表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

2話 図書室の眠り姫

 その後いつもより遅めの夕食を食べた後浴槽に浸かり、その後は自室のベッドに倒れ込む。

天井を見上げ、あの女の子の事を思い出す。

 どうしてあの子は月を見ていたんだろう?

 月を見て何を考えていたんだろう?

 この日は彼女の表情が頭から離れずに、結局眠る事は出来なかった。


 翌日、いつもと変わらない時間に授業が終わる。

「星野君。今日はバイトある?」

 黒崎さんが訪ねる。

「今日は委員会なんだ」

「そっか、図書委員なんだっけ?」

「うん、本なんて全然読まないんだけどね」


 僕は笑う。僕の仕事は放課後の二時間、図書室のカウンターで本を貸出する仕事だ。

 なぜ図書委員になったかとと言うと本が好きだからなどではなく、たまたまくじ引きで決まっただけだった。

「うーん、一緒に帰ろうと思ったのになぁ、残念」

 本当に残念そうに黒崎さんは言った。

 

 僕はごめんと言うと、は彼女は笑っていいよと言ってアルバイトに向かった。その後、 図書室に向かった僕は、鍵を開け、カウンターの椅子に座る。 それから5分経ったが誰も来ない。


 実は言うと、放課後の図書委員の仕事は楽だ。

 理由はほとんど人が来ないからだ。放課後から二時間図書室は開放されているが、本を借りに来る生徒はほとんど昼に訪れる事が多く、借りに来たとしてもすぐに帰ってしまう。

勉強するにしてもこの近くに図書館があるため、この部屋の意味はほとんどない。


 だけど一応僕の仕事なので、いつも昔の漫画を読みながらぼうっと過ごす。

 二時間もここで過ごすのは退屈だなぁと思っていると、ギィと図書室のドアが開く音がした。

 珍しいなと思い、ドアの方を見ると「えっ……」

 思わず声が出てしまった。


現れたのは昨日公園で月を見ていた女の子だった。

うちの学校の生徒だったのか。だけどこんなに綺麗なら子なら、亮太が黙っていないはずだ。亮太は可愛い子がいると、必ず声を掛けている。

「声を掛けないのは、逆にその子に失礼だぜ」 と僕には全く分からない事を言っていた。


彼女は僕に気にも止めずに椅子に座った。 昨日は暗くて僕の顔は見えなかったのか、

それとも声を掛ける必要は無いと感じたのか理由は分からない。

彼女は鞄からノートを取り出し、何かを一心に書き始めた。最初は勉強をしているのかと思ったが、見た所、教科書や参考書の姿は無い。


 窓から差し込む光に照らされた彼女は、なんだか幻想的で、僕の視線は自然と彼女を見てしまう。

 何を書いているんだろう……?

 しばらく僕は、彼女に気づかれないように眺めていたけれど、結局分からず終いなので、いつものように漫画を読みふける事にした。


それからしばらくして時計を見ると、針は1時間と50分進んでいた。そろそろ閉館の時間だ。図書館の鍵を掛けなくては。

 そう思い、彼女の方を向くと、彼女はまだ図書室に残っていて机に突っ伏していた。


――声を掛けないと。

 なんだかとても緊張するけど、これも仕事だ。僕は彼女に近づき、声を掛けた。


「す、すみません。 閉館の時間ですよ」

しかし彼女の返事は無く、代わりにスゥ、スゥと小さく息を吐く音が聞こえた。顔を見ると、彼女は目蓋を閉じて眠り混んでいた。

寝顔も綺麗で、起きている時はどこか凜々しくて大人びている印象だったのに、今は完全に無垢な女の子の顔だった。


彼女の寝顔を見ていると、胸の鼓動が早くなる。なんだか見てはいけない気がして視線をずらすと、彼女が書いていた水色のノートが目に入った。


 ――そのとき心臓の音が鳴るのが分かった。

もう一度ゆっくりと彼女を見ると、全く起きる気配が無い。僕の心は勝手に見ちゃダメだ! と叫んでいる。しかし僕の手はその叫びを無視するように、ノートを取る。

 僕は知りたかった。


 あの時月を見ていた彼女は、どんな気持ちだったのだろう? 

 その理由が分かるかも知れない。ゆっくりとページをめくる。

 次の瞬間、僕は海に落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ