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俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第一章 再出発 
20/69

1.20温泉入っても疲れが取れそうにありません

 仕事を始めた父さんと兄さんを置いて、俺は大浴場に来ていた。

 風呂に浸かるのは、久しぶりだ。

 決して地球での死因が風呂で溺死だからではない。

 本当は屋敷にも風呂はあるのだけど、お湯をためるのはお客さんが来た時ぐらいだからだ。

 来客以外では節約家の母さんが中々許可を出してくれないのだ。

 だから普段は、風呂場でかけ湯だけして体を温めたり、忙しい時などは浄化理術だけで体を綺麗にしていた。

 だから、久々の風呂、しかも温泉、露天大浴場とくれば最高の気分でくつろげる筈だった。


 けど、俺は小さくなって湯船につかっていた。


 原因は、隣にいるラスティ先生だ。

「良いお湯ねぇ、アル君」

 湯船につかりながら両手を上に上げて伸びの姿勢をするラスティ先生。

 上半身が丸見えだった。

 体をのけぞる様にして更に強調される胸から俺は目を逸らした。

 

 そう俺は、部屋を出たところで別部屋に行ったはずのラスティ先生につかまり、女風呂へと連れ込まれたのだった。

 さらには何が嬉しいのか、胸を俺の視界に入れようとしてくるラスティ先生。

 ただでさえ居心地が悪いのに止めてほしい。

「ラスティ先生、ぼくやっぱり男湯に入ってきます」

「ダメよ。昼間あんなに乗り物酔いしていたのに一人でお風呂なんて入れられないわ」

「それなら、ワーグさんと」

「それもダメよ。ワーグは、お風呂あんまり好きじゃないみたいで、すぐ出ちゃうのだから。もう、部屋に戻っていると思うわ」


 さっきから、手を変え品を変え男湯に行こうとするのだけど駄目だった。

 何を言っても論破されてしまう。

 見た目子供でも中身はいい年したおっさんなんだから女湯なんて恥ずかしすぎる。

 しかも、だんだん近づいて来て、終いには膝の上に座らされてしまった。

 いつもの服の上とは違うラスティ先生の素肌。つるつるだ。

 さらに、「ちゃんと肩まで浸かる事」などと言いながら抱きしめてくる。

 ラスティ先生の体温と羞恥心で頭に血が上りのぼせてきた俺は大慌てで風呂場から逃げ出した。


 部屋に戻ると、兄さんが風呂から上がって寛いでいた。

 どうやら、早々に仕事を片付けて部屋風呂に入ったようだった。

 父さんは先に宴会場へと向かったようだ。

「そうですか。部屋に風呂があったのですね」

「うん? ああ、小さいけどね。アルは大浴場に行ってきたのでしょ。気持ち良かった?」

「……はは、気持ち良かったです」

 確かに気持ち良かった。何がとは言えないけど。


 ゼロス兄さんと宴会場に向かう途中で交わした会話だ。

 俺の返事が遅かったことに少し首を傾げた兄さんだったけど、会場が見えてきて話は終わった。

 会場に入ると、沢山のテーブルが用意されていた立食パーティーのようだ。キョロキョロしていると声が掛かった。

「ゼロス、アルこっちだ」

 呼ばれた方を見ると父さんが、ワーグさんと共に立っていたのでそちらに向かう。


「今日は、ゼロスが来ているからか夕食会の参加人数が多い様だ。マナーにうるさい人もいないと思うが、気を付けてくれ。特に、アル」

「はーい」

 呼ばれていきなり名指しの注意にちょっとびっくりした俺だったけど、大人しく食べてれば良いと勝手に解釈して軽く返事をしておいた。

 その返事を聞いた父さんが軽く頭を振っていたり、隣のワーグさんが苦笑していりしたけど気にしないことにした。


 その間にも、料理が色々運ばれてくる。

 刺身こそないが、煮魚、焼き魚、蒸した貝にエビのパイ包みみたいなものまである。

 流石、海沿いの町だけあり魚介類が豊富だ。思わず、涎が出そうになる。


 そして昼間話した町長さんやほかの来客達もやって来て、少ししてから宴会が始まった。


 宴会が始まって早々、俺は魚料理を取りまくっていた。

 それでも父さんが乾杯の発声をしたり、町長さんがあいさつをしたりするまでは我慢したのだ。

 ぐうぐう鳴るお腹で頑張ったと思う。褒めてほしい。

 そして皿いっぱいになったら、確保していた席に戻りひたすら食べる。

 そんなことを繰り返していた。


 料理は、どれも上品な味付けで作られていた。やはりと言うか、この世界特有と言うか、調味料少な目で薄味だったけど。

 でも、普段の食事に比べると雲泥の差だ。

「あるにはあるんだよなぁ。高いだろうけど」

 魚介類しかり海藻類しかり、あと、砂糖もそうだ。ひょっとすると醤油もかもしれない。

 あるにはある。だが、殆ど流通していない。だから高い。高いから売れない。

 嗜好品にはよくある話だ。


「とりあえず新鮮な魚介類の為に、父さんに道の補修をお願いしてみるか」

 根本的な解決策を考えたけど、現状出来る事は少ない。

 もっとも単純な事を独り言ちていたところで声が掛かった。


「あら、アル君。お魚そんなに好きだった?」

 見ると黒いカクテルドレスを着たラスティ先生だった。

 長い金髪を束ね大きく開いた胸元に垂らしているラスティ先生がこっちを見ている。

 しかも少し化粧をしているようだ。唇が何だか艶めかしい。


 その普段とは異なる姿に俺は、驚き固まった。

「……ラスティ先生ですか?」

「ふふ、そうよ。驚いた? アル君と食事会って言うからちょっとおしゃれしてみたの。どう?」

 何とか声を絞り出した俺に妖艶な笑みを浮かべるラスティ先生。


 どうって聞かれてもすごいとしか言えない。

 いつもは綺麗なお姉さんの雰囲気なのに、今はお姫様の雰囲気だから。

 そんなこと考えて余計に固まってしまう俺。ますます声が出ない。


「…………とっても、綺麗です」

「うん、ありがと」

 ポツリとつぶやくように出た俺の言葉にラスティ先生、満面の笑みで答えてくれた。

 その笑みに俺はますます固まってしまい、そんな俺をラスティ先生はニコニコ笑みを浮かべながら眺めていた。

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