12話 無力
「どうして……」
自室の中、僕は呟いた。手紙を持つ手が震える。
「どうして、お互いの気持ちが同じなのに……」
目から涙が伝う。悲しい。悲しさが胸で裂けそうだ。
愛澤夜月の隣には、僕はいなかったのだ。
僕は彼女の事を理解していた気でいた。彼女と同じ海をにいると思った。
だけどそれは間違いで、僕は傲慢だった。
彼女は僕よりずっと遠い深海で泳いでいたのだ。
「書ける訳ないじゃないですか、僕が今まで書いていたのは、夜月先輩の為だったんですよ……」
そうだ。僕はもう、何者かになる事なんてどうでも良くなっていた。
小説家にだって、なれなくても構わない。
彼女の嬉しそうな声を聞きたい、笑顔が見たい。
それだけの為に今まで小説を書いてきたのだ。
僕にとって小説はすでに、彼女と泳ぐ為の尾ひれと化していたのだ。
夜月先輩は沖縄にいる。それなら、追いかけなければ。
そう思ったが、まるで足の骨が溶けた様に力が入らなくなり、部屋の隅で壁を背に座り込む。
愛澤美月は死ぬ。
それはどう足掻いても変えられない。
違いは自殺か病死かという事だけだ。そして自らの死を望む彼女に僕は何が出来る?
彼女の最後の望みを壊してまで、僕は止めるべきなのか。
1つだけ確かな事は、僕はどうやったって彼女を救う事は出来ない事だ。
両手で顔を覆う。
彼女が魔女で、僕が弟子だというなら、魔法が使えたらいいのに。
そしたらすぐにでも彼女の心臓を治して見せるのに。
僕は、あまりにも無力だった。
この日は一睡も出来ずに朝を迎えた。朝のニュースでは、彼女が行方不明だと言うことが伝えられた。
警察は捜索しているものの、まだ手がかりすら掴めていないらしい。
僕はテレビを見ながら掛け布団を被り、うずくまっていた
リモコンを使いテレビを消す。
そのまま時間の感覚がなくなるほど真っ暗な画面をずっと見つめていた。それ以外に、何も出来なかった。
突然、画面から夜月先輩の顔が浮かび上がった。
その顔は酷く青白く、生気のない――死を証明する顔だった。
「うわぁぁぁ!?」
僕は叫び、その場を飛び起き頭を掻きむしる。彼女の顔は消えたが、脳裏にはずっとその表情が焼き付いている。額に触れると、冷たい汗を掻いていた。
その時ノックの音が聞こえた。
妹が恐る恐るドアを開ける。とても不安そうな表情だった。
「ユー君、大丈夫? 叫び声が聞こえたよ」
「あ、ああ大丈夫」
僕は不安にさせないよう、笑顔を作る。
「そうは見えない。友達が来てるよ。確かユー君の友達の……」
「わかった。ありがとう」
おぼつかない足取りで玄関に向かうと、亮太が待っていた。
「よう、優」
「亮太……」
良太は苦笑する。
「酷い顔だな。ちょっと外で話さないか」




