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俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第一章 再出発 
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1.28心願成就について考えてみた

 珍しくラスティ先生の帰りが遅くなったある日、俺は一人、布団の中で考えていた。

 『心願成就』って効果あったのだろうか? と。


 俺がカノンさんから聞いた話では、心から願えば叶うっていう『おまじない』ということだった。

 そんな俺も生まれ変わって6年、とは言っても記憶があるのは3年。

 その間に、どんな願いがかなったか思い出してみることにした。

 

 まず一番は、新しく貰った体のことだ。

 自らの手を見つめ考えてみる。

 結果、一番に思い出されるのは、この体のこと。

 

 ――すさまじく高性能だということだった。


 この世界の言葉も一度聞けば覚えられる記憶力があるし一を聞いて十を知るような理解力もある。

 脳みそ一つとっても素晴らしかった。

 その上、刀術や体術なども――真龍たちに扱かれながらではあるが――習得出来る運動能力もあり、さらには、あらゆる理術を使える丹田まで備わっている。

 文武両道など生易しい、文武最高? といっていいほどの体だ。

 

 だが、これが『心願成就』の効果かと言われると違うと思われる。

 高確率でカノンさんが言っていた『遺伝的に最高』ってやつだ。

 つまりは、カノンさんの人為的? な策の結果だ。


 次に思うのは、家族や友人たちについてだ。

 はっきり言って家族も友人たちいい人たちばかりだ。

 少々癖はあるけど。


 父さんも母さんもきちんと躾をしてくれている。

 ただ甘やかすでも、ただ厳しくするでも、不干渉という訳でもなく。


 それは兄弟や幼馴染についても言える。

 この親にしてこの子あり、というのは日本の言い回しだけど、まさにその通りだ。

 ビルもシェールも、もちろんゼロス兄さんも、真っ直ぐに能力を伸ばしながら育っている。

 ユーヤ兄やサーヤも同じで、ワーグさんとローネさんがきちんと躾をしているのが良く分かる育ち方をしている。

 どう考えても、いい人たちに囲まれている、と嬉しく思う。

 だけど、これが『心願成就』の効果かと言われると、判断が難しい。

 この家族に生まれたのは、カノンさんの策なのだからその影響のような気もするけど――断定はできない。


 そんな中、ラスティ先生がずっと俺の側にいてくれたことだけは、『心願成就』の効果だと言われれば納得できそうだった。

 俺が幼い子供の姿にもかかわらず、質問に大人の対応をしてくれたラスティ先生。

 本当に感謝している。

 普通の人なら、3歳児が世界情勢とか国家間の緊張具合なんて聞いて来た所で、真面目に語ってくれる訳がないのだから。

 それなのに聞いた事を優しく教えてくれる先生。

 ちょっとスキンシップが多すぎるけど――と思って気が付いた。

 スキンシップも、いや、スキンシップこそが俺の願いではなのか? と。

 優しく綺麗なお姉さんに手鳥足取り教えてもらうのが俺の願いではないのか? と。

 考えれば考えるほど、自信が無くなっていく俺。

 頭を振って次へと思考を切り替えた。


 それは生まれた場所についてだ。

 これについては、はっきり言って外れだと思う。思いっきり田舎だったから。

 大都会とまでは言わなくても、地方都市ぐらいが良かった。

 多分、カノンさんが遺伝子だけで選んだ結果なのだろうけど。

 都会暮らしなら、もっと早くから将来に向けて活動が出来たのにと思う。

 田舎は田舎で、大多数を占める農家の人々の暮らしぶりが分かる、という一面があったのは確かだが。

 自ら体験する必要までは無かったと思う。

 

 そして最後は真龍か。

 あの人たちは向こうから探しに来たし、もろに「天の声の――」と言っていたからカノンさんが依頼した、人為的なものだ。

 出会いに関しては、俺の願いではない。

 でも、あの中にサクラがいたことは、俺の願いだったかもしれない。

 子供の体に大人の思考を持つ同類がいたことだけは……確定ではないけど。


 他にも何かないかとこじ付けしつつ色々考えてみたけど、結局、効果を断定できる事象は思い当たらなかった。

 運よくラスティ先生を助けられたとか、判断に苦しむ事象はあったけど。

 ともかく、ちょっと運が良くなるというぐらいで考えておくのが良いのかもしれない。

 過度に期待しすぎて何も起こらなくても困るから。


 そんな風に考えをまとめていると――俺は後ろから柔らかい物に包まれた。

「ただいま、アル君」

 疑問を抱くまでもなくラスティ先生だった。

 そのまま布団に入ってくるラスティ先生。

 いつもの甘い香りの中に、少しお酒の匂いがした。


 俺は眉根を寄せてラスティ先生を見る。

 すると。

「どうしたの? 寂しかったの?」

 言いながら顔をすりすりしてくるラスティ先生。

 満面の笑みを浮かべていた。

 対する俺はというと、これも俺の願いなのか? と言う疑念が頭を駆け回ってしまい、思わず眉をひそめてしまっていた。


 そんな俺の気持ちなど全く気にすることなく、すりすりを続けるラスティ先生。

 そんな先生に俺は一言、

「おやすみなさい」

 と告げで目を閉じた。

 すると。

「え~、もうちょっということあるでしょ~? ほら思う存分甘えていいのよ?」

 と胸を押し付けてくるラスティ先生から逃れるように体を丸めて。


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