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ラプラスの魔物 5

「なんで、居ないんですか……?」


元の世界に、朧と蓮花は戻った、筈だった。しかし朧の姿は見えず、蓮花は先程迄いた空間の入口が消えるのを唯々見ていた。


「に、さま…。」


意識を戻した黎明も、酷く驚く。唯一、神無月だけが表情を変えなかった。


「何でなんですか。帰るんじゃ無かったんですか。独りじゃ寂しいんじゃ無かったんですか。ねぇ答えてくださいよ。こんなんじゃ、あの空間にいた時よりも寂しいですよ……。」


蓮花は酷く言った。もう何も考えられない。


「どうしてなんですか。何でそんなに格好良く去っていくんですか。別れぐらい、いっ、……っ…てくださ、いよ……。」


蓮花の目から大量の雫が落ちる。

その後の事は、良く覚えていない。



翌日。


目が覚めた。ベットの上。それは、普段の生活に戻った証。昨日の記憶が、あまり無い。生まれて初めて、あんなに泣きじゃくった。蓮花は制服を着て、学校へ向かう。其処には苺飴朱が居た。


「おっはー!蓮花!元気ないね!」

「…御早う御座います。苺飴朱さん。」


どうしたの、と彼女は声をかけてきた。逸れに釣られるように、呟いた。


「大切な人が、消えないって約束して、もし消えてしまえば、どうしますか?」

「えー?なになに?蓮花にもかーれーし?」


蓮花は考え口調で言った。


「……?……信じている人、でしょうか?」


苺飴朱ははぁ、と溜息を付いた。


「ほんと、蓮花は鈍感なんだか阿呆なんだか天然なんだかわかんないね。」

「…そうなのですか?」


苺飴朱は2度目の溜息を付いた。


「ま、いっか。で?消えちゃったの?」

「はい。」


苺飴朱は少し考えた様にこう答えた。


「…追いかければ?」

「…追い掛ける、とは?」


えぇっとね、と相槌を打つ。


「信じてるんだよね?それじゃ追い掛けなよ。それが信じてる証ってもんでしょ?良くわかんないけど。」


蓮花は少し俯いて答えた。

「…そういうものですか。」


苺飴朱は心の底から笑った。

「そういうものだよ!」



夕方。


がちゃり、と朧古書堂のドアを開く。蓮花はこんなにこのドアは重いものだったのかと思って、目の前を見た。其処には、黎明が居た。真っ直ぐに、朧が居たカウンターを眺めている。蓮花の気配に気が付いて、振り向いた。


「…蓮花姉様?」


蓮花は、深々と頭を下げた。


「…申し訳御座いません。貴女のお兄様は、私が殺したも同然です。」


黎明は否定した。


「お気になさらないで下さいませ。あの愚兄は、何時もあんな感じですから。」


黎明は柔らかく微笑する。しかし其の笑顔は、あまりにも無理をして笑っていて。


「必ず、連れ戻します。何を掛けても。」

「…命だけは、掛けないで。もうこれ以上、消えて欲しく無いのですわ…。」


涙袋から耐えきれなくなった水晶が零れ落ちる。泣きじゃくりながら、黎明は呟いた。いや、ほぼ慟哭だった。


「兄様の為にも!私は!己が信念を貫き通して欲しいんです!」


だから、だから、そうやって、彼女は泣いた。


「お願いだから!絶対に帰ってきて!もう、何もかも無くしてしまうのは!絶対に嫌ですわ!」


蓮花は、黎明が泣き止むまで、あやす様に慰めていた。黎明が泣き止んだ後、蓮花は道に出た。あの人が、何処に居るか、それが何となく分かったのだ。そう思って、走り出した。その途端に神無月に会う。


「神無月さん…。」


彼は、何も言わなかった。唯、蓮花を見て、こう言った。


「朧を救えるのは、お前だけだ。……信じているぞ。」


蓮花は神無月を見据えて、こくり、と頷いた。分かってた。何時か別れが来るんだって。でも、まだその時じゃない。蓮花は思いっ切り、叫んだ。


「あんの!莫迦!」


このエレクトローネの東通、リミア通りを真っ直ぐに行ったところに、峠がある。ある時誰かが言っていた。セピア色の思い出が、ふと脳内に蘇った。あれは、ここに越してきたばかりの頃、隣の男の子から聞いた話だった。


〝あのね、リミア通りをずっと、行ったところに、寂れたところに、アンジェス峠っていう峠があるんだってさ!‘’


〝へぇ…行ったことが無いですね…。其処には何があるんですか?‘’


〝違う『異次元』に行ける、ゲートがあるんだって!‘’


ぐるぐる、脳内に回る。それは琥珀色で。


誰からか見捨てられて、捨てられた墓場を走る。峠が見える。奇妙な、蛍光色の緑色の芝生と、青い大海と大空が見える。手のひらが、あの人に届くはず。


「お、ぼろさ、ん!」


息切れをしながら、信じる人を望んだ。目の前には、もう右方の髪は耳に掛けてあって。その下には、太陽の紋章の周りに、棘の王冠が巻き付いていた、その金色の瞳。その顔は、酷く幼くて。


「あぁ、蓮花ちゃん。やっと来たの?待ちくたびれちゃったよ。」


蓮花はずんずんと進んで、朧の首根っこを掴んだ。心の底から叫ぶ。


「この莫迦!阿呆!どれだけ!心配したと思ってるんです!?ねぇ!答えて!」


蓮花の剣幕に、朧は驚いた。反論するまでも無く、そのまま蓮花の弁論は続けられる。


「私は初めて感情を持った!あんたを心配する気持ち!こうやって怒ってる気持ち!寂しくて堪らなかった気持ち!!助けに来てもらって堪らなく嬉しいと思った気持ち!全部全部全部!!初めてだったんです!!今まで何も思えなくて、忌み嫌われてた私を、初めて信じてくれて心の底から嬉しかった!!………なのに、どうして消えちゃうんですか…。お別れぐらい下さいよ!!最後ぐらい!お願いだから!ねぇ!答えろ馬鹿野郎!!」


蓮花は泣きながら答える。朧はあまりの事に呆然としていた。蓮花は今まで持っていた朧の首根っこを離した。


「……私は、母親が死んだ後、父親も直ぐに帰ってくると言って、永遠の出張に行きました。その後、親戚を転々と周り、お陰様でこの敬語口調がつきました。やっと梢叔母さんに会えて、衣食住は困らなくなりました。」


蓮花は続ける。


「でも、そんな転々していたお陰で、何も感じなくなりました。皆が喜んでいても、私には何も感じない。喜怒哀楽が、全て消え去りました。小さい頃、あまりにも笑わなかった私は、忌み嫌われました。まだ5歳なのに、あの子は笑わない。先生は気味悪がった。」


蓮花は少しだけ空を見つめる。あの苦痛。


«気持ち悪い»


«5歳なのに笑わないなんて擦れてるね»


«病気なんですか?精神病院行ったらどうですか?»


«あんな死神面した子なんか、»


死 ん で し ま え ば 良 い の に 。


ど う し て 産 ま れ て き た の ?


存 在 価 値 す ら 無 い の に ね 。


財 産 が な い な ら 用 は な い よ 。


笑 う 子 な ら 売 れ た の に 。


只 の 食 い 潰 し 。


結局みんな、言う事一緒。私の事など興味などない。そして仮面を付けて喋る。


「笑えばいいと思いました。でも、無理なんです!人間は、大切な者から、大切な言葉を、人の温かみを知らなくちゃ笑えないんです!お願いです…朧さん、だから、」


«偽物の笑顔を作らないで。»


それは、蓮花が心の底から思った言葉だった。そして、朧はやっと、声を出した。


「………へ?」


蓮花は朧の目を見ながら言う。


「ねぇ、朧さん。だって、貴方の笑顔、嘘みたいなんです。笑顔じゃなくてもいいんです。涙でも、何でも……朧さん?」

「あ、れ?なんで、?」


朧の目には涙があった。寒風吹いて、涙は飛ぶ。


「蓮花ちゃん。僕ね、泣いた事が無いんだよ。ねぇ、ねぇ……凄いって言っておくれよ。今初めて泣いた事が凄いって…ねぇったら…。」


朧は笑いながら泣く。朧は、酷く疲れているのだ。この『ラプラスの魔物』を演じ切るために。


蓮花は決意の表情で、そして微笑した。


「…貴方のその偽物の笑顔の仮面。私が取ってあげますね。だから、今度泣く時は、」




…本当に泣いてください。それか、私の近くで、本当に、笑って下さい。




朧は、その表情のままで、白く切り裂いた次元の扉を開いた。そして、呟いた。


「私はね、君の過去を『精算』する為だけにいるんだよ。」


蓮花は、思った。この人は、この莫迦は!


「巫山戯ないで下さい!私はそんな為だけに存在しているあんたが大嫌いです!自分の、自分の……存在意義を、全て、人の為に渡すのが、大事な事だと説く人がいるかもしれません。でも、私は!その人に、唯1回の人生を!大切に歩んでほしいんです!信念を!貫き通して欲しいんです!」


お願い。だから、遠くに行かないで。


「蓮花ちゃん、サヨナラだ。」


お願い。約束したの。昔の貴方と。


「やめて!まだ十分に話もしてないんです!行かないで下さい!」


うーん、そうだねぇ、と朧は言った。


「…君の過去に過ちがある。それは分かるね?」

「…えぇ。母親を殺した事?」

「それを回避すれば、私はもう1度、君に会えるから。」


にっこり笑う。

「…ほんと、ですか?」

「勿論。」


蓮花は白い切り裂きに触れた。そして、次に居たのは、自分の母親が病気で入院していた、あの病院だった。受付の様だ。色が付いているのは私だけ、周りは黒く線が引かれ、周りはセピア色だった。



「嘘だよ。もう1回会えるなんて嘘だ。」


なのにさぁ、と朧は前置きする。


「どうして、こんなに、辛いのかな?私にはまだわかんないや。ずぅっと、独りだったからかな?」


ひゅう、と風が吹く。


「ねぇ、分かんない。君が居ないとわかんない。時間軸を弄ると、幾ら神様でも、死んじゃうんだよ。」


そして朧はもう1度言った。


「嗚呼、本当に良くわかんないや。」




251号室。此処は、蓮花の母親が入院していた場所。何の病気かは忘れた。朧は言っていた。


『幾ら君のお母様を助けた所で、君のお母様は生き返らないよ。それでも助けに行くの?』


莫迦だ。私はそんな為だけに過去を救いに行くんじゃないと。蓮花はそう思った。意を決して扉を開ける。向こうからからんからんと笑う声が聞こえた。


「ねぇねぇおかあさま!つぎはこのお遊びやってー!」


4歳の頃の、蓮花。何も知らない、この無邪気な感情。幼い蓮花も、綺麗な色がついていた。その上から落ち着いた声が聞こえた。


「蓮花、また遊んで上げますよ。御来客だわ。」


其処には病院の寝台に座っている母親ーーー御手洗みたらい すみれが居た。蓮花と変わらぬロングの黒髪でストレート。しかし、目は美しい菫色だった。母親も、色がついている。其の人は蓮花を見据えてこう言った。


「可愛いお嬢さんね。お名前は何というの?」


蓮花は自分の名前を言いかけたが、何とか偽名を考えた。

「ほ、本郷ほんごう 日和ひよりと申します。」


たまたま朧を待っていた時に読んでいた、古い本。その中の主人公だった。母親は微笑む。


「そう…。日和さんと言うのね。それで、ご要件は?」

「…へ?」

「ご要件があるから要らしたんでしょう?」


蓮花は詰まる。


「あ、あのですね、えーと、」


そうだ!と心の底で蓮花は言った。

「学校のボランティアで、病院に居る子供の相手をしてるんです。」


誤魔化せた。ほっとする。母親は笑う。


「あら、そうなの!ならこの子をお任せしようかしら。私ね、今から検査なの。他にも一杯あるから……。だから、暫く預けさせて欲しいわ。」


蓮花は言った。


「分かりました。何時頃こちらにお戻りになられますか?」

「5時…頃だと思うわ。蓮花、楽しんでいらっしゃい。」


4歳の蓮花に話しかける。蓮花はこくりと頷いて、母親を見た。蓮花は幼い子供を手に、病室を後にした。



「ふんふーん。ふふんふーん。」


適当に鼻歌を歌っている朧。その指先には白い線が沢山ある。


「おい、こんな所に居たのかこの莫迦。」

「ああ!神無月じゃないか!」

「何が『神無月じゃないか!』だ!」


はぁ、と神無月の一つの溜息。そして振り返らない朧をじろりと睨んだ。


「……また、繰り返すつもりか。」

「やだなぁ、神無月。繰り返すって一体なーに?」

「しらばっくれるのもいい加減にしろ。俺が気付いていないとでも思っているのか。」


朧はにこやかに振り向いた。何も言わない。


「朧。お前、蓮花を助ける為に何回時間を戻した?」

「…5回目のループじゃないか。気にする事なんて、」


朧の言葉は神無月の叱責で消えた。


「五回目だと!?ふざけるな!」

「!?」

「良いか、その分、蓮花にも時間を巻き戻している負担がかかっているんだぞ!俺が暴けないとでも思ったのか!」


神無月は朧を睨んだまま。神無月が言う。


「…俺の能力は相手の急所を暴く。貴様の場合は『これ』がそうだったみたいだな。」


時間軸を指す、神無月の言葉。朧はやっと言葉を挟んだ。


「無くしてしまうのは、もう嫌だったんだ。これは只の言い訳だ。目の前で、何時もあの子は死んだ。それだけは、嫌だった。そして最終的に、過去を正せば彼女は生きる事が分かった。だから、そうするだけ。」

「……それで、蓮花も、お前も幸せなのか。」


さぁね、と朧は挟んだ。そして時空の切り裂きに触れる、その一瞬に朧は言った。


「…彼女は幸せなんじゃ無いのかな?わからないよ。」


あとね、と続ける


「……神無月、今までありがとう。黎明も、本当にありがとう。」


その言葉は、誰も拾う事は無かった。



「じゃあ次はこれ!」

「分かりましたよ。ちょっと待って下さいね…。」


蓮花と彼女は遊んでいた。本も読み終わって、彼女は一つ言った。


「ねぇ!森に行きたいの!」

「森?」


ここの病院には森がある。大きくて、日差しも良い、今時なかなかない森。


「どうして森なんかに生きたいのですか?」

「綺麗なの!だからね!行きたい!」

「はいはい、分かりましたよ。」


蓮花は彼女の手を取って、子ども達がいた、フリールームを出ると、森に向かった。





「あーぁ、暇だなぁ…。」


朧は独り、真っ白い空間。ごろんと、寝っ転がる。


「まぁ元々死んでいた体の様なものだったから、別に良いんだけどね。」


何もない、死後の世界。死後なのだろうか。わからない。そこに、あの聞いたことのある声が聞こえてきた。


『ほんとに死んで良いの?』

「べっつにー!どーでもいいもん。」


年相応ではない、返答。


『あんたって莫迦だよね。全然分かってない。』

「今日はよく莫迦って言われるよ。」

『だって莫迦だもん。』


よく、わからない。


『あんたがもし、蓮花を助けられたって、蓮花は幸せじゃない。喜ばない。』

「何故?」

『人間は脆くて、とってもガサツに創られたけど、心は硝子細工よりも繊細だから。』


朧は何も言わない。胡座あぐらをかいて座る。


『人間はね、外枠だけじゃ生きてけないんだ。中身もちゃんとなくちゃ、生きてけないんだよ。』

「へぇ〜……。どうして君はそんな事が言えるの?」


姿の見えない、声に問う。声は言った。


『僕は、お前の中身だから。』

「…中身?」

『お前が10年前のあの戦争から、お前は死んだ。だからあれからの10年間のお前は、ただの外枠。』

「……言ってくれるね。」

『事実だ。お前は何にも持ててないんだよ。中身が無いから願望すら存在しない。』


声が、重ねる。


『結局、あの蓮花っていう娘は、あんたが居ないとなぁんにも出来ない。お前も、あの娘が居ないと何にも出来ない。』

「……。」

『あんたは結局どうしたいんだよ。』

「私は、生きてもいい?」


自問自答する。あれだけ人を殺して、それでも、やっぱり。


「……生きたい。死にたくない。」

『やぁっと、望みを言ったね。』


13歳の、若い嘲笑が、朧を見据える。


『いいよ、その願望持っときな。それはあの娘が叶えてくれる。』


だから、と目の前に姿を表した少年が、薄く消えつつこう言った。


『僕の為にも、死んでくれるなよ。』


その少年は、13歳の無邪気な笑いで、ニカッと笑った。



「此処、ですか……。」


深い深い、深緑の、美しい森。森に入る前の、道を歩いていた。其処に、絶対に聞きたくない、あの声が聞こえた。


「あれぇ?蓮花お姉ちゃん?」

「モルテ!?」


ぐるりと後ろを振り向く。大量の手を携えて、こちらをにこやかに振り向く。直ぐに精霊収集機を発動させて、刀の形にする。

攻撃が始まった。


「あがっ!?」


早い。最初の腕が蓮花の腹に思いっ切り当たる。何とか立ち上がる。モルテは言った。


「ボクは神様だから、1度会った人のことは絶対に忘れない。だからね、蓮花お姉ちゃんが今ここで2人とも死んでくれたら、ボクは彼処で封印されない。だから、」


二本目の手が、幼い蓮花の心臓を貫いた。鮮血が吹き出る。親殺しのパラドックス。その文字が絶対的に相応しいシュチュエーション。その瞬間、声が聞こえた。


「アクシビラレル・グラリーレス!」


その呪文。それのお陰で、幼いあの子は、助かった。吹き出た鮮血が時間を戻す様に戻る。幼い彼女の前には、黒い一反木綿の様な体で、金髪緑眼の髪の毛を腰まで下ろし、服は西洋式の喪服の女性が居た。


「ほら!戦いな!」

「は、はい!」


次にくる腕を避けて、切り落とす。しかし、また吹き飛ばされる。


「お姉ちゃん、弱いね!」

「そうですよ!心も体も脆いです!弱いですよ!」


だけど、と蓮花は続ける。


「私は約束しました!黎明に必ず帰ると!神無月さんに朧さんを救うと!そして朧さんにまた会うと!…だから私は死ぬ訳にはいかないんです!」


そのまま来た腕に飛び乗り、光の速さで、モルテとの間合いを一気に詰める。


「なっ!?」

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」


精霊収集機を銃に変えて、心臓に1発、そのほぼ同時に頸動脈を刀で斬る。鮮血は蓮花に当たること無く、黒い長方形のタイルの様なものに変わる。


「う、ぁぁ…どうして、ボクは…死んじゃうの?」


モルテが蓮花に聞く。


「……分かりません。最後に教えて下さい。『時の砂』と母親の真相を。」


蓮花がモルテに問う。


「知らない…。『時の砂』の話は、魔力が手に入るからって言う、単純な理由。…お姉ちゃんに、殺意を埋め込んだら、お姉ちゃんはお母さんを、殺しちゃった…。ボク、人で遊んだから…地獄行きだね…。」


黒いタイルはモルテの体の一つ一つまでまでを蝕むと、空へ消えていった。そのまま振り返る。蓮花は問う。


「あの、貴方は?」


眠っている幼い彼女を抱いて、相手は言った。


「ヴィーダーシュプルフ 。別名『矛盾の魔女』とも呼ばれている者さ。 」

「えっと、そのヴィーダーシュプルフさんがどうして此処に?」


ふわふわと浮きながら、魔女は言った。


「ヴィーダーでいいよ。長いしねぇ。何故私がここに来たかって?それはね、お前を助けに来たんだよ。」

「……助けに?」

「あたしゃ昔にちと朧に恩があってねぇ。消されたくなければ行ってこいと駆り出されたんだよ。」


魔女は笑いながら言った。蓮花は言った。


「…私は、母親の死を取り除いたんです。もう、帰らなくちゃ。」


陽が傾く。ヴィーダーは言った。


「勿論さぁ…。送ってあげるよ。この子供もねぇ…。ほら、目、瞑っときな。」


蓮花は周りを見た。セピア色の、哀しくも美しかった光景を。そして、蓮花は言われた通りに目を瞑った。高く、ぐわりと揺れる。暖かい、南風が無くなる。冬の寒い寒風が頬を撫でた。風が、草原を撫でる。後ろを振り向くと、月が映る峠。目の前には信じる人は居なくて。


「帰ってくるって、言ったじゃない、ですか…!分かってました!でも、信じたかった……!ねぇ!お願いですよ!もう1回、戻ってきて下さい……!」


蓮花は立ち上がる。此処で泣いていても、意味がない。嗚咽を上げながら、墓地を通る。そして、誰も居ないリミア通りは、あの空間の様で。そして、あの古書堂の前に立った。鍵は開いていて。蓮花は一つ言った。


「朧さん、私は、あの時に、何を言えば良かったんですか…。」


そう、ぽつりと零す。


「さぁねぇ、私は知らないな。それは蓮花が言いたい時に言えば?」

「……朧、さん?」

「ねぇ、上手く笑えてる?良く分からないや。」


蓮花は振り向く。望んだあの人で。


「あ、ど、して、ここ、に?」

「…君の『言った事が本当になる力』で帰ってきたんだよ?本当じゃあのまま消えてる。」


蓮花は朧に抱き着いた。朧は蓮花の頭を撫でる。そして、彼女は泣きじゃくった。


それは氷の様で。


これで、この物語はおしまい。


月影の、冬の最後の暖かい金色の物語。


だから春はやって来て。


綺麗事と不浄が混ざって世界は出来て行く。


だから望むのは美しいもの。


これは最後の物語。


春の前の、最後の物語。

言葉運びをもっと綺麗にしたいですねぇ……。

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