぞ。従者の分もあるからな。全員取るように」

 教壇で告げて、配り始める試験官たち。


 そして、数分後、定刻となり、

「この砂時計の砂が落ちるまでだぞ。試験開始」

 と合図が響き試験が始まった。


 合図とともに俺は問題用紙を開けて中を見ていくと――ショーザさんが持ってきた過去問題と大差ない内容だった。

 全く詰まることなく回答を記載していく。

 もちろん計算問題の見直しも忘れずにだ。


 時間を気にせず、ゆっくり正確にを心掛け、最後に再度見直しも終わって教壇の砂時計を見ると、まだ半分の時間も来ていなかった。

 ちらっと隣のラスティ先生に目をやる。

 すると先生は一問だけ設置されたレベルの違う、確率を求める問題に熱中していた。

 全組合せを考えれば答えが導き出せるが時間がかかる、そんな問題だった。


 公式を知っていると楽なのになぁと思う。

 でも高等教育の充実していないこの国では、公式などよほどの好き者でなければ知らないだろう事柄だ。


 頑張ってください。

 俺が心の中でそうつぶやき目線を前に戻した、その時――


『ガキ――――ン』


 と外で大きな音が響いた。


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