俺達の遊び。
『お前なんかには負けない!!』
この世界では珍しい、黒髪黒眼の男が、神々しく輝く聖剣を手に、不気味な人間の形をしているまがまがしい魔力を纏った者――魔王と対峙していた。
その目には確かな意志が宿っており、勇者の本気が窺えた。
『ふはは、貴様にやれるものならやってみろ――!!』
魔王は椅子に腰かけたまま偉そうに言い放つ。それと同時に溢れる魔力が倍増する。それだけでも勇者の仲間は近づけない。
勇者の仲間は、傷を癒す巫女に、美しい魔術師に、女騎士二名といった構図であった。
動けなくなって膝をつく、彼女達。魔王の魔力だけで、普通の人間は動けなくなってしまう。
そして勇者はそんな中で一人、神の加護により行動が可能だ。そして勇者が聖剣を手に魔王に向かっていく。
そこでとどめをさせればかっこよかったのだろうが、無様にも、勇者は次の瞬間死んだ。
魔王の魔法に対処できなかったのである。
いきなり爆発した、勇者の体。飛び散る赤。
茫然として、理解したと同時に悲鳴を上げる勇者の仲間。
そして動けない彼女たちもまた――――、あっけなく死んだ。
これにて第199番目の勇者死す。(失敗例も含む)
「ふーん。今回はバッドエンドか」
俺――ヤクモはそんな様子を魔法を使って見ていたが、もう見る必要はないとその魔法を解除する。それと同時に目の前に映し出されていた光景が一瞬にして消え失せた。
その後、俺はすぐに後ろを振り向く。振り向いた先には、俺とそっくりな空色の髪に、瞳を持つ髪を腰まで伸ばした可愛らしい少女が居た。
ぷぅと頬を膨らませている少女――イズミが可愛くて思わず頬が緩んだ。
俺は椅子から立ち上がって、イズミに向かって笑いかけた。
「イズミ、今回は俺の勝ちだ」
「むぅー。頑張って加護与えたのにぃー。魔王殺せなかったぁー」
「はっ、イズミが加護与えるからこそ、俺は魔王をある意味最強にしたんだってーの」
椅子に項垂れて、告げられるイズミの言葉に俺はそう答えた。そうすればイズミは花のような笑顔を浮かべて、顔をあげて俺を見た。
そして腰掛けていた椅子から飛び上がると俺に思いっきり抱きついてきた。
「そんな不服そうな顔しないえよー。ねー、ヤクモ」
がばっと勢いよく抱きついてきたイズミを俺は思いっきり抱きとめる。
「だってさぁ、幾ら素質があったとしてもイズミ直々に加護を与える存在なんていらねぇじゃん?」
「それを言うなら、私だって、ヤクモが直々に力を注いで魔王を作るのだってやだよ? ヤクモの神力の影響受けていいの、私だけでいいじゃんかー」
「それ同感。俺の神力受けていいのはイズミだけで、イズミの加護とか受けていいの俺だけでいいってーの」
「ねー! お父様ってばこんな役割押しつけるなんて酷いよねー。ちょっと悪戯しただけなのにー」
俺に抱きついたまま、むぅーと頬を膨らませているイズミに何だか勇者への憎悪が薄れる。
「ま、加護の事だけは不愉快だけど、不愉快だけど、遊びは楽しいから、あと千年我慢してやろーぜ」
「うんー。でもやっぱ魔王むかつくー。だから加護強くしたのに。その上いっちゃうとか流石ヤクモ!でもやっぱ魔王撃ち殺せるほどの勇者にすべきだったかなぁー」
「制限付きだと加護も面倒だもんなぁー。もう加護なしで勇者にしちゃえば? 俺はそっちのが嬉しいけど。ま、俺は強い魔王作るけどさ」
「むぅー。ある程度強い魔王は絶対つくらなきゃいけないもんね。でも加護なしは勇者と言えないらしいしさー。勇者が聖剣で魔王を倒さなきゃだめじゃん? うまくいかなかったらお父様に罰期間増やされちゃうし」
そんなイズミに本当に可愛いなぁなんて思いながらどうしてこんな役割を任されたかについて思い起こす。
元々この世界の魔王というのは、生物達の負の感情が結晶化し、それが世界に悪影響を与えたことが原因で生まれた。
その結晶は空気中に漂う魔力を変化させる。
精霊達の好むような良質な魔力から、悪質な魔力へと。世界に悪質な魔力が漂えば、まず現在存在する良質な魔力によって形成されている生物は滅亡するだろうと主神が予言した。
それをどうにかするために悪質な魔力の塊である魔物という存在を生み出した。その凶暴な存在が死ぬことによって、悪質な魔力が発散される仕組みになっていたのだ。
この死ぬは、殺すでも寿命でもどちらでもいい。重要なのは、悪質な魔力を生物にして消滅させる事なのだ。とはいっても魔物は大抵、倒すことができる程度の強さであった。
しかしだ。そうして長い時を過ごす中で問題が生まれた。
生物達――特に人族(人間や獣人などをさす)の爆発的な人口増加と負の感情の多さは圧倒的で、魔物を生み出すだけではそれを消化するのに追いつかなくなった。
その結果、生み出すことにされたのが、悪質な魔力の大きな塊である魔王であった。
魔物という小さな悪質な魔力の塊では追いつかなくなるほど悪質な魔力が存在する時、担当を任された神が悪質な魔力から魔王という存在を生みだす。
そこでまた問題が生まれた。
流石に強大な悪質な魔力の塊である魔王は、良質な魔力の塊である生物に倒せないほどの存在だった。悪質な魔力によって生み出された生物は何でも凶暴化し、周りを遅い、壊そうとするものだ。魔王に関しても例外ではない。寿命はあるが、激しい凶暴化により大暴れする存在になっていた。
そこで生まれたのが、勇者であった。
要するにいえば、一人の神が魔王を創り、もう一人の神が勇者を選び加護を与える。
そして魔王を倒させて、発散させるっていう所謂システム的なものだ。魔王は悪質な魔力の小さな塊の魔物と違って、寿命来るまでまってるとかしてたら世界に滅茶苦茶悪影響なのだ。居るだけで罪的な存在である。とはいっても悪質な魔力の結晶のままの状態より生物の状態の方が悪影響は小さい。
現在の魔王を生み出す役割の俺と、勇者に加護を与える役割のイズミ。
俺たちは魔王が長期滞在で悪影響とか知るかとばかりに、俺は俺以外にイズミの加護があるのが気にいらなくて、イズミは俺の神力の影響を魔王が受けているのが気にいらなくて、互いに本気でやっている。
俺は悪質な魔力を使えるだけ使って最強の魔王を創る。
イズミは制限のある加護(そもそも強すぎると下界の生物には耐えられない)で頭を使ってせいいっぱいの加護を与える。
そして争わせて、どちらが勝つかっていう遊びをこの役職を罰で命じられた2千年前から俺はずっと続けている。
ま、使えるだけの悪質な魔力っていっても流石に限界はあるんだけどさ。
でだ、この役割は俺とイズミに対する罰だ。俺もイズミも怒られて、しばらく帰ってくるなと神界からおいだされ、最低限の神力以外を封じられている。
……俺とイズミ、ちょっと悪戯して神界でプチ戦争おこそうとしただけなのに。主神―――俺とイズミの父親。あ、俺ら双子何だけど。―――に滅茶苦茶怒られて三千年役割をしてこいと、それまで神界に帰ってくるなと言われたのだ。
俺とイズミは神の一角だけど、流石に主神である父さんに勝てるだけの力はないし、大人しくしている。
しかも下界で暴れたり、真面目にやらなきゃ罰伸ばすって言われている。
まぁ、俺とイズミが真剣に戦わせて遊ばせてるのはある意味両方真剣で必死に真面目にやっているから(動機はともかくとして)、今のところ罰は増やされていない。
「そういえば、魔王ストック、どれだけたまったー?」
イズミが一旦俺から離れて、下から見上げるようにして俺を見て問いかける。
「あー、五体いるけど。つか、人族の負の感情多すぎ。気合入れて作ってもすぐに魔王作らなきゃ結晶化激しすぎ」
そう、現在俺達が「魔王ストック」何てよんでいるあまりの待機中の魔王が五体も存在している。
というのも、人族の負の感情が多すぎてどんどん作らなきゃ悪質な魔力が世界に埋め尽くしてしまいそうなほどの勢いだ。
生物の形にして、ストックは睡眠状態にしておければ外への悪影響も小さく終わる。本当は眠らせとくより、魔王×6vs勇者×6とかにしたら手っ取り早いって言うのに、魔王が6体も活動していたら本気で良質な魔力で作られた生物が破滅する。
「本当面倒だよねー。加護なんて与えたくないしさー。あ、ヤクモになら喜んで幾らでもあげるよ!」
「接触しなきゃ加護与えられないってのがなんかなぁ…。イズミが触れて加護与えるとかさ、むかつく」
「それを言うなら魔王だってヤクモの神力――要するに体の一部の影響を受けてるじゃんか!!」
「あー、勇者むかつく」
「魔王次こそぶち殺す加護にするよー」
二人して俺とイズミは物騒な言葉を口にする。
そして二人で同じようなことをいっていることに互いに視線を合わせて笑った。そのまま、またぎゅっとイズミが俺に抱きついてきて、唇を合わせた。
といっても深い意味はない。俺とイズミにとって触れ合いは、ただの愛情確認(家族愛の)なだけで、いつもの事だ。
「ねー、ヤクモ。あと千年気合いれて頑張って家かえろーね」
「ああ。遊びながら頑張るか」
そして、俺はイズミの言葉に頷くのであった。
―――俺達の遊び。
(俺が魔王を、イズミが勇者を全力で作ってどちらがかつかというそんな遊び)
「イズミの加護をたかが人族が受け取るなんて許せないじゃん? 神でも嫌なのに」
「ヤクモの神力の影響受けてるとかー、魔王ってムカツク。勇者に加護与えて殺させちゃうもんね!」
一回、魔王作る的な話応募用で書きたいなーとちょっと試しに書いてみたもの。続きとか考えずに書こうと書いたものです。
あと「量産型魔王」という謎単語が浮かんだので。色々と異和感あったら教えてください。
あ、作るっていっても応募用とこれは設定は違いますけど。こういうのってありかなーとか思いながらそっちは設定しか思いついてないのですよねぇ。
ヤクモ
主神の息子。妹溺愛。ガチシスコン。魔王量産してる人。
イズミ
主神の娘。兄溺愛。ガチブラコン。勇者に加護与えてる人。
こいつら恋愛感情はないけど、イチャイチャして、自分より他を優先したら互いにきれるような双子。