2.18猟師が戦闘狂で大丈夫なのでしょうか?
連れていかれた広場では、数名がグループになって訓練を行っていた。
だが巨漢のおっさんを見た人々は静かに広場の隅へと移動する。
そして空いたスペースに俺は放り出された。
「お前の得物は何だ?」
ここにきてようやく俺は一人納得していた。
どうやら、この巨漢のおっさんは爺様と同じ部類の人のようだと。
諦めて腰の刀に手をやる。
「変わった形の剣だな。木剣でいいか?」
木刀は無いようだ。
まぁ、『鍛冶』の真龍ですら知らないと言った武器だ。仕方がない。
「構わない」
言い終わるより早く投げ渡される木剣。
そして巨漢のおっさんが襲い掛かってきた。
巨漢のおっさんが手にする木槌を軽々と振り回す。
恐らく本来の得物は金槌なのだろう。
その木槌をよけながら俺は考える。
この戦い勝ったら勝ったで面倒そうだと。
巨漢のおっさんは奥の部屋から聞こえた話によると組合長のようだし交代だとかなんとか言われそうだ。
爺様と同じで面倒くさい。
考え込む俺に幾度となく木槌を打ち込む巨漢のおっさん。
まぁ木剣で軽くいなしていたのだけど。
気付けば巨漢のおっさんいつの間にか肩で息をしていた。
スタミナが切れて来たようだ。
そりゃ、あの大きな木槌振り回したらそうなるわな。とか思っていたら完全に動きが止まった。
「はぁ、はぁ、はぁ、くそ、ちょこまかと、はぁ、はぁ、はぁ」
木槌を地面に置き、自身もへたり込んで悪態をつく巨漢のおっさん。
その姿を俺は、ただ黙ってみていた。
「くそ、俺の負けだ。実践を離れて久しいとはいえ9段の木槌を避け切るとは、噂通りの強さだな。いいだろう。お前の昇段を認めてやる」
だんだん息が整ってきた巨漢のおっさん、勝手に負けを認めて、勝手に話を進めている。
何故かは知らないけど周りの魔獣駆除組合員たちも巨漢のおっさんの言葉に拍手を送っている。
そんな中、全く話についていけてない俺は一人首をかしげていた。
そこに後ろから声がした。
「あの、組合員証を貸してもらえませんか?」
見ると、さっき人の話を聞かず奥の部屋に駆け込んでいった受付嬢が手を出している。
俺は、これ幸いに受付嬢に尋ねる。
「話が見えないのだが?」
俺の言葉を聞いたはずの受付嬢、コテンと首をかしげる。
茶色い髪と犬耳が揺れる。
あざと可愛いやつだ。
「ええっと、お話ししていませんか?」
「なにも」
おでこに指を付け首を振る受付嬢。
大きくため息までついている。
「全く、組合長は……。えっと、確かお名前はクアルレンさんでしたね。貴方、半月ほど前にルーホール町の組合に大量の魔獣持ち込みましたね」
確かに持ち込んだ。
町を離れるにあたって町の皆に餞別代りにと狩りをしたのだ。
間違いないと俺は首肯する。
「その魔獣の中に幻魔獣と呼ばれる滅多にお目にかかれないものが混じっていたそうです。紅玉鼠と呼ばれる赤い宝石みたいな魔獣ですけど覚えてないですか? それで昇段のテストを受ける権利を得たのですが、それ以来、報酬すら受け取りに訪れないので。困っていたのです」
幻魔獣ね。
町を離れる餞別代りに荷馬車いっぱいの魔獣持ち込んだからあんまり覚えてないけど、確かにそんな鼠狩ったかもしれない。
おかげで大体の理由は分かった。
「そうか。申し訳ない。となると、今のが昇段テストなのか?」
「はい。拠点をこちらに移されるなら、こちらでテストをするのが慣わしですので」
話を終えて、またコテンと首を横にする受付嬢。
どうやら彼女の癖のようだ。
男受けを狙っているのかもしれないけど。
ともかく最初の要求通り組合員証を受付嬢に渡す。
すると彼女は建物の中へと戻って行った。
数分後、俺は奥の部屋、いわゆる組合長室へと連れ込まれていた。
「で、どれぐらい活動するつもりだ?」
俺の前で偉そうに座りながら口を開いたのは巨漢のおっさんことハッサンさん。
言わずと知れた領都ラークレインの魔獣駆除組合長だ。
一応自己紹介も受けた。
受付嬢ことミカンさんが言っていたから知っていたけど。
「週一日程度だ」
学校があるからなぁ、と思って答えたらハッサンさんの眉が上がった。
「なに、そんなに少ないのか?」
「何か問題でも?」
「ふむ、最近魔獣の動きが活発でな。この間も浅いところで牙虎が刈られたと聞いている。他にもちらほらと強い魔獣が出たと報告が上がっているし、腕の立つ組合員には積極的な狩りを推奨しているところだ」
牙虎と聞いてワーグさん達の事を思い出した。
きっとあの街道での事だろう。
「話は分かった。出来る限りはしよう。だが、こちらにも都合があるのでな」
にやりと笑って肯くハッサンさん。
今の返答だけで納得してくれたようだ。
しかし魔獣の動きが活発化しているか。
気になる証言だ。
一度、ホワゴット大森林の奥地を調査した方がよいかもしれない。
いくら転移理術があるとはいえ夜には家に帰らないといけないという制限下では最奥地までたどり着けていないから。
ドラゴンの寝返りが起きないか注意しておかないと。
などと考えているとミカンさんが昇段後の組合員証を持ってきてくれて話は終わった。




