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三話

 王様との謁見に俺とアリエスは出向いた。

 といっても、正確には王子様なんだけどね。王様は心労で倒れたそうだ。そりゃそうか。いままさに国が滅びるって状況だし。

 俺はまだ希望を捨てていなかった。何かあるはずだ。例えば異世界から召還された者しか使えないような、伝説の剣とかあるんじゃないか。あ、伝説の武具は前任者が持ち出してロスト済だったっけ。とにかく、チート兵器があるはずだ。



 謁見の間は想像していたのより幾分か狭かった。間の壁を抜いた教室2クラスくらいか。天井は高かった。

 その謁見の間には大勢の人がつめかけていた。アリエス曰く、騎士達だそうだ。

 この騎士ってのがやたらにマッチョ揃いだった。ボディビルで鍛えたような筋肉ムキムキな奴もいれば、力仕事で長年鍛え上げたような無骨な奴もいた。総じて目つきが怖い。なんというか、眼光が鋭いのだ。

 貴族っていったら宮廷劇でピエロ役になるような、イヤミで貧弱なのを予想していた。だがこの国の貴族は総じて現役バリバリの軍人らしい。

 てか、俺とアリエスだけこの場ですごい浮いている。俺の身長は標準か少し高いくらいだが、その標準と言うのはあくまで日本人中学生の標準である。どんなに小さい騎士でも俺より頭ひとつでかいので、圧迫感が半端なかった。

 そしていま、そんな騎士を束ねる王子が目の前の椅子に座っている。30前後の金髪で短髪の知的エリート軍人だった。イケメンだがこれまた目つきが怖い。威圧感がぱない。下手なこと言ったら首もがれそう。


 アリエスが俺のことを王子に紹介してくれた。日本語ではなく、ドイツ語っぽいこの国の言葉を使ってた。

 アリエスの説明を聞いた王子は、うろんそうな目つきで俺を見ている。そして明らかに俺に向かって、わからない言葉で質問してきた。

「敵を倒すことができるか、とおっしゃっています」

 アリエスが通訳してくれた。素直に「無理」って言ったら死ねとか言われそう。

「ぎゃんばります」

 噛んでしまった。俺の言葉はアリエスによって幾つもの修飾語を足されて伝えられた。王子は俺の返事に対してだろうか、何か色々まわりの人間相手に落ち着いた声で色々言っていた。字幕が欲しかった。

 その後、特に何も言われずに謁見は終わった。控えの間に戻ってきてからアリエスに聞いたところ、遠まわしに「何でまた召還者を呼んだんだ」と話してたらしい。まったく期待されていないのか。前任者がみんな失敗してるから、そうなるのもわからなくはないが。



 俺のやる気ゲージは急速に下降した。チート勇者ではなく、巻き込まれた一般人方向で状況が進行しているからだ。異世界召還ものは大好きだが、それは主人公が活躍する機会のある話だ。これではデスゲームに強制参加させられたモブその1と大差ないではないか。

 いまさらだが俺のスペックを紹介しておくと、身長はちょい高めで体重は標準。顔は、自分ではそこそこと思っているが友人曰く十人並み。成績は数学が得意で英語が苦手。部活は剣道部に所属しているものの、三日で飽きて帰宅部に転籍中。家ではゲームしてるか、漫画読んでるかアニメ見ている。あまり興味を引く特徴がないのは仕方が無い。大抵の中学生はこんなものだ。

 そんな俺がいまこの状況で何ができるか。認めるのは嫌だが、もし現実世界と同じく何の能力も持たない俺だったとして、そんな俺がこの世界でどうやって活躍できるというのか。

 現代の知識を活かすというのはどうだ。黒色火薬を作ったり、ペニシリンを作ったりするのだ。ただ、残念ながらどちらの作り方も俺は知らなかった。

 因数分解はこの世界で役に立つのだろうか。ボニール教団代表が呼びに来るまで、そんな事を考えていた。



 俺とアリエスは教団代表に連れられて、教団の本部がある建物に来ていた。王城を取り囲む壁の内側で、王城とは渡り廊下で繋がっていた。

 体育館くらいの大きさの建物は二階はワンフロア全てが一部屋で、背丈の倍ほどの本棚が並べられていた。俺はその中のある資料を解読して欲しいと言われた。

「魔法の極意が記された巻物です。魔術語で書かれていますが、我々には翻訳できない箇所があるのです」

 代表そう言われて見せられたのは、日本語のおそらく草書体で書かれた羊皮紙の巻物だった。おお、なんか俺が活躍できそうなシチュエーションだ。もちろん、俺じゃなくても日本の義務教育を受けた人間なら誰でも読めそうそうな気はするが。いやしかし、これこそ現代の知識を活かす、という路線ではないか。これで何か凄い魔法でも書かれていれば解決だし、もしかしたら俺も魔法の知識を得ることができるかもしれない。そうなればこっちのものだ。例え非力でも、魔法があれば勝てる。


 最初は草書体かと思った巻物の文字は、単に書いた人間の字が汚いだけで言葉使いも現代の日本語だった。要領さえわかればそれほど苦もなく読むことができるようになった。精神集中の仕方から書かれた巻物は、さながら入門書といった内容だった。音読する俺の言葉をアリエスが横で書き写す。そんな作業を俺達は淡々とこなした。

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