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俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第一章 再出発 
25/69

1.25仮面の魔獣駆除員、再登場

「はすかしい所見せちゃったなぁ」

 私は温泉に半分顔を埋めながらつぶやいていた。

 幾らアル君の顔見て安心したからって、5歳児抱きしめて泣きわめくなんて、今思い出しても顔が赤くなるのを感じる。


「でもあれは、アル君が悪いよね」

 あの助けてもらった時の事を思い出し、思わず私はこぶしを握り締めながら立ち上がる。

 でも、すぐにまた座り込んだ。

 お湯から出るとちょっと寒かったから。

 そしてまた思いだす。


 絶対あれは、アル君だった。あの魂の形、見間違えようがない。と。


 でも、どうなっているの? 

 カレンのお腹から生まれて、すぐに私も見せてもらったわ。

 小さい弟妹たちより、さらに小さく生まれたアル君。

 体が弱くて、すぐ熱を出していたアル君。

 あれからまだ五年しか経っていないのに。


 あの大きな体はなに? 私を優々とお姫様だっこ出来るなんて。

 それにあの強さはなに? 固くて私の風矢が刺さらない海蛇を蹴りだけで殺して回るなんて。

 さらにあの上手な回復理術はなに? 私の折れた骨を一瞬でしかも二か所もつなげるなんてローネでも無理なのに。

 どうなっているの。

 アル君の何十倍も生きている私でもさっぱり分からない。教えてほしい。この大きくなったおっぱいの事も。


 本当に聞きたいこといっぱいだ。

 それを聞こうとしたのにワーグったら、本当にタイミングが悪いから、その上、デリカシーの欠片もないし……。

 でも、ある意味聞かなくて良かったかもしれない。

 もし知ってしまったら、本当にもう膝の上に乗っけたり一緒にお風呂に入ったり出来なくなってしまいそう。

 だから、もう少しこのまま黙っているのも悪くないかも。


 そして出来ればアル君から教えてくれると嬉しいな、と微かに期待しながら私は露天風呂から上がった。


――


 昨日のうちにルーホール町に帰るはずだった俺たちだけど、魔獣の後始末などで時間が遅くなってしまった。

 おかげで、またスタグ町の温泉宿で一泊してからの帰路となっている。

「ねぇ、ゼロス兄さん、あの海蛇って何だったのでしょうね?」

「本当にね。この町が出来て以来の出来事だって皆言っていたし、僕やアルが考えても分からないよきっと」

 馬車に揺られながらゼロス兄さんと小声で話をしている。

 話題はもちろん海蛇達の事だ。

 小声なのは後始末で夜通し働き詰めだったので眠っている父さんに配慮しているためだ。


 昨日からの調査では、大型魔獣のいないと言われるジャバ海に突然現れた海蛇達について殆ど何もわかっていない。

 まだ海に生き残りがいるかもしれないため、昨日は詳しい海の調査も保留となっている状況だから。

 ただ、殺された海蛇を港へと引き上げていた漁師の一人が、ラーウェス大海で見たことがあると口にしていた。

 ただし彼が見たのは体長数十メートルは超えるさらに大きな魔獣らしく、同一とは言い難く信憑性に欠ける証言だった。


 それに、その証言通りであったとしても、どうやって内海であるジャバ海にやって来たのか疑問が残る。

 継続調査の結果を待つほかはなかった。

 そんな中、海蛇について一つだけ確実に言えることがある。

 海蛇は非常に美味い! という事だ。

 戻った温泉旅館の夕食で出たのだが、白身で、かつ脂の乗りも良く、まるでウナギのような味わいだった。

 お願いしたら、お土産にもいくつか貰えた。

 なので、今晩の食卓に上るだろうと楽しみにしながら、俺たちは馬車に揺られていった。



 屋敷へと帰って数日後、俺は首なし人形と龍の仮面をつけて領主の館――自分の家ともいう――の門前に立っていた。

 ワーグさんに会うために。

「すまぬが、ワーグ殿を呼んでもらえぬか」

 門の前に立つ警備の人に話しかける。

 すると、訝しい顔で見返してくる警備員さん。

 まぁ、当然だろう。

 変な仮面の人間が来て警戒しなかったら何のために警備しているのか分からない。


「ワーグ警備隊長の知り合いか? 名を何という? それにその仮面は何だ?」

 矢継ぎ早に質問してくる警備兵さん。

 名をウワッタと言う。もちろん知っている人だ。

 出掛けるときには、手を振って見送ってくれる優しいおじさんだ。

 それだけに何だかやり辛い。

 俺が困っていると、もう一人警備兵さんが詰所から出て来た。


「どうした、ウワッタ。来客か?」

「あ、はい、ワーグ警備隊長を呼べというのですが、見るからに怪しくて……」

 ウワッタさんの発言に、上司であるエミリオさんが俺の方を見る。

 僅かに顔が引きつるのが分かる。

 確実に怪しんでいる顔だった。


 そんな様子に俺は、出直すか、と諦めかけていたところで、エミリオさんの表情が少し変わり口を開いた。

「客人よ、暫く待ってもらいたい。ワーグ警備隊長に伺いを立てて来よう。ウワッタ暫く頼んだぞ」

 離れていくエミリオさん。

 その行動に、ますます怪訝な顔を向けるウワッタさんだったが、何も言わず警備の定位置へと戻って行った。


 数分後、エミリオさんはワーグさんを連れて戻って来た。

「よう、よく来たな。仮面の。あの時は、世話になった。聞けばラスティを助けてくれだそうだな。改めて礼をさせようとしたのだけど、今不在でな」

「その必要は無い。俺は、報酬がもらえるという事だったので来ただけだ」

「そうかい。それなら、これをもって魔獣駆除組合へ行きな」

「これは……」

「魔獣駆除組合の入会申込書だ。入会したら海蛇討伐の報奨金が出るぜ。」

 あれ? てっきりワーグさんがお金をくれるものだと思っていたけど違うらしい。

 俺が内心で、首をひねっているとワーグさんが話をつづけた。


「お前も旅をするなら必然的に魔獣駆除するだろう。金になるし入会しておいて損はないと思ってな。何よりあれだけの腕前だ。遊ばせるにはもったいない。俺とラスティで推薦しておいたから試験も何も、もちろん仮面も外さずに入会できるぜ。がははは」

 笑いながら親指をグッと立てるワーグさんに、俺はちょっと驚いていた。

 なぜ、俺が人前で仮面を外さないと知っているのかと。


 確かに前回、仮面を一切外さなかった。

 でもあれは、戦闘中だったから当然だと思っていたが。分からない。

 分からないから聞いてみた。


「なぜ、俺が仮面を外さないと?」

「うん? ラスティが言っていたからだが? がははは」

 うん、聞くまでもなかった。納得である。

 むしろ聞いて損した気分だ。げんなりしながら、俺は笑うワーグさんに背を向けた。


 背後で、「お、もう行くのか。つれないやつだな」なんて声がしたけど、放っておいた。

 俺には、あまり時間がないのだ。

 ラスティ先生がゼロス兄さんの課外授業から戻って来るまでに終わらせないといけないのだから。


 俺は、大慌てで魔獣駆除組合へと足を運んだ。


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