逮捕!?
目覚めるとそこは学校の保健室だった。
しかし雰囲気が少し(?)違う。
ぼくはベッドに縛りつけられ、周りに鈴やゼロがいない。
二人の名前を呼ぼうとしたが、疲れているのか大きな声が出せない。
ここはどこだろうと思っていると、壁の向こうから声が聞こえた。
『あいつ、いつまで寝ているんだ?』
男の声みたいだが、ゼロではない別な人のようだ。
この人の言う「あいつ」とはぼくのことだろうか?
『大罪人のくせに呑気だよな。』
『ああ、ヒラブル役所を破壊したということが知られていないと思ったのか。』
……もう一人いるみたいだ。
どうやらぼくが地下で放った魔術によりあの役所は壊れてしまったようだ。
ぼく達はあの場所を脱出することができたみたいだが、最悪の結果を起こしてしまったらしい。
『また見てくるよ。』
ガチャリと音がして扉が開いた。
男は私と同じ年齢くらいの人間だ。
「お、起きたのか。」
「あなたは誰ですか?どうしてぼくはここにいるんですか?」
男の顔を見ると不気味に笑っていた。
「開口一番がそれかよ。……まあいい、質問に答えてやるか。お前らはヒラブルの役所を破壊し、逃亡したんだ。まあ、見つかった場所がお前の自宅だったということは、今は失われたはずの空間魔術でも使ったんだろうな。そしてそのあとすぐ俺たちに拘束された。」
空間魔術…なるほど、あの時ぼくの家を見たのは夢ではなく空間魔術で転移したからなのか。
「じゃあ、ぼくの友達も一緒に捕まったんですよね?あの人たちはどこにいるんですか?」
「あいつらは別のところだ。ここの牢屋に閉じ込めてある。」
「友達のところに行かせてください。ぼくの大切な仲間なんです。」
「ダメに決まっているだろ。また一緒に抜け出すかもしれん。お前が魔術であの魔術を破ったことは知ってるんだからよ。」
そう言うと男は私の腕をつかんだ。
ぼく達が閉じ込められていたということを知っている…?
この人…
「…あなたの名前は?どうしてぼく達が抗魔魔術のかけられた岩に閉じ込められていたことを知っているんですか?」
男はしまったという顔をして、少し考えたようだったがしゃべり始めた。
「俺はツヴァイ、武闘家科で『裁きを下す者』の人間だ。察しはついているとは思うが、俺がお前らを閉じ込めさせた張本人だ。」
この人がゼロによくちょっかいをかけるという人か。
「あなた、ぼく達をヒラブル役所に閉じ込めたでしょ?どうしてそんなことしたの?」
「決まっているだろ。俺がまた一位に返り咲くためにだ。あいつが来るまでは学年一位だったのに、あいつは…!」
……ブチッという音が私の頭の中で鳴ったような気がした。
「……ふざけてるの!?ぼく達はそんなことのせいで閉じ込められて、脱出するために犯罪者になって…!」
怒りでさっきまで出せなかった大声を出していた。
ツヴァイはいまだに不気味な笑みを浮かべていた。
「一位になりたいなら努力して、実力で取りにいったらどうなの?」
「実力でこれなんだ。これ以上努力しても無駄なんだよ!」
ツヴァイも私と同じ位の大きさで怒鳴る。
私は小さな声で詠唱を唱える。
「『邪悪な闇よ、仇なすものを闇に飲み込め!! ダークゾーン』」
漆黒の闇がツヴァイに向かってはしる。
……ハズだった。
闇がツヴァイを飲み込もうとした瞬間魔術が消滅した。
「俺達がお前らを縛りつけるだけでなんの用意をしないと思ったのか?魔術を封じる首輪をつけて魔術の発動を無効にさせた。」
そう言われて初めて自分に首輪がついていることに気がついた。
「さらにこいつはこんなこてもできる。」
ツヴァイが指を鳴らす。
そうすると体が動かなくなった。
「〜〜〜!」
喋ることもできない。
ツヴァイがぼくを縛りつけていたものを取り除く。
「立て。」
体が勝手に動き私は立った。
さらにツヴァイが続ける。
「お前は今俺の意のままに操ることができる。奴らのいるところまで歩いていけ。」
「了解しました、我が主。」
次に自分が話そうと思っていないのに口が動き声が出た。
しかしそこから出た言葉は自分が絶対言わない言葉だった。
「『主人』…か。さっきまで反発していたやつとは大違いだな。」
「言いたくて言ったわけじゃない!!」と言おうとしても声が出なかった。
ツヴァイはぼくの頭をなでる。
「落ち着いていれば可愛いのに。残念だ。」
ぼくはこの瞬間わかったことがある。
こいつ、変態だ。
だが操られたぼくは頭をなでられていることに喜び、本当の表情を表せれない。
表すことができたらぼくは今すごい顔をしていたに違いない。
ぼくは歩き始めた。
歩いている途中、ぼくはどうにかしてこの状態を解除しようと奮闘したが全く意味なかった。
牢屋まで歩かされ、そこには鈴とぜろがいた。
「入れ。」
牢屋に入る。
よく鈴やぜろもぼくと同じように首輪をつけてはいたが、武器などはそのまま持っていた。
「飛鳥っち!!」
鈴が叫んで私に近寄る。
しかしツヴァイがぼくに剣を放り投げ、
「斬れ。」
と言った。
ぼくは剣を受け取り、鈴を斬ろうとする。
しかしゼロが素早くぼくの剣をはじいてくれる。
「ハハハハハ!仲間同士で戦いあう、こんなに面白いことはない。」
ツヴァイが去り、ぼくは体を自由に動かすことができるようになった。
「…ごめん、鈴たちに攻撃しようとしちゃって。」
「気にしないで。飛鳥っちは悪くない。飛鳥っちは操られていただけなんだから。」
鈴がぼくに微笑みかける。
「だけどあれの対処方法は?」
その時、「バキッ」という音がした。
「壊せばいいだろ。」
ゼロが首輪を外しながら言う。
…それができるのはこの中であなただけでしょ?
ぼくと鈴の表情を見てできないと理解したゼロはぼく達の首輪を破壊しようとした。
鈴の容易に首輪は外れたが、ぼくの首輪にゼロが触れた途端、また体の自由がきかなくなり、ぼくはゼロに剣を向けた。
「自己防衛機能に切り替えます。私に仇なす者は排除いたします。」
どうやっても体が思い通りに動かない。
「どうやら戦闘で首輪を破壊する以外は方法が無いようだな。」
「この者は要注意人物なのであなた方より高度な首輪を我が主からいただいています。ぜろ・鈴、残念ですがあなた方は我が主のためここで私の手で始末します。」
「飛鳥っちは悪くない。全部私が仕組んで実行したことなの。」
「…この者の記憶を調べた結果、あなたの言葉を嘘と認定します。」
剣を使い鈴に突撃するぼく。
「『我を打撃から守れ ブレイクシールド!!』」
しかし鈴はぼくの攻撃を防御魔術で守ろうとする。
だが魔術が弱かったため魔術の盾は破壊される。
「『風迅雷閃牙!!』」
ぼくは剣を振り、斬撃を飛ばし、そこから雷をまとった剣で相手を突くという剣士スキルを使う。
鈴が今度は
「『聖なる光の盾よ、我を相手の攻撃から身を守らせよ ガード!!』」
光の盾が出てくる。
ブレイクシールドは一枚で薄い盾だが、ガードは何枚もあり、厚い盾である。
「『閃光脚!』」
ゼロが急にぼくの前に現れ腹に蹴りをいれる。
幸い全てが思い通りに動かないくせに痛みだけは感じる。
「やりますね…。ならこれではどうですか?『世界を支える自然の力、火・水・風・地・雷・氷・光・闇、万物の力宿りしこの魔術、仇なす者全てに制』うっ…!」
攻撃をかわしながら詠唱をしていたが、ぜろの「爪円舞」(突き三発に蹴り四発を舞うように交互に繰り出す技)が腹に当たり怯ませ、そしてその隙に首についている首輪に突きを当てて首輪を壊した。
「ごめんなさい。ぼくが2人に迷惑かけて……」
「かまわないよ。悪いのは飛鳥っちじゃないって言ってるでしょ。」
「とにかく、ここから脱出するぞ。」
ゼロが鉄格子を指差した。
しかしぼくはそこでさっきの戦闘でのダメージが体に襲いかかってきてその場にうずくまった。
「…二人とも本気で攻撃したね?」
「そうしないと私たちがやられそうだったから…。」
二人とも私から目をそらしている。
「と…とにかく、これを壊してツヴァイを殺ろう。」
「そうだね。」
「なら飛鳥、剣を貸せ。」
ぜろに剣を貸す。
ぜろは私の剣での剣術と自分の武術で鉄格子を破壊する。
「何事だ!?」
破壊した音でそれを聞いた人が走ってくるのが聞こえる。
多分「裁きを下す者」の人間だろう。
「早くアイツのところに行こ。」
「誰のところだ?」
ぼくは先ほど聞いたあの忌々しい声を聞き驚いて声が出た方向に顔を向ける。
そこにはツヴァイがいた。
「まったく…、あれはさすがに悪いと思ったから弁護してやろうと思ったが脱獄とは…。これも重なって罪になると弁護できるか心配だ…。」
ツヴァイが何かつぶやいている。
よく聞き取れないがどうせ悪いことでも考えているのだろう。
「自己防衛機能を倒して首輪を破壊するとはな。だが倒すのが一足遅かった。これから裁判の時間だ。俺は弁護人の位置に立つ。」
「ふん、俺を邪険にしているお前のことだ。罪が軽くなるよりも重くなりそうだ。……と、言いたいところだが俺達はお前をここで倒す。関係ないこいつらを巻き込んだ罰だ。」
ぜろがツヴァイに殴りかかる。
しかしさすが武闘家科のトップの二人、お互い激しい攻防が繰り広げられる。
鈴が魔術で援護しようとするがゼロに阻まれる。
「俺がいなかったらこんなことはなかった。だから俺に任せてくれ。」
結局、すぐに他の「裁きの者」が現れてぼく達は裁判所へ連行された…。
「え〜、では今からヒラブル役所破壊事件の裁判を始める。」
裁判長みたいな人が開始の宣言をする。
ぼくには話の内容がよくはわからなかったが、ツヴァイが必死にぼくたちの弁護をしていたことだけは伝わってきた。
結果、ぼく達はツヴァイの努力のおかげか無罪となった。
ツヴァイにさっきまで敵対した態度をとっていたのにどうして必死に弁護してくれたのか尋ねると、
「俺は弁護人として人を弁護しただけだ。」
と言われた。
しかし何故ツヴァイはぼく達を弁護したのだろうか。
そんな疑問を浮かべながらこの長かった一日が終了したのである。
次回で第一部、完です。
まあ次回はエピローグのような内容なので今回が第一部の最後と捉えてもらってもいいです。
次回はあの飛鳥が……!