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お題小説

星が落ちる

作者: 水泡歌

高校の屋上。


半袖のセーラー服。


大の字に寝そべって見上げる星空。


私の私だけの一人ぼっちの時間。


そこに侵入してきたのは君だった。



「あ、いた」


屋上の鍵が開いて、少し周りを見渡して、私の姿を見つけて君は嬉しそうに笑う。


「寒いな、今日」


着膨れした防寒対策ばっちりの格好で私の横に寝転がる。


雪が降りそうなほど寒い夜。


今日は満天の星空だ。


「卒業生、こんなことしてていいの?」


「卒業生だからだろ? 最後の思い出に学校の屋上に侵入。さすが俺様、優等生」


「素晴らしい生徒だね。その勢いで卒業取り消されちゃえばいいよ」


かさかさと使い捨てカイロの音がする。


彼のポケットで鳴っているのだろう。


私はそっと彼のポケットに手を伸ばす。


通り抜ける指先に彼の指先がカイロを寄せる。


私の剥き出しの腕を彼が見る。


彼の口元が苦くゆるむ。


「相変らず季節感ないよな。年中半袖女子高生」


「ま、私、体温ないからね」


気付けばここにいて死んだ理由さえ忘れてしまった。


永久に続く一人ぼっちの天体観測。


ある日、少し不良な男子生徒がやってきて、一人ぼっちは終わっていた。


「ねえ、覚えてる? ここに初めて来たときのこと」


「忘れられないだろ。1年の夏、夜に合鍵作ってここにきたら先客がいて、「やだ、これが恋の始まり!?」なんて思っちゃったよ」


「昔から君はバカだね。で、私の正体知ってがっかりしたんでしょ」


「まさか幽霊だとはな。どおりで近くに行くと寒気がすると思ったよ。最初は風邪ひいたかなと思ったんだけど」


「普通その時点で気付くよね。で、結局いつ気付いたんだっけ」


「冬かな。まだ半袖だったから「お前は元気な小学生男子か」ってつっこんだら俺の頭をあなたの手がすり抜けていってな」


「あの時ほど生身の身体が欲しいと思ったことはなかったよ」


「「なんだと!?」ってなって取りあえずその日は帰ったんだけど。まあ、別に大したことじゃないかと思ってな」


「次の日、普通にここに来たからこっちが「なんだと!?」ってなったけどね」


「だって、あなたと話すの楽しいし? 生きてる生きてないよりそっちの方が重要かなって」


にししと笑う君に私も笑ってしまう。


バカで楽しいことにどこまでも全力な君。


そんな君と過ごす時間が私も大好きだった。


でも、


「私にとっては重要だよ。生きてるから君は大人になるんでしょ?」


ここで過ごす時間は明日からは思い出に変わってしまう。


私と違って君は成長する人間だ。


悲しげにそう言う私に君は慌てる。


「あ、明日、卒業式が終わったらすぐに会いに来るよ。俺の第二ボタンあげるから!」


他人の笑顔がどこまでも好きな君はこんな日も暗い時間にすることを許さない。


だから私は笑う。


「そう、その時はきっと流れ星が流れるよ」


君はおかしそうに笑う。


「昼間に星は見えないよ」


「そうだね……」


私は満天の星空を見上げて静かに微笑んだ。



次の日。


真面目に学生服を着た君は屋上の扉を開けた。


私の姿を探す。


でも、いつもの笑顔はない。


だって、私は見つからないから。


ねえ、知ってた? 


星は明るいと見えないんだよ。


君は悲しげに俯いて手の中の第二ボタンを見つめた。


私はそっとその上に手を置いた。


そのまま君に口づける。


私の身体は君の中を通り抜けていく。


ねえ、言ったでしょう?


明日は流れ星が流れるよ。


さようなら卒業生。


今、君の中に見えない星が落ちていく。


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