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俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第一章 再出発 
23/69

1.23やっぱり定番はお姫様抱っこでしょ

 新たなる悲鳴が聞こえたのを機に、私とワーグは悲鳴の下へと駆け出した。

 走りながらちらっと馬車のほうを見ると、心配そうな顔のアル君が目に入る。

 そんなアル君に、必ず帰ってくるからね。と念を飛ばして先を急いだ。


 必ず帰る。これは自分に向けた言葉だ。

 なぜかは分からないけど、今回の戦い何か悪い予感がする。先ほどの海蛇との戦いで感じたことだった。

 確かにワーグは強靭な戦士だ。あの黒斧が体に食い込めば大体の魔獣は倒せるぐらいの。

 でも今回は海の魔獣だ。敵は海の中にいる。

 射程の狭い斧では相性が悪すぎる。

 不安要素の一つだと思う。


 私も私で不安要素がある。

 剣も弓の理術も使えて近距離から遠距離まで攻撃できるが、どれも中途半端ということだった。

 あの海蛇の胴体に当てたところでダメージは与えられない。

 先の戦いで嫌というほど感じたことだ。

 精々、皮が削れる程度だったのだから。

 だからこそカレンに頼りたくなるワーグの気持ちもわかる。

 彼女が居れば、強力な火の理術で魔獣を焼き殺してくれるだろう。

 だが、無い物ねだりをしても仕方がない。


 考え込んでいても仕方がない。出来る事をする。それだけだ。

 そう思い直し、私は走る速度を上げた。


 村でも海蛇と対峙し続けた私たち、中でも特に中洲へと渡る橋へ来た時に、あまりにも凄惨な状況に顔を見合わせた。

 渡ろうとすると海蛇が現れるのだろう。どこもかしこも血まみれだった。


 そしてその血の量は中州の奥の方も同じだった。

 さらには海蛇の首が届かないであろう位置でも血の跡がある。

 意味が分からない光景に首を傾げていた私。

 だけど、その理由はすぐに分かった。


 何と中州の中心から海蛇の首が現れたのだ。


「なんだと! 完全に陸に上がってやがるだと!」

 ワーグが叫ぶ。

 私も目を疑ったが見間違いではなかった。

 中州のど真ん中に陣取る魔獣が目に入った。

 個体差なのか、敵がいないと油断しているのかは分からない。

 だが時を追うごとに中州から人々が消えていくことだけは確かだった。


「くそ! 助けに行くぞ‼!」

 ワーグが叫んで橋へと駆け出す。

 するとそこに、待っていたと言わんばかりに複数の海蛇たちが鎌首をもたげたのだった。

「ワーグ走りぬけて」

 ワーグが走り出すことを事前に察知していた私は、声を張り上げつつ海蛇の顔めがけ風の矢を放つ。放つ。放つ。

 更に場所を移動しつつ放つ。


 威力が足りないなら数で勝負とばかりに放った矢は、それなりに効果を発揮したようだった。

 意識を逸らしワーグを中州の奥へと向かわせることが出来たのだから。

「よし!」っと思ったのも束の間、私は自分の失敗に気が付いた。


 ――橋の中ほどまで出て来てしまっていたのだ。


 慌てて走り出そうとする私。

 だが、海蛇たちは簡単には逃がしてくれるはずもなく――

 後ろから強い衝撃を受けて橋から放り出されていた。


 朦朧とした意識の中、宙を浮く体の体制を整えようとするが、体がうまく動かせない。

 目だけを動かすと、落下地点辺りに海蛇が口を開いているのが見えた。


 避けられない‼ 私はそう思い目を閉じた――


 ――が、いつまでたっても衝撃はやってこなかった。


――


 村の道は逃げ惑う人々でいっぱいだった。

 仕方なく建物の上に登り、屋根から屋根に飛び移りながら進んでいく。

 すると海沿いの方に、多数の海蛇達が鎌首をもたげているのが見えた。

「あっちか。急いだほうがよさそうだ」

 俺は、速度を上げながら屋根から屋根へと飛び移っていく。

 途中、川から首を出した海蛇が見えたので手にする刀を抜き切りつけると一刀のもとに両断出来た。


「あら、意外ともろい。ワーグさんが苦戦していたのでちょっと不安だったけど、問題なさそうだ」

 つぶやいてからも、出てくる蛇の首を飛ばしながら進んでいくと、ある声が聞こえた。

「ワーグ走りぬけて」

 ラスティ先生の祈るような叫び声だった。

 何か不味い事が起こっている。

 そう確信した俺は、全力で声の方へと駆けていく。


 するとそこに、海蛇にぶち当たられ宙に浮かぶラスティ先生の姿が目に入った。

「ラスティ先生‼」

 俺はさらに加速しつつ、口を開けている海蛇を蹴散らして先生の落下地点に回り込み――


 両手でキャッチした。

 間一髪セーフであった。


 目を閉じて震えるラスティ先生。

 よく見ると右腕と左足が変な方向に曲がっている。骨折しているようだ。

 慌てて回復理術を掛けるとみるみる骨折が治っていく。

 他にも怪我がと思い、理力を流して診断してみる。

 大丈夫だった。


 理力を止めて、ようやく安堵のため息が出る。が、そこにまた別の海蛇が襲ってくる。

 目に付く人たちを食べつくしたのか逃げられたのかは分からないけど、付近の海蛇がどんどん集まってきているようだ。

 余りの密度の高さの為か、中には共食いしている奴もいる。


「全く、しつこいよ」

 俺は集まってくる海蛇を、声を荒げながら蹴散していく。

 ラスティ先生を傷つけられたことが俺の想像以上に怒りを増幅されているようだった。

 さらに近づいてくる海蛇の相手をしていると、ようやくラスティ先生が目を開けた。


「ラぁ……大丈夫か」

 思わず名前を呼びそうになったけど、かろうじて回避する俺。

「あr……」

 その問いに何か答えようとしたラスティ先生、言葉が出てこないようだ。

 きっと俺がラスティ先生をお姫様抱っこしたまま海蛇を蹴りまわっているからだろう。

 急降下からの横移動、はたまた急上昇などなどトリッキーな動きが続いているのだから。


「すまんが、まだ魔獣に囲まれている。しばらく静かにしていてくれ」

 残すところ数匹となった海蛇を前にした俺の言葉に、ラスティ先生も静かに首肯して答えてくれる。

「助かる」

 俺は、さらに一言伝えて、残りを蹴り殺した。


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