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俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第一章 再出発 
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1.4子供には早すぎると思うのだが

「アルにぃ、みいつけた」


 横から舌ったらずな感じで話しかけてきているのは、俺と同じ日に生まれた三つ子の末妹シェールだった。

 そんなシェールが束ねられた青髪を揺らしながら、すました顔でこちらを見ている。

 俺はシェールに微笑みかけながら尋ねた。


「シェールどうしたんだい?」


 すると俺につられるように、にこりと微笑むシェール。


 その笑顔のおかげで考えに疲れ項垂れていた俺も少しだけ元気になる。

 子供の無邪気な笑顔は、いつも元気をくれると言うやつだ。

 そんなことを思っていると、突然、俺の手を握るシェール。


「アルにぃ、こっちきて」

 要件も言わず引っ張りだした。


「おいおい、そんなに引っ張らないで。行くよ、行くから」

 慌てて椅子から降りる俺。


「うん! いこ!」

 シェールの元気な声を聞きながら書庫を後にした。


 引っ張られて連れてこられたのは、家の裏手にある庭だった。

 実は我が家、そこそこでかい。

 真ん中にある母屋は、瓦葺の平屋で10部屋超えるぐらいの部屋数がある。

 さらに、母屋の横には従者用の建屋や厩なども完備されていて、敷地面積は小学校の校庭ぐらいの敷地面積を誇っている。

 属領とはいえ領主の家だから当然と言えば当然だけど。


 それで、裏庭に連れてこられた俺が何をしているかと言うと、弟妹――シェールと三つ子のもう一人、弟のビルと――プラス2人の従者用建屋に住んでいる幼馴染と手を繋いで円になって、瞑想していた。

 子供が遊びで瞑想? と思うだろう。

 だが実は、これ、遊びではない。

 俺がやっているもう一つの日課、理術の基礎訓練だ。


 この理術の基礎訓練、はじめて見たのは俺の記憶が戻ってすぐの頃に母さんがしている所だった。

 誰もいない部屋の中で手と手を合わせて目を閉じているので、この世界でもヨガみたいなのがあるのかと思ったら、違うかった。


 聞くと理力と言う理術を使うための力を強くする訓練だということだった、子供にはまだ早いとそれ以上教えてくれなかったけど。

 でも地球には存在しなかった理術に興味津々の俺が、そんな言葉で大人しくしているはずもなく。


 後日、こっそりとラスティ先生に尋ねてみたのだ。

 すると。

「簡単だよ。やってみる?」

 とすごく軽い感じで教えてくれた。


 ラスティ先生の説明によると。

 理力と呼ばれる力は、頭の中にある上丹田と胸の辺りにある中丹田とへその辺りにある下丹田で作られているそうだ。

 三つもあるのかと思ったら、その器官ごとに作られる理力の属性が異なるらしい。

 作られるのは、簡単に言うと上から、生命に作用する治療系、物質を操る操作系、自身のみに作用する強化系だそうだ。

 実際には、三つの理力が複雑に絡み合い理術を展開するそうだが、ラスティ先生もこの辺りは詳しくないらしい。

 というか、理術をただ使うだけならあまり必要ない知識だそうだ。

 考え事をするのに脳の内部構造を知る必要がないように。


 そんな丹田強化訓練、本当ならある程度理力の流れが理解できる歳、6歳ぐらいになったら強化する訓練を始めさせるらしい。

 できるなら治療系せめて操作系の丹田が強くなる事を望んでのことだが、大体は強化系が少し伸びる程度で操作系が伸びるのは10人に1人、治療系に至っては100人に1人いるかどうかという数字だそうだ。

 どこの世界も医者になるのは難しいようだった。


 理力について理論的に学んだ後は、実戦だ。

 意気揚々とラスティ先生と手を繋いで円を作って始めた訓練、次の日には1人で出来るようになっていた。

 意外と簡単だった。

 曰く、「流石に、これが出来ない人を聞いた事が無い」との事だ。

 すごいと思った自分が恥ずかしかった。

 一応、「翌日に出来るようになったのは凄いことよ」とフォローもくれたけど。

 

 その一人で出来るようになった訓練、しばらくは空いた時間にやっていた。

 だけど、部屋で一人目を閉じている俺を見たシェールが、

「アルにぃたんどうしたの?」

 と首を傾げていたので、教えてやった。

 そしたらシェールも三日ほどで出来てしまった。


 さらにそのうち、一人より二人、二人より三人のほうがより効率的だと本で読んだ俺は他の子たちも巻き込んで、暇を見ては皆で訓練を繰り返すようになっていた。

 中でも俺の次に覚えたシェールはこの訓練が大好きで、時間があるとすぐ俺を呼びに来るのだ。

 1人での訓練を禁止したということもあるが、それよりも他の人の体の中をぐるぐる動く物があって楽しいのだとか。

 理力の増加に繋がる訓練だから悪いことではないのだけど、限度を知ってほしかった。

 同じ遊びをエンドレスで繰り返すという子供には、難しいことだと思うが。


 五分? いや十分ぐらいだろうか。訓練を続けていた俺たちだったが、隣に座っていた弟のビルが突然立ち上がった事で終了した。


「かけっこしよう」

 一言発して、走り出すビル。

 理力の流れを上手に感じ取れないビルに、ただじっとしているのは詰まらないようだ。


 そんなビルに1人追随する一つの影があった。一つ年上の幼馴染、ユーヤ兄だ。

 彼は領主である父さんの部下の子供で、黒熊の特徴を持つ獣人族の子供だ。

 みるみる間にビルに追いつくユーヤ兄。あっさりとビルを抜いてしまった。

 悔しそうな顔をするビル。だが、それも仕方がない。

 年も一つ上だし、何より体格が違う。

 ユーヤ兄、すでに丘人族――普通の人間――だと10歳を超えてそうな大きさだから。

 成長が早いのも獣人族の特徴だから。

 そんなユーヤ兄が、獣人族のもう一つの特徴である耳を揺らしながら走る。


 その熊耳を見ていた俺は

「ユーヤ兄の耳は、かわいいなぁ」

 思ったことが声に出ていた。

 この声に、おっさんが何を恥ずかしい事を、と思ってしまい、口を押えて周りを見回す。


 すると、大きな白い狐耳をぴくぴくさせている幼女と目が合った。

 ばっちりと聞かれていたらしい。

 さらには、目が合った幼女がてとてととこっちに歩いてきて――抱き着いて来た。

 そして、頻りに頭を突き出している。

 撫でろと言う事らしい。


「うんうん、サーヤの耳もかわいいよ」


 遠くでビルとユーヤ兄がかけっこをしているのを見ながら俺は、サーヤの頭とそこに生えた狐耳を撫でる。

 サーヤは、とても気持ちよさそうに狐らしいふさふさ尻尾を揺らしていた。


 この抱き着いてきている子はサーヤ。ユーヤ兄の妹である。

 俺たちより一つ下の4歳。かわいい妹分だ。

 個人的には親戚の子供みたいな感じで可愛がっている。


 このサーヤ、大きな狐耳から分かるようにとても音に敏感な狐の特徴をもつ獣人族の女の子だ。

 やたらと俺に懐いていて、兄であるユーヤが傍にいる時ですら俺の手を握ったり、今のように抱き着いてきたりする。

 子供のする事だし、おやつを分けてくれたとか単純な理由だと思うのだが、変な男に引っかからないか今から将来が心配になる幼女だ。

 そんな、おっさんみたい――いや中身はおっさんか――な心配をしているうちに、ビルとユーヤが戻ってきた。


「おなかすいた」

「む!」


 発言の前者がビルで、後者がユーヤ兄だ。

 何故かは知らないけどユーヤ兄は、あまり言葉を話さない。

 「む」とか「ん」とかが殆どだ。

 かと言ってこちらの話を理解している事から、話せないわけでは無いようだが。

 それでもユーヤ兄の言いたいことは、これまでの付き合いの結果、あの短い発言だけで分かるようになってしまった。

 だから困っていない。

 実妹のサーヤはもちろん、俺や俺の弟妹達も含めて。


「おやつたべよう」

「ん!」


 短いやり取りで二人は意気投合して、母屋へと駆け出して行った。

 そして残された俺たち三人も、仲良く手を繋いでゆっくり二人の後を追った。


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