鈴の妹
2014/11/27 あとがき修正
「あ、ごめん。ちょっと忘れ物しちゃったから先に戻っててもらえる?」
脱衣所を出て廊下をしばらく歩いていると飛鳥がそんなことを言ってもと来た道を戻っていった。
私たちは言われたとおり、そのまま先に行くことにする。
居間に戻る途中、玄関の戸がバンと大きな音を立てて開くのが聞こえた。
「お姉ちゃん!どこにいるの!?」
勢いよく扉を開けたその少女は影月にとてもよく似ていた。
後ろに背負っている本人が絶句しているのがわかるほどだ。
この人が飛鳥の言っていた椿って人なのかな?
彼女は私の姿を見つけると歩みよってきた。
そして影月は何故か私の背中に顔を埋めて顔を隠してしまった。
「飛鳥、お姉ちゃんどこにいるかしらない?」
どうやら、私をこっちの世界の飛鳥だと思っているみたいだ。
どうしようかと考えた後、今飛鳥達がいないこの状況で事情を知らない人相手への説明はややこしくなりそうなので、ひとまずは飛鳥のフリをする。
「あ、鈴なら・・・お姉ちゃんなら居間にいると思うよ。」
「・・・?わかったわ。それはそうと、髪が濡れているみたいだけど貴方こんな時間にお風呂に入ったの?それに誰か背負ってる?」
椿が私が背負っている影月の存在に気付いた。
それに私が「鈴」って呼び捨てにしたのを不審がってる。
飛鳥は・・・まだ来ない。
なんとか話を逸らさないと。
「虎ちゃんと遊んでたら転んじゃって、体中汚れちゃって。だから一度帰ってきてお風呂に入っていたの。」
「そう。なら、今誰を背負ってるの?虎?」
「え?・・そ、そうなの。虎ちゃんも一緒に転んじゃって、その時に足を汚したみたいなの。着替えがなかったからちょっと今は椿ちゃんの服を借りてるよ。」
「あなた達どんなことしてたのよ・・・。虎、大丈夫?」
椿が影月に近づく。
影月は背中に頭を埋めたまま私の背中をつねってきた。
ごめん、本当にごめん。
「う、ウン。ダイジョウブダヨ。」
影月は虎という人物のことなど一ミリも知らない状態で彼女の真似をした。
当たり前だけど全く似ていない。
「本当に大丈夫?なんか声も違うみたいだけど。」
影月が私に頭突きしてくる。
痛い、痛いから、謝るから、お願いだから頭突きするのをやめて。
お願いだから早く誰か助けて・・・。
その時、
「あ、椿ちゃんだ。今日はどんな用事?」
ここで救世主(?)飛鳥が現れた。
私と影月はホッとしたが、椿は
「え?飛鳥?なんで?飛鳥はここに・・・?まさか、ドッペルゲンガー!?」
混乱しているみたいだった。
ところで、ドッペルゲンガーってなんだろう?
「あはは、違うよ。どっちも本物だよ。ほら、前に言った人たちだよ。」
「前に言った?・・・ということは、この子が?」
「うん。この人が飛鳥。で、その後ろにいるのが」
私は未だ私の背中に顔を埋めている影月に顔を上げるように言った。
影月はしばらくしてから恥ずかしそうにしながらも顔を椿に向ける。
「「・・・・・・。」」
お互い見つめ合ったまま、一言も話さない。
そしてようやく、椿が口を開いた。
「ふうん、この子が異世界の私なんだ・・・。」
「・・・飛鳥、私この人苦手。」
椿は異世界の自分という存在をあっさりと受け入れ、そして影月はその存在を嫌った。
多分、椿は飛鳥たちと一緒にいることで何かしら異常なことを何度か見てきているため、今回のこともあっさりと受け入れれるのだろう。
まあ、そういう解釈ができるためこっちのことは全く気にならなかったのだが、もう一方は・・・
「ちょっと、フー。初対面で数回しか会話してないのになんで苦手になるの!?」
「・・・別に。嫉妬みたいなものだから。」
「嫉妬?」
影月は無言で頷く。
なんだろう?
同じ人物だからこそわかることっていうのがあるのかな?
「飛鳥、なんかあの子失礼じゃない?」
「まあまあ。符養ちゃんは人見知りなところがあるだけだから。ちゃんと話していけばきっと仲良くなれるよ。」
「人見知り・・・まるで飛鳥みたいね。初対面の態度もあなたとそっくり。」
「ちょ・・今私は関係ないでしょ。」
「まあ、あなたみたいに仲良くなってみせるっていうことよ。」
会話は聞こえなかったが、向こうも向こうで話が付いたようだ。
「なんかフーと違って気が強そうな人だよね。」
「・・・飛鳥もそういう私がいいの?」
「そういう意味じゃないよ。個性って人それぞれだから、それが楽しいわけだし。それに私はフーがフーの性格でいるほうが好きだよ。」
「・・・臆病な私でも?」
影月が少しためらいながら言った。
・・・もしかして影月が椿に嫉妬していることって性格のこと?
・・・・。
私はしばらく考える時間を作って影月が心配しないようにするために、すぐに考えたことを口に出す。
「うん。もちろん変わりたいなら変わる努力をした方がいいと思うけどね。実際フーは頑張っているわけだし。そういうところもひっくるめてフーはフーってこと。」
「・・・そう。」
影月はその後は何も言わなかった。
彼女なりに答えが出せたと思う。
・・・というか私もでかい口叩いていたけど、自分自身変わる努力をすることができなかったし、鈴にきっかけをもらったから変われたわけで私も変えてもらった人間だからなあ。
鈴と出会ってなかったら今でも臆病飛鳥のままだったろうし、人のことをいないと思う。
それをひっくるめて私・・・っていうのはちょっと嫌だなあ。
「そういえば椿ちゃん、ここに来たのは何か用事があったからじゃないの?」
話を終えていた異世界の私が異世界の影月に聞いた。
椿もさっきの私と飛鳥のドッペルゲンガーというもののせいで忘れていたみたいでハッとしていた。
「そうだ。飛鳥、お姉ちゃんどこにいるの?」
「お姉ちゃん?お姉ちゃんならリビングにいると思うよ。」
椿は飛鳥を連れて鈴さんがいる居間へ向かった。
私もそれを追いかけるようについていく。
「お姉ちゃん!話があるん・・だけ・・・ど?」
椿は居間の扉を勢いよく開け、その入り口で立ち止まっていた。
入口に椿がいるため私たちには見えないけど、多分居間にある光景を見て驚いたのであろう。
「あ、椿。どうしたの?」
「ん?げったん?なんか雰囲気違う。」
「椿ちゃん、左にいるのは異世界のお姉ちゃんだよ。」
わかってはいるけど脳内での処理が追いつかないのだろう。
椿は飛鳥に声をかけられるまで固まったままだった。
そしてようやく戻ってきた椿は
「あ、ああうん。確かにお姉ちゃんより少し身長が違うわね。」
間抜けた声が影月に似ていた。
こういうのを見ていると椿も根は影月と同じなのかもしれないと思う。
椿は部屋の中に入り、私たちもその後に続いていく。
「あ、飛鳥達出たんだ。なら鈴、私達も入りましょうか。」
「ちょっとお姉ちゃん、話があるんだけど。」
「えー、今からお風呂入りたいんだけどその後じゃダメ?」
「ダメ。今話したいの。」
「そう・・・。なら、一緒に入らない?前みたいに椿の裸を見たいな。」
「ちょ・・・、何変態なこと言ってるのよ。」
椿と鈴さんの会話しているとき、鈴が私に聞いてきた。
あ、鈴はまだわかってなかったんだった。
「飛鳥っち、あの子がこの世界のげったんなの?」
「うん。椿っていう名前で、この世界の鈴の妹で飛鳥の義姉なんだって。」
「ほう・・・、ということはこの世界の私は同じくこの世界の飛鳥っちやげったんの姉ということか。鈴め、羨ましすぎる!」
どうやら鈴も私が異世界の自分を名前で呼んでいるように鈴さんのことを「鈴」と呼んでいるようだ。
「なら、これからお姉ちゃんって呼んであげようか?」
「是非!」
「・・・やっぱやめた。」
「えー、なんでー?」
時々呼んであげようかなって思ったが、あまりの食いつきっぷりに言う気を無くしてしまった。
ぶぅと拗ねている鈴をほっといて、鈴さんと椿の会話に耳を傾けた。
「いいじゃない別に。姉妹水入らずってことでね。」
「・・・いや、思いっきり水差されると思うんだけど。」
椿は拗ねているほうの鈴をチラッと見た。
当初の予定通り、鈴さんが入れば鈴も入ることになるだろう。
だが鈴はそれに対して
「私だって聞かれたくないことがあるなら聞かないように配慮できるよ。」
「いやいや、そういう意味じゃなくて、二人っきりで話をしたいってことなんだけど・・・。」
「お?椿も昔みたいなお姉ちゃん大好きっ子に戻った?」
「・・・お姉ちゃんは少し黙って。」
「まあまあ、椿、逆に考えるんだよ。聞かれちゃってもいいさ、とね。別に聞かれたらまずいっていう話じゃないんでしょ?」
「うん。」
「ならいいじゃない。それに幸い相手は異世界の私自身。必要なら利用させてもらえばいいのよ。」
なんか本人を前にするようなものじゃない会話が聞こえてきたけど・・・。
当の本人は「さすが私。」とか賞賛してるし・・・。
「ま、まあ、お姉ちゃんがそう言うなら別にいいけど・・・。」
椿は椿で「ツンデレ」というものをしてるし・・・。
あとで飛鳥に聞いたら、色々と鈴さんに文句を言うけどなんやかんや鈴さんのことは大好きみたいだ。
けどそれを本人の前では言わないらしい。
「そうと決まったら、早速行こうか。鈴、椿、行くよ。」
「ちょ、引っ張らないで。」
「やっとお風呂だー。正直もう汚れすぎてて嫌だったんだよねー。」
鈴と椿は鈴さんに連れられて部屋を出ていった。
私たちや飛鳥はソファに腰かけた。
「なんか急いで出て行っちゃったみたいだね。」
「・・・椿ちゃんが来たとき、お姉ちゃんがああやって急いで私のいないところに行こうとしているときは大体私に関することなの。」
「飛鳥の?」
「うん。大体お姉ちゃんの実家の話なんだけど、お姉ちゃんは実家では特殊な立ち位置にいるから力を持っていてもあんまりよく思われてなくて・・・。そんなお姉ちゃんが連れてきた子だから色々と問題があってね。」
「問題?もしかして嫌がらせを受けるとか?」
「ううん、そういうことはないんだけど・・・・、いや、合ってるかも・・・。」
飛鳥はそれ以上は何も言わなかった。
あまり触れられたくないことに触れちゃったのかも・・・。
「・・・飛鳥はもう少し気を遣うってことを覚えたほうがいい。」
「はい。気をつけます。」
沈黙した空気の中、影月が私にそう言ってきた。
私もそれに対して謝ってしまう。
「・・・飛鳥、あの板何?」
唐突に話を変えた影月は飛鳥にテレビのことを聞いていた。
だが飛鳥は私に聞いたと思っていたみたいで、しばらくの間の後
「え?私?」
影月は無言で頷く。
「あれはテレビって言って・・そうだなぁ、例えば・・・」
飛鳥はリモコンを手に取り、テレビの電源を入れた。
するとテレビに映像が映った。
影月はそれに驚き、同時に興味がわいたようだ。
「・・・どうなってるの?」
「うまく説明できないけど、これは遠くから送られてきた映像を映す機械なの。」
「・・・映像?」
「あ、こっちの世界は映像技術はまだ研究中の段階で知ってるのは研究者や一部の魔術師くらいなの。」
と言っても私も授業で先生から聞いた程度だからわからないことだらけだけど・・・。
「そうなんだ。なら最初から説明するね。これは・・・」
飛鳥が説明し、影月が熱心に聞いていた。
その姿を見ていて影月はうまく飛鳥の気を逸らしたことに気付いた。
(・・・なんか情けないな。)
飛鳥と影月の話し合いは三人が戻ってくるまで続いた。
音鴨 鈴 16歳 高校1年生
椿の姉で飛鳥の義姉。
実家は大金持ちだが、事情により親族とは離縁に近い状態となっている。
しかし家の中での権力はいまだ健在であり、飛鳥を家に迎えたことも無理やり押し通して見せた。
椿とは長年口を利かなかったが、飛鳥を通して昔のような仲の良い姉妹となっている。
過去に似合わず実は重度のオタク