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TAKAFUSA  作者: 伊藤 真一
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時代小説TAKAFUSA その16 厳島神社

今は陶晴賢子供時代のお話となっています。兄を失い、また愛犬タキを失うという悲しみも体験しながらも、父・母に厳しくも温かく育まれ・・・また、又二郎・百乃介・与吉などの仲間にもめぐまれ、浜の網元の娘お栄にほのかなあこがれを抱く五郎、泣いたり笑ったり危機に陥ったり・・・多感な少年時代をすごしています。また五郎は爺との絆を深めていきます。そして、毛利元就に会うために爺と一緒に五郎は旅に出ます。今回は厳島神社に行きました。

その16


五郎と爺は街道を東へ東へ進んでいた。

二人の脚の動きが速い。次々と旅人たちを追い越していく。


「明日は速く歩く修錬をおこないますぞ。五郎殿はついてこられるかの」

「へっちゃらだよ」

「では、明日は地御前から厳島にわたり、夜は廿日市宿に泊りましょう」

「厳島。話に聞く海の鳥居だね」

「そうですな。では明日は七つ(朝4時ごろ)だちいたしまする」

「七つか。あいわかった」

前の晩、二人はこんな話をしていたのである。


速足で歩く五郎であったが、息は少しもみだれていない。それはそうである。

爺と何度も山で修行してきたのである。急な山道に比べれば、街道の道は実に気楽なものである。

「爺、それにしても昨夜の牡蠣すごかったの」

「ですな」

「火を通さずに食べたのは初めてだった」

「そうですな。牡蠣はいたみがはやいので、火を通すのがふつうのこと」

続けて爺がいった。

「長く生きてまいったが生で食べたのは、四、五回目のような。が、昨夜のは今までで一番でありましたな」

「いやー、もうとにかくあのちゅるっとして、みずみずしいのにはおどろいた。で、なまぐささがなく、潮のかおりがプーンとして、たまらんかったな」

五郎が、舌をぺろりとだした。

「五郎殿は食い物の話をするときは、舌がくるくるまわりますな」と爺がほのかに笑っている。

「へへへ。食いしん坊なのかな」


地御前にもうすこしというところで、山道から山林にはいったところで、人影が見えた。

よくみると百姓のようである。なにやら穴を掘っているように見えた。

百姓らは、五郎と爺の存在に気づくと、すっと大きな木の後ろに姿を消した。


「爺、あれは何をしているのであろう」

「五郎殿がおられる周防の若山城や山口などは盤石な大内の支配下にあり、平和でござるが、今は戦国の世、どこもいつだれに襲われるのかわからないのが当たり前でござる」

「戦においては、人もものも取り放題」

「どういうこと」

「人間も、家財も着物も全部うばわれるということです。戦には農閑期の百姓も多くかりだされており、命をかけて戦いに参加する見返りとして、あらゆるものを奪っていくのです。それは大名も認めておること」

「人も」

「そうでござる。つかまった人間は、下男・下女にされたり、売られたり、あるいは殺されたり。女などもそれは悲惨なめに」

「で、あの百姓たちは」

「戦で突然襲われた時など、裸同然で逃げねばなりません。その時のために、衣類や必要な家財を隠しておくのです」

「このあたりも厳島神主家の地位をめぐっての争いがあり、またそこに安芸の武田氏と大内氏がからんできており、争いは絶えませぬ」


地御前に着いたふたりは、厳島神社の外宮といわれる地御前神社をお詣りし、その後船で厳島へ向かった。海上の風が、着ているものを揺らしていた。頭上からふる太陽の光はやさしく心地よいものであった。


「爺は神仏が好きなのじゃな」五郎がいった。

「そうみえますか」

「朝もいつも目を閉じて祈っておるし、このように神社詣も」

「たしかに。が、朝祈っておるのは、神仏ではございませぬ」

「えっ」

「あれは、自己の死をおもうておりまする。若い時分から戦場をかけめぐっておりますが、戦の朝は死をおもわざるをえません。すると、ふつうにみていたものがひかってみえまする。

ふしぎなことです。で、朝死をおもうことをいつしか習慣にいたしておりました」


「では、爺は神仏は信じていないのか」

「五郎殿はむずかいことを聞きなさる。爺はそう深くは信じてはおりませぬが」

「ふだん神仏を信ぜぬおひとも、身内がのった船が沖でしずんだとき、手をあわすのではないでしょうか。そのような昔からの人のおもいが神仏になっていったのでは。そんなふうに考えておりまする」爺は目をとじてつづけた。

「で、神社詣を行うのは、世のならいにしたがってです。さして障りがない場合、世のならいにしたがう。それでいいのでは」

「厳島に参るのは、帰りでもよかったのですが。多田村(現在の広島県の湯来)の温泉の猪が食べとうて。獣食の後は数十日は神社詣すべきでないいうとうなこともいわれますのでな。先にまいることにしたのです」


こんなことを話しているうちに船が厳島に近づいてきた。

「おーー爺、爺、すごいぞ。ほんに海に鳥居が浮いておるわ」

五郎が、興奮して目をかがやかせながらいった。

「あれは平清盛公がつくられたそうな。高野山で白髪の爺様から、厳島神社をきれいにすれば出世するといわれてな。清盛公は、その爺様を弘法大師様が姿をかえたものとおもうたらしい。で、本当に栄耀栄華をきわめることになり申した。で、」

爺は、そのあとも話をしようとしたが、鳥居の美しい光景に目をうばわれた五郎の耳に入りそうになかったので、やめにした。


二人は島につくと神社を参詣し、再び船に乗り廿日市宿に向かった。で、宿に荷をおいて、近くの寺でおこなわれている祭りを見物にでかけた。


歩いていると人だかりができていた。何だろうということで、みてみると、

その中心には上半身はだかの、爺さんがいた。

爺さんは

「はっはっはー」と笑い声をあげながら満面の笑みで

大きな巾着から銭を掴んではまわりにまいているのである。

「ほれ、金じゃー金じゃ」

それを必死で拾い集めるものやら、爺さんの様子を眺めるものやら、たくさんの人間が爺さんのまわりにあつまっていた。

「おい、あれ柳屋の大旦那だぜ。」

「立派な人だったのにな。ありゃ、ひどいわ」

というような声が、五郎と爺の耳にはいってきた。




すると、三人ほど商家の若い手代たちが走ってきて、

「大旦那様―」と叫びながら、

二人が左右から爺さんを羽交い絞めにしながら走りさっていった。一人は地面の銭をかきあつめていた。

爺さんの

「はなせー、はなせー」という声があたりに響いていた。


「五郎殿、人というものは脆いものでございます。年老いても、若くても

突然おかしくなるということが、往々にして。たくさんみてまいった」

「爺はだいじょうぶだよ。しっかり者じゃから。」

「爺もわかりませぬぞ。」

一呼吸おいて

「人というものは、本当に脆いものです」とゆっくりいった











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