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俺が黒の商人と呼ばれるまで  作者: 茄子大根
第一章 再出発 
12/69

1.12森人族には俺には理解できない習性があるようです

 魔石の露店を離れてからも、俺たちはあてもなく露店を見て回った。

 途中、干し果実の店があったので、コケモモを買って食べながら。

 一掴み五百ブロ、日本円にすると大体五百円だ。キリが良くて分かりやすい。

 因みに、通貨は硬貨のみだ。紙が貴重だから当然だろう。一ブロ=鉄貨一枚で、十ブロ=銅貨一枚、百ブロ=大銅貨一枚、千ブロ=銀貨一枚、万ブロ=金貨一枚だ。他にも十万ブロ=大金貨、千万ブロ=白金貨があるらしいが、こんな田舎では見たことない。


 話を戻そう。


 コケモモを食べ終えた俺たちが次に立ち寄ったのは、商業区域の隅っこでひっそりと佇む店だった。

 その店、あまりにひっそりとしすぎたのか客が一人もいない。

 それどころか、商品が3つしか置いていない。そんな店だった。


 そんな店の奥で長いローブを纏い、頭にフードを深くかぶった露店の店主を見ていたラスティ先生が、突然店主に話しかけた。

「クリサンセじゃない。久しぶり」

 見るからに面倒そうに顔を上げる店主だが、見知った顔だったのだろう口を開いた。

「うん? ああ、ラスティか? 久しぶりだな」

「ええ、いつ森から出てきたの?」

「数か月ほど前だ。路銀が欲しくてな、こうやって物を売っている」

 話をしながら片手でフードを外すクリサンセさん。見えてきたのは、銀髪のイケメン森人族の顔だった。


「お知合いですか」

「ええ、同郷よ。昔から、手先が器用だったから、理術補助具を作っているようね」

「へぇー、優秀な方なのですね」

 たった3つしかない商品だが、理術補助具となると話は変わってくる。

 実は、誰にでも使える理術補助具だが、いざ制作となると難易度が高い。

 物によって特殊な材料が必要で、かつ、付与術という専用の技術を要するものだからだ。

 そのため、総じて生産量が少なく、値段が高止まりしている品物でもあった。


 そんな理術補助具で売っているとなると、俄然興味がわいてくる。

 そこで俺は、3つのうちの真ん中、金属の棒のような補助具を指さして尋ねた。

「えっと、この補助具は、いくらですか?」

「うん、買ってくれるのかい? ここの理術補助具、価格は全て十万ブロだ。効果は、右から、水が出る、火が出る、風が出る、だ」

 俺が購入意欲を示したからだろう。クリサンセさんがニヒルな笑顔で答えてくれる。

「おお、十万ブロですか……」

 想像以上に高かった。

 町に出るにあたり、小遣いを少し貰ってはいるが流石に手が出ない。

 というか、露店でこんなもの買う人いるのだろうかと言う金額だ。

 俺の表情も曇ってしまう。


 その表情で悟ったのだろう。

 クリサンセさんも、またフードをかぶってしまった。

「仕方がないわね。クリサンセ、3つとも買ってあげるわ、アル君に感謝しなさい」

 言いながら財布を出してくるラスティ先生に、クリサンセさん、またフードを外してニヒルな笑顔で手を出していた。

 俺の目の前で見たこともない大きな金貨が手渡されていく。

「……ちょ、ちょっと待ってください」

 その受け渡しが終わるころ、ようやく俺は声を出すことが出来ていた。


「なあに、アル君」

「いえ、その、ラスティ先生、僕のために買うのであれば、止めてほしいです。そんな高価な物頂けませんよ」

「あら、そうなの。それなら、これは私が使うわ。だったら問題ないでしょ? そして、たまにアル君に貸してあげる。どうかしら」

 微笑みを浮かべて答えてくれるラスティ先生。

 そう言われてしまうと、俺には言葉がない。

 答えに窮していると、ラスティ先生が耳に顔を寄せてこそっとつぶやいた。

「それにね、これは、旅に出る彼女への選別でもあるの」

 ふーんなるほど、と思いながらも一つの言葉が気になった。

「ふぇ、彼女?」

 変な声を出す俺を、クリサンセさんが不思議そうな顔で見ていた。

 


 クリサンセさんと別れて、元来た道を戻っていく。

 母さん達と合流して昼食を取るためだ。

 合流の時間には少し早いけど、サーヤの足の速さを考えるとちょうどいいぐらいかもしれない。

 などと考えていると、すぐ先の露店で買い物をするローネさんとユーヤ兄を見かけた。

「おーい、ユーヤ兄」

 手を振りながら近づくと、ユーヤ兄も気づいてくれた。

「ん!」

 荷物いっぱいの手を振り返してくれている。

 そこに、ローネさんも店から出てきた。

「ちょうどよかった。サーヤ、服を買いたいからこっちいらっしゃい」

 連行されていくサーヤ。

 いつもと異なり嫌がらず、素直に俺の元から離れていった。

 滅多にない服を買う機会が嬉しいらしく、笑顔で母親に連れられて行った。例え、その店が古着屋であったとしても。

「ユーヤ兄も一緒に行く?」

 残された俺たちだは早々に歩き出した。

 ユーヤ兄も、「ん!」の一言で同行する事を決めた。

 サーヤの服選びが、長時間にわたる事が確実だからだろう。

 さらに歩くこと数分。

 俺たちは、一番乗りで合流地点へと到着したのだが……。


「遅いね」

「む!」

 母さんもローネさんも中々やってこなかった。

 なので、退屈しのぎの話題を探す。


「ラスティ先生。森人族は、旅をするのが普通なのですか?」

「全員ではないけどね。多くの森人族が、成人後に旅に出る。ずっと森にいると好奇心を持て余してしまうから。だから、森の外に出ていろいろ経験する。そして、最後にまた森に戻って暮らすの。他の種族より長い時間生きる森人族ならではの生き方よ」

「ラスティ先生も、旅に出た口ですか?」

「ん? そうよ。今も森の外で暮らしているでしょ」

 言われてみればそうだ。何だか生まれた時からいるせいか、ラスティ先生の家はあの屋敷みたいに思っていた。

 そして先のことを思い寂しさを感じてしまった。


「それなら、いつか森に帰るのですか」

「あら、アル君。ひょっとして寂しくなってきた? 大丈夫よ。アル君を置いて帰ったりしないから。むしろアル君が行くところには、ずっとついて行くから」

 ちょっと意地悪な笑顔を浮かべて、俺の頬を突いてくるラスティ先生。

 その顔を見て俺は、自分の顔が熱くなるのを感じていた。


「あら、アル、顔が真っ赤ね。お熱かしら」

 その場に流れる甘酸っぱい雰囲気を一気に吹き飛ばしたのは、母さんだった。

 おもむろに俺の額に手を当てる母さん。

 おかげで一気に熱が冷めました。

 ラスティ先生もくすくす笑っているし。

「うん、大丈夫みたいね。それじゃ、お昼に行きましょう。ローネに席取って貰っているから」

 それだけ言って俺の手を取り、ずんずん進んでいく母さん。

 ある意味助かったけど、何だか残念なような気分だった。


 その後、皆で昼を食べ屋敷へと帰った。もちろんラスティ先生も一緒に。

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