盗賊~偵察~
「なんでもっと早くに起こさなかったんだよ。」
曙
夜が明け始めてきた時、馬に馬車をつけながら他の準備が完了した後に起こされた竜と爪が文句を言った。
この二人を起こすことを私は正直鈴と骸亞を起こすことを考えていたため、馬車内で寝ている4人で全員だと思っていたため失念していた。
しかし、昔から交流のある鈴は意図的に起こさなかったようで、
「だって、起こすと敵陣に突っ込みに行く馬鹿がいるじゃない。」
「・・・あ、そういえばそうだ。」
鈴のその一言で竜は納得したようだが、爪はその扱いが納得できないようで
「バカってなんだよバカって。俺だってちゃんと物事を考えるんだからな。」
「・・・じゃあ、あの時起こされてたらどうしたのよ?」
「もちろん乗り込む。」
「・・・。」
鈴は頭を抱えて何を言わなかった。
代わりに竜が相手をして、爪に自分の馬鹿さ加減を教えていた。
私たちはその間に馬車内で地図をひろげて回避ルートを考えることにした。
「とりあえず、予定していたルートは通らないほうがいいかな。1日余計にかかるし魔物が多く出てくるかもしれないけどぐるっと遠回りしてこの川を渡ってアクナリアに向かったほうがよさそうだね。」
「うん、飛鳥っちのルートが最適かもね。となると、一度戻ることになるね。」
「そうだね。しかも盗賊達に近づいちゃうから危険も大きいね。」
と言いながら、私は盗賊達の位置を指を指した。
おそらく、遠ざかり始めればもう安心だとは思うし、気づかれることは無いとは思うのだけど、それはこっそり行った場合である。
今は一人二人の少人数ではなく、九人で尚且つこの状況を理解しているのかわからない馬二頭である。
なので、気づかれる気づかれないというのはよく見積もって五分五分位ではないかとお私は考えていた。
それは鈴も同じだったみたいで、不安そうな表情をしていた。
「・・・飛鳥、」
符養が口を開いた。
「何?」
「・・・偵察を出して広範囲で警戒した方が対処しやすい。」
「・・・つまり?」
「・・・私が偵察する。」
符養は私の質問に自信満々に答えた。
おそらくは元暗殺者だからそういうことは自分の分野だと言いたいのだろう。
私は彼女の滅多に見せない自信を信用してみることにした。
「フー、絶対にみつからないでね。」
符養は頷き、その後すぐに姿をくらました。
「よし、私たちも行こうか。」
その言葉と共に馬車が動き出した。
「フー、大丈夫かなぁ。」
「大丈夫だよ。元暗殺者なんだからね。」
「その言い方はどうかと思うんだけど・・・。」
馬車を動かしはじめてから数分、現在昨日歩いた道を戻り違うルートへ行こうとしている途中だ。
符養は偵察に向かってから一度も戻ってこない。
鈴は数分で戻ってくるわけないでしょと言うが、
「それでも心配だよ。しっかりしているけど万が一ってこともあり得るんだし。」
「それでも信じて送り出したんでしょ?それならちゃんと信じて、こっちはこっちの仕事をしなきゃ。」
「・・・そうだよね。」
私の納得したが、まだ心配そうな表情をみて鈴はクスッと笑った。
私がそれを見て頭に?マークを浮かべると
「いやぁ、飛鳥っちも立派にお姉ちゃんしてるなぁってさ、そう思っちゃって。」
「お姉ちゃん?私に妹も弟もいないよ?」
「いるじゃん、フーが。」
「フー?」
「そそそ。よく飛鳥っちとフーって姉妹みたいだなぁって思うんだよ。フーは飛鳥っちによく甘えてるし、飛鳥っちはフーに厳しくしながらも時々甘やかして、こういう時には心配する・・・。傍から見ると姉妹にしか見えないよ。」
鈴はちょっとからかっているようだった。
けど言われてみれば私は符養にそんな感じで接していたかもしれない。
ふと、符養が「お姉ちゃん」と呼ぶイメージが浮かんでくる。
・・・今度言わせてみようかな。
と、そこでふと思い出したのだが、ウラルではあっちの鈴が私を義妹にするって言ってたけどその後私が鈴のことをお姉ちゃんって呼ぶようになっているのかな?
こっちの鈴が見たら十中八九しばらくの間私を妹扱いしてくるか、私が符養にさせようとしている「お姉ちゃん呼び」を強要してくるだろう。
私は断固拒否するけど。
「私とフーが姉妹か~。私、兄弟っていなかったからちょっといいかも。でも、フーは妹がいるみたいだし姉としては妹扱いはあんまり好きじゃないんじゃない?」
「フーって妹いたの?」
「うん。離れ離れになっちゃったみたいだけど影月って子がいるみたい。」
「そっかぁ、なんか意外。」
鈴も私と同意見だった。
・・・と、姉妹トークに花を咲かせていると、昨日差し掛かった分かれ道に着いた。
ここからは盗賊たちから遠ざかるのみである。
符養もそろそろ戻ってくるだろう。
視点 符養
時は少しさかのぼり、私が飛鳥達と離れた直後から始まる。
私は馬車の動きがギリギリわかり、で尚且つ盗賊たちの動きも把握できる位置にに身を潜め、見つからないように両方の動きを観察していた。
盗賊側はまだ明け方であるためか、あまり多くの人が動いている様子はない。
いても見張りで数人程度、私たちが攻撃を仕掛けても簡単に突破できそうなほど手薄な人数であった。
けどこれでは・・・
「・・・全体が把握できない。」
飛鳥達の動きも見ていると、見張り以外の人間が何をしているかわからない。
もしかすると外に出て歩き回っている人間がいるかもしれない。
私はとりあえず、馬車から離れて盗賊のアジト周辺の状況確認を開始した。
「・・・見つからないように。」
飛鳥に言われた言葉を呟きながら、音をたてないように木の上を飛び移りながら進んだ。
堂々と偵察を提案したけど、裁きを下す者にいた時から隠密行動は得意な方ではなかった。
完璧にこなせたと思ったらどこかミスを犯してしまっていたということが殆どで、飛鳥に最初にあったときは自分の中でも奇跡と言えるほどの隠密の出来だった。
けど、誰か偵察を出して相手の行動をうかがうことは必要だと思え、素人である他の人に任せるよりはうまくやれる自信はある。
探索を終えて私は元いた位置から敵のアジトに少し近づいたところに止まった時、私は周辺には敵の気配はないということがわかった。
だけど私はそれだけで帰る気はなく、他の情報を得るために、見張りの敵の近くに身をひそめた。
始めの内はとりとめのない会話―――あまり聞きたくない汚く、いかがわしい会話―――をしていた。
だがしばらくすると、
「そういや、向こうのアジトのやつらがこの前貴族共の荷物襲撃したみたいだぜ。」
「マジかよ。大儲けじゃねえか。・・・って、貴族って警備が固いんじゃなかったか?」
「それがよぉ、・・・」
・・・「向こう」?もしかして別の場所にもアジトがあるっていうことだろうか。
もしかすると飛鳥達の進行方向にそのアジトがあるのかもしれない。
私はそのまま身を潜め、さらに情報を得ようとする。
だが、それ以上めぼしい情報は得られなかった。
私は急いで飛鳥達のところへ向かった。
しかしその時私は急いでいたために木々を揺らしてしまっていたことに気付いていなかった。
視点 飛鳥
分かれ道を無事通り抜け、あとはアジトから遠ざかるだけとなった。
ここまで気づかれなければ、安全に水精霊の加護領域に入れそうだと私は思った。
しかしそれは、大きな間違いだったと感じるのはもう少し後のことである。
「・・・ただいま。」
安心しきった状態の私たちの前に符養が急いでいたのか息を切らせて戻ってきた。
「おかえり。どうだった?」
「・・・アジトがこの先にもあるかもしれない。」
深刻そうに符養はそう言った。
私達が浮かべていた安心しきった表情は符養の一言で消え、全員に緊張感が走る。
「どういうこと?」
私が質問すると符養は自分が先程見てきたことを話し始めた。
そしてそこで他にもアジトがあることがわかったらしい。
「・・・なるほど。それなら戦闘は避けられないかも。」
「そうだね。でも、こっちは荷物を守らないといけないから不利だよ?」
「そこは考える。けど基本的に近接戦闘は武闘科の三人と爪に任せてあとは中衛、後衛に別れようかなって思ってる。私も必要なら前衛になるし。」
あとはそれを成り立たせる状況を作ることができるかが肝かな。
敵に囲まれでもしたらフォーメーションなんてことも言ってられないし。
もしかすると、場合によってはサン達を呼び出すかもしれない。
けど精霊たちを使えば楽に戦えるからといって精霊たちに頼る戦い方もしたくない。
とにかくそうならないように戦い方を考えないと。
「フー、もう一つのアジトの場所は知らないんだよね?」
符養が小さく頷く。
「ならもう一度偵察しに行ってくれない?この先にアジトが無いなら無いに越したことはないから。」
「・・・わかった。」
符養が再度いなくなる。
私は符養が偵察に行っている間、鈴や骸亞と作戦を立てることにした。