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俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第二章 入学
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2.12領都は大都会でした

 今、俺たちは馬車に乗り街並みを進んでいる。

 御者はダニエラさんだ。

 メイドなのに御者も出来るなんてすごいですねって言ったら、「紅龍爵家のメイドなら全員出来るわよ」と帰って来た。

 ついでに言うと普通に馬に乗って戦えるそうだ。

 爺様が直に面接に実技まで見たうえで採用し、さらに雇ってから訓練しているとか。

 メイドって何する仕事だっけと悩んでしまう内容だった。


 それはともかく俺たちは、まず馬車で町の中を一周して見て回ることにした。

 他の子たちは興味ないだろうけど、俺は一般庶民がどんな暮らしをしているのか知りたかったのだ。

 出来るなら家の中まで入りたいぐらいだけど流石にゲームの勇者ではないので今日はやめておいた。

 そのうちダニエラさんとかハロルド兵長とかに頼んでお家探検させてもらおうと考えている。


 そんなことを考えつつ町を見回って一番に気づいた事は道の整備が行き届いている事だった。

 なにしろ全く違うのだ馬車の揺れが。

 さらに、もう一つ気づいた事がある。

 それは道が碁盤の目のように張り巡らされている事だった。

 これはしっかりした計画の上で町が作られているという事を意味していた。


「すごいですね。ラスティ先生。こんなに整った街並みを見られるとは思いませんでした」

「すごいでしょ。他ではなかなか見られない光景よ。これも、あなたの曽爺様が頑張ったおかげなのよ。あの時は――」

 嬉しそうに話すラスティ先生。

 どうやら曽爺様の町作りを手伝っていたようだ。

 ドラゴンの寝返りで焼け野原となった町を一から再建するのを。


 それから50年、領都ラークレインは北の都と呼ばれるほど発展していった。


 そんな昔話を聞きながら馬車は住宅街を進んでいった。

 

 住宅街を抜けた次に出てきたのは、いるだけで腹が減りそうな飲食店街であった。

 『飯』とか『そば』とか書かれた木の板≪看板≫が置いてある店が続いている。

 そんな中、馬車はある高そうなレストランの前で止まった。


「昼食はこちらなどいかがでしょう」

 御者席から伝えてくるダニエラさんに俺たちは戸惑いを隠せなかった。


「こんな高そうな店、入っていいのか?」

「流石にここは無理でしょ」

 店構えを見てビルとシェールが呟いた感想だ。

 その二人の意見に、俺も同意だった――


 いや金がないわけでは無い。

 裏では魔獣駆除員として稼いでいる。

 実力を隠すため大物の魔獣は収納空間に入れたままなのでそこそこだが。

 だから金はある。

 食べようと思えば食べられる。

 でも一食にかける金額としては高すぎる。

 バーグ属領での質素な食事を思うととても払う気になれない。


「お三方、お付きの方々含めあなた方の滞在費は、全てエクスト紅龍爵様がお持ちになられます。支払いの心配は無用でございます。」

 尻込みしている俺たちにダニエラさんがそっと告げてくる。


「なら、いっか、な、シェール行こうぜ」

「え、本気なのビル兄さん、無駄遣いは、母さんに叱られるわよ」

「でも、爺様が払ってくれるのだろ? 一回ぐらいなら母さんも怒らないって」

「そうかな」

「そうだよ」

 一番に陥落したのは楽観的な性格のビルだった。

 続いてシェールまで高級店という誘惑に陥落してしまう。


「アルにぃ、行こうぜ」

「アル兄さん、行きましょう」

 陥落した二人が俺を呼ぶ。

 一応の最終決定権は俺にあるようだ。

 俺は他のメンバーに目を向けると、すました顔のユーヤ兄に、少し物欲しそうなサーヤにが目に映る。

 どちらにしても食べたそうだ。

 ラスティ先生に至っては、「すごく美味しいわよ」って俺の心を揺さぶってくる。

 何度か利用したことがあるようだった。


「仕方ない、行くか」

 結局、俺も食欲には抗えず入店し――腹いっぱい食べてしまいました。


 レストランで食事を終えた俺たちは店を出て飲食街から商店街へ向けて歩いている。


 ちなみに料理は、めちゃめちゃ美味しかった。

 コースで出てきたどの料理もしっかり味付けがされていて日本にいたころを思い出す、いやそれ以上の味だった。

 化学調味料などなくても本当に美味しいものは作れるのだなぁ、と実感した食事だった。

 だが一つだけ心残りがある。

 それは値段が分からなかった事だ。

 ダニエラさんがラスティ先生と相談して勝手に注文したので俺たちはメニューすら見られなかったのだ。


 店を出た後、こっそりラスティ先生に聞いても、「アル君がデートで誘ってくれるなら教えてあげる」とか言って教えてくれないし。

 そんなことを考えているうちに俺たちは商店街へとやってきていた。

 ルーホール町のフリーマーケットなど比較にならないほどの店と人の量を誇る商店街に、先生を除いて興奮するメンバーたち。

 完全な御上りさん状態である。


「ビル、ダメだ。勝手に行ったら。せめて二人で行動しろ」

 入り口ですら、ふらふらっと人の流れについて行きそうなビルを呼び止める。

 ほっとくと迷子になる。

 そんな予感があったので――


「ユーヤ兄、ビルを頼みます。目を離さないで。ついでに、ラスティ先生とシェールとサーヤ買いたい物一緒だろうし三人で――」

「ダメよ。アル君一人も危ないわ。だから、私はアル君と、シェールちゃんとサーヤちゃんとでお買い物しようね」

 早急に指示を出したのだけど言い終える前にダメ出しが来た。

 どさくさに紛れて俺一人で行きたい店を回りまくろうと思っていたのに、ばればれだったようだ。


「それじゃ、貰ったお小遣いは大事に使うように」

「分かったー!」「む!」「了解よ」「はーい」

 俺のと言うより先生の指示に返事をした皆は早々に買い物へと行ってしまった。

 皆を見送った俺が先生の顔を見ると先生もにやけた顔を向けていた。


「あら、余計なこと言ったかしら。迷子経験者のアル君」

「ぐ!」

 痛いとこをついてくる先生。

 確かに俺は6歳の頃に迷子になっている。

 普通の人ならそんな昔の話と言えるのだがラスティ先生には少し前に全部――昔から中身は大人ですと――話してしまっている。

 おかげで、なにも反論できない。


 俺は項垂れながらラスティ先生と二人商店街を進んでいった。

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