帰還
視界が一瞬暗転し、すぐにまた明転する。
見えた光景は私たちが知らない町、見えた瞬間はどこだろうと思ってしまったがすぐにアクナリアだと気づく。
「ここがアクナリア・・・。」
そこは流石水精霊の町と言えるような光景だった。
そこらじゅうに水路が張り巡らされ、そこを船が通っている。
私たちがいる広場には噴水があり、それを囲むように市場が並んでいた。
なんとなくグランズでの空気より快適であり、涼しく感じた。
「とりあえず爪達を探そうか。」
鈴が歩き出す。
だが、私は影月に引っ張られ止められる。
それに合わせて鈴も歩を止める。
「フー?どうしたの?」
「・・・飛鳥、あれ。」
影月が私たちの後方を指さした。
そこには一軒のなかなか立派な宿がある。
「宿?宿なら他にもいっぱいあるかもしれないよ。もしかしてフーはここにみんながいると思うの?」
「・・・多分。骸亜がここの座標を記録して飛鳥に教えたならこの宿で当たりだと思う。」
なるほど、と思い、私と鈴は踵を返してその宿へ向かった。
宿の中に入ると、広いロビーが見え、私はその一帯の椅子に座っている女性に目がいった。
その女性は私たちが中に入ってきた時に顔をこちらに向け、喜びの表情でこちらに駆け寄ってくる。
「飛鳥!鈴!フー!無事だったんだね!」
彼女、琴葉は今にも泣きそうな表情で私たちに飛び込んできた。
聞いた話、グランから私たちが無事ということは聞いてはいたが実際目にしてやっと安心できたということらしい。
私たちがいない間気丈に振る舞っていたが内心心配だったようだ。
「ごめんね、心配かけて。あの時私が無理な作戦をしたせいでこんなことになっちゃって・・・。加えて捕まっちゃうし、リーダー失格かもね。」
「そんなことないよ、清香っち。あ、もうその呼び方はしなくていいのか。とにかく、私達もその作戦に乗った。その時点で私達にも責任がある。それに飛鳥っちはリーダー初めてでしょ?人は失敗して学ぶんだから、それを糧としてよくしていけばいいんだよ。」
「そうよね、私もそう思う。でも、それについて爪があんまり良しとしてなくてね・・・。骸亜から大体は聞いた?」
「うん、聞いたよ。琴葉たちもチームとして動くためにみんなで色々話したんだってね。」
骸亜から皆に本名のことを明かしたとは聞いたけど、やはり琴葉から聞く「骸亜」という言葉には違和感がある。
それ以外にも私が精霊を召喚できることもみんなに教えたということなども教えてもらった。
まあ旅の間にどうせバレるだろうし、その方が隠し事をしなくて色々自由ができそうでいいだろう。
「そういうことも話したのね、あいつ。ええ、なら話は早いわね。男陣がね、というか主に爪だけで二人は一理あるって賛同している感じなんだけど、その飛鳥の采配ミスが良く思わないらしくてリーダーにふさわしいかどうか自分が確かめるって言ってるの。」
「・・・あいつら、私がいないと言いたい放題なんだから。それで、肝心の爪はどこにいるの?」
「・・・寝てる。」
琴葉は言いづらそうにそう言った。
話を聞くと琴葉は骸亜から私たちの帰還の時間を聞いて起きて待っていたらしい。
流流や鳴も待つと言っていたらしいが、旅の疲れが出たのか起きる気配がなかったのでそのままにしてきたらしい。
鈴は爪たちも寝ていることを聞いてぶっ飛ばしてくると言ったが、爪たちも疲れているだろうからと説得し止めた。
「なら琴葉も疲れてるんじゃないの?無理しなくていいからね?」
「ありがとう、でも私は平気。その分これからの旅で楽させてもらうから。」
ああ・・・、やっぱり私たちに負担が回ってくるのか。
まあ三日四日平和なところで遊んでいたんだし当たり前か。
「そういえば皆朝食は済ませたの?」
「うん、こっち来る前に向こうでね。」
「私みんなが食べてこないかもしれないと思って食べてないの。ちょっと付き合ってくれない?」
私たちは頷き、宿屋の酒場に移動する。
琴葉は料理を注文するが、私たちは飲み物を注文する。
席に座り、私たちは琴葉にみんなと別れた後のことを話した。
影月がグランたちを召喚し、助けてくれたこと。
その後、加護領域境界付近の橋で影月が落ち、助けて気絶した彼女に「符養」と呼んでも反応がなかったのに「影月」と呼んだら目を覚まし、符養の本名が影月とわかったこと。
川に落ちた怪我で影月が動けなくなり、飛鳥たちの世界ウラル・・・いや、「地球」に行き、休ませてもらうことにしたこと。
そこにいた異世界での仲間たちのこと、ショッピングモールでの火事のこと、学校のこと・・・。
全て漏れなく話した。
いくつか重要そうな情報をさらっと言われて反応する間もなく次の話をされたからか琴葉は話を終えた後もしばらく情報整理で機能停止していた。
そして戻ってきた時に
「つまり、フーの本名は『影月』。飛鳥達は骸亜の予想通りウラル・・・本当は地球って言うんだっけ?そこに行ってそこでの飛鳥や鈴の家に泊まることにしたと。で、異世界では鈴とフーが実の姉妹で飛鳥がそこの義理の妹。そして異世界の私は『虎』って言う名前で竜の妹ということになってると・・・。」
「まあ、要点としてはそんなところかな。」
「まずはじめにフー・・・影月の事から聞こうかな。影月は本名を明かしたことで今までの『フー』は昔のことを思い出すからやめてほしいっていうことはある?」
「・・・別にない。その呼び名は私が呼んでほしいってお願いしたから。」
「じゃあこれまでと変わらず『フー』って呼ぶね。」
「なんなら『げったん』って呼ぶ?」
「それもありかもね。考えさせてもらうわ。・・・で、次に異世界での人間関係の事かな。・・・本当に私、竜の妹なの?」
「うん、双子の兄の雷牙と一緒に竜のこと『竜にぃ』って呼んでてすごい懐いてたよ。」
「私が竜を・・・。こっちじゃ絶対考えられないわね。尊敬できないわけじゃないけど、そういう関係ではないわけだし。あーあ、私も飛鳥達と姉妹だったらよかったのに・・・。」
そう言ってイジケながら机に突っ伏した。
なんというか、本当に偶然だけど私たち三人が異世界で姉妹だったことを申し訳なく感じる。
姉さんの話だと、飛鳥が神や竜さんの家の子になる可能性もないわけじゃなかったわけで、実際当時の飛鳥に竜さんへの苦手意識が無ければ竜さんの家に行く可能性が一番高かったみたいだ。
それだと私と琴葉は異世界では姉妹ということになり負わせるショックも和らげたかもしれない。
「でも、飛鳥と虎は親友同士だし姉妹じゃないから言えることがあるって言ってて実際に三人とも虎との相談や秘密が結構あるって言ってたよ。そういうことでは姉妹じゃなくてもよかったんじゃないかな。」
そんなフォローを言いながら琴葉を宥める。
まあショックなこともあったみたいだけど、色々興味深いのか質問を繰り返す。
そういったことをしていたらすでに一時間が経過し、流流や鳴も起きてきてそれぞれ再会を喜び、これまでの経緯を説明、そして質問攻めという流れを二度繰り返させられた。
そしてその繰り返しが終わり、時間を見ると昼時に差し掛かっていたのであった。
爪が起きないせいで当初の目的も忘れ、このままみんなで街をまわろうとしていた時、
「お、戻って来たんだな、鈴達。」
「逃げずにやって来たな飛鳥。骸亜に伝えてもらった通り、お前に決闘を申し込む。」
能天気に帰ってきたことを喜ぶ竜と私が待たせたみたいに言ってくる爪。
・・・私、三時間くらい待たされてるんだけど。
あの時鈴に叩き起こしに行ってもらっていればよかったと内心後悔していた。
私たちが戻ってくる時間は教えられていたらしいし流石に疲れていたからで済ませれることじゃなく、決闘を申し込んだくせに相手に配慮せず爆睡しているのに怒りを覚えた。
少しは琴葉を見習ってほしい。
そしてそれを幼馴染である鈴は簡単にいえるのである。
「爪、あなた飛鳥に決闘を申し込んだならのんきに寝てるんじゃなくて少しくらい早く起きるとかしなさいよ。竜もどうせ自分は早い時間に起きて爪が起きるの待ってたとかなんでしょ。どうしてこいつを起こさないのよ。」
「いやあ、こいつがあまりにも幸せそうに寝てるんでつい・・・。」
「そんなことで私たちの時間を奪わないでくれる?さっきこのままあんた等無視して街の観光に行くってことになりかけてたんだから。いくら飛鳥に非があると思っても決闘は公平に行うべきよ。」
「はい、以後気をつけます・・・。」
鈴に言い負かされ渋々了承する。
とりあえず私たちは決闘できるところを探そうと席を立つ。
すると爪が「勝負はどうした」などと意味の分からないことを言った。
「するよ。今から行くんでしょ?」
「待てよ、俺達飯食ってないんだぜ?栄養補給は大事だろ?」
・・・図々しい。
鈴がまた怒りそうだったからそれを止め、言う。
「・・・わかった。お腹空いて力が出なかったなんて言い訳されたくないし。」
「助かる。後それと、場所はもう見つけてある。食ったらすぐに案内するぜ。」
ということで爪と竜が食べ終わるまで待つことに。
先ほどのやりとりで怒りすら通り越して呆れた私たちはもう6VS2のハンデ(?)があってもいいんじゃないかという声まで出ていた。
誰が言ったかはご想像にお任せする。
「よし、ごちそうさん、っと。」
料理ができてから五分も経たないうちに完食する二人。
そしてサッと立ち上がり、私たちに声をかける。
「よし、じゃあ行こうか。」
その言葉に付いていく。
宿屋を後にし、宿屋前の噴水広場に出る。
そして路地の水路に沿って歩いていきまたも大きな広場に出る。
右側には大きな建物―――おそらくこの街の役場だろう―――が聳え立っており、爪はそれを背にして二時の方向、私たちが出てきた路地から11時の方向にポツンとある入口に向かった。
どこかで見覚えがあると思ったら、その入り口は地下への階段となっていて、そこを降りると・・・
「ここは・・・。」
「グランズにもあっただろ。冒険者用の地下訓練場だ。」
まさかここにもあったとは・・・。
場所は違うが私が魔術で壊してしまった施設。
中もグランズのものと全く同じであった。
私は竜に耳打ちする。
「私、この施設出入り禁止なはずだけど大丈夫なの?」
「大丈夫だろ。街も違うんだし、全国で出禁だったらどんなことすりゃなるんだよって話になるしな。」
確かに、訓練場使用禁止とは言われたけどそれがここにも適用されているかはわかんないし、それに八属性魔術を使わなきゃいいだけだからね。
「よし、準備できたら開始といこうぜ。お互い手加減無しの真剣勝負ってことで。」
爪は武器を取り出し、素振りをして慣らしはじめた。
私も剣を召喚し、軽く振り回す。
「わかった。絶対負けないよ。」
こうして、私と爪の対決が始まろうとしていたのだった。
次回、飛鳥VS爪です
なんか男性陣がクズっぽくなってましたが、フォローすると爪は空気の読めない能天気なだけです
竜は鈴に弁解してないですけどガチで爪と一緒にあの時間まで寝てました(自分は決闘しないからおいていかれても構わないという理由で)