罠
地下へと続く階段を歩いていた私はふとある疑問が浮かんだ。
「鈴さ…じゃなかった鈴、どうやって空間を広げれるの?」
「それは空間魔術系の術だね。当の空間魔術は使える人がいなくなったみたいだけどそれに類似した術なら使える人がいるんだよ。」
「なら空間魔術って何ですか?」
「また敬語になってるよ。空間魔術ってのはその名の通りなんだけど空間を司る魔術なんだよ。主に空間転移が基本らしいよ。やろうと思えば別空間に閉じ込めたりもできるんだって。」
空間魔術かぁ…、もし使えるのなら強力な魔術になっていたんだろうな。
「そういえば…」
係の女性が口を開く。
「こちらのグループのリーダーの名前は0さんでよろしかったですよね?」
「はい、そうです。ですけどどうしてそれを?」
いつもえらそうにしている0だけど目上の人にはちゃんと礼儀正しい。
「いえ、先生方に頼まれているんです。来た生徒の確認をお願いします、と。」
それはやっぱり文の偽造防止のためかな?
はたまた誰が早くここに来たかをチェックするためだろうか?
……そういえば他のグループはいつついたんだろう?
しばらくすると、ぼく達は地下へ地下へと進んでいた。
「あのう、普通町長室って建物の上じゃないですか?なんだか下へ下へ行っている気がするんですけど?」
「よく聞かれます。ですがこっちであっているんですよ。この建物を建設した当時の町長の趣味でして、地下に造ることになったのです。」
そんな趣味で後世の人間に面倒をかけないでほしい。
しかし、どれだけ文句を言っても目的地が変わるわけではないので、ぼく達はそのまま進んだ。
そして…
「着きましたよ。」
と言われて立ち止まった。
だが見えるのは錆びた扉一つだけだ。
「さあ、この先ですよ。」
「嘘だな。」
「嘘だね。」
「嘘ですね。」
ぼく達は口を揃えてそう言った。
だが女性は表情一つ変えずに
「嘘ではありません。これも先ほども申し上げました建設当時の町長の趣味なのです。」
表情を変えないところがなおさら怪しい。
「飛鳥、鈴、奴の言っていることが嘘だと確定したら気絶させて上に戻るぞ。なんか嫌な予感がする。」
「ぜろ? 何かわかったのですか?」
「ああ、多分俺の知り合いが犯人だ。あいつよく俺にイタズラしてくるんだよ。」
ゼロは大変な友達を持ったんだなぁ。
ぼくは鈴さんという優しい人に出会えたことが幸運と思えてきた。
「あの…、一体何を話されているのでしょうか?」
小声で話していた私たちに不信感を持ったのか女性が話しかけてきた。
「少し帰りの道を話し合っていたんです。はじめが出遅れたみたいでここに来て他の生徒が見当たらないということは先に着いてすでに帰路についていると思うのでできるだけ安全な近道はないかって。」
鈴さんが即座にアドリブで返した。
鈴さんのおかげで怪しまれることがなかった。
「そうでしたか。では早く済ませましょう。お先にお入り下さい。」
女性がぼく達の後ろに下がったあと、ゼロがぼくだけに聞こえる声で言った。
「先に行って中を確認してくれ。もし罠だったらドアを軽く蹴れ。本当にここが町長の部屋なら地面を蹴ってくれ。」
確かに鈴さんやゼロのほうが役立たずのぼくより女性を取り押さえることが出来るだろう。
私はうなずき、扉を開き、先の光景を見た。
「ガン!」
私は扉を蹴った。
そこは誰がどうみてもこの町の長が仕事をする場所ではなかった。
蜘蛛の巣が張り巡らされ、ネズミやゴキブリが大量に住みついている。
私の合図と共にゼロが女性に裏拳をいれようとする。
「チッ、バレていましたか。」
女性は裏拳を左手で止め、そのままゼロを投げ飛ばす。
というより「バレたか」って今まで騙せていたと思っていたんですか!?
「鈴!」
投げられながらゼロが鈴さんを呼ぶ。
鈴さんはわかっていたかのように既に詠唱を終えており
「『グラビティ』!」
強力な重力を発生させ女性を床に押さえつける。
「おい、これ俺達が向こう行けないんじゃないのか?」
「ん~、そうだね~。飛鳥っち、捕縛魔術とか使える?」
「簡単なものしか出来なくてすぐ破られるけどいいんで…いいの?」
「大丈夫だよ。少し時間を稼げるくらいで充分だから早速おね……」
「ドドドド」という音と共に天井が崩れた。
鈴さんは魔術を止め、ぼく達と一緒に後ろに下がった。
扉の中に入れば確実に無事なのだが、中はネズミやゴキブリだらけなので誰も入ろうとしなかった。
とはいえ、全員無事に落石を回避したのだった。
「危なかった~。いや~、ごめん。よそ見してたら天井の方に魔術当ててたよ。」
鈴がのんびりした声で言った。
「ちょっと鈴!?なんでそんなにのんきな声出せるの?今の状況理解できる?」
ぼくは自然と鈴を呼び捨てで呼ぶことが出来ていた。
だがそんなこと今はどうでもいい。
先程の鈴の魔術が通り抜けることが出来ないほど岩が落とし、ぼく達は閉じこめられてしまったのだ。
「大丈夫だよ、飛鳥っち。これくらいなら魔術でどうにか……」
「『………となりし悪しき力から我を護りたまえ アンチマジック』」
「なる……よ…?」
鈴が魔術でどうにかすればいいという岩の山に抗魔魔術がかけられる。
この魔術は詠唱の長さや魔力量によって魔術への耐性を決めるのだが、今岩の向こう側にいる女性がかけたのはおそらく最大の抗魔魔術…、つまりぼく達は唯一の突破方法であった魔術までも意味を成さなくなった。
「……」
ぼく達の間で無言の時が長時間発生した。
そこに水を差したのはぼくだった。
「…鈴、どうするの?これ。」
「う~ん…。対抗魔魔術をかけるかでっかい威力の魔術をぶっ放すかだよね。けど前者は私できないしな~…。………よし、とっておきの魔術を試してみますか!」
鈴はすぐに詠唱の準備を始めた。
「『いけ灼熱地獄の業火よ、天界を焼きしその力を用いてすべて塵一つ残さず焼き払え インフェルノ・メガフレイム』」
火のレーザーが岩に当たる。
本来なら岩なんてすぐ消し飛ばしそうな威力の魔術なのに岩に全く変化がない。
「………くっ」
鈴が魔術を止めた。
ぼくは岩を見たが岩には焦げ痕すらついていなかった。
「あ~やっぱりダメだ。こりゃ私じゃ出来ないね。悔しいな~。」
鈴でもダメだった。
「……どうするの?」
ぼくが2人に聞いた。
「鈴の魔術は効かない。岩を退かそうにも大きすぎて3人で一つ動かすだけでも難しい。ぜろに砕いてもらおうにも結果ぜろの腕が壊れるかもしれないしそんな無理はさせたくない。」
ちょっと前まで敬語で話していたことが嘘のように完全に素で話していた。
「つまり打つ手無しと言いたいのか?」
ゼロが聞いてきた。
小さく頷く。
だが鈴は
「飛鳥っちは何か無い?」
「えっ?ぼく……ですか?」
ここで素で話していたことを思い出した。
「ぼくにそんな力はありませんよ。鈴さ…鈴より強い魔術撃てないし、ぜろより強い剣技を持っているわけじゃないですし。」
ちなみに無いと言えば嘘になる。
ただそれは他の人に見られたくないものなので言っていないだけである。
「嘘だな。」
ゼロが言った。
「ただ他人に見せたくないから使わないだけだろ?こんな時によくそんなことが言えるな。」
「そ…それは……。」
ゼロはぼくの隠していることがわかっているかのようだった。
「お前が知られたくないことなら俺らは見ないし聞かない。それが何なのかはいつかお前が言えるようになってから言ってくれればいい。だから今は可能性にかけてそれを使え。」
ゼロはぼくの秘密をどこで知ったのだろう。
そう考えつつゼロに従う。
「…わかった。その代わり終わるまで2人に感覚遮断魔術かけるけどいい?」
疑問が残るせいかさっきので慣れてしまったのか自然に敬語を使わず話せる。
ぼくの質問に対しゼロは無言での了承をし、鈴は
「オッケー」
と二つ返事での了承をした。
「いくよ。『闇の幕、あらゆる物を包み五感の全てを奪え ブラックカーテン』」
黒い布のようなものが2人にかぶさり、2人の全ての感覚を奪う。
五感を奪われた人は恐怖しか感じないだろう……すぐに終わらせる!
「『契約者飛鳥が命ずる、この岩を破壊せよ。出でよ、黒!白!』」
ぼくの出した魔法陣から真っ黒でチャラチャラした服装の黒髪の少年と真っ白で清楚な服装の白髪で長い癖っ毛のある少女が現れた。
少年が出現早々口を開く。
「おい飛鳥、お前いつになったら俺らのことを普通の名前で呼ぶんだ?」
「黒、今はそんなことを言っている暇ないの。この岩をどうにかしてほしいんだけど。」
「…飛鳥ちゃん、私からもお願いします。正直今の呼び名は子供っぽいというか…。」
「ごめんねサン。今度からはちゃんと呼ぶよ。……ルナもね。」
「なんで俺には仕方ないみたいな言い方なんだよ…。」
この2人はサンとルナといって2人とも各属性に1人ずつしかいない精霊であり、ぼくの召喚獣だ。
なぜかぼくが生まれたときに2人と召喚契約をした。
理由はわかっていないけどそんなことあまり気にしなかった。
そしてぼくは2人と共に成長し、ぼくにとって家族同然な存在である。
「そういえば飛鳥ちゃん、岩を壊すというのはどういうことですか?飛鳥ちゃん私達と魔術の特訓してこれくらいの岩なら簡単壊せる魔術覚えてませんでしたか?」
「うーん、ちょっとそれとは違うんだよね…。」
「?」
ぼくはこれまで起こった出来事を2人に事細かに話した。
「なるほど。抗魔魔術をかけられているのか…。」
「ごめんなさい飛鳥ちゃん、今回お力にはなれそうにないです。」
「……え?どうして?」
サンとルナは顔を見合わせ2人同時に大きな魔術を岩に当てる。
しかし
「……壊れない?」
サンが頷く。
「精霊の術も魔術ですから。これでも最大級の魔術を出しているんですよ?」
「ここは光や闇の力が少し弱いからな。ホームタウンなら楽に壊せるが。」
「じゃあ打つ手無しか……。」
ぼくは落胆した。
だがルナ達は打つ手が無いという顔をしていなかった。
「お前何勝手に落ち込んでんだ?まだ詰んだとは一言も言ってないだろ。」
「……え?」
「飛鳥ちゃん私達と魔術を覚えようと頑張っていた時にすごい術を考えたと言ってましたよね?」
ぼくはサンの言葉を聞いて「あー」という声が出た。
「おい、忘れてたのかよ。」
恥ずかしながら完璧に忘れていた。
それを無言でルナ達に伝えると溜め息をつかれた。
「まったくお前は……。」
「い…いいじゃん別に。」
小言を言うルナを制止させ、
「とにかく、アドバイスありがとう。やってみるね。」
「ああ。そうだ飛鳥」
ぼくが2人を元の場所に戻そうとしていたらルナが
「お前そろそろ俺ら以外とも普通に話せるようになれよ。内弁慶みたいだぞ。」
とデコピンしてきた。
ぼくはデコピンしてきたことについては何も言わずに
「うるさい。ぼくだって頑張ってるんだから…。『召喚解除』」
「飛鳥ちゃん、またいつでも呼んでくださいね。」
と、ルナ達を元の場所に帰した。
まったく、ルナは本当にお節介なんだから……。
ぼくは鈴を見た。
さてと…
「『魔術解除』」
鈴とゼロにかけていた魔術を解除する。
2人は今まで感じれなかった感覚を取り戻し、その感覚を確認していた。
「飛鳥、どうだったんだ?」
「見てのとおり失敗。けど思い出した。」
「何をだ?」
「ぼく自身がこれを壊せる魔術を持ってるってこと。」
鈴が「じゃあさっきまでは何してたの?」と言いたげな顔をしていたが今はそれを気にする気はなかった。
「…で、使わなかったのか?」
「威力が高いのは確かだけどまだ一度も試したことがないから危なくて……。それで鈴に万が一のために防御魔術を展開してほしいの。」
「私?」
ぼくは小さく頷いた。
「そうだよ。ぼく……わ、私以外に魔術を使えるのは鈴しかいないから。」
「私」と言うのは恥ずかしかった。
なんとなくこう言うと鈴がやる気になってくれるかなって思ったんだけど…
「……話についていけてないけど飛鳥がやるって言ってるんだもんね。じゃあそれに答えなきゃ、だね。」
鈴は意外と冷静に言った。
もう少しこう「うおおお、やってやるか!」みたいに言うと思ってた。
ぼくのそういう思いを鈴は知らずに防御魔術を展開し始める。
「『我に仇なす全ての物から守れ プロテクトシールド』。準備出来たよ。」
鈴の魔術によって大きなガラスの板みたいな防御魔術が発動される。
鈴の合図でぼくは自分自身の魔術の詠唱を始めた。
「『世界を支える自然の力、火・水・風・地・雷・氷・光・闇、万物の力宿りしこの魔術、仇なす者全てに制裁を加えて、聖なる加護を我らに与え導け!! エレメントエイト』」
8色の光がぼくの周りから出現した。
ぼくは岩の山に向かって魔術を撃った……つもりだった。
それは目の前の山だけではなく、天井、床、後ろの部屋など四方八方に飛んだ。
幸いにも防御魔術をかけている鈴達には今はまだ飛んではいない。
ぼくの魔術は岩の山に当たると抗魔魔術がかかっていないんじゃないかと思えるほど容易に岩を破壊し、それと同時に四方に放たれたものも天井や扉を破壊した。
それでも、目的のものは破壊できた。
ぼくは魔術を止めようとしたが
「あれっ?あれっ??」
「おい飛鳥、どうした?」
ぼくが魔術を発動したまま挙動不審になっているのを見てゼロが聞いてきた。
「魔術を止められない…!」
ぼくは目に涙を浮かべて言った。
「どうしよ!どうしよ!」
錯乱しはじめ、同時にすごい魔力量が消費され続けて冷静な判断ができなかった。
このままじゃ、2人も魔術に巻き込まれる…。
「飛鳥!」
鈴がぼくに抱きつく。
「飛鳥、落ち着いて。深呼吸で肩の力を抜いて。」
言われたとおりにする。
けどまだ不安は解消できない。
すると鈴がぼくの頭をなでてきた。
「飛鳥、あなたには私達がついてる。だから安心して。」
「…うん。」
どうしてだろう、鈴が近くにいると安心する。
ぼくは段々落ち着きを取り戻してきた。
「魔術を止めるには魔術への魔力供給を止めるの。ゆっくり蛇口の栓を閉めるように魔力の供給を緩めて……、飛鳥危ない!」
ぼく達の頭上から瓦礫が降ってきた。
鈴は避けれるかもしれないが、ぼくは魔術を発動している最中なので、避けられない。
鈴が魔術で壊そうにも魔術を発動できる距離ではなかった。
「飛鳥!」
ゼロもぼくを守ろうと駆け寄ってくるが、間に合わない。
「っ!」
鈴がぼくを庇おうとする。
その時、ぼくの頭に自宅の光景が浮かび上がった。
そして、それを待っていたかのように白い光がぼくや鈴、ゼロを包んだ。
「な、何!?」
ぼくが使った魔術にはない効果だったので戸惑う。
どうやら害は無さそうだが、眩しくて目をあけていられない。
すると突然、ぼくの魔力が大量に一気に抜けるのを感じた。
「飛鳥大丈夫?」
魔力が抜けたせいでよろけたぼくに鈴が声をかける。
「…うん、大丈…夫。」
鈴はぼくが大丈夫じゃないことをわかっていたが何も言わなかった。
光がおさまってきた。
そこから見えた光景は…
「え…?ぼくの…家?」
ぼくの目には先ほど脳内に浮かび上がった自宅の光景と同じものが見えた。
だが、本当にこれが現実か確かめる前にぼくの体は限界を迎えていた。
ぼくの意識はこの後すぐに途切れたのである。
書けなかったので説明
魔法は家庭用で元は精霊が使う魔術。ここまでは説明済みですが、魔法は普通の人間は使えない。使うようになるには精霊の力が宿った魔法石をつかうことである。
飛鳥は魔法石で代用と言っていましたけど、実際は知らずに魔法を使っていたということです。
精霊の加護は一つの魔法石に一つなので全部使うのは全種類の魔法石を集めるということになります。精霊の加護は精霊達が自分の加護を解除できます。
さらにルナとサンの説明
サン 光の精霊
飛鳥の精霊。他の精霊とは契約をしていない。飛鳥とは飛鳥が生まれたときに契約し、初めて召喚されたときに見た目から「白」と呼ばれ、ずっと呼ばれ続けていた。飛鳥に憑依でき、憑依された飛鳥は性格が穏やかになり、光の魔法を魔法石なしで発動でき、魔術も魔力なし、詠唱なしで発動できる。
ルナ 闇の精霊
飛鳥の精霊。他の精霊とは契約をしていない。飛鳥とは飛鳥が生まれたときに契約し、初めて召喚されたときに見た目から「黒」と呼ばれ、ずっと呼ばれ続けていた。本人はその呼ばれ方が気に入らない。飛鳥に憑依でき、憑依された飛鳥は性格が荒くなり、闇の魔法を魔法石なしで発動でき、魔術も魔力なし、詠唱なしで発動できる。