再会
「へぇ~、フーの真名に『ルナ』が入ってるんだ。」
私は影月が『影月』として生きると言ったことを期に彼女に今まで聞けなかったことを色々と聞いていた。
私は気づいていないが影月は色々と質問され過ぎて少し鬱陶しそうにしていた。
「・・・うん、けど精霊のルナとは関係ない。私の真名は月の女神ルナからきてるみたい。」
「そうなんだ。あとさ、・・・」
「・・・飛鳥、私に聞きたいことが別にあるんじゃない?」
影月はいにもたれ掛かって座っていながら色々な質問を私がしていたのに肝心のことを聞かなかったことに呆れていた。
だが私はどういうことかわかっていなかった。
「ん?何かあった?」
実際には影月が知らないもうひとつのこともあったのだが、先程まで色々と衝撃的なことがありすぎて忘れてしまっていた。
影月は大きく溜め息をついて、
「・・・・私がグラン達を召喚したこと。」
「・・・あー!それだ!」
ルナにそのことを意識しないようにされていたからいつそれが解除されたのかもわからず忘れていた。
影月は「本当に気にしてたの?」と言いたそうな目で私を見ていた。
「・・・簡潔に説明すると私は飛鳥が竜と闘った日に精霊全員と契約した。」
「精霊全員と!?どうして?ううん、どうやって?」
精霊と契約するには特殊なことがない限り、精霊の住みかで彼らと戦って自分の力を示さなければならない。
私もその特殊なことで精霊と契約したけど、それは私が・・・あれ?何でだろう?
影月は私が新たな疑問を思ったことなんて気づかずに自分の話を続けた。
「・・・原因は飛鳥。」
「私?」
影月は頷いた。
「・・・試験の日、飛鳥が私にグランを憑依させたとき。あの時契約者への憑依じゃない無理矢理の憑依だったから不具合が発生した。」
不具合・・・そういえば憑依させたときはじめにグランの意識が表に出ていたことを思い出す。
「・・・その憑依は融合に近かった。そのせいで私にグランの記憶が流れ込んだ。そして逆もあったみたい。」
「けどそれでどうして精霊全員と契約しなきゃいけないことになるの?」
「・・・グランの記憶が流れてきたせいで精霊の秘密を知ってしまったから。契約したのは私を監視するためでもある。」
「精霊の秘密?何それ?」
「・・・それは言えない。それを言ったら精霊達との盟約に違反する。」
まあ秘密なんだから言ってはいけないよね。
影月は申し訳なさそうにしていた。
「そうなんだ。けどフーがそんな顔しなくてもいいよ。言えないことは仕方ないんだから。」
「おーい飛鳥っちとげったん~。そろそろ行くよ。これ以上遅れたらほんとに追いつけなくなるよ。」
タイミングよくここからの先の道を探しにいっていた鈴が声をかけてきた。
「そうだね。フー、急がなきゃ。」
「うん。・・・っ!」
「どうしたの?」
「・・・痛みが酷くて立てない。」
「ごめん、ちょっとみせて。」
影月の上の服を脱がした。
すると彼女の肌には前にも後ろにも数ヵ所に痣ができている。
おそらく、流されているときに岩に身体をぶつけたのだろう。
足も捻挫しており、影月は座って普通に喋るのがやっとのくらいだったのだ。
回復魔術で治療してみようとするが、どうしてかあまり効果がなかった。
「どったの?」
気になった鈴も近寄ってきてくれる。
「フーがまともに立てそうにないの。多分川で流されているときに怪我したんだと思う。回復魔術を使ったんだけど効果が薄くて・・・。」
「・・・私なら大丈夫。二人に・・みんなに迷惑をかけたく・・・っ。」
影月は激痛をこらえ、無理して立ち上がった。
だけど立ち上がったはいいものの、少しフラフラしていていつ倒れてもおかしくなかった。
「フー、無理しないで。私たちが肩を貸すから。専門じゃないからよくわからないけど最低2週間は安静にしておいた方がいいかもね。」
影月だけグランズに空間魔術で送ることを考えたけど、向こうで彼女を世話する人が居ない。
「けど安静にさせるってどこでそんなことするの?馬車の中ならできたかもしれないけど、今はないし・・・。このままげったんはリタイアして、飛鳥っちもその付き添いってことでリタイア・・・」
「それは嫌。私のために他の人もリタイアになってほしくない。それに私はまだ頑張れる。」
「鈴、私もそれは嫌かな。本人がこうやる気みたいだし、私が原因でこんな旅になって、さらに責任者なのにみんなに押し付けて私だけ帰れないよ。」
「じゃあどうするの?」
「迷惑がかかるからあまりやりたくなかったんだけど、ウラルの鈴の家で世話になってもらおう。」
「・・・面白そう。」
「飛鳥っち、それはげったんの怪我とか関係なく気になるんだけど。」
私がウラルに行くと言った途端、二人からみんなに追いつくということが消えてしまったみたいだった。
私もあそこの人たちなら影月を預けれる位信頼できるし(何より平行世界だけど自分自身だし)、二人は前々からウラルに行ってみたい、ウラルの自分自身にあってみたいって言ってたから。
・・・って、ウラルのこと考えてたら何か別のことが思い出しそうになったんだけど・・・何だっけ?
「なら行ってみる?」
「・・・行く。」
「私も行ってみたい。」
「わかった。なら鈴、私の反対側のフーの肩を支えてあげて。」
「了解。」
「じゃあ行くよ、『我が友を助けるため、我再び向かわん パラレルジャンプ』」
一瞬目の前が暗くなりすぐにまた明るくなった。
そこは、先ほどまで私たちがいた川沿いではなく見慣れない風景、ウラルの住宅街だった。
そして私たちはウラルの鈴の家の前に立っていた。
「おお、ここがウラルの町並みか~。」
「・・・地面が堅い。それにあの車輪がついた鉄の乗り物、何?」
「話は後だよ。ええっと、訪ねる時はこのボタンを押せばいいんだっけ?」
私は家の門の隣にある機械のボタンを押した。
『ピンポーン』
『・・・はーい。どちら様ですか?』
機械から鈴の声が聞こえた。
「!? 機械私の声で喋った!?まさかこれがウラルの私?」
「ち・・・違ったと思ったけど。と、とりあえず、鈴私だよ。飛鳥。」
『飛鳥?なんでインターホンを押して・・、いや待って、ウラル?それにさっきのは私の声?つまり・・・あ!飛鳥!?すぐ迎えに行くから待ってて。』
「うん、お願い。」
ブツッという音がしてから五秒くらいで鈴は家の扉を開けて外に出てきた。
なんか服装がほかの家より少し大きな家に住んでいる人間の格好(後で聞いた話、ジャージというものらしい)ではないように見えるのだが・・・。
「飛鳥、心配したんだよ。ついさっき骸亜がこっち来ていて、旅の途中に飛鳥とはぐれたって。それでもしかすると有事の時にはこっちにくるかもしれないって言われて・・・。なにがあったの?」
「盗賊に捕まって、抜け出せたはいいけどこの子が川に落ちて・・・って、骸亜来てたの?」
「うん、もし来たら自分がまた来るまでクロスには戻るなって伝言を残して。」
どうやら骸亜には私たちが無事に追いつかないということはお見通しというわけだったのか。
「とりあえず中に入って。・・・そこの放心している二人も。」
横を見ると、二人とも鈴がもう一人現れたことに驚いたのか放心していた。
「・・・鈴がもう一人。」
「すげー。これがウラル・・・。」
「二人とも、そろそろ戻ってきて。」
「そうだよ。その格好で道にいると怪しまれるよ。」
そういえば、私たちの服装はこっちでは珍しく、創作上の登場人物くらいしかこんな格好はしない。
一応やる人はいるみたいだけどそういう人たちは「コスプレイヤー」と呼ばれる特殊な人であるらしく、一般人からは物珍しそうな目を向けられる。
実際、道行く人々に奇異の目で見られているのがわかるほどだった。
私は二人を引きずって、鈴の家の中に入った。
「今骸亜達は順調に次の街に向かっているって。だいたい5日くらいで着くだろうって言ってたよ。」
「よかった。みんな無事なんだね。」
居間に連れられた私たちは話の続きをしていた。
私たちといっても私とウラルの鈴だけで、他二人は部屋の中をキョロキョロとしている。
「二人とも、行儀悪いよ。」
「いいよ、いいよ、減るものじゃないし。」
ウラルの鈴が私を止めてくれる。
やっぱり口調はちょっと違っても鈴は鈴だった。
と、そこにドタドタと廊下を走る音が聞こえた。
「お、お姉ちゃん!骸亞さんが来たって本当!?」
彼女は何か慌てた様子で部屋に入ってきた。
「あ、飛鳥おかえり~。」
「え・・・、あれ?」
どうやら骸亞が来たと言われてすっ飛んで帰ってきたのにいたのが私たち・・・それも鈴と自分がもう一人ということに驚いていた。
そしてもう一人、違うことに驚いていた。
「・・・飛鳥が鈴にお姉ちゃん・・・?」
順を追って説明しようとしていたため、こっちの鈴が私たちより年上ということを説明してなかった。
いや、飛鳥がそれを教えていたのかもしれないけどその時はまだ義妹になっていなかったはずだから多分それだろう。
「やっほー、ウラルっち久しぶり~。」
そしてこの人はこの人でまた変なあだ名をつけてるし・・・。
「符養さんに鈴さん、それに飛鳥・・・?どうしてここに?・・・お姉ちゃん、骸亜さんは?」
「この子達とすれ違うように帰っちゃった。」
「えー、折角虎ちゃんの家から急いで帰ってきたのに・・・。」
飛鳥はその場にへたりこむ。
私は多分虎という人物がわかっていない二人に説明する。
「虎っていうのはこの世界の琴葉のことで、こっちでは竜の妹なんだよ。」
「琴葉が竜の!?まさか双子?」
「違う違う。ウラルの鈴と竜と爪は私たちより二つ年上みたいなの。平行世界って言ってもみんな同い年ではないみたい。あと爪はこっちの世界では神って名前だからね。」
「なるほど、ウラルっちがこっちに来た時に私が皆より年上だということは聞いていたけどまさかこっちでもあいつらと同い年とは・・・。腐れ縁ってやつかな。他はなんだか面白そうな人間関係になっているのにちょっと残念だ。」
「鈴は飛鳥にウラルのこと聞かなかったの?」
「うん。私もげったんもあんまり質問攻めにするのもいけないかなって思って、あまり聞いてない。代わりにこっちのことを教えてた。」
ふうん、どっちの世界でもやっていたことは似たようなことだったんだ。
と、その時影月が私の肩を叩いてきた。
「・・・ねえ、飛鳥。こっちの私は?」
ウラルの私が鈴の妹だったという衝撃を受けて自分もウラルの私と何かすごい関係になれているのではないかという期待の目を持っていた。
だが私はそんな期待に応えることもできず、
「あ・・・えと、残念ながらこっちの世界のフーには会ってないんだ。けどもしかすると飛鳥たちなら知っているかもしれないよ。」
「・・・わかった。」
影月は私が言ったことを聞いて、落ち込んだ。
私もそんな影月を見て、なぜか罪悪感を持ってしまう。
「あ、あとでこっちの鈴にも聞いてみよ。もしかするとこっちのフーも私より年上なのかもしれないし。」
「・・・うん。」
影月は頷く。
納得してくれたみたいでよかった。
「飛鳥、異世界の飛鳥とそっちの子・・・椿でいいの?」
ウラルの鈴が落ち込んでる飛鳥に話しかけていた。
どうやら私たちのことを聞いているみたいだ。
「え?ああ、違う。向こうでは符養って呼ばれてるみたいだよ、お姉ちゃん。」
飛鳥が顔を上げて答える。
先刻、『影月』という本名が発覚したのだけど、まあそれを言ってしまうと過去のことも色々教えなければならないので、そのままでいいだろう。実際影月もどっちで呼ばれても気にしていないみたいだし。(私もそのまま『フー』って呼んでいるし)
ウラルの鈴が影月のことを『椿』という名前で呼んだということは、鈴はこっちの影月のことを知っているみたいだ。
だけど、それについての説明に関してはなくて、鈴はそのまま続けた。
「そっか。なら飛鳥と符養をお風呂に入れてあげて。みんな泥だらけだから。」
「わかった。」
「それと、着ている服は洗濯機に入れておいてね。後でもう一人の私もお風呂に入れて洗っておくから。着替えは自分のと椿のをそれぞれ貸してあげて。今の格好だと外に出ることもできないから。」
「うん、了解。じゃあ、飛鳥と符養さんはついてきて。」
私は影月を連れて部屋を出る飛鳥の後を追う。
取り残された鈴は
「え~、私も飛鳥っちと一緒にお風呂入りたい~。」
「いいじゃない。こっちはこっちで一緒にそれぞれの世界のことを話し合いましょうよ。」
と、ウラルの鈴に捕まっていた。
ああやって見ているとあっちの方が姉妹に見えてしまう。
どっちの世界の飛鳥なのか鈴なのかややこしい時ありますね。
一応、二人の飛鳥はもう一方を『飛鳥』と呼んでいます。
ナレーションで飛鳥が『飛鳥』と呼んでいるのは決して一人称が変わったわけではなく、もう一人の飛鳥を指しています。