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あるバナナ好き少女の物語  作者: 野生の雑種犬
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序章 バナナ好き少女 山を登る

荒涼とした岩だらけの山道を二人の人影が進んでいた。山の頂上には大きな屋敷が見えている。彼らはそこを目指しているようだ。片方は兵士、もう一方はフードを被った少女である。

「おい!遅いぞ、リノア、さっさと歩け!」

「すいません。先程、バナナを食べ過ぎました」

兵士が少女を怒鳴りつけると、彼女は反省する様子もなく答えた。

「全く……あれ程、バナナを食べ過ぎるなと言ったのに」

「だって、もう二度と食べられないかもしれないんですよ」

「魔女の館には、バナナが大量にあるらしいから安心しろ」

兵士は2秒でバレそうな嘘をついてみた。

「えっ、本当ですか!」

よほど嬉しかったのか、リノアの足取りが軽くなる。

(こいつはこれから自分を待ち受ける運命を理解しているのだろうか……)

呆れる兵士をよそに、リノアは鼻歌混じりにスキップしていた。

リノアは今から供物として魔女の元に捧げられるのだ。供物となる者は、王国に住む15歳の少女の中からくじ引きで選ばれる。魔女の元で、召使いとして働くという名目だが、魔術の生贄にされているというのがもっぱらの評判だった。魔女からの要求で、貢ぎ物が始まって以来、誰一人として帰ってきたものはいないのが何よりの証拠である。

「しかし、お前も魔女への貢ぎ物に選ばれるとはとんだ災難だな。正直怖いんじゃないのか?」

兵士は思いきって、気になっていることを聞いてみた。

「私は、選ばれたんじゃなくて、自分から志願したんです。貢ぎ物になれば、魔女のところに行くまで、好きなもの食べ放題って聞いたんで」

「そっ、そうか……」

兵士にはもっと色々言いたいことがあったが、言葉にならなかった。

「私が魔女だったら、貢ぎ物はバナナ一年分にするんですけどね」

「 一年分でいいのか?十年分くらい必要だろ」

リノアは何も答えなかった。ただ、十年分のバナナが積まれた様子を想像して、興奮していた。

「どうやら図星のようだな……」

兵士はそう言うと、溜め息をついた。しかし、実のところ彼は安心していた。

十年近くこの仕事をしているが、穏やかに事が進むのは初めてなのだ。泣き叫ぶ少女を強引に引っ張っていくのがいつものことであった。少女を送り届けた帰り道には、兵士は涙をこぼしながら山を下っていた。

もっとも、今年は泣かずに山を下れる自信があったが……。

やがて、二人は屋敷の入り口である巨大な扉の前にたどり着いた。

「着いたぞ、後はお前一人で行け。俺は魔女なんかとは関わりたくないんでね。一つだけ念を押しておくが、くれぐれも魔女の館ではバナナを食べ過ぎるなよ」

リノアはまるで聞いていない様子だったが、兵士はそそくさと山を降りていった。

振り返らずに山を下る彼の目には不覚にも涙が浮かんでいた。

(なんで、あんなやつのことで泣いてるんだよ、俺……)

リノアを待ち受けている運命のことを思うと耐えきれなかったのだ。

バナナの件について、最後までウソをつき通したのは彼なりの優しさであった。

一方、当のリノアはそんなことを知る由も無く、懐に隠していたバナナを食べていた。










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