買い物にて
あの後、二人は時間を忘れて私を着せ替え人形にしていた結果、姉さんに言われていた30分を大きく過ぎ気づけば1時間経過し姉さんや椿にこっぴどく怒られることになった。
被害者だけどそれに関して何も言わなかった私も同罪ということで一緒に怒られた。
「この子達はそういうことは弁えているはずだから教えればすぐに解放された筈よ。」
「・・・あの時は諦めて考えるの放棄してたからそういうことにも気付かなかったの。」
「・・そういうことね。飛鳥、遊ぶのは別に構わないけど本人が嫌がってるならやめてあげなさいよ。逆にあなたが何されても文句言えないわよ?」
「え~、だってあの清香見たらお姉ちゃんも同じことすると思うけどなぁ・・・。撮った写真見る?」
と言って飛鳥は小さい端末の画面を姉さんに見せていた。
「・・・確かにこれは。わからなくもないわね。・・・そうね、今度飛鳥お願いね。」
「え!?」
「だってそうでしょ?あなたと清香は同じなんだから。さ、それが決まったらとっとと行くわよ。」
そう言って姉さんはさっさと部屋を出ていった。
多分反省していない妹に怒ったのだろう。
「ち、ちょっと!」
それを追いかけて飛鳥も部屋を出ていった。
とりあえず私も今の服では恥ずかしいからはじめに着ようと思った服に着替えて外に出る。
その場にいた虎と椿がどうしてか残念そうにしていた。
「・・・私もいろんな格好の清香を見てみたかった。」
「私は一人でも多くの人にあの姿は見せたくないけどね。」
「大丈夫、大丈夫。今日の買い物で服も見に行くからその時に見れるわよ。」
「・・・私は着ないよ?」
「そこは・・飛鳥がやってくれるから心配ないわよ。」
「えー!?だから何でー?」
飛鳥は自分が嫌がる私に同じことをしたという自覚がないのか必死に嫌がる。
自分がやって恥ずかしいならやろうと思わなきゃいいのに。
「今度がすぐ来たわね。安心しなさい、共犯の虎も道連れにさせてあげるから。」
「私も!?」
「飛鳥に色々着せれるのか・・。どういう服が似合うかしら?」
「ちょっと椿ちゃんも本気にならないでよ!」
「鈴ねぇ、折角だから椿にも色々着せてみない?私と飛鳥だけで色々着て仲間外れにしても悪いし。」
「ちょ!?虎、あなた私まで巻き込まないでよ!」
「あ、椿ちゃんの可愛い服を着ている姿も見てみたいかも。普段はクールな格好しか見ないし。」
「飛鳥まで私を引き込もうとするな。そうだ、可愛い服なら私より影月の方が・・・。」
「私は着ない。」
影月が即答する。
現在影月の車椅子は私が押している。
犠牲者を増やそうとしている飛鳥たちがまた悪い顔をし始めていた。
今度はその犠牲者の一人になっている椿までその顔をしている。
というか満更じゃなさそうだったけど・・・。
「いやぁ~楽しそうだねぇ。」
高みの見物と言ったところか、鈴はのんびりと飛鳥たちの蹴落としあいを眺めていた。
恐らく自分に矛先が向くということは姉さんに矛先が向くと同義だっていうことがわかっているんだろう。
姉さんに逆らえそうな人このメンバーの中にいそうにないし下手に向けると何倍にもなって返ってきそうだし・・。
と言いつつ先ほど被害に遭ったためこっちに来ないだろうと私も高みの見物をしていた。
私たちのグループの中で唯一被害に遭いそうな影月が私の方を見て助けを求めているように見えた。
そこで私は助け舟を出してあげることにする。
「ダメだよ。フーは怪我人だからあんまり無茶はさせられない。」
「・・・そういうこと。」
影月は勝ち誇ったような顔を椿に向けた。
そういう態度とらせるために言ったんじゃないんだけど・・・。
仕様がない。
「けどあれ?思ったよりフー元気じゃない?」
「椿、煽ってごめんなさい。」
私は謝った影月の頭をポンと叩く。
そして影月にこう言った。
「さすがに今のは意地悪過ぎるよ。」
「・・・ごめん。」
影月が謝る。
私たちは会話を続けながらショッピングモールへと歩いていくのだった。
そして時間は進み今私たちはショッピングを一段落させ、ショッピングモール内の三階にあるフードコートと呼ばれるところで休憩していた。
飛鳥や椿は姉さんに色々試着させられたうえで一番似合っているものを買い、現在それを着せられていた。
虎も買ったのだが、それを着ないで家を出たときの格好のままでいる。
「ふふっ、二人ともよく似合ってるわよ。」
「で、でも・・・。」
「逆の方が良かったんじゃない?」
二人は恥ずかしそうにしていた。
それもそのはず、飛鳥と椿は似合ってはいるのだがどちらも普段着ないタイプの服を着ているのだ。
飛鳥は普段はカジュアルな服やかわいらしい感じの服が多いらしいのだが今はクールな感じに仕上がっている。
一方椿は普段着ているらしいクールな服ではなく、キュートなかわいらしい服を着ているのだ。
・・・もう少しどういった感じかと言いたいのだけど、こちらの世界のファッションについては全く分からないのでどうしても印象だけで言ってしまう。
「大丈夫、大丈夫。二人とも十分にあっているわよ。」
「うう~・・。どうして虎ちゃんは着てないの?」
「あとで竜にぃたちにお披露目したかったからね。鈴ねぇに頼んで許可してもらったの。私はあなた達と違ってあの服結構気に入ってるんだから。」
「・・・羨ましい。なんでお姉ちゃんは虎ちゃんだけには似合う服を選んだの?」
「ちゃんと飛鳥達にも似合う服を選んだじゃない。」
「私普段こんな短いの履かないよ。似合うかもしれないけど私の好みに合わないよ・・・。」
「だからこれを機にそういったバリエーションも増やしてみてもいいんじゃない?ギャップ萌えってやつかな?」
「そんなの要らないわよ。というかお姉ちゃん、勝手に下着も買って私達に着けさせてくるし・・・。そしてなんで測ってもないのにピッタリの下着選べるのよ。」
「本当にお姉ちゃん怖いよ・・・。」
そう、姉さんは服だけでなく二人に似合う下着まで選んできていたのだ。
そして先ほどの二人が引いているように姉さんはちゃんとした計測をせずに服の上からの目測だけで二人のサイズピッタリの下着を選んできたのだ。
それに対して姉さんは
「そりゃ二人の姉として各サイズの把握は当然でしょ?それに普通見ればわからない?」
「下着メーカーの人かアンタは。」
常識外れな能力に思わず「アンタ」呼びしてしまう椿。
そしてその常識外れは一人だけではなく、
「え?普通でしょ?」
うちの鈴もそうであった。
やっぱり同一人物ということなのだろうか・・・。
というか本当に違うのって年齢だけじゃないの?
姉さんに下級魔術教えるだけですぐに鈴並みの魔術が使えるようになりそうなんだけど・・。
鈴レベルの魔術師がもう一人・・・、きっと対処できない速さで上級魔術がポンポン飛んでくるんだろうな。
「いやぁ、それにしてもここへ来る時に乗ったあれは凄かったね。」
「鈴、また言ってるの?」
「だってそうじゃない?あんな大きい乗り物があのスピードで自走するんだよ?清香っちもすごいと思わないの?」
「そりゃあすごいとは思うけど、鈴ほど何度も言うほどではないだけだよ。文明の違いもあったし、今までのこの世界での便利な物を見てそういうものもあるって予想はしてたし。」
「なんだよー。清香は夢がないなぁ。」
「私はそれよりも飛鳥椿たちが持っている端末の方が驚きだよ。この小ささなのにものすごい量の情報を記憶できるなんて考えられない。」
「そこは私達も想像できないわね。けど私達だって他の世界の自分達がいてしかもそれが今現在私達の世界に来てこうして話しているってだけでも驚きなんだから。私達の世界には次元を渡る技術なんてないし貴方達みたいに魔術も使えないしね。」
世界移動・・・というか空間移動は私の世界でもできる人が少ないというのは黙っていようかな。
せっかく椿たちも喜んでくれていることだし。
けどこの世界では元の世界に戻ることしかできないみたいだ。
いや、一応できるのだけれど使えるのが私だけなので私が使うとこの魔力回復しづらい環境では元の世界に戻るための時間が伸びてしまう。
それはみんなにこれ以上の迷惑をかけてしまうことになるから空間魔術を使うのはできないのではなく自粛ということになる。
私たちがそれぞれの世界の技術について褒めあっていたいたとき突然、
「ジリリリリリリリ」
甲高い鐘の音が聞こえる。
「な、なにg・・・」
「ドォーン!」
直後、大きな爆発音が聞こえ左方の吹き抜けの下側から巨大な火の柱が上がり、この階の物のいくつかに燃え移り、一気に火が広がる。
「え?なんで?」
飛鳥が声をあげる。
しかし今それどころではない。
と、次には天井から雨が降ってくる。
恐らく火事の際に自動で消火してくれる機械なのであろう。
だがこの火の勢いではあまり意味を成していない。
などと冷静に考えているわけにはいかない。
周りはパニック状態に陥り、逃げ惑う人々で溢れていた。
「なんでこんなに火が回る速度がこんなに早いの!?」
「多分さっきの火が運悪く油とか燃えやすいものに降りかかったんだと思う。」
「けどそれなら階下からのあの火は!?」
「お姉ちゃんも椿ちゃんもそんな冷静に分析してないで早く逃げるよ!」
既に周りに人はいなくて火が私たちの周りを包んでいた。
私は先ほど自分でダメだと思ったことを咄嗟に行おうとしていた。
「『逆巻く激流、荒ぶる渦によ・・・』」
「飛鳥!あなたは魔術を使わないで!」
使おうとした矢先、鈴に止められた。
「けどこんな事態なんだよ?それにもうまわりに人もいないし。」
「それでもあなたは魔力の温存をして。私がやるから。『逆巻く激流、荒ぶる渦により我が敵を飲み込め! タイダルストリーム!』」
巨大な水が渦を巻き、私たちの周りで発生する。
周りの火は一瞬で消え、私たちはそこを進もうとする。
だが・・・、
「「 「「・・・。」」」」
ポカーンとしているこの世界の私たちと虎。
まああるとは言っても実際に魔術らしい魔術は見せたことは無かったから驚いているのだろう。
だけど今はそんな時じゃない。
「みんな何やってるの!?早く行くよ。」
私がそう言うとみんな慌てて走り始める。
走りながら話し合って姉さんや椿が脱出経路を考え、そこまでみんなをナビゲートし、私と鈴が先行して経路上で遮る火を魔術で消すことになった。
その際、
「飛鳥、銃出して。」
急に鈴がそんなことを言う。
もはやこういった状況なので「清香」と呼ばなくなった。
そのため飛鳥が一瞬「えっ?」という顔をした。
だが鈴は私に向かって話していたので私はすぐに銃を2丁とも出す。
「影月、魔力ってどのくらいある?」
「・・・中級魔術6発分くらい。」
「ならそれを2つの銃に込めて。一方には水属性の魔術を、もう一方は普通に魔力のままでいいから。飛鳥、銃から魔力弾を発射するときに術式を展開して魔術として撃ち出せる?」
「できるにできるけどそれだと術式展開ようにごく少量だけど魔力使うよ?」
「別にその程度なら大丈夫よ。銃の魔力が尽きたら私に言って。私が補填する。」
影月は鈴に言われた通り、銃に魔術と魔力を注入する。
それが完了すると私が魔力を注入された方を、鈴が魔術を注入された方を受け取り鈴はそれを飛鳥に渡す。
「もし後方で火が迫ってきたら使って。」
「わ、私が!?」
「別にそれは鈴か椿に使わせても構わないよ。ただこれの元々の使用者があす・・・清香だから飛鳥に渡しただけ。」
飛鳥は少し悩んだ後、自分で使うことにしたようだ。
少し走ったところで火はこの階にはまだそこまで広がっていないことに気付く。
この階にある火が先ほどの火柱から飛び火したものだけだったため吹き抜け付近にしか火が無かった。
私たちは火が燃え移っていくよりも速くそこから遠ざかったため今周辺に燃えているものはない。
そして今から私たちは下の階へと向かう階段の前にいた。
「・・・あの時一緒にフードコートにいた人たちとすっかりはぐれちゃったわね。」
「私達が逃げ遅れただけだからね。けどそのおかげで人目に付かず魔術が使えるんだから逆に脱出しやすいかも。」
「この周辺にも人はいないし、皆もう外へ避難したのかな?」
「・・・そうであってほしい。けど・・・」
「あの火柱ね。あれほどの火が上がったってことは下の階はここよりもっとひどいことになっているかもしれないわね。皆、あんまり煙は吸わないようにしてね。」
皆が頷き、私と鈴が先行して階段を降りる。
先ほどまでいた階は3階だがその下の階、2階は1階からの煙で何も見えない状態であった。
「こ、この煙の量すごすぎ。」
「姿勢を低くして!そのまま1階まで行くわよ。ここの階段が一番出口に近いはずだから。」
2階の様子を確認する暇もなく1階へ降りる。
しかし煙で前が見えない。
「『照らせ ライト』」
鈴が光の魔術で辺りを照らそうとする。
しかし照らした光が煙の中にぼんやり見えるだけで他に何も見えない。
「『風よ、舞え、回れ、我を阻むものあらゆる敵を吹き飛ばせ パル・イーフ!』」
「ちょ・・・」
私は銃の魔力を使って魔術を発射する。
すると突風が吹き、あたりの煙を吹き飛ばした。
姉さんが何か言いかけたけど・・・?
「飛鳥、煙が晴れたら近くの火を銃で撃って。」
「う、うん。」
姉さんが飛鳥にそう指示を出した後、風の影響で周りの火の勢いが強くなる。
そこに飛鳥が正確に水魔術を撃った。
「清香、いくら煙を払うためとはいえそんな強い風を起こしたら火の勢いが強くなるわよ。」
「お姉ちゃん、説教は後。早くしないとまた煙で前が見えなくなっちゃう。」
運よく出口への光が見えた。
そこまでの道は火が邪魔しているわけでもなかったので私たちは全力でそこに向かって走る。
私は持っていると都合が悪いと思ったので銃の召喚を解除して元の場所に返した。
そして私たちは無事に外に出ることができたのだ。
火事の原因は次回に。
魔術使わせるためだったのですが無理やりすぎた展開だったかなと反省。
作中では燃えている油に水をぶっかけていますが、実際にはやらないでくださいね。
これは昔家で揚げ物の油で火事が起こった時に言われました。その時自分は油に対して水かけてましたけどね。本当は濡れたシーツとかをかぶせる方が良いらしいです。
水星 竜 15歳 高校1年生
この世界でも鈴の幼馴染。虎と雷牙の兄。
クロスの竜と違うところと言えば能力と神(爪)が幼馴染ではなく中学から仲が良くなったというくらい。
段々と飛鳥との距離も縮めている。
鈴ほどじゃないが二次元の知識を持っている。