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俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第二章 入学
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2.10爺様とラスティ先生が不気味です

 話し合いの結果、俺たちは一応試験を受ける運びとなった。

 当初、爺様は。

「俺といい勝負できるのだぞ。戦士学部なら推薦で入っても良いだろう」

 と言っていた。

 シェールも気づかれないほどの速さで氷理術を発動できる腕なら理術学部推薦入学可能だとも。


 だが俺は、ここでひとつ訂正を入れなければならなかった。

「爺様、すみません。僕は商業学部に入りたいです」

 この言葉を聞いたときの爺様の顔は一生忘れられそうにないほど情けないものだった。

「な、な、なんで、しょしょしょ商人。おおおお俺と、剣を交わせる腕を持ちながら、どどどどどうして」

 顔だけではなく話し方まで情けなくなった爺様、ソファーに崩れ落ちている。

 父さん母さんも苦笑いだ。


「小さい時からの夢なので」

 どうして、と聞かれたから答えたのに爺様からの返事はなかった。

 ただの屍になったのかもしれない。いや、生きているけどね。


 ウィレさんは、「好きな事をするのが一番」だと応援してくれた。

 それでも爺様は未練たらたらだったけど、父さんや母さんにも説得されて渋々ながら了承してくれた。


 別に強い商人がいてもいいと俺は思う。

 爺様がまた情けなくなりそうなので言わないけど。

 その後、何とか持ち直した爺様は俺たちに試験対策用の家庭教師を付けてくれることを約束してくれて話は終わった。

 数か月の事とは言え、あって間もない孫への援助に爺様もウィレさんも本当に孫に会えて喜んでいるというが分かって俺も嬉しかった。


 到着した日は時間も遅いという事で爺様と婆様二人を交え家族水入らずで食事をとり就寝となった。

 もっとも爺様との模擬戦がなければ時間もあったと思うのだが。

 あれは爺様には譲れない確認作業らしかった。

 母さん曰く、「会うたびに、戦っているわ」ということだった。

 ついでに「いつか勝つ」という決意の言葉も付いてきた。

 全然勝てないらしい。


「おはようございます。アル坊ちゃま」

 翌朝、目覚めて体を起こすと同時に声が掛かる。

 見ると俺が泊まった部屋担当メイドのダニエラさんがカーテンを開けるところだった。

 年の頃は20歳前後か、シックなエプロンドレスを着た本物のメイドからの朝の挨拶に俺の目は一瞬で覚めた。


「おはよう、ダニエラさん。朝早いね」

「はい、当然でございます。朝は……」

 俺の挨拶がてらの問いにも真面目にダニエラさんが答えてくれる。

 メイドの朝はとても早くて日の出から起きだしていると。

 朝の掃除に朝食の手伝いなど大変なのだと。

 俺は着替えながら他にも話を聞く。

 なにしろ我が家のなんちゃってメイドとは違い本物のメイドなのだ。

 興味は尽きない。


 いつまでも話を聞きたがる俺に、ダニエラさんちょっと困り顔で口を開いた。

「坊ちゃま、朝食の時間が迫っております。少しお急ぎください」

 そういう事は先に言ってよ。とちょっと批難じみた言葉が頭に浮かぶが、どちらかといえば悪いのは俺だと考え直す。

 長話に付き合わせてしまったし。


「ごめん、話が長かったね」

 と謝り、食堂へと急いだ。

 食堂へ着くと中から、「がははは」と言うワーグさんの笑い声が聞こえてくる。

 他にローネさんの声も。

 どうやら皆も一緒に朝食に呼ばれているようだ。


「おはようございます」

 部屋に入った俺は朝の挨拶をしてからダニエラが指定してくる席に着く。

 何故か爺様の隣だ。

 しかももっと不思議なのは爺様の反対隣りがラスティ先生だという事だ。

 その二人が仲良く話している。

 昔からの知り合いなのだろうか。


「爺様、ラスティ先生、おはようございます。お二人は仲がよろしいのですね」

「あれ、アル君、言ってなかったっけ?」

 ラスティ先生、あいさつの後に言葉を続けながら首をかしげている。

 その仕草を見て俺も首をかしげる。

 何か聞いたっけと思い返しながら。

 だが何も思いつかない、たぶん聞いてない。そう思いだした頃に爺様が教えてくれた。


「ラスティ先生は、儂にとっても先生なのだよ。もう40年も前の話だがな」

「そうそうエクスト君は、ちょっと頭弱いけど、いい生徒だったわ」

「先生、流石に孫の前で、頭弱いとか止めてほしい……」

「あら、ごめんなさい。つい」

 何がついだ。と俺は思ったけど黙っておいた。

 昨日に続いて爺様が情けない顔しているし。


 そんな話の間にメイドさんたちが朝食を運んできてくれる。

 今日のメニューはパンにスープに目玉焼きと洋風な食事だった。

 もっとも、このハボン王国において和風、洋風という分け方は通じない。

 人間が滅びそうになった時に、残った人々が寄せ集まって文化を再構築したからだ。

 おかげで米もパンも一つの文化として扱われてしまっている。

 和洋折衷っといったところか。


 話が逸れたので戻そう。


「ラスティさんはな、今、王都に住んでいる兄さんの家庭教師もしていたのだよ」

 朝食を食べている途中で口をはさんできたのは父さんだ。

 ここでいう『兄さん』は、父さんのお兄さん。

 爺様の長男の事だ。


「ということは親子三代の家庭教師ですか。すごいですね。ラスティ先生は」

「そうだぞ。この人は凄い人だ。儂の父さん、お前の曽爺さんと共にドラゴンと闘った人だ。ホワゴット大森林に住む森人族一強い人だ」

 物凄い前のめりでラスティ先生の凄さを語る爺様。

 顔が近くて怖いです。あと食べ物を飲み込んでから話してほしいです。

 何か飛んで来そうです。


「そんなたいした事ないわよ、私なんて……」

 こっちを見ながら話すラスティ先生。

 『……』に『あなたと比べたら』が入っていますよって顔が物語っている。

「謙遜は不要です先生。森人族長老からの手紙にもありました。すごい理術を使えるようになって。それを広めるためにラークレインに来られたと。そんな方がよろしいのですか? アルの従者になどなって」

 この問いでやっと席順の謎が解けた。

 爺様はラスティ先生の思いを俺の前で再確認したかったのだ。


「ええ、私が望んだことよ。本人にも伝えたけど、たとえアル君が嫌と言ってもついて行くわ」

 確かに俺も聞きました。

 あの夜に。

 俺の思いなど一切聞かずに宣言されました。


「そうですか。アルは、それほどですか」

「そうよ。あなたの孫は、それほどなのよ」

 意味深な言葉を交わす爺様とラスティ先生とっても意味深で不気味です。

「分かりました。アルの事よろしくお願いします」

 爺様が深々と頭を下げて朝食の時間が終わった。

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