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正月と古書堂と払い屋


かん、かん、と草履の音。くつ、くつと淡い新雪。浮かぶは、赤い着物。肌を切り裂く寒さ。蓮花は赤く毱の金刺繍が施された着物を着、髪を結って貰い、元旦のエレクトローネを歩いていた。遠くの古書堂の方に金髪の美しい少女が見える。しかしそれも今は、結っている。そして淡雪に溶けてしまいそうな白い着物を着て、其処には儚げな花の刺繍がしてあった。帯には可愛らしい小鳥が描いてある。蓮花は近付きながら声をかけた。

「黎明!明けましておめでとう御座います。」

その少女は笑顔で振り向き、こう言った。

「ええ、蓮花姉様。明けましておめでとう御座います。」

蓮花は黎明に問う。

「こんな朝早くから、一体どうしたんですか?しかも着物なんか着て。朧さんが起きてると思えないし。」

うふふ、と黎明が笑った。

「兄様、起きてるのですわ。私、最初はびっくり致しましたけど。どうやら神無月お兄様の所にちょっかいを出しに行くそうです。」

「まぁ、ちょっかいって言っても一緒に初詣に行くだけだからね?黎明。」

朧は扉を開けて黎明を見て言った。蓮花が言う。

「朧さん、明けましておめでとう御座います。」

「そうだね、明けましておめでとう。」

朧は笑う。朧は総絞りの着物に、黒い羽織、白い帯を付けていた。蓮花が問う。

「朧さん、着物なんて持ってたんですか?」

朧は渋る様に言った。

「いやねぇ…去年までは要らないし、持ってなかったんだけど、昨日お師匠様が、『明日の初詣はこれを着て行け』って書いてある手紙付きで送られてきてね。黎明の分まであって……とても綺麗だったから良かったんだけど、……あの人後に請求して来ないかな?」

あとそれに、と付け加える。

「……なんでお師匠様は私と黎明のサイズ知ってたんだろう………って。」

蓮花が言った。

「そ、その事については触れては駄目な気がします……。」

「私もですわ。」

黎明が続けた。そして朧が言う。

「あーあ、神無月の家に入るの大変なんだよねぇ…。」

蓮花が不思議そうに訪ねる。

「……神無月さんのお家、入るの大変なんですか?と言うか何をされるおつもりで……?」

朧はめいいっぱいの笑顔で答えた。

「不法侵入、かな!」

「いや何が『不法侵入、かな!』ですか!駄目でしょう!」

「毎年の恒例行事だよ!蓮花ちゃん知らない?」

「知ってたら注意してます!なんで朧さんって捕まらないんですか…?」

「さぁ、何でだろうねぇ?」

にこやかに、朧は笑う。そして蓮花は聞き直す。

「あの、その、入るの大変っていうのは、セキュリティの面で、ですよね?」

慌てて、蓮花が問う。

「あぁ、知らなかったっけ?神無月の家は大富豪なんだよ。」

「………………………は?」

蓮花は間の抜けた声を出す。朧は続ける。

「神無月の家は花霧町にある事は知ってるよね?あの大きい町だよ。」

「し、知ってます。それは、知ってます。」

蓮花は思考回路が追い付いてないような顔で言った。

「あそこの大地主兼払い屋連合会の会長さんだよ。神無月のお父上は。」

蓮花は少し詰まる、そしてまた問う。

「ええと、払い屋連合会、とは?」

「その説明はまだだったね。まず、この辺りは国がない。だから税金は無いんだ。だけど花霧町には税金がかかってる。だから花霧町は高級住宅街として有名。その上払い屋が沢山いるんだよね。」

「ええ、存じております。」

蓮花が落ち着きを取り戻して、朧に言った。

「で、ばらばらだと連絡も取れやしない。それは不便でしょ?何かあった時に助っ人が居ると便利だ。」

「えぇ。そうですね。」

ただ、と朧が続ける。

「でも、その区間、誰がいるのかは分からない。そこで、四神の名に準えて朱雀団、青龍団、白虎団、玄武団の四つに分けたんだ。その四つの団に一つずつの団長が居る。そしてその四つの団の上に一つの『神獣団』がある。そこの団長が払い屋連合会の会長なのさ。」

そして、と朧は続ける。

「もっと凄いのは、払い屋連合会の人数だ。」

「人数……ですか?」

蓮花が問う。

「…一万人程入ってるらしいね。年会費とか取るから、ね。」

朧の目が一瞬で死ぬ。その顔で笑う。

「それは、それは、ですね。」

蓮花も俯いた。そして朧は言う。

「そういう訳で、神無月にちょっかいをかけに行くんだぁ…。」

朧の、黒い声。蓮花が言った。

「分かりました。朧さんの、不法侵入する理由が、分かりました。そういう訳で、行きましょうか。」

3人以外、誰も居ない道路で、2人は目が死んで笑い、そして残りの1人は言った。

「兄様、姉様方。一応言っておきますが、犯罪ですからね?」

その声は、凛と響いた。



「そんなこんなで、来てしまいました…。」

「どんなそんなこんなですか姉様。」

朧が口を挟む。

「蓮花ちゃん、去年は黎明、ノリノリだったんだよ。」

「兄様は口の中にお餅を突っ込ませましょうか?」

「それは遠慮願いたいねぇ……。」

蓮花達は花霧町の神無月邸を遠くから見ながら立っていた。和風建築の巨大な門構え。門の前にはSP達が大量に見られる。朧は言った。

「よし、こっちだよ。」

蓮花は小声で問う。朧が駆け出す。蓮花も付いて行く。

「朧さん、何でそんなに詳しいんですか?」

「昔っからちょっかい掛けてたから!」

黎明のため息が聞こえる。そして裏手にも大量のSPがいた。しかし、女給が1人。黎明が言った。

「待って下さいまし兄様。」

「待って黎明私何も言ってないよ。」

「素直に口説いて通るって言えばいいですよ、朧さん。」

蓮花と黎明のため息。しかし朧は悪い笑みをして言った。

「まぁ言っても言わなくても私はするけどねぇ〜!」

「するんですか朧さん。別にいいですけど。」

蓮花の白い目。そして黎明の平手打ちのポーズ。朧は笑顔で口説きに向かう。これが成功して、朧のドヤ顔が鬱陶しく、黎明の平手打ちが炸裂したのは、言うまでもない。



張り詰めた空気の中で、神無月は空を見つめていた。此処は、大広間に繋がる前の、一室。襖を開けた後に、男の声が聞こえる。

「若様。間もなくでございます。」

「……わかった。」

神無月は紋の付いた袴を着て、立ち上がった。



「おーっと、ここだねぇ!」

朧達は口説いた弾みで裏口から入れてもらい、その裏口は庭に続いていた。其処から朧が昔作った抜け道を通って、神無月が居る大広間が見える茂みに隠れた。

「神無月さん、まだですかね?」

蓮花が小声で問う。黎明が答えた。

「恐らく、今話されているのが現当主、神無月お兄様のお父様ですわ。ええっと、この案内状によると…。」

朧が口を挟んだ。

「あ、今さっきスった案内状取られた!」

「兄様からスるのは朝飯前ですわ。ええっと、それでですね…。このお話はあと5分程で終わりますわ。その後神無月お兄様の祝辞、ですわね。」

あの、と蓮花が問う。

「そもそもこれって、何なんですか?」

あぁ、そうだねぇ、と朧が言う。

「これはね、払い屋連合会のそれなりにお偉いさんが集まる会合?だね。」

黎明が言った。

「あ、想像以上に早く終わりましたわ…。に、兄様?」

朧の悪い笑み。そして言った。

「ほら、行くよ。ゲームはこれからだ。」

蓮花達は場所を移動する。朧が先に縁側に足をかける。SPは叫んだ。

「お、お前等は!」

「はい黙って黙ってー!」

朧の棒読み。朧が指を鳴らすと、廊下に居た何人もの男達は倒れた。朧は笑う。

「ねぇねぇ、格好良かった?ねぇ?」

「はい格好良かったですよー!」

蓮花の棒読み。朧の少し怒った顔。

「えー!酷い!」

蓮花の一言。

「此処にずっと居たら気付かれるのでは?」

「そうだね。じゃあ此方に行こうか。」

朧は廊下を歩き出した。



「これで、神無月 白羽様の祝辞は終わります。」

焦燥。恐怖。それが混ざるこの1年最悪の年。神無月は冷めた顔で襖を開けて、大広間の後ろに回った。一気に汗が出る。そしてあの部屋に戻る。悪夢はまだ終わらない。



「はーい!神無月!元気ーー?」

この日には絶対に聞きたくない、朧の呑気な声が聞こえた。神無月が問う。

「…何故、貴様が此処に…?」

黎明と蓮花が声を上げた。

「申し訳御座いません、神無月お兄様。我が愚兄が…。」

「私もお邪魔してます、神無月さん。」

神無月が口を開いた。

「蓮花と黎明は良い。何故貴様が此処に居る?」

「いや何で神無月は2人を許して私を許さないの?」

朧の笑い顔。神無月は言った。

「それよりも…明けましておめでとう御座います。」

朧が言った。

「そんな硬い事言わないで!『明けましておめでとう』で良いの!」

「……明けまして、おめでとう。」

神無月の、小さい声。そして、神無月が言った。

「何か、出そうか?」

黎明が言う。

「もう!神無月兄様!そんなのはいらないんです!」

蓮花が続ける。

「私達、皆と一緒に初詣に行きたいんです。」

「……『初詣』?」

神無月の素っ頓狂な声。朧が恐る恐る問う。

「ねぇ……もしかしてだけど、神無月は『初詣』を知らない、なんて事は無いよねぇ?」

神無月が一拍置いて言った。

「『初詣』とは、なんだ?」

沈黙が訪れる。そして神無月は続けて言った。

「…後、俺はこの町に詳しくない。故に、」

「『神社』が、分からない……?」

朧が続ける。神無月はこくりと頷いた。沈黙がまたもや訪れる。そして、黎明が笑う。

「うふふふ…。そんな事ですか?」

蓮花が不思議そうな顔をした。黎明が続ける。

「我が愚兄、1度見た事聞いた事、忘れぬ質なのですわ。それが一瞬であろうとも。」

朧が優しく笑う。黎明が続ける。

「それが我が愚兄、最大の強み。ですから神無月お兄様。昔からちょっかいを掛けてきた兄様の本領発揮ですわ!」

朧が言った。

「そんな過大評価されても困るよ黎明。確かに3年前に見た神無月家のお得意様の編み込みの紫色の袴着たちょっと端が破けてた女の子は確かに可愛くて付けたけど。」

黎明はにこり笑う。

「ね?」

蓮花が突っ込む。

「いや付けちゃ駄目です。」

神無月は驚いた。そして心の底から笑う。次期当主。その重みに耐え切れない日々。父親や母親の言う通り。でも、この人達と一緒に居ると幸せで。

「朧、連れていってくれるか?」

朧は目を見開いて驚いた。そして笑う。

「ふっふーん!私をなんだと思ってるの?」

黎明が付け加える。

「変人変態野郎ですわ。」

「酷いよ!黎明!」

そして4人は外に出た。黎明と蓮花は2人で楽しそうにしている。朧は神無月に声をかけた。

「神無月さぁ、」

神無月が遮る。

「お前の考えている通りだ、朧。この後俺には絶対に抜けてはいけない会議があった。矢張り覚えていたか。」

朧が続ける。

「そうだよ。あの案内状をスったあと、数分程見ることが出来た。一字一句忘れぬ様に頑張ったよ。その次いでで地図を覚えた。」

神無月はため息を付く。

「貴様は今日の朝、まだこの花霧町の地形など覚えていなかった。そうだろう?」

「あぁ、そうさ。何も出来ないお坊ちゃん神無月くんには無理だと思ったからね。」

「酷い言いようだな。」

神無月が笑いながらため息を付いた。朧が言った。

「ほら、行こう。『初詣』、初めてなんでしょう?」

「嗚呼、そうだな。」

黎明と蓮花が声を上げる。

「まだですかー?」

「早く行きましょう!」

神無月は笑って3人の元へ駆け寄った。

皆様何処で私の小説見つけて来るんですか?凄いですよね!結局はコメント下さいの意思表示ですよ!

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