テスト~当日1
「で、どうだったの?」
教室に帰って自分の席に座るとすぐに鈴が小声で質問してきた。
「別に普通に検査してきただけだけど?」
「ちがーう!その結果だよ。」
「それも何ともなかったよ。一晩寝れば普通に魔力回復速度も元に戻るって。……ってフーは?」
私は戻ってすぐに私に抱きついてくるかもしれないと思っていた同居人の姿を探したが、姿は見えない。
「フーなら戦闘訓練の授業に興味を持ったらしくて見学してくるって。」
符養にも興味あることあったんだ……。
いや、それより私が近くにいるから何もできないのではないだろうか。
……なんだか親のような気分だ。
「そこの先生にはフーのこと言ったの?」
「うん。飛鳥っちの従姉妹で授業を見学しに来たって言ったら快く預かってくれたよ。」
私の従姉妹って…、本当のこと言うわけにはいけないから私も同じ設定にすると思うけど。
「そういえばどこのクラス?」
「格闘科だよ〜。」
まあ格闘科なら骸亜やツヴァイ(こっちは信頼してないが符養の元同僚だし)がいるから心配しなくても平気だろう。
そう思い私は話始めた先生の授業を聞こうとする。
授業が終わり、私は鈴を連れて符養を迎えに行こうとすると、符養のほうから私達のところに戻ってきた。
知らない女の子と一緒に
「フー、その人は?」
「……仲良くなった。」
「はじめまして。ワタシ流流言います。」
ぺこりとおじぎをする。
「あ、こちらこそはじめまして。飛鳥と言います。」
私もおじぎをする。
流流は私の名前を聞くとパッと顔を上げた。
「あなたあの飛鳥?」
「あの」と言われてもどの飛鳥かよくわからない。
「フーちゃんがずっと話してた?」
ああ、符養が話してたのか。
符養を見ると符養が照れていた。
「それで剣士科で全スキル習得したのにもかかわらず臆病で実戦勝てなかったあの?」
「う……うん。そうだけど…?」
私は答えながらそんなことを教えた性格の悪い人物を考えていた。
どうせ同じ科だった骸亜だろう。
私が骸亜に怒ると後が怖いからほうっておく。
「それでフー、格闘科では何やってたの?」
「……戦闘訓練。」
「今日はずっとやってたの?テストが近いのに。」
「格闘科のテスト、筆記そこまで難しくない。代わりに実技すごい難しい。」
つまり格闘科は実技を主体にテストをするのか。
ちなみに魔術科や剣士科は筆記実技に成績の偏りが無い。
「そういえば流流……だっけ?」
「はい?」
「なんか片言だけどここら辺の出身じゃないの?」
私が質問する。
「ワタシブラズム出身。ここ来たの四年前。」
ブラズムとは氷の精霊ブルムの加護がある所であり、グランズからは2番目に遠い所である。
さらに、グランズとは違うそこ独特の言語を使用するため、グランズで使うような言語を喋れる人は数える程しかいないらしい。
「ワタシしゃべり方変?」
「ううん、普通に会話できるし何ら問題はないよ。」
「そう?良かった。」
流流は安堵する。
「ねえ、続きは帰りながらにしようよ〜。」
鈴が帰りを促す。
「ならワタシも一緒帰る。荷物取ってくる。」
「……私もついて行く。飛鳥達も。」
私と鈴は了承し、2人について行く。
格闘科のクラスはそこまで遠くない、せいぜい3クラス分離れているくらいだ。
しかし、今日戦闘訓練だったみたいなので荷物は全て訓練所にあるようだった。
流流はクラスとは逆方向へ向かっているからやはりそうなのであろう。
「そういえば流流とフーはどう仲良くなったの?」
「……私と流が一緒に組んで訓練してたから。」
「フーちゃんすごい強かった。ワタシもそこまで強くなりたい。」
「……流も強かった。」
もうここまで符養が心を開いてるってこの子どういうことしたんだろう?
……まあそのことはあまり掘り下げないほうがいいのかな?
鈴が流流に嫉妬の炎を燃やしているから。
「ちょっと待ってて。」
訓練所に着き、流流が荷物を取りに行った。
私は格闘科の生徒の中にいると思われる人を探していた。
2人探していたが、片方はもう帰ったらしかった。
「ぜろ〜!」
遠くにいるその人を呼んだ。
呼ばれた本人はその声に気づき、荷物を持ち、話しかけてきたクラスメートに何か一言言い返して私の所へ来た。
「何だ?」
「流流に何か言った?」
「何も言ってない。」
「骸亜さん、ぼくに何か言うことは?」
「なんでさん付けで一人称を変えた?」
私がここまで問い詰めるのは骸亜が私と目を合わせようとしないからだ。
「流流にぼくが気弱とか言ったんでしょ?」
「事実だ。あとそんな小さいこといちいち気にするな。」
「ただいま〜。」
タイミング悪く流流が戻ってきた。
流流は私と骸亜が睨み合っているのを見て首を傾げていた。
「どうしたの?」
「なんでもないよ。またね、ぜろ。」
私が背中を押し、骸亜は無言で私をジト目で睨みその場を去った。
「私達も帰ろっか。」
私達は訓練所をあとにし、昇降口から出て家へ向かった。
帰り道ではそこまで気になる話はしなかったが、鈴が
「飛鳥っちと骸亜って仲良いよね。」
「いきなり何?絶対仲良くないって。」
「あれかな?異世界でもいい関係なんでしょ?」
「異世界の私は別人だし私が骸亜を慕ってるってなんか嫌なんだけど……。」
ちょっと向こうの飛鳥に失礼だが。
「けど私からみれば仲良いと思うんだけどな〜。」
「だから仲良くないって。」
ということを話しているうちに流流と方向が別になり、流流と別れてそして適当な話をして帰った。
さらにその後それといったこどもなく…あるとすれば私の魔力が先生の言った通り次の日には完全回復したことだけだろうが、そのあとも何もなくテスト当日となった。
「テスト当日だね〜。」
「なんでそんなに嫌そうなの?」
「だってさ〜、ほとんど勉強してないもん。」
「普段勉強しなくても取れるくせに。」
「あちゃー、バレちゃったか。けど飛鳥っちは緊張しすぎじゃない?」
「緊張なんてしてないよ。」
「だって指震えてるし。魔術科で初めてだからどんな問題がでるかわからないから戸惑っているんでしょ?」
鈴の言うとおりで私は緊張していた。
テストなんて慣れているはずなのに…。
「あ、もしかして勉強したとこが合ってるのか不安なんでしょ?」
「テスト範囲は教えてもらったでしょ。あと緊張してないって。」
いや、本当は緊張してる。
この緊張は多分本当にただ初めての魔術科でのテストというだけなのだ。
「♪〜〜〜」
チャイムが鳴ると同時に先生が入ってきた。
「静かにしてください。授業を始めます。」
「え?」と教室にいた全員が言った。
「というのは冗談です。これをまわしてください。」
前からテスト用紙がまわってくる。
私はそれを一つもらい後ろにまわした。
全体に行き届いたようで先生が
「制限時間は120分です。始めてください。」
というと、パラパラと紙をめくる音が聞こえてきた。
私も紙をめくり、自分の名前を記入して問題に取りかかる。
1問目は穴埋めだ。
1.魔術は冒険家?____によって?____と共に発見された。魔術は体内の?に個人が持っている?____を付加し放出することで発動する。魔術には(A)精霊 の加護があり、魔術の?____によって加護される場所が違う。例えば風の魔術なら?____で精霊?____の加護を受けることができる。………
という感じになっていた。
意外に簡単そうだ、ほとんどの問題が魔術や精霊に関することだけだ。
精霊を使役できる私にとっては精霊に関することは絶対に間違えてはいけない、問題は授業で教えてもらったものばかりだったが、サンにもしもと思い精霊について詳しく教えてもらっていたので完璧だった。
さらにこんな問題も出た。
(2)(A)について精霊の名前と属性、その精霊が加護する土地の名前を全て書きなさい。
これはすごい簡単だ。
精霊の属性と名前がわかれば加護する土地はわかる。
なぜならそれらは精霊の名前をもじっているからである。
それらも難なく解けた。
そして私は問題をスラスラと解いていき、とある問題に立ち止まった。
火の魔術を発動するために使う術式を詳しく記述せよ。
この問題の配点を確認すると満点の十分の一はあった。
さらにいうと私はこの問題を一旦飛ばした。
これを解くためには時間がかかりそうだったからだ。
というよりこの問題、ほんの少し捻るだけで学会発表レベルになりそうな難しさだと思う……。
そして私は問題と解き終えて先程の問題に取りかかっていた。
火の魔術を発動するためには最初の問題のとおり魔力に個人が持っている火の源素を付加し放出することで発動する。
しかしその方法では火を周りに拡散放出するだけなのでそれを「術」として使うために術式を使う。
それにより威力は多少落ちるが、自身が持っていない源素の魔術を使用できるようになった。
そしてその術式に源素を加えるためには……
火の魔術を使用するためには術式に火の源素を表す記号を魔術の威力に応じての必要な数を入れ、次に使用する魔力量を魔法陣の術式に記入する。
それを書いたあと、私は書くのをやめ、自分の答えを見直した。
すると、そこでミスを二カ所見つけた。
それを直し、もうこれでいいかなと思った直後、
「♪〜〜〜〜」
「そこまで」
チャイムと先生の合図で終わってしまった。
「ふう…。」
集中しすぎで疲れてしまい、私は床に伏せた。
「飛鳥っちお疲れですな〜。」
隣の席にいた鈴が同じく集中しすぎてちょっと疲れているみたいだったが、それより疲れている私を見て話しかけてきた。
「結構難しいね、特にあそこ。」
「うん。あれは仕方ないよ。ああいうのって使うときは簡単なんだけどいざ説明しろって言われたら難しいよね。」
その時後ろから紙がまわってきたのでそれに自分の解答用紙を加えて前にまわした。
「今日はこれで終了です。明日実技試験を行いますので練習しておくようにしてください。」
という先生の言葉で今日の筆記テストは終了した。
「結局飛鳥っちの出来はいかほどなのですかな?」
「あの記述以外なら自分が見直した限りでは大丈夫っぽいと思う。」
「ほー。自身アリアリですな。」
「……そういう鈴はどうなの?」
鈴はフフンと鼻を鳴らすだけで教えてはくれなかった。
私は諦め、帰ろうとする。
それに鈴が慌ててついてくる。
「で?教えてくれるの?」
「テスト中に飛鳥っちのところ見たら私とほとんど同じだったよ?」
「『凍れ アイシア』」
氷で鈴の足元を凍らせようとする。
しかし
「よっと。」
ポンと跳ばれて避けられた。
「危ないな〜。」
「いやだってテスト中に見たらカンニングじゃん。」
「けど私そこから答案変えてないし多分先生も気づいてたみたいだし。」
……先生もどうせ鈴と私の解答はそう違わないと思ったのだろう。
なら仕方ないのかなと思いながら歩く。
「ねえ飛鳥っち、明日のために少し練習しない?」
「また唐突に…。別にいいけどさ。」
私達は私の家に戻り、そこで荷物を置いてすぐに2人は武器をかまえて練習を始める。