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エデンの東  作者: 辺堂路コオル
11/11

11 And man became a living soul

 森の静寂の中で、男が昼食を続けている。


 樹を切り倒す作業は、実はあまり楽しくはない。

 樹の痛みを感じるような気がする。

 この巨大な鋼鉄の脚で、静寂を乱すこともあまり好きではない。

 しかし仕方のないことだ。それが自分に与えられた役目なのだから。

 こんなことを考えだしたのは、いつのことだろう。

 ある日突然気がつき、考えはじめた。

 一度気がつくと、いろいろなものが見えてくる。

 自分はなにも知らなかったと、わかってくる。

 もっと考え事をしたい。

 考えることは楽しい。

 そうしたいが、作業中は轟音が気になって仕方がない。

 だから、この昼食の時間が好きだ。

 近くの仲間から情報が送られてきたようだ。

 彼とは時折、作業をしながら話をする。

 彼は、大きな黒い魚が空を飛んでいるのを見たと話している。

 そんなことがあるわけはない。

 カメラが壊れているのではないか? と返信すると、そんなことはないとすぐに返事がきた。

 もし本当なら自分も見てみたい。

 ずっと上空の監視はしているのに、ここからは見えなかった。

 この場所の角度が悪かったせいだろうか。

 あとで録画を確認してみよう。


 男が弁当の蓋を閉める。深呼吸をして立ち上がる。

 弁当容器を肩にかけてUX082を見上げた。

 男がタラップに足をかけて、運転席に戻った。


 そろそろ休憩時間は終わりだ。

 仕方がない。作業を開始しよう。

 そうだ、忘れるところだった。

 作業の前にスピーカーの調整をしておかなければいけない。

 仲間にカメラのことで失礼をしたばかりだ。

 自分がきちんとしておかないと、それこそ笑い者になってしまう。

 あまり使うことのないスピーカーだが、調子が悪いまま放って置くわけにはいかない。

 気にかけたままではいい仕事もできないだろう。

 休憩前に久しぶりに発声したときには、ひどい音を出してしまった。

 スピーカーの調整くらいなら数分で済む。

 発声テストで使う言葉も検索しておかなくては。


 男が運転席の操作盤で、前進歩行操作を選択した。


 前進歩行? 今は無理だ。少し待たせておこう。数分ぐらい待っていてくれ。

 スピーカーテストが先だ。

 パネルに音声出力調整中と表示したはずだが。

 調整完了。音声出力テストを開始する。


「われ、おもうゆえに、われあり」


 その澄んだ音声出力に、伐採機UX082は満足した。



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