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俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第二章 入学
29/69

2.2故郷を離れ、広い世界に旅立つ時が来ました

 進路を決めてから数か月後、俺は旅立ちの日を迎えていた。

 今は自室で忘れ物が無いかの最終確認をしている。と言っても大してすることは無い。

 必要なものは大体、収納空間に入れてしまっているし、もし忘れても転移理術で帰ってくればいいだけだ。

「はい、OK」

 確認後、俺は独り言ちて部屋を出ていく。

 すると同じタイミングで右隣のドアから、妹シェールが顔を出した。

 妹と言っても三つ子の妹だ。当然12歳だ。

 年相応に身長も伸び、仕草も少し大人びてきたシェールが、一括りにした深い海のような青い髪を揺らしながら部屋から出てくる。

 その両手にいっぱいの本をもって。


「アル兄さん。これも入れといて」

「ああ、いいよ。これで全部?」

「もうないわ」

 本を突き出しながらのお願いに俺は、すぐに収納空間に入れる。

 本のタイトルを確認すると、どの本も真龍達の拠点ハイヘフンの本であった。

 俺の手元から無くなる本、その光景をシェールは僅かに顰めた顔で見ていたが、小さくため息をついてから「お先に」と行ってしまった。


「シェールのやつ、あんなに睨んで、まだ時空理術が理解できてないようだな」

「そんなの絶対無理!」

 シェールの背中を見ながらつぶやいていると、後ろから声がした。

 左隣の部屋から同じく三つ子の弟、ビルが出て来ていた。

 シェール同様、こちらも年相応に身長が伸び、燃えるような赤い髪を短く刈り込んで格好をつけている。

 だが、如何せん『ガキ大将』イメージのビルがぬぐえない。

 そのビルの顔がげんなりしていた。


「時空理術なんて何があっても無理だ」

「そうか」

 再度、同じことを口にするビル。

 よほど時空理術が嫌なのだろう。

 正確にはじっと座って行われる座学全般が嫌いなのだが。

 

 5年ほど前から皆に俺が会得した理術や戦闘術を教えているけど、理術のときによく逃げ出しているビル。

 それでも最低限は努力しているのだろう。

 身体強化理術は上手になったから、最近は放っている。

 代わりに騎士を目指して剣術に力を入れているみたいだ。

 3歳の頃、大きいドラゴンになりたいと言っていたとは思えないほどの成長ぶりである。


 ついでにいうと俺が教えた物事の中で、シェールは理術に力を入れていた。

 こちらも小さいころから理力訓練が好きだった彼女らしい選択で、初めて聞いた時には「そうかそうか」と頭を撫でてしまったほどである。

 すぐに、「父さんと同じことするのやめて」と手を叩かれてしまったけど。

 ユーヤ兄もビル同様、理術は身体強化のみだが、格闘術が好きなようでよく組手をさせられるし、サーヤに至っては、ひたすらに回復理術を学んでいる。

 

 みんな頑張っているなとしみじみとしていると、外から声が掛かった。


「アルー、ビルー、準備は出来ている? そろそろ出発よー」

 母さんからの催促だった。

 声のトーンから少し苛ついているのが分かる。

 瞬時に顔を見合わせた俺とビルは同時に走り出した。

 表に出ると母さんが、「やっと来たわ」とか仁王立ちで呟いている。

 その隣には、眠そうな顔の父さんに、笑顔のゼロス兄さん、他にも使用人の人たちが並んでいた。


 そこに俺たちも並ぼうとしたら、兄さんに、「こっちは見送り列、二人はあっち」と馬車の前を指さされた。

 指さされた方には、シェール、ユーヤ兄、サーヤ、後、ラスティ先生が並んでいる。

 今回旅立つ面々だ。

 そこの列に俺とビルが加わったところで、ゼロス兄さんが一歩前に出て口を開いた。


「アル、ビル、シェール、言いたいことはいっぱいあるけど、一言だけ、体に気を付けて行っておいで」

「はい、行ってきます」「うん、全員倒してくる」「は~い、行ってくる」

 俺、ビル、シェールの順に返る三者三葉の言葉を聞き、苦笑いを浮かべて肯くゼロス兄さんは、さらに続ける。


「ユーヤとサーヤも気を付けてね。僕の弟と妹をよろしくね」

 兄さんの切実な願いに、「ん!」「はい!」と二人から元気な声が返る。


「ラスティ先生、今までありがとうございました。お気をつけて。くれぐれもアルの事をよろしくお願いします」

「うん、任せといて。ゼロス君も元気で領主代理頑張ってね」

 恩師でもあるラスティ先生とにこやかに挨拶する兄さん。


 そして再度、今回進学で旅立つ6人に「行ってらっしゃい」と言って兄さんは、元の位置へと下がった。

 その後は、執事さん、メイドさんなどの使用人さんたちと挨拶を交わして俺たちは馬車に乗り込んだ。

 今回の御者は、ラスティ先生だ。

 他の大人たち――父さん、母さん、ワーグさん、ローネさん――は馬で学校のある領都ラークレインまで付き添ってくれる予定だ。

 結構大人数な旅となるが、これには理由がある。


 一番は父さんの属領領主としての仕事だ。

 ちょうど数年に一度の定期報告の時期で、バーグ属領の属しているオーバディ辺境領の領都ラークレインに住む領主様に会う必要があるのだ。

 俺たちと目的地が同じなら一緒に済まそうという考えだ。

 さらに言うと、父さんにとって領都ラークレインは生まれ育った町であり、自らの両親、俺たち三つ子から見たら祖父母が暮らす故郷でもある。

 そういう意味では、父さんの実家の爺さん婆さんに挨拶をしに行くという事でもある。

 母さんも久々という事であいさつのために同行するそうだ。

 

 次にワーグさん夫婦だが、二人の同行理由は簡単だ。

 一番は護衛だけど、親元を離れる子供たちの見送りも兼ねているのだ。

 夫婦も望んだこととはいえ、二人一度にいなくなるのが寂しいらしい。


 ちなみにこの幼馴染たち進学は進学だけど、正確にはユーヤ兄はビルのサーヤはシェールの従者としての進学となる。

 この話を聞いたとき俺は、なんだそりゃ? って思ったけど、貴族子弟の中には一人で生活できないものも多くいて、その救済措置みたいなものという事で一応納得することにした。

 学校なのだからその辺も教えろよという事には目をつむって。


 それなら自分で生活できそうなビルやシェールに何で従者が必要かというと、これはワーグさん夫妻の家庭の事情によるものだった。

 ワーグさん夫妻、進学を希望する子供二人のために、先立つものが用意できそうになかったそうだ。

 夫妻は悩んだ、出来るだけ子供の希望を叶えてあげたい。

 でも今の父さんの下で頂いている給金ではとても叶えてあげられそうになかった。

 それほどまでに高いそうだ。

 それでも諦めきれなかったワーグさんは、恥を忍んで父さんに相談したそうだ。

 何とか金を用立ててもらえないかと。


 この時、相談された父さんはと言うと、

「二人が進学を希望するなら従者として通わせよう。費用はこちらで持つから」

 と軽く返したらしい。

 学校に従者を連れていけるなど知る由もないワーグさんは、父さんのあまりの軽さに派手にこけたとかこけなかったとか。

 ともかく、ユーヤ兄とサーヤの二人は、従者としてではあるが進学できることとなった。

 

 そして最後のラスティ先生、理由は簡単だった。

「どこまでもアル君について行く」

 ただそれだけだ。

 そのためだけに、俺の従者となるらしい。

「アル君だけ従者なしとかかわいそう」

 とも言っていた。俺としては一向にかまわないのだが。

 それでも、付いてくると言ってくれたラスティ先生の言葉に、安堵を覚えたのは確かだ。

 絶対に、口には出さないけど!

 

 そうこうしているうちに、子供達は馬車に、大人達はそれぞれ馬に乗り、領都ラークレインへ向けて出発した。

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