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一話

このお話はフィクションです。

 どこにでもいる男子中学生、相田リョウ14才、4月19日生まれ牡羊座の俺は、異世界に召還された。

 家でベッドに寝っころがりテレビを見ていたら突然視界がぼやけた。気がつけば古めかしい石壁に囲まれた部屋の中である。足元には怪しげな魔法陣、松明のゆらめく炎、怪しげな白いローブの人影。

 俺は自分の頬をつねった。痛い。ついでに二、三度、頬を叩いてみた。やっぱり痛い。これは夢じゃない。夢オチなんかじゃない。


「異世界キターーーー!!」

 叫んだ俺は、拳を握り締めてガッツポーズをした。もちろん両手でだ。完全勝利のポーズだ。ネットのやりすぎで幻覚を見ているわけではない。俺は憧れの異世界ファンタジー世界から召還されたのだ。


「あの、すみません」

 目の前に立つ白ローブ姿のおそらく召還者であろう人物が声をかけてきた。か細い女性の声だった。俺はヒロイン登場の予感に思わず身を正した。

「えっと、召還に応じていただけたのですよね」

 フードを下ろして出てきたのは、俺と同い年くらいの年頃の女の子の顔だった。肩までかかるセミロングの黒髪、利発そうな顔立ちで間違いなく俺好みだった。


「メインヒロイン、キターーー!!」

 心の中に留めるべきだったが、思わず口をついて出てしまった。そんな俺をみて、彼女は若干引き気味だった。俺のテンションに圧倒されているようだった。

 しかし、まだメインかどうかはわからない。うかつな言動は避けるべきと俺は判断した。


「あなたが俺を召還したんですか」

 もっとマシな台詞にすべきだったと言った直後に後悔したが、とにかく会話のとっかかりにはなった。

「はい、そうです。あの、私はアリエスという者です。それでその」

「俺の名前は相田リョウ。リョウで結構です」

 これは決まった。百点とは言わないが、この自己紹介は確実に高打点を決めただろう。

「リョウ様ですね。初めまして。あの、私、召還は初めてで」

 アリエスと名乗った女の子は言葉もつっかえつっかえといった様子だった。実に初々しい。クラスの女子とはまるで違う。清楚さというか奥ゆかしさというか、現代日本女性が失った何かがこの子にはある。

「ああ、よくわかります。お疲れでしょう。まず外に出ませんか。新鮮な空気でも吸いましょう。ここでは会話もままならない」

 なんとなくキザ男のような台詞回しになってしまったが、まだセーフだ。それに、部屋の中はやたらと煙たかった。ヤニの燃える臭いも強くて、できる限り早くおいとましたかった。


 アリエスに連れられて俺は部屋を後にした。どうやら地下室だったようで、部屋から出ると上へと続く階段があった。昇り続けるとある地点から右に曲がりだし、円塔の内側を登っているようだった。

「すみません、一旦城壁にでます」

 そういえばなぜか日本語で会話が成立していたが、それに気づいても俺は野暮な突込みなどいれなかった。異世界をなめるな。魔法でもなんでもありだ。会話くらいなんだ。


 階段の終わりが見えてきた。切り取られたように四角くぽっかりと開いた天井につながっている。先には明け方らしき青白い空が見えたが、何か騒々しかった。

 これは、待ち構えた群集が勇者登場に歓声を上げる場面であろうか。さて、どうしよう。かっこよく手でも振ってみるか。どう振れば勇者らしいか。

 そんな事を考えながら昇りきった階段の上から見た風景は、いままさに妖魔達によって陥落する寸前の城塞都市であった。

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