TAKAFUSA その11 陶晴賢 鬼畜(三)
まえがき
今は陶晴賢子供時代のお話となっています。兄を失い、また愛犬タキを失うという悲しみも体験しながらも、父・母に厳しくも温かく育まれ・・・また、又二郎・百乃介・与吉などの仲間にもめぐまれ、浜の網元の娘お栄にほのかなあこがれを抱く五郎、泣いたり笑ったり危機に陥ったり・・・多感な少年時代をすごしています。今回も五郎は危険な事件に巻き込まれていきます。五郎の身に危機が・・・・ついに爺が動きます。
その11(三)
数日後、五郎は与吉とともに施設にいた。
死んだ誠吉のことについて・・・何か話を聞けないかと思い・・・
庄吉に頼んで連れてきたもらったのである。
善右衛門が
「これはこれは陶の若様、このようなところへ、誠にありがとうございます」
「いや、誠吉とはよく話す仲だったもので・・・どんなところで生活していたのか少し見てみたかっただけなので・・・邪魔して悪いな」と五郎。
「いえいえ、若様のようなこれから大内の重臣となられる方に、まことの民の窮状、とくにこのような境遇の子どもたちの様子を見ていただけることは、こちらこそ大変ありがたいことだと思っております」
五郎と与吉は、一時間ばかり施設や子供たちの様子を見学して帰っていった。
その晩のことである。
道雪が真顔で言った。
「陶の若殿は・・・心に何か疑念をもってきたようですな。
・・・私にはそう見えました。間違いござらぬ」
「施設でも・・・誠吉の脚のことなど、いろいろ聞いておったそうな」
と孫左衛門。
「ガキ一匹といえども・・・早めに手を打ったほうがよいの・・・。
しかし、あの陶のガキはちょっとい男前だね。
道雪殿、あの年でも心を入れ替えることできますかね・・・」
善右衛門が目を光らせた。
「楽ではないですが・・・私の腕ならなんとかなるでしょう」
「あれなら・・・余所の地域の同業にも高く売れるぜ・・・
最近は刃傷沙汰もなく・・ひまで酒ばかり飲んでる先生方に
お願いしましょうか。」
次の日の昼頃
五郎は与吉とともに父の遣いで、街道を歩いていた。
「父上もわざわざ俺を使わなくてもいいのに…面倒だなあ」と五郎。
五郎が与吉をみると・・・
(えっ)
表情が引き締まっている。
「五郎様、後ろかやってくる連中ですが・・・先ほどからみるに・・・
我ら・・・いや、私ではなく、おそらく五郎様のことをつけてきている
ようですな」
「全く気付かなかった・・・すげえな与吉」
「はっ。ただ私の見るところ尋常な連中ではございませぬ。」
五郎がさりげなく振り返り、
「まさに。ちらっと見たが・・・俺等のかなう相手じゃなさそうだ。
与吉・・・おまえ道を横にそれろ!」
「五郎様!」
「殺すつもりなら・・・もうすでに襲ってきているはず」
「そうでないとしても・・・二人別々の方が・・・可能性は広がる。
与吉、俺のいうことを聞け!とにかく俺から離れろ」
「で、なんとか父上らに連絡をつけてもらいたい。
まだ奴らは俺たちが気づいてるとも思ってねえはず・・・。
すっと自然に横道にそれて・・・たのむぜ与吉」
「五郎様・・・わかりました」
与吉は人通りがあるところで、街道を脇道に入っていった。
与吉は巧妙に隠れ・・・
五郎を追っかけてる奴らの面をつぶさに頭に入れようと凝視した。
(あっ)
その中の一人が・・・善右衛門の施設を訪ねた時に・・・
施設から少し離れたところで犬と戯れていた奴だと・・・はたと気づいた。
(五郎の安全を切に願いながら・・・)
与吉は急いで戻った。
とにかく陶の屋敷へと・・・
その途中・・・ばったり爺と出会った。
爺に仔細を話し、そして
「これはあくまで私の勘なのですが・・・
あやつら五郎様を捕まえようとしているのでは・・・
で、あの施設の方にいるのではないかと・・・」
「あい、わかった。すぐに興房殿へ、わしは一足先へ」と。
五郎は人気のなくなったところで・・・
(案の定来やがった)と思った。
五郎はそれとなく、草鞋をなおすふりをしながら・・・石を拾っていた。
奴らが足早に近づいてきた。
振り向きざまに・・・三人までは石をぶつけたのだが・・・
痩せた背の高い侍が出てきて・・・
ニヤッと笑ったところまでの記憶しかなかった。
五郎は峰打ちをくらい気絶させられていたのである。
気が付くと地下室で五郎は縄で縛られていた。
「ここはどこだ!」
「おお若様、目を覚まされましたか・・・
ここは地獄の一丁目でございますよ。ふっふっふ」
「いやー若様は、実にいい御顔されていらっしゃる。
普段なら薬で眠ってもらうのですが・・・
そのお美しい顔が歪むのを見るのもまた一興。
それとも戦国武将の子ゆえに、これくらいは耐えられるのでしょうかな。
まあ、やってみればわかること」
見ると大きな斧を持った男が近づいてくる。
「こうやって誠吉の脚も切ったのか!」と五郎が叫ぶ。
「そうでございますとも・・・」
「てめえら鬼か!」
「なんとでも・・・そのうち罵る元気もなくなるりましょう。
泣き叫ぶやも・・・が、ここは地下室でも特別の部屋。
音は一切外部に漏れぬ。ふっふっ。じゃあ、おやり」
「へい」男の一人が斧を振り上げた。
三人の男たちが、五郎の体をおさえている。
五郎は自分の体中から、冷や汗はでるのを感じた。
(うわーっ)
五郎は目を閉じた。
まさにその時であった。
目に止まらぬ速さで何かが通り抜け、一筋の光芒が走った。
斧とそれを持っていた男の上腕が、どさりと地面におちた。
男は何が起こったのがわからず、自分の斬られた腕の切り口を見てから
「ギャー」と悲鳴をあげた。
何事が起ったのかと
善右衛門と三人の男たちもきょとんとしていたのだが・・・
刀から血をしたたらせている爺の姿を見て、入口の方へ逃げた。
「爺!」と五郎が叫んだ。
五郎の方を見て、爺がにやりと微笑んだ。
善右衛門は部屋を飛び出し、
「先生方―!!」と必死に呼んだ。
その声で・・・
六人の侍が出てきた。そのうち四人が前へ出てきた。
「こんな爺の一人や二人・・・行くぜ!」
爺は五郎の上で刀をパパッと振ると五郎の縄が切れた。
「五郎殿、よく見ておきなされ」というや否や・・・
爺はその四人の間にするりと割って入ったのだが・・・
爺はまるで舞っているかのように見えたのだが・・・
その直後、四人が次々に斃れたのである。
「ほほう、爺相当やるのう」
と小太りの背の低い奴が前へ出てきた。
その男が、
「たあ!」と裂帛の気合いをかけ、
袈裟懸けに斬りこんできたのだが、
その時・・・なんと、爺は空中でその男の頭の上を越えていた。
爺が地面に着いた時には、男の頭が斬り割られていた。
その時、急にまわりがあわただしくなった。
陶興房の一隊が到着したのである。興房は手勢の半分を街道へ、そしてもう半分をこの施設に向かわせたのであった。
痩せた背の高い侍が、
「爺さん、強ええな!滅多にみねえ。世の中広いぜ。
ちょいとばたばたしてきたが・・・じいさん、折角だ!やろうぜ」
爺とその男が向かい合い、お互いに剣を構えた。動かない。
十秒くらいたったか。とても長く感じられた。
二人が同時に
「たー!」
「やー!」
と声を発し、猛然と前へ。
刀と刀がぶつかる音が四回。
爺の体がくるりと一回転すると・・・
「うーー、やっぱ強ええや」
とつぶやく侍の首から血がぴゃっと噴き出した。
こうして・・・泉屋善右衛門の一味は、全員お縄となったのである。
今回のこの事件・・・
大内義隆は、善右衛門たちを捕まえた陶興房に「仕置きはすべて任す」とした。
興房の前に引き出された泉屋善右衛門。不敵な面構えをしている。
善右衛門は、
「どうせ死罪になるのだろうから・・・言わしてもらうが、
俺のやってることが人の倫から外れてるとかなんとか
ごたく並べて裁こうって寸法だろう・・・ふん!それは綺麗ごとよ。
この戦国の世のどこに人の倫があるってんだよ。
おたくらも戦場においてやってることは獣そのものじゃねえのか。」
勝ち誇ったような顔をして・・・善右衛門は興房に言葉をぶつけた。
にこっと興房が笑った。
「なるほどのお、獣だと・・・まさにその通りよ!
この戦国の世は獣にならんと生き抜いていけんわ!
ゆえに、獣らしくおのれを裁くまでよ。
よいか、善右衛門の手足の指をゆっくり一本づつ切れ!
そうして、次に両手・両足よ!
気を失いそうになれば・・・
槍で刺すなり、熱湯かぶせるなり・・・とにかく楽に死なせるな。
ああそうそう、一人では寂しかろうから・・・
ほれ、道雪とやらもいっしょにな」
「そ、そんな・・・」
それまでの態度とうってかわって善右衛門が青くなった。
「善右衛門よ!われら互いに鬼畜よ。
いずれ地獄で会おうぜ・・・ひったてい!」
興房は、事件の全貌を知っておったものは全員死罪、何も知らずに働いていたものはお構いなしとした。
そして、大内の庶族として・・・
興房は、ろくに調べもせずに善右衛門に奨励金を出していた
君主大内義隆にチクリと諫言した。
五郎はといえば・・・
爺のすごさと己のふがいなさを痛感し・・・
剣術の稽古に没頭していた。




