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古書堂と迷宮


「だーかーらー!何で居るんですか!帰って下さい!」

少女の文句。その周りには女生徒の黄色い叫び。それは高校の正門前。始業式で、春服の白セーラー。あの首の赤マフラーはもう無い。

「いいじゃない、蓮花ちゃん!一緒に帰ろうよ!何時も帰ってるでしょ?」

目の前には、優男。

「誤解を招く表現やめて頂けません?」

蓮花は眉を潜めて朧を見た。朧は笑いながらそのまま言う。

「にしてもその制服可愛いねぇ…。」

「そんなしみじみ言わないで下さい。気持ち悪いです。」

「えー?だって可愛い物は可愛いだもん!」

蓮花は溜息を付きながら言う。

「何で始業式っていう人が沢山、しかも倍ぐらいの人数が居る行事の時に来るんですか。人が多いな、誰ですか、こんな正門の前に居る奴はと思ったら朧さんですし。そして私に話掛けてからもうなんか色々すごい事になってません?」

「気の所為、気の所為!」

蓮花は朧を睨む。

「気の所為だったら苦労してないですよ。」

蓮花は心の中で神無月さんも黎明も苦労したんだなと思う。朧は言った。

「そうかな?あの2人割と協力的だったけど。」

蓮花は朧の頬を抓った。

「心を読むな。あと多分協力的ではなくて仕方なくの方が正しいと思いますが?」

「蓮花ちゃん積極的だね?」

「……本当に積極的になってさし上げましょうか?物理の面で。」

「怖い。」

「丁度物理を復習したばかりなんですよ。身をもって体験したいですか?復讐されたいですか?」

蓮花は怒りながら言う。朧は応えた。

「モウシワケゴザイマセンデシタ。あと蓮花ちゃんは基本怒った顔も可愛いから気をつけた方がいだい!」

「申し訳無いとか思ってないでしょう貴方。」

蓮花は朧を蹴り上げる。見事に吹っ飛んだ。

「蓮花ぁ〜!彼氏は大切にした方が良いよ〜!」

クラスメイトの声。蓮花は応えた。

「だから彼氏では無いとあれ程!」

良いじゃん、とあの呑気な声。思っきり手を引かれる。蓮花はよろけた。目の前には余裕ぶったあの笑顔。含み笑いがこちらを見る。

「ほら、見せつけちゃおうよ?」

「おぼ、ろさん!」

蓮花は睨む。ぐらりと転びかけた、その瞬間だった。今度は後ろに引っ張られる。

「蓮花お姉様!変態変人糞兄貴に何かされませんでしたか?」

「…風評被害…は、されました。」

その後から神無月が来る。刀に手をかけ朧を見る。

「大丈夫か、蓮花?」

「……もう叩き切って良いですよ。」

朧は笑う。

「切られるのなら美人が良い!」

黎明の軽蔑の眼差し。はぁ、と一つの溜息。そして神無月と黎明の声がシンクロした。

「この変態。」

「この変態兄貴。」

朧はそのままの表情。蓮花は言った。

「これだけ言われて微動だにしないって朧さん凄いですね。」

「昔から言われてきたからね。」

「それもどうかと。」

黎明は、そう言えば、と蓮花を見た。

「蓮花お姉様は今日、始業式だったのですね。」

「ええ、そうですね。」

蓮花は体育座りから立ち上がった。神無月は思い付いたように言う。

「そう言えば……穹窿高校は季節毎に制服が違うのだったか?」

蓮花は答えた。

「そうですね。普通の学校では冬服と夏服が有りますけど、穹窿高校では夏服、冬服は勿論、春服、秋服があります。冬と秋の服は、黒いですね。そして春服と夏服は白色になっています。お陰で制服代が尋常じゃありません。」

蓮花の説明。朧は言った。

「黎明も制服着ればいいのに。そのお師匠様から貰った服じゃなくてさ。」

再び、黎明の軽蔑の眼差し。

「嫌ですわ。これはお師匠様に貰った服ですから、制服は嫌です。」

「理由は?」

「兄様が気持ち悪いからですわ。」

「本当にそれだけの理由だね。」

「理由なんてものはそんな物です。」

黎明はそのままの眼差し。蓮花は一つ溜息を付いて、そして朧を見た。

「……さぁ、行きましょう。」

「よくその状態で言えたね。」

蓮花は朧に諭す様に言った。

「考えても見てくださいよ。これをほぼ毎日目の前で見て、大変だなと思う。これを溜息を付いてる間に考えるのって、そう難しくないと思いますけど?」

「……これからは皆に優しくするね。」

そして一行は古書堂の前に来た。蓮花が入ろうとした、その瞬間だった。朧が叫ぶ。

「あ、待って!」

「……え?」

しかし時既に遅し。目の前には煉瓦造りの道があった。松明があかあかと廊下を照らしている。

「…やっちゃった…。」

「へ?」

「いやね、これ迷宮なの。入ったら、簡潔に言うと出られないんだよねぇ……。」

「………そう言えば、黎明と神無月さんは?」

蓮花が問う。朧は応えた。

「この迷宮は二人一組で進むんだよ。そして蓮花ちゃんはあと3組組まなきゃ出られない。えっと、即ち6体のモンスターを倒さなくちゃなんないんだよね…。」

少女の溜息が、迷宮に響いた。



同刻。

神無月と黎明は同じ様に溜息を付き、そして言った。

「「あの野郎……!」」

黎明が神無月を見る。

「どう致します?先にあの野郎しばくかそれとも無理やり出ますか?」

神無月が黎明を見る。

「そんな事が出来るのか?」

「……命の保証はしませんわ。」

「なるべく命の助かる方で頼む。」

「そんなの……神無月お兄様が一番ご存知ではないのですか?」

神無月が何度目かの溜息を吐く。

「迷宮を攻略、か……。黎明。出たらどうするか分かっているな?」

黎明は意気込んで答えた。

「分かっていますわ!兄様をしばくのですね!」

神無月は微笑みながら言った。

「そういう訳で、行こうか。」



「ねぇ、朧さん。今さっきから風景が全く変わっていないのですけど?」

蓮花は念の為に精霊収集機を刀の形に変えている。朧は呑気な声で答えた。

「知らないよ〜。何時か着くでしょう?」

「何時かじゃ困るんですよ。」

その途端後ろからごごご、と地鳴り。朧は言った。遠くには、巨岩。

「………ねぇ蓮花ちゃん助けて。私、切り裂く魔法得意じゃないから。」

「何故です?朧さんは大体の魔法使えるんじゃ…?」

「…調子乗っててやらなくていいやと思ったら使えなくなってて、1回使ったら人殺しかけたから。」

蓮花は考えながら言った。

「…必ず無事でいると約束して下さるなら。」

朧は笑う。

「私が無事じゃない時なんてあった?」

「…本当に心配ですからね。」

蓮花は刀を構える。そして岩を一刀両断した。そこからは朧の仕事だ。両手を龍化させ、思いっ切り岩を砕く。蓮花の目の前には手頃な石ころしか無かった。そして龍化は解ける。

「本当に凄いですね。それ。」

朧は無邪気に笑った。

「でしょう?」

蓮花もつられて笑う。そして2人はまた進み始めた。



「黎明、罠とかは無いのか?」

神無月は黎明に聞く。黎明は言った。

「さぁ……この中身を作ったのは兄様ですから……。」

「…懐かしいな。無理矢理空間を作れ等と言い始めて……。」

「あの瞬間から兄様に殺意が湧きました。」

こつり、こつりと廊下に響く。周りの松明が消えて、いつまにか廊下の端には溝が出来ており、水色の光。目の前には、壁。神無月がそれをそっと押した。虎に黄色い牙が生えた怪物。体毛は黒い色。神無月は溜息を付いた。

「下がれ、黎明。」

「はい。」

刀と殺意が交じる、その瞬間。




朧と蓮花も、同じ扉の作りの前に立っていた。こちらはちゃんと松明があったが。ガチャりと、扉を開ける。キラリと、一瞬だけ朧の金色の瞳が光る。蓮花は気付かない。そして朧は言った。

「蓮花ちゃんは此処で待ってて。危ないからね。」

「嫌です。私も加勢します。」

蓮花はぶぅ、と顔を膨らませる。朧は優しく言った。

「だぁめ。女の子が怪我したら危ないでしょう?だから、此処は私に任せて。…大丈夫。絶対に怪我したりしないから。」

にこり、笑う。蓮花はそれでも引かない。

「嫌です!」

朧は驚いた顔をすると、蓮花の持っている精霊収集機に手を触れた。たちまち宝玉に戻る。朧はそれを見て笑う。そして、目の前で眠っている蟹の様な怪物を見た。直ぐに襲い掛かってくる。蓮花は怪物を目で追いかけるが、速すぎて追いつかない。朧はニヤリと笑っていた。

「嗚呼、遅いねぇ。遅いねぇ?」

水の鎖が蟹を縛った。鎖は朧が掴んでいて。そして、思いっ切り引きちぎる。中身が爆ぜた。蓮花がしゃがんで言った。

「…この蟹味噌、食べられます?」

「食べられないからないないしなさい。」

朧は目を細めて優しく笑った。奥に、ワープホールが見える。蓮花は言った。

「……RPGみたいですね。」

「でしょう?此処でバイバイだから。」

「了解です。」

蓮花と朧は足を踏み入れた。



「…通らんか。」

一応攻撃が通っているものの、刃が刺さらない。今は刀の打撃攻撃しか通っていない為、相手の怪物はまだまだ元気だ。黎明が口を挟んだ。

「神無月お兄様!恐らくその怪物は引火性がある筈ですわ!」

「どういう事だ?」

黎明が説明を始める。

「もしかしたら全部、此処の様な作りかも知れませんが、周りには火が無かったのです。だから、」

「引火性がある、という事か。」

神無月は黎明の元まで戻ると、こう言った。

「済まないな、黎明。力を貸してくれるか?」

「ええ。どうすれば宜しいのですか?」

黎明が神無月に問う。

「この刀身を焼いてほしい。」

「刀身を?わかりましたわ!」

黎明は刀身を触ると引火させた。神無月はその勢いで一気に怪物に斬り掛かる。怪物は燃えて、黎明の方へと向かった。ここぞとばかりに黎明は叫んだ。

「フィアムマ・ソレイユ!」

ばん、と日傘を開いて、横立ちする。日傘の先から魔法陣が開き、向かってきた怪物を蒸発させた。黎明はそのまま倒れる。

「……つかれ、ました…わ。」

「黎明、よく頑張ったな。出たらパフェを奢ってやろう。」

「うれし…です…。」

神無月は黎明を姫抱きし、そのままワープホールへ向かう。神無月の瞳が紅くなった。そして溜息を付いて、ワープホールへと入った。



蓮花は飛ばされた先でぼんやりと突っ立っていた。もう1人が来ないと意味がない。ワープホールから、もう1人が来た。

「…蓮花お姉様?」

「黎明、でしたか。」

蓮花は笑った。そして黎明と共に、怪物の間へと向かう為に足を踏み出した。



「やぁ、神無月!」

「帰れ。」

神無月は敵意剥き出しで朧を見る。朧は言った。

「酷いなぁ、神無月の為にわざわざ力を使わないでおいたんだよ?感謝してね。」

「貴様に感謝するぐらいなら死んでいる。」

「酷くない?」

かつり、かつりと靴の音。朧は言った。

「まぁだ、忘れられないの?あの払い屋の事。」

「……彼奴等は、払い屋にもおけん。」

酷く、響く。

「…苺を殺した奴の事など、もう、殺した。」

「あれは吃驚したねぇ…。まさか神無月が人を殺すなんて。」

空気が、冷える。

「…。」

神無月の沈黙。朧は言った。

「神無月の腰に差さってる、『玉龍』は、元々3人の払い屋が捕まえたものだった。その払い屋達は力が欲しかった。だから1度封印を解いたんだよね?」

朧は神無月に聞く。神無月は応えた。

「…そうだ。そして黒龍は苺を殺した。それだけの話だ。彼奴等の死に場所は、皮肉にも苺が死んだ場所だった。あの醜い断末魔は、疾っくの昔に忘れた。」

朧は少し微笑む。そして黒い瞳で問う。

「そんなに恨むの?人間ってのは。」

神無月は微笑して、血の瞳。

「あぁ、人間ってのは、そんなものだ。唯の…それ以上もそれ以下もない、唯の存在だよ。『神様』?」

朧はくすり、と笑う。

「嫌だなぁ、神無月。こんな時だけ『神様』扱いはやめて欲しいんだけど?」

「俺だってしたくないがな。」

そして、朧は言った。

「まだ、龍並の霊力は使えない?この世界で1番強い霊力を誇っているのは龍なのに。それでね、神無月には龍以上の霊力が眠ってるのに。勿体ないよね。」

神無月は少し考えてこう言った。

「…俺には、『玉龍』が居るからな。もう、それでいい。」

「淡白だねぇ…。」

朧の声が、怪物の間の扉の前で響いた。目の前には、硝子の様な物が幾枚も重なった機械があった。支柱の真ん中には赤く丸いコアがあり、沢山の硝子が支柱にくっついている。

「…!?」

「……これは!」

ぐらり、視界が揺れる。

「やめろ……。嘘だ……。これは……。」

「あぁ……もぅ、………さ、いあ、く。」

眼の前が、黒き霧で曇る。



かつん、こつん、足音。

「兄様ったら、幽霊が苦手なんですよ。」

黎明が、説明を始める。蓮花は笑う。

「嘘でしょう?朧さんが、幽霊苦手なんですか?」

蓮花が信じられないという顔で黎明に問う。

「黙ってますけど、兄様は苦手ですわ。」

黎明は、くすくす笑う。蓮花が言った。あ、と黎明が付け加えた。

「神無月お兄様と、兄様が1度喧嘩なさった事が有りましてね…。」

「…もう、嫌な予感しか無いんですけど…?」

蓮花が顔を顰める。黎明は続ける。

「世界が崩壊しかけましたわ。」

「ですよね。」

仮にも人間と神の戦いだ。しかも片方の人間は宝刀を所持している。蓮花はくつりと笑った。そして周りを見渡す。

「にしても、本当に此処、幽霊出て来そうですね。」

周りには蜘蛛の巣、ぽろぽろと崩れる壁。かつこつと、誰かの足音。少なくとも、蓮花達の物では無い。

「じゃあ、これ見たら、朧さん逃げ出しますよね。」

「ええ。そうですね。」

黎明は即答した。いつの間にかの扉。がちゃんと開く。

「何ですの…?」

目の前には、優雅な舞踏会。2人は足を踏み入れた。

「これ、幽霊なのでは?」

「その可能性は充分ありますわね。」

ヴァイオリンの美しい音色に合わせて、男女のペアが沢山踊っている。何も、起こらない。扉は金色仕立てになっており、蓮花は思い付いた様にドアを開けた。

「これ、何ですか……?」

美しい、鏡の廊下。黎明は言った。

「どうやら…閉じ込められてしまった様ですわね…。」

蓮花は悔しそうに言った。

「神無月さんの様な『命を見抜く能力』が有れば……!」

黎明が優しく宥める。

「大丈夫ですわ。蓮花お姉様のお力はまだ使いこなせそうにないのですか?」

蓮花が俯いた。

「ごめんなさい。私には無理なんです。私には、『精霊収集機』しか。」

蜻蛉玉を、蓮花が触る。蓮花が続けた。

「取り敢えず策を考えましょう。悩むのはそれからでも遅くない筈です。」

黎明はにっこり微笑んだ。

「ええ。私も頑張って策を考えますわ!」

舞踏会はまだ終わらない。



『止めてくれ!死にたくない!あがぁぁ!?ひぎぁぁぁぁ!!』

神無月の耳元で、あの3人の断末魔が聞こえる。忘れもしない、あの瞬間。刀の状態から黒龍に形態変化させ、戦っていた。だが、ある1人が、神無月の腕を刺した。そして黒龍の体も刺していたその短刀は、暴走した。理由は、神無月の血と、黒龍の血が混ざった事が原因だった。短刀を媒介にして、皆を殺したのだった。うねる黒い『何か』が地を這い払い屋の体を這った。そして、鮮血。あの、言葉が回る。

バ ケ モ ノ !

近 寄 る な !

俺 は 、 バ ケ モ ノ ?

神無月は自嘲気味に笑って朧に問うた。

「これは、もしや…!」

「相手のトラウマを甦らせる様だねぇ…!」

朧にしては酷く余裕の無い声。機械が話す。

『ァ…ギィ…アァ……ヒョウテキ、ゲンエイジョウタイ…。プログラム…ヨミコミ…。』ざざざ、と機械の音。機械がプログラムを読み込み始める。朧は言った。

「ねぇ、神無月。此奴はプログラムを読み込み始めてる。もし読み込んだら、」

「俺達がまずいという事か。」

朧は応えた。

「うん。多分この幻影は、あの幾枚もの硝子から出てきてるんだと思う。きっと少し壊せば幻影は不完全な物となり、今の状態を打破出来る。」

神無月が言った。

「了解だ。その瞬間に俺が見抜いたら良いんだな。」

「うん。」

そして朧は呪文を唱える。

「汝、原子の源にあらん事を祈りし地を這う水よ。凍てつかせ氷柱を見せ給え!」

ぎん、と大量の太い氷柱が機械を貫く。ばりんと硝子が四方八方に散り、幻影が晴れる。神無月が言った。

「…見抜いたぞ。だが、この機械は真ん中のコアと周りの硝子を全て同時に壊さねばならん。」

朧は笑う。

「了解。ねぇ、神無月。私ね、これを作った人に言いたい事が有るのだけど。」

神無月は言った。

「それは俺もだ。」

朧はにやり笑う。朧と神無月は背中合わせこう言った。

「「男は逆境でこそ燃えるだろ?」」

一気にかかる。ばりんと割れ、そこからまた再生していく。しかしコアが壊せない。余りにも硝子の量が多いからだ。硝子は少しずつ再生していく。神無月が言った。

「…まどろっこしい!」

支柱に乗り、刀を引き抜く。腕を刺し、多量の血が出る。神無月はその血を『玉龍』の刃に塗ると、こう唱えた。

「忌まわしきこの血を纏う宝刀よ。神無月の名において、邪を目覚めさせん!」

刀は、うねる黒い『何か』に飲まれた。一気に地面から這い上がる。それを見た朧は狂笑した。

「…やぁっぱり、神無月の家はそうで無くちゃ、ねぇ?」

朧は欄干の上で少し呟いた。それは禁断の力で。

「ねぇ『ラプラス』。私に力を貸しておくれ。あの赤いコアを壊して欲しいんだ。」

片目が金色に染まる。紋章が深く金色に染まると、『それ』は発動した。神無月は溜息を付く。

「…全く、お前は…。久々の『ラプラス』だな。」

「そりゃあ、あんまり使いたく無かったからね。」

黄色の光がコアを斬る。神無月の黒い光は音速で全ての硝子を引き裂いた。天を引き裂く音が、洞窟内に響く。そして機械は停止した。しかし異変は続く。

「あがっ!?」

「神無月!?神無月!」

神無月の体中から血が吹き出る。

「ぐっ…!」

そして、服に血が染みる。朱に、染まる。ぐらり、神無月が膝を付いた。

「……力…を…使い、過ぎた……。」

そして、朧が神無月を見下ろす。

「ねぇ、力なんて使い果たしてないでしょ?」

「貴様……!」

だってさ、と朧は言った。

「先刻刺した腕の傷、もう治ってるでしょう?」

「……お見通しか。」

「そうだね。」

そして訝しげに神無月を見る。

「君、本当に人間?」

「どういう事だ?」

「普通、あんな霊力の消費をすると死ぬか体の崩壊。体の崩壊って言っても、腕が消し飛んだり足が無くなったり。だけど、神無月は体中の血が出るだけ。しかも直ぐに治る。………ねぇ、もう一度聞くよ?君は人間?」

神無月は鼻で笑った。

「俺は、人間だ。紛うことなき、人間だ。」

ただ、と彼は付け加える。

「……他人より少しだけ、霊力が強いだけだ。」

それが、少年の最後の慟哭だった。



「本っ当に出られませんわね…。」

永遠流れるヴァイオリンの音。寸分狂わぬ踊り子達。かれこれ数時間はさ迷っているが、全く何も変わらない。

「時間迄も変わらないとは、夢にも思わなかったです。」

夜の、11時30分。それから全く時が進まない。至る所を探してみたが、何も見つからない。その上、誰からも視認されないのだ。

「まさか見えなくなっていたなんて…。透明人間、ですね。」

蓮花と黎明は歩いていた。廊下を、誰からも視認されず、透けている自分達に孤独を感じながら。

「壁は触れるみたいですわ。」

黎明は言った。蓮花は応えた。

「しかも、ここじゃ精霊収集機も魔法も使えないなんて。」

「と言う事は、頭で考えなくてはならないということですわね。」

蓮花は少し考える。

「壁…触れる…同じ風景……。」

黎明が言った。

「それだけじゃ少なくありませんこと?」

蓮花が唸る。そしてこう言った。

「そうでも、無いですよ…。多分。恐らく。」

黎明が不思議そうに蓮花の顔を覗いた。

「同じ作りが沢山あるんですよね?そして壁が触れる。そうなると…なんでしょう?」

黎明は思い付いたように言った。

「……!わかりましたわ!鏡!鏡ですわ!」

「………鏡?」

蓮花が黎明に問う。

「同じ風景を鏡に映して映して、大きな廊下を先ず作る事が出来ますでしょう?」

蓮花が分かったように言った。

「それで廊下は完成ですよね。皆さんが踊っていた大部屋は鏡の間という事ですね。プロジェクションマッピングみたいな…。」

「ええ。だから、この鏡を壊す事が出来れば外に出られますわ。」

と黎明が言った。しかし蓮花が反論する。

「でもここは魔法が使えませんよね?どうすれば…。」

「ええっと…キック、とか?」

黎明が考えながら呟く。そして蓮花が思い付いた。大廊下の大部屋に入る突き当たりのドアがくっついている部分に立った。そして蓮花は言った。

「…黎明、ちょっと下がってて下さいね。」

「え、ええ。」

黎明が何をするのかという顔で蓮花を見る。蓮花は思いっきりドアの蝶番の部分にローキックを決める。蝶番が外れ、ドアが転がる。其処には剥き出しの壁紙があった。蓮花は思いっ切りかかと落としをした。がしゃん!、と音が響いた。連鎖が始まった。足元にヒビが入り、壁にもヒビが入る。奥の大部屋から崩壊が始まる。天井の鏡が崩れ落ち、一気に蓮花達の居る方へ向かう。

「蓮花お姉様!」

「黎明!逃げますよ!」

奥の大廊下まで全力で逃げる。しかし目の前には鏡の壁。しかし蓮花はその瞬間迄見過ごさなかった。

「精霊収集機!」

そして、精霊収集機の蜻蛉玉は蒼く光る。刹那、刀が出来上がる。そして蓮花は鏡を全て斬り裂いた。

「蓮花お姉様、どうして…?」

ええっと、と蓮花が説明を始める。

「まず、崩れた時点でこの空間は魔法を使える事になります。これは仮定だったんですけど、遠くから風が吹いてるのを感じたんです。だから、使えるかなぁ、なんて。」

蓮花はにこり、笑った。黎明も釣られて笑う。

「そう、それなら良かったですわ。」

其処には暗く煉瓦造りの空間とは裏腹に、暖かい雰囲気があった。そしてワープホールに向かう。黎明が溜息を付く。

「次が最後ですわよね?と言う事は…あの、愚兄……。」

蓮花がにこり笑う。

「私は神無月さんですから安心です。」

「羨ましいですわ。」

そして、ワープホールに足を踏み入れた。



「うげっ!黎明!」

「それはこっちのセリフですわ、愚兄。」

彼女は、兄を睨み、そしてその兄は、ニヤリ笑い黎明を見た。



「神無月さん!」

「蓮花か。もう直ぐで出られるぞ。」

「ですね。」

蓮花は笑った。神無月は言った。

「…ここを出たらどうする?」

「…朧さんをボコります。」

「良い返事だ。行くぞ。」

「はい!」

そんな物騒な会話は闇に消えた。



「まさか黎明と最後とは…この迷宮の悪意を感じるね!」

見ている此方が腹が立つような笑顔。黎明が返す。

「それは此方のセリフですわ。」

あ、と黎明が続ける。無邪気な笑顔。

「蓮花お姉様に兄様が幽霊苦手だって事、お教えしましたわ。」

「れーいーめーいーちゃーん?何してくれてるのかな?」

「久々に良い事をしました。」

にこやかに笑う。朧は怒る。

「流石のお兄ちゃんも怒っちゃうよ?」

「…お兄ちゃんと自分で言いますか?」

「何でも出来る素晴らしいお兄ちゃんだよ?」

笑顔で返す。黎明の反論。

「自炊すら出来ぬ癖して一人暮らしをしたい等と言い、挙句の果てにはおぞましい程の死んで欲しいぐらいの女誑しの愚かな糞野郎の何処が素晴らしいのですか愚兄。」

「…一息で、言い切った…!」

黎明の怒る声。

「私が聞いて欲しいのは其処では有りませんわ!」

「いやぁ黎明もまだまだだねぇ。」

「爆ぜてしまえ…。」

そして朧が続ける。

「昔は怖い夢見て一緒に寝てたのにね…。そんな可愛い黎明は何処に行ったのかなぁ〜?」

「潰しますよ兄様。」

黎明が朧を睨む。それを見越して朧は笑って言った。

「そう言えば…黎明と兄弟喧嘩した事無いよね?」

「そう言えば……今しますか?潰して差し上げますわ。」

「黎明にこんな素晴らしいお兄ちゃん潰せるかなぁ?」

朧は笑う。黎明は溜息をついて言った。

「別に良いですわ……。此処を出たら兄様にパフェを奢ってもらいます。」

「それは神無月にして貰う予定じゃ無かったっけ?」

黎明は怒る。

「勝手に人の会話見ないで下さいまし!と言うか、神無月お兄様にそれは悪いですわ!」

「…その優しさお兄ちゃんにくれないかなぁ…。」

朧の溜息。黎明のしてやったりの顔。

「にしても、暗いですわね。」

「…黎明は怖くない?」

「はい?」

「いや、だから怖くないかって。」

黎明がその後散々に朧を莫迦にしたのは、言うまでもない。



「神無月さん、本当にこの道であってるんですか?」

「……知らん。」

今、蓮花と神無月は絶賛迷子中だ。蓮花が言う。

「…一応『迷宮』なのに、どうして迷路が最後にあるんですかね?」

「それは朧に聞け。」

蓮花が驚いた風に聞く。

「…………これ造ったの、朧さんなんですか?」

「そうだ。あの莫迦がいきなり造るとか言い出して、力を貸せと言ってきた。」

蓮花のため息。

「その光景が目の前に浮かびます。」

神無月が言う。

「本当に出られないな。」

「どうしましょうか?」

神無月がため息をついた。そして蓮花に言う。

「いいか、下がれ。絶対に前に出てくるなよ?」

「ええ、分かりました。でも、何をするおつもりで?」

「見ていれば分かる。」

神無月は後ろに少しだけ後ろに下がると、刀を横に振りかざした。目の前の迷宮が砂と化す。奥の方にモンスターが居る扉が見える。

「………神無月、さん?」

「こんなもんか。」

神無月の白皙に、崩れた松明の炎。蓮花は言った。

「神無月さんって、時折ドSか天然か分からなくなりますね。」

「…どえす?てんねん?」

蓮花は笑顔で言った。

「何でもないですよ。さぁ、行きましょう。」

大理石で作られた扉が、今開かれる。



「兄様!本当に出られないのですか?」

黎明の叫び声。朧が呑気に返す。

「仕方ないでしょー。この猛吹雪なんだからー。」

「棒読みなのはやめてもらって良いでしょうか?」

黎明の朧の目の前は猛吹雪だ。膝まである物凄い雪の量。

「私の炎の魔法で何とか結界を張っていますが、そこまで長くは持ちませんわ。元々の規定量が兄様に比べて少ないので。」

朧は一瞬だけ歩みを止めた。黎明が問う。空気が、黒く曇る。

「……兄様?」

「…え、あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた。にしてもさぁ、これどうしようか?」

黎明は下を向く。そして唱えた。

「…古代より奉られし活命の炎よ。地から生でし溶岩を呼べ!」

その瞬間、雪は消えた。雪雲も、雪も、吹雪も、全て炎の力で溶ける。朧は驚く。

「黎明、凄いねぇ……。」

「何故でしょう?兄様に言われても全く感動が起きませんわ!」

黎明は笑顔で言った。そのまま、大理石の扉に白磁の手をかけた。黎明が振り向く。

「兄様、いらっしゃらないの?」

「黎明に任せてもいいんじゃない?」

「にーいーさーまー?」

「ごめん。ちゃんと行くから。」

そしてガタンと扉を開けた。



神無月と蓮花の前に現れたのは、顔が三つある巨大な犬だった。神無月が言う。

「……ケルベロス、か。」

「ケルベロスって、地獄の番人ですよね。どうしてこんな所に。」

神無月が憐れむように言う。

「…恐らく朧に連れてこられたのだろう。…可哀想に。」

「朧さんって地獄逝けるんですか?」

蓮花が問う。

「…彼奴は『ラプラスの魔物』だろう?逝けるのではないか?」

「そこら辺良く分からないですよね。」

蓮花の呆れた顔。神無月が言った。

「まぁ、彼奴は将来地獄に逝きそうだがな。」

「そうですね。…この子、倒さなくちゃ駄目ですか?」

「…俺も倒したくはないが、仕方ないな。…蓮花、教えた通りにやるんだぞ。」

「了解です!」

刀ペア、見参。



大理石の扉を開け、足を踏み入れた黎明はその姿に圧倒した。

「に、いさま。これ、は?」

「あー………。地母神ガラシャルラに当たるとは私もツいてないねぇ…。」

目の前には、立派な鬣の付いた翠色の龍。蛇の様に体をくねらせて、此方を見据える。朧が言った。

「……面倒くさいなぁ。」

「兄様は本音をちょっと仕舞って頂けますか?」

はぁ、と朧のため息。そして再び口を開く。

「……『ラプラスの魔物』、使おうか。」

「では私は『マクスウェルの悪魔』を。」

朧の目が金色に光る。両手両足が白龍のそれに代わった。黎明が叫ぶ。

「私の眷属、『マクスウェル』!汝の力を私に貸して下さいまし!」

黎明の周りに科戸の風が吹く。目の前には角端が現れた。そして同時にかかるが、相手は一切微動だにしない。朧が言った。

「これは、もう。」

「待って下さいまし兄様!お願い!それだけは!」

朧は振り向かずに唱え始めた。

「白き創造神よ。その姿を我が身に写せ。」

朧は近くの柱に手を付く。そのまま、倒れる。そして、その前には巨大な白龍がガラシャルラを見据える。そして白龍の咆哮。白龍の鱗は閃光に煌めき、目は美しい蒼色。そして勝敗は一気に決した。しかし白龍は暴走を続ける。黎明が一つため息を付いてこう言った。

「白き創造神を止める、黒き我が下僕よ。汝に任を与える。」

黎明の目が、銀色に光る。そして『ラプラスの魔物』は、風を撒き散らしたように消えた。黎明が朧に駆け寄る。

「兄様!」

「れ、いめい?」

黎明は安堵のため息を付いた。朧が立ち上がろうとする。黎明が止める。

「駄目ですわ、兄様。『ラプラスの魔物』を使った時にはかなりの魔力消費があります。しかも元々兄様の体に残っていた魔力では、『ラプラスの魔物』を形作る事は不可能でした。だから、この状態でも持つか私でも心配なのでございます。……どうかこの黎明の言う事を聞いて下さいまし。」

朧が途切れ途切れに言った。

「だいじょ、ぶだよ。たて、るし。」

黎明が俯いて言った。

「……私は先に『マクスウェルの悪魔』の力を授かりました。」

朧は黎明を見据える。

「それは、きっと…兄様の事が心配だったからですわ。」

朧が問う。

「うふふ、黎明。何が言いたいの?」

黎明は視線を流しながら立ち上がった。

「…いえ、ただお母様達の考えが、少し分かっただけですわ。」

「…そ、う。」

朧は懐かしそうに笑って、そのまま倒れた。静かな寝息が聞こえる。黎明はため息を付いて、ワープホールまで朧を引っ張った。



「蓮花、大丈夫か?」

「ええ、大丈夫、ですけど…。」

神無月の問に蓮花は返答する。

「でも、これって本当に攻撃通ってるんですか?」

はぁ、と神無月の溜息。そして言った。

「いいか、俺が今から少しだけ隙を作る。その間にあの魔物の後ろ足の付け根を思いっ切り斬るんだ。」

「わ、分かりました。」

蓮花が構える。神無月は言った。

「…閃光弾!」

閃光は長く煌めく。

「最初の間は何ですか。」

「…あった方が、格好いいだろ?」

「いやそういう問題では無いです。」

「取り敢えず、蓮花は頑張れ。」

「了解です。」

蓮花は跳躍すると、ふらつくケルベロスに乗ると、後ろ足の付け根を両方斬った。ケルベロスはふらつく。そして倒れた。蓮花が言う。

「…これってまだ倒してませんよね?」

「…そうだな。」

ケルベロスの唸り声。蓮花が近付く。そしてケルベロスの頭を撫でた。

「大丈夫ですか?直ぐに返してあげますからね。」

そして蓮花は振り向いて神無月に言った。

「この子、元の世界に戻す事は出来ませんかね?」

神無月が言った。

「恐らく……可能だが、まぁ、頑張ってみるか……。」

神無月はケルベロスの頭に立つと、呪文を唱え始める。

「地底の国を守りし門番よ。地に還りその傷を癒せ。」

ケルベロスの真下に、青緑色の魔法陣が起こる。そして怪物は淡く白く光り、拡散した。奥にワープホールが見える。神無月が言った。

「出るか。」

「そうですね。」

2人はそのワープホールに足を踏み入れた。



黄昏。暖かい風が蓮花の頬を撫でた。

「やっと、出れましたね。」

蓮花の独り言。朧が返す。

「本当に大変だったねぇ。」

「元はと言えば朧さんのせいじゃないですか!」

「まぁまぁ。出られたんだしさ。終わり良ければ全てよしって言うでしょ?」

「そういう問題では無いです…。」

蓮花のため息。黎明が言った。

「全ては兄様のせいなので気にする事はないですわ。それに、もう5時ですし…。蓮花姉様も帰らなくてはいけないのでは?」

黎明が蓮花に問う。

「あ、そうですね。今日は叔母さんが早く帰ってくる筈です。5時半頃に。」

神無月は言った。

「ならば帰った方が良い。俺も帰るからな。途中まで一緒に帰ろうか。」

神無月は朧に流し目をして、そして蓮花に向き直った。蓮花が言う。

「ええ、そうですね。お願いします。」

そして2人は十字路を目指して歩き始めた。2人の姿が見えなくなった所で、黎明が朧の膝を蹴った。そのまま膝を付く。

「…黎明、ひどい…私としては、…最…後…まで……頑張…る……つもりだったのに……。」

「無理ですわね。」

黎明の冷えた視線。朧は立ち上がろうとするが、睡魔で足に力が入らず立ち上がれない。

「黎明、助けて……。」

黎明はそのままの冷えた視線で朧を引っ張り古書堂に突っ込む。カウンターの奥にある木製の扉のすぐ側にあるレバーを幾つかの選択肢の中から『部屋』に変える。そして朧をその中に突っ込んだ。

「うぅ……もうち…ょっと優…しく扱うとか、…無い……のか…い……?」

「無いですわね。」

全く、と黎明が続ける。そして床に突っ伏している朧をベッドの中に投げ捨てた。朧が言う。

「ねぇ…私…つよ……い……でしょ……?」

黎明が朧を流し目で言う。

「…本当に強い方は、己の力を知っていて、無理などしませんわ。…でも、お兄様は強いです。無理した時はちゃんと仰って下さいね。」

黎明は扉から出ると、レバーを『台所』に変えると、夕食の準備を始めた。



「じゃあ此処でな、蓮花。」

「はい。送って頂いてありがとうございます。」

あの、と蓮花が続ける。

「朧さん、大丈夫でしょうか?どことなく何時もと違う様な……。」

神無月が驚愕の顔で蓮花を見詰めて言った。

「…お前は、あの違いが分かるのか?」

「あ、え、そうですね。」

神無月が説明を始める。

「もう其処までバレているのなら良いか。まず、魔法使いは魔力を所持している。それは分かるな?」

「ええ、存じております。」

蓮花が応える。神無月が続けた。

「魔法使いは普通の人間と違って、体力=魔力なんだ。だから魔力を使い過ぎると体力が同時に無くなる。」

「え、じゃあ!」

蓮花が思い付いて言う。

「そうだ。彼奴は今回、魔力消費の大きい魔法を大量に使った。元々あの首飾りで魔力を調節してる上、酷使したから大変だろうな。」

蓮花が尋ねる。

「朧さん、大丈夫ですかね?」

「大丈夫だ。大変なのは黎明だ。これから暫く夕飯と洗濯その他諸々のあの野郎+黎明の分があるからな。」

「……手伝いに行った方が良いのでは?」

神無月が言う。

「俺は構わんが、蓮花は良いのか?家の人が心配しているのでは?」

蓮花は可愛らしい小さい肩掛け整鞄から携帯を引っ張り出すと、数文字打って送信した。神無月が問う。

「……何をしたんだ?」

「叔母さんを静かにさせる魔法の言葉です。これを言ったら大体の事は黙ってくれます。」

「……一体何を送ったんだ…。」

「さぁ、戻りましょう。」

蓮花が言う。神無月が言った。

「良いか、何があっても朧の事は心配するなよ。」

蓮花が不思議そうに問う。

「何故です?」

「照れて彼奴が焦るからだ。」

「成人男性ですよね?」

神無月が呆れて言う。

「妹に言われて焦る奴だぞ?気持ち悪くて見ていられなかった。」

「精神年齢以外と子供ですよね、あの人。」

蓮花と神無月は辺が少し暗くなり始めた煉瓦造りの美しい輝く道を歩き出した。

蓮花ちゃんと朧ちゃんが可愛いです。見ててほんわかします。コメント下さい。

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