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ラプラスの魔物 2


「こんにちは……あれ?…貴女は?」


蓮花は夕方の約束の時間に古書堂を訪れた。


「お初にお目にかかるのかしら?私の名前は朧月夜 黎明ですわ。どうぞよしなに。」


目の前にはフランス人形の様な容姿をした少女がいた。ふりふりのゴスロリを白くしたドレスを着て、髪はふわふわのくせ毛で金髪。左目に白い眼帯をして、目は美しい蒼玉の海の瞳。その近くには、少女の持ち物であろう白い日傘が置いてあった。そしてこの少女は経った今『朧月夜』と名乗った。だから、


「朧さんのお姉様ですか?」

「妹、ですわ。」

「…私より年上、」

「4つ年下ですわね。」

「…14歳なんですか。」

「えぇ。」

「あの、今日は朧さんは、」

「兄様なら『出掛けてくる〜ひゃっほぉーい!』とか言いながら出て行きましたけれど…。」

「そういう訳で、店番をしているんですね。」

「そうですわ。…何か出しましょうか?」


黎明が考える仕草をする。


「紅茶出しますよ!今日クッキー持って来ましたので!」


蓮花が元気な声を出す。

「じゃあお茶会でも開きましょう!」




「で?お茶会したの?神無月も誘って?」

「邪魔してるぞ。」

「はい。誰かさんがお仕事をサボったのですからね?」

「朧さん帰ってくるの遅すぎですよ。大丈夫ですか?」

「待ってどういう意味。」

「色んな意味で。」


今までの経緯を話すとこうだ。黎明と蓮花とお茶会をし始めた10分後に朧の幼馴染み、神無月白羽、(かんなづき しらは)という青年がやって来た。白羽の名の通り、髪は白く、ぼさっとした感じ。目は美しい紅玉の緋色の瞳で朧と同じくらいの身長。とりあえず白かった。美人。そして腰に黒い刀剣を差していた。セーターベストを着て、ベージュのズボンを履いている。


そして、話によると隣町で、神無月、所謂、神社に神がいない時に魔物を払う『払い屋』をしているのだが、本人は払い屋と呼ばれることが嫌いらしい。


「全く不安になったぞ?お前が未成年に手を出すとは。」

「未成年と男には手を出さないよ!」

「…未成年と男『には』?」


蓮花が紅茶を啜りながら朧を睨む。


「あぁぁ!!違う!ごめん!誤解!」

「ま、まさか兄様がここまで堕落していたなんて!!私どうすればいいんでしょう!?」

「大丈夫ですよ!黎明ちゃん!なんとか、なる、はず…。」

「そんなに仲良くなったの?君達。まぁそれよりも聞いてくれ給えよ!全く大変だったのだよ?」

「兄様の大変とか信用出来ませんわ。」

「激しく同意です。」

「俺は昔から知っていたからな。今更だ。」

「皆辛辣過ぎ!」


皆は朧を無視して紅茶を啜る。黎明が仕方なく聞いた。


「…何が大変だったのですか?わざわざ私が聞いて差し上げているので答えてくださいまし。」

「安定の毒舌だね。お兄ちゃんびっくり。」

「それで?何があったのです?」

「蓮花ちゃん!聞いてくれるの!?」

「いや、しつこくて面倒臭くてこれ以上話が長引くと面倒臭いの極みなので。」

「二回言ったね。その大変だった、って言うのはねぇ、師匠を見たのだよ。史上最強見たくない人グランプリで1位取るぐらいに会いたくないね。」

「……師匠?」


蓮花が問う。


「嗚呼、師匠ってのはね、私に魔法を教えてくれた、まぁ先生なのだけれど…。頂けないね。莫迦より質が悪い。」


はぁ、と朧は溜息をついた。黎明は呆れたように朧を見る。


「…別れた彼女さんの方が会いたくないんじゃないのかしら?」

「全くの女誑しだな。」

「うわぁ、朧さんって女誑しなんですか。」

「そうだぞ。気を付けろよ。」

「有り難うございます!気を付けますね。」

「変な事吹き込まないで!?」

「おい朧。一つ聞きたいことが有るんだが。」

「何!?もしかして神無月は構ってイッだァ! 」


思い切り、チョップを食らう。


「貴様に構う暇などないし、モンゴリアンチョップをされなかった事を感謝するがいいぞ」

「え…モンゴリアンチョップ…?」


朧は顔面蒼白だ。


「それでだな、御手洗さんは、苺に似てないか?」

「そうだねぇ…苺ちゃんもあんな感じだったね。」

「苺ちゃん?」


黎明と蓮花が声を合わせて聞く。


「物凄いシンクロ率だね。まぁ、苺ちゃんの話はまた今度の時に。」


黎明がぼそっと呟く。


「兄様の今度の時とか世界が無くなった時ですか」

「黎明聞こえてるからね?」

「分かってて言ってます。」


和気あいあいとした、朧古書堂。そんな情景とは裏腹にエレクトローネの運河町に泊まっている、大きな船の帆柱に、その少女は居た。黒い本、黒い服に、黒い鎌。しかし目は紅く、髪は銀。そして呟く。


「次の回収は、『朧月夜 滄溟』またの名を『ラプラスの魔物』。報告書には5回派遣した死神をいとも容易く跳ね返すなどの行為をする、『運命さえも跳ね返す男』。やれ魔物だ、運命だのなんだの…大体龍の魂を回収して来いという命令が可笑しいんですよ。……ん?特記事項……………これは、まずいですね。急がなければ、回収不可能かも知れません。」


そして、エレクトローネの、朧古書堂に降り立った。


同刻。


「ねぇ、神無月。」


突然、朧が口を開く。

「…首だ。それ以外有り得ない。…まぁ、大体のものは、だな」

「有難う。」


黎明と蓮花は気にせずお茶を飲んでいる。朧が蓮花に話しかけた。


「蓮花ちゃん、これは?」

「あ、これですか?」


蓮花は青一色のなかなか大きい蜻蛉玉を、首にかけていた。


「母の持ち物の中から見つかったんです。持って行ってもいいと。」

「へぇ、そうなんだ。」


朧はその蜻蛉玉を魔法でクルクルと回す。


「おい、いい加減にしろ。朧。」

「何の事?」


全く悪びれも無さそうな、朧の笑顔。


「……貴様のその悪びれもない笑顔なぞ吐き気がする。だからいい加減にしろと」

「もうそれも終わるさ。今からだからね。」

「お2人とも先程から何を話して」


蓮花が口を開いた途端だった。


バキンっ!


「うわぁ……まさか店の扉をぶち開けられるとは思わなかったなぁ…。」

「白々しいぞ。貴様わかって言っているだろう?」

「まぁそだけどね。鬼ごっこしたい。」

「安心しろ。今から死ぬほど出来る。」


朧と神無月はどうでもいい会話をしている。


「え、朧さ、これって、何ですか。」

「…死神、ですわ。」


黎明が口を開く。


「大体の生命体は、その魂が持っている物語が終わると、人は死にます。それを『運命』と人は呼びますわ。でも、時折その運命さえも跳ね返し、生きている者がいますの。それはただ『不老不死』でも有りますが、そんな者は死神が、魂を回収、所謂殺しに来るのですわ。」


黎明は淡々と答える。そして目の前の『死神』が口を開いた。


「朧月夜 滄溟。貴方の魂、回収に参りました。そして、」

「自殺するなら一瞬で殺してあげる。だっけ?生憎だけど私、まだ生きたいのだよねぇ?」


朧は笑顔で答えた。


「……えぇ、そうです。自殺しないのですか?」

「自殺したら天国に行けないからね。」

「安心しろ朧。貴様は天国なぞに行けない。地獄だな。」


神無月がニヤリと笑いながら朧を見る。


「神無月って本当に塩対応だよね。なんで分かるの?」

「…悪霊のオーラ?」

「私に聞かないでよ!!しかもオーラって何!!」


前にいる死神は、顔色を変えずに朧を見ている。


「死神さん、貴女は綺麗ですから、どうぞ私とデートに行きま」

「せいやっ!!」


蓮花の蹴りが炸裂する。


「痛い!」

「……もう、良いですか?殺しますよ。」


吹っ飛ばされた道路の先で、朧は答えた。


「どうぞ。」

「少しだけ、聞きたい事があります。」


死神が、少しだけ目を細めた。


「……貴方が、『ラプラスの魔物』と言うのは、本当なんですか?そして、時間を戻しているのは、本当何ですか?」

「…そうだね、私がラプラスの魔物だよ?…だけどその質問には答えられないねぇ?」


少し考える振りをして、朧が答える。


「………そうですか、なら、尚更貴方の事を生かしてはおけません。」


思い切り、死神はジャンプして、朧を攻撃しようとする。黎明が日傘を開き、日傘の周りに火球を作る。当てようとするも、全て死神に避けられてしまう。


「兄様!何やっているんですの!」

「生憎私、女の子には手を出さない主義なのだよ。」

「はぁ…黎明。何時もの事だ。…おい、朧、何処へ行く?」

「蓮花ちゃんのとっころー!」


朧はスキップしながら後ろで戦闘を見ていた蓮花に声を掛けた。蓮花はおもむろに声を出す。


「私には、何も出来ないんですか?」

「…まぁ、今の君じゃそうだねぇ。」

「どうすればいいですか。」

「欲しがればいいさ。声に出して、欲しいものを願うんだ。君なら出来るでしょ?」

「…分かりました。私は強くなりたいです。私の言う事をよく聞く、強い武器が。」


その瞬間、首に掛けていた蜻蛉玉が綺麗な光を放ちながら、蓮花の目の前を、旋回する。銀色の『何か』が蜻蛉玉の回りに付いていく。『何か』は、溶けた鉄の様なものだった。それは次第に二振りの大きなナイフに変わった。


「それはね、精霊収集機って言うんだよ。」

「…精霊収集機?」


「精霊を集める特別な宝石が媒介になって、頭に浮かべたものの形に変わる。人間には、潜在能力ってものがあるでしょ?蓮花ちゃんにはかなりの霊力があってね、その恩寵が『言ったことが本当になる能力』さ。」

「……私にそんな力が?じゃあ、聞きますが、朧さんも持ってるんですか?」


蓮花が不思議そうな顔をして聞いた。朧は少し残念そうな顔をして、


「残念ながら、ある一定の年齢で魔法を取得するか、生まれつき魔法が使える者は、能力が消えるらしいのだよね。」

「では、神無月さんは能力を持っていらっしゃるのですか?」

「そうだよ。神無月は『命を見抜く能力』。相手の急所が分かるのさ。」


そう朧が説明していた時だった。黎明の声など既に時遅し。死神の鎌が朧の喉に向けられていたからだ。


「……お喋りは楽しかったですか?」

「そうだね。君も参加する?」


少しおどけた風に朧は言った。


「遠慮します。残業はしない主義なので。」


死神は冷たい声で言う。

「そうかい。じゃあ最後に君の年齢を聞いておこうかな。」


「…レディに年齢を聞くとはいい度胸ですね。別に構いませんが。519歳ですよ。」

「ねぇ、蓮花ちゃん聞いた?」

「えぇ!519ですね!」


蓮花が柄にもなく明るい声で言う。


「は?蓮花、ですって!?」


死神は酷く驚いた風にいった。

「精霊収集機!519の戦闘力!」


その掛け声と共に、武器がハンマーの形に変わり、思いっ切り死神を地面に叩きつける。死神は大の字で倒れていた。死神が、殺気を出しながら話す。


「……朧月夜…貴様、一体その少女に何をした?」

「いやぁ、何だろうね?」


唯、ずっと笑っている。


「…御手洗 蓮花。その人間は、ここ1ヶ月の内に、私が殺しました。18歳で。交通事故に仕立てあげました。…だのに何故此処にいるの……!…聞きます、御手洗 蓮花、貴様は今何歳です!?」


物凄い声の荒げようだ。


「私は、じゅ」


蓮花は怯えて、歳を応えようとした、その瞬間、神無月のおそらく冥界に送り返す呪文が聞こえた。


「…死神、貴様は人を送ってばかりだが知らないが、きっと間違いだろう。冥界に行ったら分かるはずだ。」


その瞬間、死神の回りに魔法陣が出来、死神は、消えた。蓮花は直ぐに思い立つと、朧にこう言い放った。


「朧さん!しっかりしろ殴り飛ばしますよ!」

「君、それ素なの?」

「朧さんには特別ですよ。」


にっこりと、蓮花は笑う。しかし直ぐに顔を険しくすると、こう聞いた。


「朧さん、あの、『ラプラスの魔物』って、本当に何なのですか?」


少しだけ、朧は目を細める。だが、直ぐに笑って、


「いつか分かるさ。」

「蓮花姉様!兄様の何時かは世界が終わった時ですわ!」


黎明が鈴の声を出す。すると蓮花はくすくすと笑った。そしてこう言った。


「黎明ちゃんは、本当に面白いですね。まぁ、偶には、朧さんの話を信じてもいいかな、と思います。」

「蓮花ちゃん、優しい!黎明とは大違いだね!」

「勘違いしないで下さいね。教えなかったら何をするか分かりますよね?」


蓮花が脅しをかける。


「前言撤回するよ。」

「ほら、帰るぞ。今日、俺が来た理由をお前は忘れたのか?」


神無月が朧に言う。

「へ?あー!新しい茶葉の事?」


朧が間の抜けた声を出す。

「…私もクッキーを持ってきたのですわ。なのにこの愚兄は…。」

「2人とも酷いね…。蓮花ちゃんは?」


蓮花は少し返答に困った顔をした。でも直ぐに思い付いた顔をして、答えた。


「……私は、朧さんに会いに来ましたよ。」


蓮花は微笑んでで答えた。

「き、君ねぇ?それ素なの?」


朧が少し赤い顔で聞く。蓮花はよく分かっていないようで、

「…素…?何の事ですか?」


黎明は驚く。

「蓮花姉様って凄いのですのね…しかも鈍感…。」


神無月も酷く驚いた声で言う。


「ま、まさか今の発言を気付かない奴がいるとは……!」

「ま、まぁ、取り敢えず?」

少し咳払いをして、朧は切り返す。


「お茶、しようか。」

「そうですね。」

「そうですわね。」

「そうだな。」


四人は、古書堂まで戻って行ったのだった。

コメント、とか、見てくれると本当に嬉しいです……。コメントを恵んで下さい……。お花は最近大逆裁にハマりました……。

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