表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/15

キチガイの憂鬱。

視点――――営業マンさん



 最悪の気分だ。

スーツに血を浴び、なお落ち着いた風で呟き、歩く。何故最悪なのかは検討が付いている。もう楽しみが終わってしまったから。あっけなく……それだけでない。期待していた人にも裏切られた、もっと楽しめそうなだと思ったのに違った。彼は僕の一番嫌いなタイプの人間だった。流されるままに生きる。それだけでも嫌いなのに、自分の命でさえ流されるまま、奪われるときでさえ恐怖しない。

 あんな人間に出会ったのは初めてだった。たくさんの人を殺してきてもあそこまでの狂人は見たことがない。僕は自分も狂っていると自覚しているが、彼と比べるとまだましな方だと思う。僕だって死ぬのはもう怖くない。言うのは簡単だ。しかし、いざ死ぬときになると、心の底に恐怖が溜まる。

 死ぬとは後戻りができないこと。だから、自殺というものは難しいものであると僕は思う。でも、自殺はたくさん起こっている。何故彼らは自殺ができるのか? それは簡単だ。

 ノリ。その場のノリ。それが最後の決め手だと思う。生きることがどんなにつらくても死ぬのは怖い。でも自殺すればそのつらさから解放される。だから死のうと思える。でも、いざ死ぬときになると怖い。後戻りができないのが怖い。だから自分を鼓舞する。奮い立たせる。簡単に言えばバンジージャンプと自殺は同じようなものだとも思う。だからその場の勢いとノリで人は自殺する。

 狂っていなければそうだろう。

 どうして勢いとノリが自殺には大切なのかが分からないなら、これを言ったら納得するのかな? 

 息を止めて自殺できますか? 

 もしも自殺に勢いやノリが必要ないと言えるなら自殺は息を止めてするものになるだろう。だって準備もせずにできる自殺だから、簡単だ。でも、もしかしたら派手に死にたいぜ! やっほう! とか言いながら脳みそをぶちまける奴とかはいるかもしれない。……もしもの話はいいか。キリがなくなる。でも、自殺のにおいてノリの大切さは伝わったかと思う。

 話が少々脱線したが、僕以上に狂人な彼はノリとか無しで自殺ができるような人だと思う。だから異常。人間じゃない。

 失望した、というか信じられなかった気持ちの方が大きい。残念だったという気持ちもある。彼と殺し合いがしたかった。せっかく彼はナイフを持っていたのだから。

 考えながら歩みを進める。この世界に僕と彼以外に生き残っているのはあと二人いる。一人は自分だけの世界で完結している少女。小さく、儚い。それ故に殺すのはたやすい。だから、後回し。

 もう一人は黒髪の影の薄そうな女性。一瞬しか見てないせいで顔も思い出せない。どんな顔だっけ? まあ、普通に美人。てところでしょうかな? 顔立ちも整っていて、けどよく見ないと整っているとは気付けない。そんなタイプの美人。

「何処にいるんだろ?」

 そう呟いてみる。すると背後から――。

「此処よ」

 と言葉が返答される。振り返ってみてみると雰囲気が少し違った気がした。この雰囲気だったら影が薄そう何て言えない。むしろ、異様と言える。不自然に目に見えないようなオーラを持っている。何もない入れ物に魂が宿った。そんな気さえする。

 でもそんなことは関係ない。関係あるのは僕がこの女を探す手間が省けたという事実だけ。

「ははは、ノコノコやってきて大丈夫なのかい? 僕は見ての通り人殺しだよ」

 言って血がついてる日本刀をこれ見よがしに振ってみる。ちょっとしたテストだ。これで怯えるか怯えないかで、こいつがどんな人間なのか分かる。怯えるなら普通。怯えないのは異常。僕の経験上怯えない人の方が面白くいく。でも、今回の十人は変わってて、怯えたけど面白かった人もいれば、怯えなかったけどつまらない人もいた。

 彼女は怯えなかった。

「あなたが犯人とは思いませんでした。びっくりです」

 びっくりした様子もなくそう答える。

「犯人? て殺しのこと? 今回は全員じゃないよ。だから一様にそうは言えないんじゃないかな。でも、犯人っていうなら僕だね」

「どうして殺したの? ていうのは野暮だけど。まだ殺すの? とそれだけは聞いておくわ」

「迷ってるけど、その予定だね」

「そう……」

「何? 止めないのですか?」

 ふと疑問に思って言ってみた。主人公のように登場して僕をやっつけてみんなでハッピーエンドを迎えるんだ的な展開になるとばかり思ってた。そんなつまらない展開は嫌なので全力で反抗するつもりだったのに。

「もうパパに怒られることが確定してるのに、そこまでしたらもう縁を切られちゃうわ」

 また謎なことを言う。だから質問するしかない。疑問は残したくない。

「パパって……死んだならもう会わないでしょ。だったら怒られるも何も、関係ないと思いますよ」

「いえ……あいにくそうじゃないの。私のパパ――」

 神様だから。

「…………」

 もしも真剣に言っているのならこの女は頭がおかしい。だってこの世には神様はいないのだから。……と言いたいところだが、自殺した後の世界があるくらいだ。神様がいてもおかしくない。という考えもある。でも一つではないが腑に落ちないことがある。

「もしもそのご高説を信じだとしましょう。あなたのパパは神様です。だったらどうしてこんな辺鄙な世界にいるんだ。神様の娘は」

 今までこの世界で何人もの人を殺してきたが、本当の神様はいなかった。大抵の輩は妄想止まりだ。自殺した人。だから、普通の人よりも頭のねじの抜け方が激しい人が多い世界だから、神様がどうとか言ってるやつは多かった。でも、一人残らず矛盾を抱えていた。だから信じるに値しない。どうせ今回も同じようなもんだ。そう決めつけ俺は彼女が口を開くのを待つ。

「家出したのよ。パパと喧嘩して……」

「…………」

 思わず「は?」と言いそうになった。矛盾こそはないが、そんな理由でこんな世界にくるもんなのか? まだ、度重なる殺しを放っておいては駄目だ、神様として許せん! とかの方が信じれる。

「何かおかしい? 黙ってないで言いなさいよ」

「何にもおかしくないですよ。お嬢様」

 ふう、うんざりだ。殺そう。

「何か言い残しておくことはあるか? 今から殺そうと思うんだが、逃げてもいいぞ。むしろ逃げてくれ。戦ってもいいぞ。どうせなら戦って、殺しあって俺を殺してくれ。それが一番面白い。俺は殺したことも、自殺したこともあるが、殺されたことはないんだ。一度くらい殺されてみたい」

 こうやってぐちゃぐちゃ言っている内に逃げて欲しかった。けど、現実は違い。彼女は一歩も引かない。そしてこんな華奢な体で僕を殺せれるとも思わない。けど、口を開き、一言。

「驚愕の事実を一つ言うわ」

 と言うので、驚愕の事実って自分で言ったら驚愕じゃなくね? とも思ったが殺すのをひとまず中断する。そんな前振りをされたら聞くしか選択肢がない。僕はそういう人間だ。やりたいときに、やりたいことをする。それが一番の幸せだと思っているからだ。だから聞きたいときに聞くのもまた然り、という奴だ。

「私は、私の体は――」

 一息ためる。自然と僕も聞き入ってる。どうしてか気になる。

「……ああ、駄目。嘘を付きたくなっちゃう。溜めるんじゃなかった。一思いにいえばよかったわ」

「私の体は? 何っ? 何ですか? 言ってくださいよ。気になるじゃないですか!」

 まさかそこで止められるとは思わなかった。自然に言ってくれるとばかり。この女恐いです。

「私の体は爆発するの。それも原子力爆弾のように」

「嘘つけ!」

 あっと、しまった。口調がひどくなってしまった。嘘をつかないでいただけましょうか。というつもりだったのに……はぁ。

「仕方ないわね。言えばいいんでしょう。言えば、ああもうかったるい」

 あなたから驚愕の事実を言うって言っておいてなんだよ。かったるいって。視聴者もびっくりだよ。驚愕だよ!

「私の体は、エロいのよ……嘘嘘! そんなことを言うつもりじゃないの! 口が勝手にっ、だから待って、刀構えないで! 言うから」

 おっと体が勝手に動いてしまった。レディを脅迫してしまったぜ。……キャラが既に崩れてしまっている。あれ? 僕だよね、これ。この体僕が操ってるよね。

「私の体は予備の物。代用品なの」

 予備? 僕の理解の範疇を超えている。体に予備なんてあるわけがない。ただ、本当に彼女が神の娘ならやってのけるかもしれないとも思う。

 待てよ? 予備っていうことは、もしかして。

「一度死んでるのですか?」

「ええ、そうよ。何……信じてくれるの?」

 しまったな。口が勝手に確認を取ってしまった。そもそも僕は普通の人よりこういう話を信じやすいのかもしれない。だって自分だって何度も体感しているのだから。この世界で、独りになった時に。

「ええ、前の体は女神のような美しさ、それはもう美を体現したような姿で麗しく、かつ繊細な容姿。ミロのヴィーナスでさえ謙遜してしまうようなスタイルには誰もが目を虜にしてしまう」

「誰ですか? 分かりません」

 特徴を言われていないから僕の頭のイメージ映像ではモナリザの美人版のような人が出来上がっている。

「何? 分からないですって? そんな、おかしいわ。あなたが今まで出会ったことのある人の中で一番の美人よ。これでも分からないのなら死んだ方がいいわよ」

 どんだけ自分に自信があるのでしょうか。その自信はきっと海のように深く、空のように高いのだろうか。

「残念ながら僕は目が悪くてね。あまり美人かどうかの見分けはつかないんだ。男か女か位を見分けるので精一杯」

「男か、女って……まあいいわ。……特徴って……あ、銀色の髪」

 銀色? ……まさか――。

「白髪の女ですか! 自称神に殺されたあの!」

「白髪じゃない、銀髪よ! ん? これ最近言ったことのあるようなセリフだわ」

 ここで頭を整理してみる。……やばい。信憑性が増してきた。

「神様の娘って言うなら何か証拠みせてみてよ」

 くぅぅ! 自分の事ですが……小物なセリフ。

「証拠はないわ。残念ながら神様は作ることは出来ても干渉することは出来ないの。しかも、作るのにだってこの世界では出来ない。だから、無理よ」

 でも、この世界でできることは――と繋げる。

 その事ならおそらく僕も知っている。

 この世界で、例えば全員殺して一人になる。その時に願望が世界に影響されるのだ。思った通りに世界を変えることができる。

 理由は推測するしかないけど、自分なりの答えは出した。

 一人になる、世界で一人になる。それは僕の見る物が世界の全て、この場には僕の見る物だけが世界として成り立つから、だから、神様みたいに、世界を創ることができるのだろう。

「やっぱりこれは秘密にするわ」

 そう言い、その白髪頭の女と同じくらいの長さの黒髪を惜しむように、ああ、銀髪のが美しかったのに、とでも言うように髪を掻き揚げる。その髪は重力に逆らうようにふわっと浮き、波のように静かに元の状態に戻る。

 自分から聞いておいてあれだが、もう神の証拠とかどうでも良くなっていた。僕にしては珍しい事だが、本当に珍しい事だが信じてしまいそうだ。いや、信じてもいい気がした。彼女が神様の娘というのも、彼女が予備の体を使っていることも。

 だって信じたら、神様の娘を殺すことができるんだ。だったら信じた方がいいに決まっている。結局僕の思考はそこに落ち着くんだ。この殺しは愉しいのか否か。それが全てで、それ以外は大抵どうでもいい事。だから、僕にとって殺しは趣味を超えて、人生そのものだ。生きる意味と言ってもいい。

「一つ忠告していいかしら」

「何ですか?」

「私を殺してもつまらないわよ。だってこの体は人間と同じ、そして私は死んでも魂は神様の元に戻るだけだから、無意味よ」

 そうですか。つまらないですか。残念です。

 でも、それは僕が決めること。面白いか、つまらないか。全て僕が決める事。

「いいですよ、つまらなくても。神様の娘を殺しただけで、後の世に語り継げます」

「……あなた、面白い思考回路してるわね……」

「自分でもそう思います」

 そろそろ喋るのもいいだろう――殺そう。

「よし、今から殺そうと思いますから、生きようとしてくださいね」

 言うと同時に神様の娘が溜息をつく。

「言いくるめるのに失敗したわ。でも、分かった。楽しみたいのでしょ? 逃げてあげるわ。んーでも走るのが面倒……だから、走ってくださいとお願いしたら考えてあげる」

 そんなことを言ってきた。ますます面白い人、いや面白い神様とでも言おうか。まあ、僕にはプライドがないからそれくらい躊躇なく言えるんだが……。

「逃げてくださいませ、神様」

「嫌よ」

 即答した。どうして? なんでこの女は……ふぅ。落ち着くんだ僕。この女のリズムに乗せられては駄目だ。ふぅ。

 もう話すのも面倒だな。と思って、日本刀を構える。

「でもいいの? 私は神様ではないのよ。神様は一人、だから、私を殺しても意味ないわ」

 こんな事を言っている。今更命乞いなんて、と思ったが何か引っかかるものもあった。

 ああ、分かった。

 この女は神様を殺せる手段があると言っているのか。

「神様に会わせてくれるのか?」

「会わせることは出来るわ」

 そういうことか、うまい命乞いだ。僕にとってそれは魔法の言葉になりうる。だって、神様だぞ? 僕みたいな快楽殺人者の夢だぞ。サッカー選手がワールドカップで優勝を目指しているなら。僕はより強い相手と戦うことを夢見ている。

 なんか僕はどっかの少年漫画の主人公のような気がするが、もし神様がいるなら殺してみたいと生前夢見たことがある。でも、神様なんていないからな、と諦めていた。それが叶うかもしれないんだ。

 だから迷ってしまう。殺すことを。

「僕に命乞いをして成功したのは君が初めてだよ」

「そう? ありがとう」

「でも少し待って、あと一人だけ殺してくるから」

 そう言い背を向ける。どこにいるか分からないが、でも歩みを進める。もう僕の殺し癖は自分でも止めれる気がしない。例え愉しくなくなっても続けている気がする。たぶんあと100人でも殺したら「つまんない」とか言いながら殺してそうだ。そんな気持ちで殺される人は残念としか言いようがない。

 殺される人に失礼だからしたくない。ただでさえ意味も無く殺されるのに、そしてその殺しを愉しんでもくれない。

 正真正銘の無意味な死。もともと死とは無意味なものだと思うが、それでも無意味すぎる。せめて、他人の娯楽になれるならいい、なんて思って死ぬ奴はいないだろうが、それでも……この話はいいか。

 なんてことを考えていたら見つけた。

 矮躯な背丈に、重力に少しだけ逆らっている髪、その髪は茶色より薄く、黒よりも濃い、その矛盾が成り立っていて、ファンタジーの世界から飛び出してきたような雰囲気を持たせている。幼い顔つきには美人とは言えないが、ただ幼いだけの顔ではなく、妖艶な魅力も兼ね備えている。そして、真っ直ぐ続く道の真ん中で空を見上げている。

 僕が近づくとゆっくりと視線を下して、僕のいる方に視線を持ってくる。その視線は僕に向いてはいなく、僕を視界の中に入れただけで僕を見てはいない。

 僕からしたら自分の事を神だ、神様の娘だとか言っている奴らよりも、この子の方がはるかに幻想的で、神様っぽい。神様じゃないな。

 彼女は天使に似ている。

 実際見たことはもちろん無いから断言できないけど、僕のイメージには型がぴったりと合う。

 だから、僕はそんな女の子を殺すのはもったいないなとも思った。

 けど、同時に殺してみたいとも思う。

 どちらの気持ちが大きいかなんて僕にとっては迷うこともない。

 もちろん殺したい気持ちの方が高い。殺したくないなんて、気の迷いにすぎない。だけど、思ってしまったのは事実。

 だから――楽に殺してあげよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ