表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

雪ノゲンジツ

やっとこさ復活。

鏡は、その人を有りのまま写す。

どれだけ自分を偽ったとしても、悲しく消え去るだけだ。


つまり俺がどれだけ男だと言い張ったって、この姿見に写っているのは1人の女の子に変わりないということだ。


もしかしたら夢かもしれない、寝て起きたら全部元通りになるかもしれないという淡い希望を抱いて自室に戻る途中、リビングの扉の横に取り付けられた鏡を見ていた。お洒落好きな母が買った全身を写し出せる大きな鏡は、しっかりと今の俺を描いている。

どれだけ俺が素早く、複雑に腕を動かしても、その女の子は一寸の狂いも遅れも無く動きを追跡していた。

鏡だから当たり前だった。

そこから考えついたのは1つ、俺=女という等式が成り立つことだけだった。


「兄さん?」

いつの間にか後ろを通りかかった妹に、何事? と聞かれた。

それに応えようともせず、じっと鏡を見つめる。


腰まで伸びた銀糸は、今もちらちらと光を反射している。

俺を見つめ返している瞳は、透き通った海のようにゆらりと鏡を宿している。


「はぁ…」

なんて自分とかけ離れた姿なんだろう。この髪の色、もう海外へ飛び立っているじゃないか。


重さを感じる後ろ髪は、何だこれ、結べばいいのか?

首を後ろに傾けて、絹のような手触りの糸をすくい、さらさらと流す。

そこで妹も俺が何を感じて何をしていたのか察したようで、とても可愛い姿ですよ、兄さん。と追い打ちをかけてきた。

本人にはそのつもりは無いんだろうが、いやだからこそ余計悲しく感じるのかもしれない。

ともあれ、俺は女の子に、一語で言うなら性転換したわけだ。銀髪で、目もカラコンじゃ出せないような――でも写真で見ただけだからわからない――澄んだ青だった。肌はまるで土の上にふんわりと積もった真新しい粉雪のように、白く淡く、もし雪ならば雪崩を起こしてしまいそうなほど柔らかかった。

正直、これが自分の意思で動く、俺の体だということにまだ戸惑いを感じていた。無理もないと思う。

今頃気になり出した自分の変化を、ぺたぺたあちこち触ってはため息、触ってはため息。

「…兄さんは、戻りたいですか?」

俺を見ていた彼女は、そう、後ろで呟く。

「…何か、知ってるのか?」

振り向かずに答える。ただでさえ高くなった声が、上ずった。

どんな表情をしているのか、怖くて、姿見に写る俺に隠れた妹の腕を見つめた。


その目には、何が映っているのだろうか。


「…さっぱりです。性転換って、どう感じるのかなって思っただけですよ」


ひゅう、と俺以外聞こえないような音を鳴らして息が喉を伝って外に出た。

妹の声と共に、髪というか頭皮に違和感を感じる。


「兄さんの髪、綺麗ですよ」


妹に長い髪を撫でられて、なんだかムズムズした。

「ちょ、ちょっと・・・」

流石に恥ずかしくなり、やめさせようとするが妹はそんなのお構いなしだ。

「ここを結んだら可愛いですね、いや、こっちのほうが」

「あ、あ・・・」

長くてそれまで何もしなかった自然体の髪がどんどん結われていく。

もちろん、そういうヘアスタイルだとかの話題に精通している訳もなく、今、妹がどんな髪型を思い描いているのかもさっぱり。


だらりと腰よりも下に垂れ下がっていた銀髪は、何かの波に乗った妹によって横に結ばれたり解かれたり、されるがままだ。

俺の中で何かがまた一つ、音もなく崩れ沈んだ気がした。



「…案外、問題無いのかもしれないな」

2人のその姿を見て思ったのか、父親はそんなことを呟いた。


ーーーー


重力に身を任せて倒れたはずなのに、ベッドはふんわりと抱き返す様に俺の体を受け止めた。


疲れた。


ぐるぐると今日の出来事が駆け巡る頭の中を極力避けながら、もう少し枕に近づこうと手を伸ばす。

適当な所で毛布を掴んだ手を縮めても、頬に柔らかい感触が伝わるだけだった。


なんかもう動きたくない。


掴み取った毛布を握り、もう片方の手でシーツの上をずりずりと這って行く俺の姿は他人から見ればさぞ奇怪だろう。

そう、丁度部屋のドアを開けた妹とか。


「何してるんですか、もう」

暖かくなってきたと言えど、風邪を引きますよ。と多分今朝の俺によって跳ね除けられた薄手の羽毛布団を上に被せられる。頭まですっぽりと。

このままじゃ息苦しくなるに違いないので、もぞもぞと手探りで布団から顔だけを出した。妹と目が合った。

「…ありがと」

ちょっと恥ずかしくなって、目を逸らした。照れ隠しなのは、バレバレだろうけど。


「…心と体は、繋がっているんですね」

少し驚いたような表情になった妹は、すぐに小さい笑みを浮かべてそう言った。そしておやすみなさい、兄さんと言い残し再び部屋のドアを開ける。

「ちょ、ちょっと! どういうこと!?」

掴んでいた毛布を投げ飛ばし、上半身を起こして呼びかけるも返って来たのは扉の閉まる金属音。

残った俺は仕方なく横になって目を閉じた。意味を色々と憶測しながら。


ーーーー


部屋に行ったら知らない女の人が寝ていました。

でも兄さんでした。ちょっと複雑。

今まで同じ色をしていたのに、まるで繋がりが切れてしまったようです。

やっぱり、悲しいな。


ーーーー



どうも毎回書き方が変わってしまう…。

なんとか安定できればいいんだけども。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ