14話 光の指す先は
航空に着き、急いで沖縄行きの切符を買い、
30分後に来た飛行機に乗り込む。他の乗客が寝静まる中、僕は指を組み、祈り続けていた。
祈ったというより、訴えたのだ。存在するかもどうか分からない存在に。
神様。あなたは酷い人だ。夜月先輩は十分に不幸を背負いました。誰にも理解をされず、いつも孤独で、命は病で今も少しづつ削られていく。そして今は自らその命を絶とうとしている。
そんなの悲しすぎる。残酷すぎる。あなたに良心が少しでもあるのならば、少しだけ彼女に時間をください。僕に彼女の不幸を移し変えたっていい。薄暗い機内の中で、ずっとそんな事を考えていた。
僕は無宗教だ。だけど今だけは、奇跡を頼るしか無かった。
飛行機が沖縄の石垣島にのに到着する頃には、夜の10時を回った。
僕は飛行機を飛び降り、空港の受付の女性に竹富島の行き方を聞いた。
ここまでは順調だった。まだ間に合うかもしれない、そう思った時。
「すみません、今日の竹富島行きの出航便は終了しました」
受付の女性は申し訳なさそうに苦笑する。
「そんな、今日はもう、竹富島に行けないんですか?」
冗談じゃ無い、ここまで来たのに。僕は必死に食い下がる。
「お願いです、人の命が掛かってるんです!。お金だったら2倍でも3倍でも、所持金全部だって払います。だからーー」
「申し訳ありません、私どもでは、お力になれません」
「そんな……」
あと少しなのに。僕はぎゅっと目をつぶりうなだれる。悔しさで身体が震えた。
「……ねぇ、本当に人の命が危ないの?」
僕は顔を上げた。女性の瞳は、優しかった。
「はい、本当に大切な人なんです。これから入水自殺をしてしまうかも知れないんです」
「本当なのね?」
僕は強く頷く。女性は少し考え、携帯電話を取りだした。誰に何を話しているのか分からなかったけど、沖縄の方言が聞こえた。
「私は力になれないけど、私のおじいちゃんがこの島の漁師で、船を出してくれるらしいわ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
僕は深く頭を下げる。女性は微笑んだ。
「いいのよ、それに大切な人って、多分、女の子だよね? こんなに必死で追いかけてきてくれる人がいるなんて、その子は自殺するなんてもったいないくらい幸せね」
僕は女性にお礼を言い、教えられた港に向かい走った。港には、一人の老人が待っていた。老人と言っても、短く切りそろえた白髪。日に焼けた肌、筋肉質な太い腕。僕の祖父よりも、ずっと若々しかった。
「孫娘から聞いてるよ。最近の若い者にしちゃ、なかなか男気のある奴じゃねえか。よっしゃ、乗ってけ!」
「ありがとうございます! これ、少ないですけど」
慌てて財布を取り出す僕を、漁師の老人は豪快に笑い、手を横に振った。
「そんなもん貰ったら、孫娘に怒られちまうよ。飛ばすからな。吐くなよ」
こうして漁船は僕を乗せ、暗闇の海を突き進む。ライトの光は一本の線となり闇を切り裂いていく。
その光は僕の手だと思った。
あの海と夜の世界に沈んでいく、彼女に手を伸ばすように。




