水精霊の鍾乳洞
「鈴、さっきはごめんね。」
鈴を竜と爪に謝らせた後、私は鈴に謝った。
「へ?何が?」
当の本人はわかってないようだけど。
・・・それもそうか。
「鈴に厳しくしたこと。一応私もこのチームのリーダーだからみんなを平等な扱いをしなきゃいけないと思って。」
「ああ、そのことか。大丈夫大丈夫。大体そんな感じだと思ったから。・・・そういうことかぁ、てっきりよくないスイッチ押したのかと思った。」
また小さな声で呟いてる・・・。
なんかホッとしてるみたいだけど、私が何かしたのかな?
私の疑問をよそに鈴は、私に言った。
「さあ、飛鳥っち、今からアクリを倒しに行こうよ。」
そう、今私たちは水精霊アクリがいる洞窟の前にいるのだった。
「・・・うん!」
感じた疑問を気にしないようにし、私は鈴に答えた。
私は準備などをするためにみんなを呼んだ。
アクリが棲む場所はアクナリアの北にある洞窟にいる。
その洞窟は鍾乳洞となっており、中には多数魔物も存在する。
当然馬車は入れない。
そのため、馬車を入り口に置いて行き、それを見張る人も必要である。
「残らなきゃいけない人が出るんだけど、いいかな?」
「何人が残らなきゃならない?」
「最低2人。できることならいつも見張るように3人欲しいけど・・・。」
私はある5人を見る。
「・・・飛鳥が行くなら付いていく。」
「フーちゃん行くなら私も行く。」
「アクリに会うなら契約しなきゃね。」
「わ、私も。」
「強えやつが相手なら留守番なんてしてられねえよ。」
・・・最低、影月や流流、琴葉、鳴、爪は確定なのだ。
あの宣言を見て骸亜は
「・・・ほとんど面子が確定してるじゃねえか。」
と、呟く。
まったくその通りです。
「で?残りはここで見張りしてろって・・・・、いや、俺も行く。」
骸亜は、竜と鈴を見ながら考えを変えた。
どうしたんだろうか?
鈴が竜に対して、まだ根に持ってると思っているのだろうか?
「2人がまだギスギスしてると思ってるの?安心して、仲直りしたから。」
「そういうことじゃない。あいつらの・・・何でもない。ただ面子が心配なだけだ。」
「ちょっと、それ心外なんだけど!」
「琴葉が言った通り心外だよ。別に暴走しそうなのは爪くらいだし、フーたちは言ったことはちゃんと守ってくれるはず。」
「その爪を制御できるやつがいないってことだ。俺もできるか怪しいが・・・。」
そう言って骸亜は琴葉を呆れた目で見ていた。
え?なんで琴葉をそういう風に見てるの?
そして、琴葉は何か分かったかのように
「ああ、なるほどね。そうね・・・飛鳥、骸亜も連れていきましょ。」
「え?急にどうしたの琴葉?」
「飛鳥が言った仲直りって、鈴を竜に謝らせただけでしょ?なら、二人きりにさせてちゃんと話し合ってもらった方がより仲直りできるんじゃない?」
琴葉は私に近づいて小声でそう囁いた。
琴葉の言う通り、私がしたのは鈴に謝らせただけだ。
その後、私が一言言ってそれで竜たちへの謝罪は終わったのである。
確かに、それだけでは一度壊れた関係は直らないと思う。
だけど
「逆に、さらに険悪になる可能性もあるんじゃないの?」
「それは否定できないけど、あの二人なら大丈夫だと思うわよ。幼馴染なんだからお互いのことはよく知ってるだろうし、こういうことは何度もあったと思うしね。」
「わかった。二人を信じて残そうか。伝えてくる。」
私は鈴と竜を呼び出し、残ってもらうよう頼んだ。
「えー!?さっき一緒に倒そうって言ったばっかりじゃん!私恥ずかしい人みたいになってるよ。」
「俺は別に構わないぞ。残る奴が決まったら言ってくれ。」
「竜ありがと。鈴ごめん、でもわかって。みんなそれぞれ戦いたいって言ってるし・・・。」
「私だって戦いたい。」
「骸亜は理由はわからないけど、竜と鈴と一緒に残りたくないって言うし・・・。」
「私だって竜と居たくない。」
「・・・」
「・・・」
「竜とは仲直りしたんだよね?」
「ごめんなさい。」
「もう・・・、それについてはこれ以上言わないけど、とりあえずわかって?話わかってくれそうなのが鈴と竜だけなの。わかってくれそうな他二人がそれぞれの事情で行きたがるし。」
「・・・思ったんだけど、私が同行して骸亜が残れば、骸亜としてはいいんじゃないの?」
「それは・・・、パーティの編成が偏るから・・・。」
これは私自身のわがままだ。
7人のうち、3人前衛4人後衛よりも、4人前衛3人後衛の方が戦いやすい。
私が前衛に出ればいいのだけど、前に出ると全員のことが分からなくなってしまうので、なるべく後ろで魔術を撃っていたい、というものだ。
個人的要望だから、鈴に目を合わせて堂々と言えない。
だが彼女は
「・・・わかった。パーティ編成なら仕方ないよね。」
「いいの?」
「うん。みんながわがまま言って私が我慢しなきゃいけないのが納得できなかっただけだから。ちゃんと理由があるならいいよ。正直、竜と話付けたいと思ってたから。」
「ありがとう鈴。それと本当にごめんね、我慢させちゃって。今度、こういう機会があったら優先して同行してもらうから。」
「ありがと。ま、今回は竜と話し合える機会もらえたからイーブンなんだけどね。」
そう言って、鈴は竜たちのもとへ歩いて行った。
そして、アクリと戦うメンバーが決定したのだった。
前衛:影月(ナイフ)、爪(斧)、流流(拳)、骸亜(剣、脚)
中衛:私(剣、魔術・回復)←どちらにも対応(基本は魔術)
後衛:琴葉(召喚、回復)、鳴(召喚、回復)
・・・こうしてみると、前衛ばかりだなぁ。
鈴にああ言った手前、本当はあんまりパーティ構成ってよくわかってないし・・・。
まあ、琴葉たちの召喚獣で数は増やせるからあんまり苦労はしないかも。
・・・とまあこんな感じで、行き当たりばったりになりそうな面子で今回のダンジョンへ向かうのだった。
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「足元、滑るから気をつけてね。」
洞窟に入ってしばらくすると、初めはただの洞窟のように石や草ばかりだったが、奥に進むにつれて水が流れる音が聞こえ始め、足場も湿ってきた。
さらに、出てくる敵も強力なものとなってきており、一度に出てくる数は少ないものの一人で簡単に倒せていたものが、数人がかりでやっと倒せるほどとなってきている。
少しずつ、みんなからも疲れが見え始めてきた。
グランのいた洞窟と同じと考えて安易に鍾乳洞へ踏み込んだのは間違いだったかもしれない。
そういう考えばかり先ほどから思ってしまう。
「しかしよぉ、精霊っていうのは俺達を加護する存在だろ?なんで倒さなきゃならないモンスターを洞窟に棲まわせてるんだ?」
「爪、面白いことに着目するわね。・・・そういえば、そういうことって授業じゃ教えてくれないのよね。飛鳥、何か知らない?」
「ええっ!?私に聞くの?私もそう言うことは教えられてないよ。大体、気にしなかったし・・・。」
何か知っているかなと思い、チラッと影月の方を見る。
影月は、しょうがなさそうに溜め息をつく。
そして、しばらくブツブツと独り言を言った後、答え始める。
「・・・理由は二つある。一つ目は、別に加護の対象は人間だけじゃなくて加護領域に棲んでいる生き物すべてに適用されているから。加護が人間だけっていうのは人間の勘違い。二つ目は、いちいち精霊に勝負を挑みに来る冒険者を相手にしていたらキリがないから。モンスターを配置することによって、ある程度の強さの人しか相手にしないようにするため。」
あ、この子、さっき精霊の誰かに聞いてたのか。
私もサンやルナに聞けばよかったのかも。
「『生きる者皆平等に』ってか。まるで神か天使だな。」
「・・・この世界は各精霊が司る属性のマナによって構築されている。だから、精霊が神や天使というのはあながち間違いじゃない。」
「フー詳しいね。どこで教えてもらったの?」
「・・・それは―――」
「みんな、話は後で。また新しい敵が来たよ。」
私たちが進む道の先から蜥蜴人が3体出てくる。
「またかよ。というか間隔が短すぎだ。」
「文句を言う暇があったら攻撃に回れ。相手を引き付けるくらいできるだろ。」
先ほどから何度か見かけるこのモンスターは私たちより少し大きいくらいではあるが、力が強くて1人で戦うと押し切られてしまう。
さらに、力が強いくせにスピードもそこそこあり、なかなか隙を見せてくれない。
そのため、1体につき2人以上で相手をし、1人が引き付け、もう1人が攻撃するという戦法をとらなくてはいけない。
「骸亜と爪で1体を相手にして。残り2体のうち片方はフーと流流に任せた。もう一方は私が引き付けて時間を稼ぐから鳴と琴葉は召喚術をお願い。」
「・・・了解。やるよ、りゅう。」
「OK、飛鳥、フーちゃん。」
「鳴、そっちは何を召喚する?」
「ええっと・・・。」
「できれば接近戦も遠距離戦もできるタイプを召喚してほしいな!」
考えてる暇はあまりないから少しきつめになっちゃったけど、私の要望を言っておく。
・・・とっさに指示出したから、そもそも前衛4人を集中させちゃったのは間違いな気がする。
まあ、召喚か骸亜たちどっちか一方が終われば、加勢が来るから
「わかったわ。鳴、私はムシャを召喚するから、鳴はエンジェルを召喚して。」
「うん、わかった。」
「・・・・。」
私が、敵に攻撃を仕掛けるとき、別の敵と戦っている骸亜が私を見た気がする。
ちらっと見えただけでよくわからないが、もし見ていたなら何を考えているんだろうか?
私の攻撃に蜥蜴人も応戦し、その硬い手の鱗で私の剣を受けながら、もう片方の手で攻撃してくる。
私は、盾を構えて攻撃を受ける。
「ぐぅぅっ!」
・・・が、相手の力が強すぎて防御しても押されて、体勢が崩れてしまう。
そして蜥蜴人は、また攻撃を行おうとしている。
このままじゃ防御が間に合わない。
なら・・・
「『ファイアボール』!!」
体勢的に難しかったが、無理やり剣先を蜥蜴人に向け、そこから火球を相手にぶつける。
反動で地面に尻もちをついてしまう。
その代わりに、蜥蜴人も苦手な火をぶつけられてのけぞりながら数歩後ろに下がる。
大したダメージはないが、何とか出来た隙。
けど、それはほんの少しの間だけであり、反撃までは行えず、私は立ち上がって仕切りなおすくらいしかできなかった。
私が立ちあがった時、
「爪、こいつを任せた。」
骸亜の声が聞こえた。
ふと見ると、骸亜が自分が相手をしていた蜥蜴人を爪に任せ、私の方へ向かってきているのが見えた。
「琴葉、鳴、お前らは爪のサポートに回ってくれ。」
「え?あ、うん。」
「わ、わかった。」
琴葉と鳴に指示をしながら、こちらに向かってくる。
・・・そっか、私がとっさに組んだ偏った編成のフォローをしたのか。
「飛鳥!何ボサッとしてる!」
骸亜の言葉でハッと我に返ると、目の前に蜥蜴人がいた。
私はとっさに盾を構える。
敵はまだ攻撃態勢に動いてない。
それなら、魔術を詠唱するだけの余裕は十分ある。
「『猛き焔よ!大地に潜み、狙いし獲物が訪れし時、大きく爆ぜよ! バーストマイン』!」
早口で言い、何とか間に合わせる。
地雷型の魔術を盾に潜ませ、相手の攻撃が盾に当たると同時に起爆する。
爆発の影響で再び私は吹き飛ぶが、蜥蜴人も爆発によって火達磨になって混乱していた。
「ったく、どの世界で生まれても危なっかしいのは変わらないのか。」
恐らく独り言のつもりで呟いたであろう骸亜は、吹っ飛んだ私と入れ替わるように蜥蜴人に斬りかかる。
相手は混乱しており、十分に隙があった。
そのため、骸亜が止めを刺せないわけもなく、
「ザシュッ」
最後はあっけなく骸亜に胸元を刺され、おとなしくなった。
骸亜は、剣に付いた血を振り払いながら、私のほうを向いた。
「・・・さて、説教と心配のどっちからがいい?」
骸亜はちょっと怒った雰囲気を出しながら私にそう言った。
その目は、冷たくもありながらどこか安心しているようだった。
「あ、えと・・・心配でお願い。」
「わかった。大丈夫か?かなり盛大に吹っ飛んだが、どこか打ったところとかはないか?」
先ほどまでの表情は鳴りを潜め、安心した表情で私に接する。
その表情は先ほどの緊張でこわばった私の心をほぐしてくれるようだった。
「うん、受け身をとったから大丈夫。心配してくれてありがとう。」
「それに、いい判断だった。盾と魔術を使ったカウンターは見事だった。おかげでいい隙が生まれた。」
「ありがとう。でも、骸亜が教えてくれなかったら危なかったかもしれない。」
「・・・そうだな。」
先ほどまで優しそうだった骸亜の顔は、表面上は先ほどと同様の表情だが、そこからなんとも言えない威圧感を感じさせた。
「急にどうしたの骸亜?ちょっと怖いよ?」
「言っただろ、『説教と心配のどっちからがいい?』ってな。」
「・・・まさか。」
「そのまさかだ。バカタレ坊主。」
骸亜はチラリと他の人たちの戦況を確認する。
私も確認すると、全員善戦しており、片付くのは時間の問題そうだった。
しかし、あえて聞かなかったが、「バカタレ坊主」というのは向こうの飛鳥に対しての呼び方なのだろうか?
・・・そろそろ混同するのやめてほしいんだけど。
「急に難しい顔をしてどうした?」
「・・・別に。」
「・・・あー。」
何かを察したような顔をするが、何事もなかったかのように話を続けようとした。
骸亜の方がよっぽど「バカタレ坊主」だ。
「まずはじめに、だ。編成に失敗したと思ったらすぐに誰かを一度後退させて別の誰かを回せばいい。さっきみたいに『何とかなる』と思い込んで回避できるはずの危険に踏み込むな。」
「うん、ごめん。」
「次に、これは心配とかそういった感情がないガチの説教だが、」
あ、今までは心配だったんだ。
「戦闘中に何ボケっと突っ立ってた?俺が勝手な判断で勝手に指揮をしたのは間違いとは思わないがお前の意識を逸らさせたのは悪かったと思う。だが、それにしても敵が迫ってきているのに無視して別の方向を見るな。これは学校の授業じゃない。生きるか死ぬかの戦場だということを覚えておけ。」
「はい、ごめんなさい・・・。」
「・・・それと、これは地球の飛鳥にはあまり言わないんだが、」
「?」
もう褒めてはもらっているけど?
「あまり心配させるな。今の俺には、飛鳥より飛鳥の方が大切なんだ。」
え・・・、それって・・・?
「お前は、このチームのリーダーであり、まとめ役だ。メンバーの誰よりも大切にしなきゃいけない。」
「・・・ああ、そういうことね。・・・はぁ。」
「ん?どうした、そんな怖い顔して?」
「・・・別に。」
「???」
不思議そうな顔をする「バカタレ坊主」を無視し、私は他のメンバーの元に向かった。
「・・・。」