1.3世界の状況について考えてみる
現状、俺に地球の記憶があることは誰にも言っていない。
出来る事なら隠しておきたいと思っている。
最悪ばれても問題ないと思うのだけど、自分の子供に別の大人の記憶があるとか気持ち悪いだろうから、せめて成人するまでは。と思って人前では子供らしく振舞っている。
そうやって擬態しつつも、ここ2年、本やラスティ先生からの情報収集でかなりこちらの世界について詳しくなった。
それについて考察を行う。
これが俺の日課だ。
まずこの別世界、名をジアスと言い地球と同じように人間が国や街を作って暮らしている。
国によっては数千年とかなり長い歴史があるそうだ。
だが、文明のレベルは地球とは比べ物にならないくらい遅れている。
比較が難しいが、紙や砂糖が貴重ながらも存在することを考えると平安時代ぐらいだろうか? でも、かなり透明なガラスが存在することを考えるともっと後のような気もして――特定はできない。
「一概には比較できないな。やはり原因は、理術か」
ジアスでは理術と呼ばれる術が一般的に使用されている。
この理術、古い昔地球で信じられた呪術のような曖昧な物ではなく、ファンタジーな魔術、これに近い術のようで実際の物理現象を発生させる術である。
簡単な術であれば、例えば光を照らす、火を点ける、器に水を注ぐぐらいのどれか一つであれば、大半の人が使うことが出来るのだ。
その上、一部の人は、けがや病気の治療を可能としており現代でも高度な技術を要する事を簡単にやってのけたり出来るのだ。
もっとも、このような高度な理術は高い謝礼を要求されるため、一般人には縁のない術のようだが。
「理を読み解き発行する術か。地球とは発展の仕方が異なるわけだ。合わせて、魔獣の問題も無視できない」
この魔獣も、地球と大きく異なる存在だ。動物との違いは魔石と呼ばれる核を持つかどうかである。
この魔獣の存在のおかげで、人類の行動範囲が大幅に狭められている。
幸いにも魔獣はテリトリーが決まっており、よほどのことがないとテリトリー外に出てこないので、脅威に晒されながらも人類は生き延びることが出来ているのだが。
「止めに問題なのが、種族だな。知性を持つ種族が複数存在するなんて地球では考えられないな。しかもその種族間の戦争で人類が滅びかけたなんて笑えない話だ」
地球で種族間の違いと言うと、肌の色がもっとも分かりやすいだろう。
後は民族によって、細目が多いとか、足が短いとか傾向的なものがあげられるぐらいだ。
だがここジアスでは、もっと分かりやすく分けることが出来る。
例えば、数ある種族の中で地球に住む人間に最も近いと考えられるのは丘人族だ。
数も最も多く、俺の新しい体も、この丘人族に該当する。
あと、さっきまでいたラスティ先生は森に好んで住み長寿で耳が長い森人族だが、これはまるでファンタジーに出てくるエルフだ。
他にも山に洞窟を掘って住居を作るのを好む土人族は、これまたファンタジー定番のドワーフ。
獣の特徴を持つ獣人族。
一生の半分を海中で暮らすという海人族。
翼を持ち飛行可能な空人族。
などなど、多種多様な種族が入り乱れて文明を織りなしている。
「はぁ、何だよ、これ。いくら考えても嫌になるな。後は消えるだけとか言われるから思わず安請け合いしたけど、早まったかなぁ。もっといい条件引き出しておくべきだったな。特別にもらったのって、『心願成就』だっけ、カノンさん曰く良く効くおまじないだそうだけど、所詮おまじないだものなぁ。最後に、効かなかったらごめんなさいって言っていたし、今まで何の御利益もない。本当に、問題点の確認だけで終わるかも……」
地球と違いすぎる環境に途方に暮れる俺は、椅子にもたれかかり瞑目しながらつぶやいていた。
だが、しばらくして一人の幼女が俺の横に立っていることに気が付いた。
――
アルが幼女に気づいた、ちょうどその時、高次元のとある場所で空中に表示されたモニターを見ていたひとりの女性と、そこに現れた男性の間で、他愛のない話が行われていた。
「やぁ、調子はどうだい」
「あ、ご苦労様です。世界は、相変わらず不安定です。」
「そうか。簡単には変わらんか。仕方あるまい。それで、例の彼は?」
「壊れていた魂との融合は、無事に成功したみたいです。自我を取り戻して、現地の言語と歴史を学んでいる所ですね。優秀な教師もいるようで、学習速度は速いです」
「それは、重畳、重畳。『心願成就』の効果が表れているのかな」
「は? 『心願成就』ですか? ただのおまじないですよ? 効果などあるはずが?」
「ほっほっほっ! なるほど。なるほど。君は本当におまじないとしてしたという事かな」
「は、はい。それ以外に何があるかと……」
「うむ、そうか。それなら、今の話は、忘れてくれ。うむうむ。そうかそうか、それでは邪魔したな。ほっほっほっ」
「あ、はい。ご苦労様でした」
そして、また一人になった女性。少し首をかしげたが、話の内容など気にも留めず、またモニターに集中していった。